個人的な事情で勤怠が不安定。
目次
動画解説
1. 個人的な事情で勤怠が不安定な社員がいる場合の基本的な考え方
個人的な事情によって、出勤できたりできなかったりする社員がいる場合、会社経営者としては大きな負担を感じるのが率直なところだと思います。労働契約の本質は、賃金を支払う代わりに、約束した時間に労務を提供してもらう点にあります。そのため、勤怠が安定しない状態は、契約の根幹が十分に果たされていない状況とも言えます。
一方で、働く側の立場に目を向けると、病気、出産、育児、介護など、本人の意思だけではどうにもならない事情が存在するのも事実です。中には法律によって保護されている事情もあり、「勤怠が不安定=即問題社員」と短絡的に判断することは適切ではありません。
この問題に向き合う際に重要なのは、感情的に評価するのではなく、経営の問題として整理する姿勢です。会社経営者としては、「契約上の問題」と「やむを得ない個人的事情」という二つの側面を切り分けたうえで、どのように対応すべきかを冷静に考える必要があります。まずは、この基本的な視点を持つことが、その後の判断を誤らせないための出発点となります。
2. 最初に行うべき原因調査と面談の重要性
個人的な事情で勤怠が不安定な社員に対して対応を検討する際、最初に行うべきなのは原因の調査です。なぜ勤怠が安定しないのかが分からなければ、適切な対応方針を決めることはできません。事情を把握しないまま注意や判断を下すことは、会社経営者にとってリスクの高い対応になります。
原因調査の方法として有効なのが、本人との面談です。会議室などで落ち着いた環境を用意し、現在の状況や困っている点を丁寧に聞くことが重要です。この段階では、問い詰める姿勢ではなく、事実関係を把握することに主眼を置くべきです。
面談の中で、事情の内容によっては、一定の資料の提出をお願いすることも考えられます。これは強制するというよりも、特別な配慮や対応を検討するための前提として位置付けるのが適切です。原因を正確に把握することができれば、その後の対応も現実的かつ合理的なものになり、無用なトラブルを避けることにつながります。
3. 資料提出や申請書を求める際の実務上のポイント
勤怠が不安定な理由について一定の配慮や特別対応を検討する場合、会社経営者としては、事情を裏付ける資料や申請書の提出を求めることも選択肢になります。これは社員を疑うためではなく、対応内容を整理し、社内での取扱いを明確にするために必要な手続きです。
もっとも、資料提出を求める際には、プライバシーへの配慮が欠かせません。医療情報や家庭の詳細事情など、過度に踏み込んだ資料を強制することは適切ではありません。あくまで「どのような理由で、どの程度勤務が難しいのか」を把握できる範囲にとどめ、無理のない内容を求めることが現実的です。
また、特別な対応を行う場合には、口頭のやり取りだけで済ませず、申請書などの形で記録を残しておくことが重要です。書面で整理しておくことで、後から「特別扱いをした、していない」といった認識のズレを防ぐことができ、会社経営者自身を守ることにもつながります。
4. 法律上必ず守らなければならない義務
個人的な事情で勤怠が不安定な社員への対応を考える際、会社経営者が最優先で意識すべきなのは、法律上の義務を確実に守ることです。これは会社の規模にかかわらず、中小企業であっても例外はありません。守るべき法律を守らない対応は、それだけで重大なリスクを抱えることになります。
代表的なものとしては、産前産後休業、育児休業、介護休業、時短勤務、残業免除などが挙げられます。これらは「会社の都合が許す範囲で対応すればよい」というものではなく、法律で義務付けられている制度です。「休まれると困る」「人手が足りない」と感じたとしても、それを理由に拒否することはできません。
もし、法律上の義務を果たした結果として事業運営が成り立たないのであれば、その事業モデル自体に無理がある可能性もあります。会社経営者としては、まず法令遵守を大前提とし、その枠組みの中でどのように経営を成立させていくのかを考える姿勢が不可欠です。
5. 法律上の義務ではない部分をどう判断するか
法律上の義務については必ず守らなければなりませんが、それ以外の部分についてどこまで対応するかは、会社経営者の判断に委ねられています。義務ではない以上、「対応しなければならない」という結論があらかじめ決まっているわけではありません。だからこそ、この部分は経営判断として慎重に考える必要があります。
義務ではない対応を行わなかったとしても、直ちに違法になるわけではありません。しかし、本当にそれで良いのかどうかは別の問題です。どのような会社を作りたいのか、社員とどのような関係を築いていきたいのかという、会社経営者自身の考え方が問われる場面でもあります。
もっとも、義務ではないからといって、無制限に配慮を広げれば会社の体力を超えてしまう可能性もあります。重要なのは、感情やその場の雰囲気で判断するのではなく、会社の規模や経営状況を踏まえたうえで、「やる」「やらない」を自分の責任で決めることです。この意識を持たなければ、後になって後悔する判断になりかねません。
6. 会社経営者の価値観と会社の体力をどう反映させるか
法律上の義務ではない対応については、最終的には会社経営者の価値観が色濃く反映されます。社員の私的事情にどこまで寄り添うのか、どの程度の柔軟性を持たせるのかは、「どんな会社を作りたいのか」という経営者自身の考え方と切り離して判断することはできません。
