「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」では、始業・終業時刻の確認及び記録を自己申告制にする場合、使用者はどのような措置を講じなければならないとされていますか。
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著しい乖離があれば、実態調査と労働時間の補正が必要 入退場記録等、事業場内にいた時間の分かるデータを有している場合、自己申告と当該データの間に著しい乖離が生じているときは、実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をする必要があります。 |
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申告できる時間外労働の上限設定等、申告を阻害する措置は禁止 労働者が自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設け、上限を超える申告を認めない等、労働者による労働時間の適正な申告を阻害する措置を講じてはなりません。 |
目次
832の記事で解説した原則的方法によることが困難な場合、次善の策として自己申告制を採用することがあります。もっとも、自己申告制には、原則的方法にはない特有のリスクがあるため、ガイドラインはより詳細な措置を要求しています。
会社側専門の弁護士の立場から、自己申告制を採用する場合に求められる措置を解説します。
01自己申告制で求められる5つの措置
「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」は、始業・終業時刻の確認及び記録を自己申告制にする場合、使用者は次のような措置を講じなければならないとしています。
02労働者・管理者への説明(ア・イ)
まず、自己申告制の対象となる労働者に対して、ガイドラインを踏まえ、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行う必要があります(ア)。また、実際に労働時間を管理する者に対しても、自己申告制の適正な運用を含め、ガイドラインに従い講ずべき措置について十分な説明を行う必要があります(イ)。
03実態調査と補正(ウ)
自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をする必要があります(ウ)。特に、入退場記録やパソコンの使用時間の記録など、事業場内にいた時間の分かるデータを有している場合に、労働者からの自己申告により把握した労働時間と当該データで分かった事業場内にいた時間との間に著しい乖離が生じているときには、実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をする必要があります。
04超過在社の理由確認(エ)
自己申告した労働時間を超えて事業場内にいる時間について、その理由等を労働者に報告させる場合には、当該報告が適正に行われているかについて確認する必要があります(エ)。その際、休憩や自主的な研修、教育訓練、学習等であるため労働時間ではないと報告されていても、実際には、使用者の指示により業務に従事しているなど使用者の指揮命令下に置かれていたと認められる時間については、労働時間として扱わなければなりません。この点は、830の記事で解説した労働時間の客観的な判断基準とも一致します。
05申告阻害措置の禁止(オ)
自己申告制は、労働者による適正な申告を前提として成り立つものです。このため、使用者は、労働者が自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設け、上限を超える申告を認めない等、労働者による労働時間の適正な申告を阻害する措置を講じてはなりません。
また、時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずる必要があります。さらに、労働基準法の定める法定労働時間や36協定により延長することができる時間数を遵守することは当然ですが、実際には延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが、実際に労働時間を管理する者や労働者等において、慣習的に行われていないかについても確認する必要があります。
06従前の通達からの変更点
これらの措置は、従前の通達(「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準について」平成13年4月6日基発第339号)から、内容が拡充されています。アは従前の通達でも示されていましたが、イ・エは本ガイドラインで新たに加えられました。ウは、従前の通達の内容に、所要の労働時間の補正が追加されています。オは、禁止されている阻害措置の具体例が従前の通達より詳細になっているほか、時間外労働時間削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等が労働時間の適正な申告を阻害することになっていないかの確認・改善、および36協定において認められる延長時間を超えて労働しているにもかかわらず記録上はこれを守っているようにすることが慣習的に行われていないかの確認という項目が加えられています。
07会社側が押さえておくべき視点
会社側が自己申告制を採用する場合には、これらの追加的措置がすべて実施されているかを点検する必要があります。特に、PCログ等の客観的データと自己申告の間に乖離があるにもかかわらず、これを放置している運用は、後の残業代トラブルにおいて重大なリスクになります。775の記事で解説したタイムカード以外の証拠(PCログ等)は、まさにこの乖離の検証に用いられる典型的な資料です。
定額残業代制度(783・784の記事参照)を採用している場合、その制度が申告阻害要因になっていないかの確認も、この措置の一環として求められます。
08よくある質問(FAQ)
Q. 「月20時間までしか残業申告できない」というルールを設けてもよいですか。
認められません。労働者が自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設け、これを超える申告を認めないことは、適正な申告を阻害する措置として禁止されています。
Q. PCログと自己申告の労働時間に差がある場合、どうすればよいですか。
著