一方で、理想だけで判断してしまうと、会社の体力を超えた対応になりかねません。人員に余裕がない中で過度な配慮を続ければ、他の社員に負担が集中し、結果的に組織全体の不満や不信感につながる可能性もあります。
重要なのは、理念と現実のバランスです。自社の経営状況、人手不足の程度、今後の事業展開を踏まえたうえで、「この範囲なら継続できる」という線を会社経営者自身が見極める必要があります。誰かに決めてもらうのではなく、自分の責任で判断する姿勢こそが、長期的に安定した経営につながります。
7. 人手不足を踏まえた現実的な対応の考え方
個人的な事情で勤怠が不安定な社員への対応を考える際、人手不足という現実を無視することはできません。多少勤怠が安定しないという理由だけで退職や解雇を選択してしまうと、かえって現場が回らなくなるケースも少なくありません。会社経営者としては、感情的な判断ではなく、事業を継続するための現実的な視点を持つことが重要です。
人手が足りない状況では、完全な代替要員を確保すること自体が難しい場合もあります。そのような場合には、勤務時間や業務内容を一時的に調整する、他の社員との役割分担を工夫するなど、柔軟な対応を検討する余地があります。
もちろん、無制限に配慮を続けることはできませんが、「今辞められると本当に困るのか」「どこまでなら会社として耐えられるのか」を冷静に見極めることが大切です。人手不足という制約条件を踏まえたうえで判断することが、結果として会社全体の安定につながります。
8. 個別対応から制度化を検討する際の注意点
勤怠が不安定な社員への対応について、「これは良さそうだ」と感じる対応策が見つかったとしても、いきなり制度化する必要はありません。会社経営者としては、まず個別対応として試してみるという選択肢を持つことが重要です。
個別対応であれば、会社にとっての負担感や運用上の問題点を実際に確認しながら調整することができます。その結果、無理なく回る、社員からの評価も悪くないと判断できれば、初めて制度化を検討すれば足ります。逆に、想定以上に負担が重い、他の社員とのバランスが取れないと感じた場合には、途中で見直すことも比較的容易です。
一度制度として整えてしまうと、「やはりやめる」という判断は難しくなります。だからこそ、義務ではない対応については、段階を踏みながら慎重に進めることが重要です。試しながら考える姿勢を持つことが、会社経営者にとって現実的で失敗の少ない判断につながります。
9. 勤怠不安定問題における会社経営者の総括的判断
個人的な事情で勤怠が不安定な社員への対応は、単なる労務管理の問題ではなく、会社経営者の判断力そのものが問われるテーマです。法律上の義務については迷う余地はなく、必ず守らなければなりません。その前提を外してしまうと、どのような対応をしてもリスクが残り続けます。
一方で、法律上の義務ではない部分については、誰かが正解を教えてくれるものではありません。どこまで配慮するのか、どの段階で線を引くのかは、会社の体力、事業の状況、人手不足の程度、そして「どんな会社を作りたいのか」という会社経営者自身の考え方を踏まえて決める必要があります。
重要なのは、その判断を他人任せにしないことです。コンサルタントや部下の意見を参考にすることはあっても、最終的に決めるのは会社経営者自身であり、その結果について責任を引き受ける覚悟が求められます。自分の頭で整理し、自分の価値観を反映させた判断を積み重ねていくことが、長期的に見て会社を安定させる最も確実な方法と言えるでしょう。

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
10. よくある質問(FAQ)
Q1. 「子供の熱」で頻繁に休む社員がいます。他の社員からの不満が出ているのですが、どう対応すべきでしょうか?
A. まず法定の「子の看護休暇」の残日数を確認してください。権利行使としての休みは認めざるを得ませんが、それを超える場合は、本人の業務内容を見直すか、テレワークの導入、あるいは欠勤控除の厳格化などを通じ、他の社員とのバランスを図る必要があります。「休みは権利だが、業務遂行の責任は別である」という共通認識を面談で形成することが重要です。
Q2. 私的事情での欠勤が多いため、賞与(ボーナス)を大幅に減額しても法的に問題ありませんか?
A. 欠勤した日数分を機械的に控除(算定対象外とする)することは原則として可能です。ただし、賞与規定にその旨が定められている必要があります。また、法定休業(産休・育休等)の取得を理由に、欠勤分を超えた「嫌がらせ的な大幅減額」を行うことは違法となるリスクがあるため注意してください。
Q3. 介護休業を申請されましたが、現場の人数がギリギリで休ませることができません。断れますか?
A. 断ることはできません。介護休業は法律上の権利であり、要件を満たしている限り、会社の承諾の有無にかかわらず取得できます。業務の繁忙を理由に拒否したり、取得を理由に解雇をほのめかしたりすることは、明白な法律違反となります。代替要員の確保や業務分担の見直しで対応せざるを得ません。
Q4. 個別対応として「遅刻の容認」を始めましたが、収拾がつかなくなってきました。やめることはできますか?
A. 適切な手続きを踏めば可能です。ただし、長期にわたって黙認し続けると「労働条件」として固定化してしまう恐れがあります。期限を切って「試行期間」と明示するか、「〇〇の事情が解消するまで」と限定し、状況が変われば元の勤務ルールに戻すことを書面で合意しておくことが不可欠です。
最終更新日:2026/03/03
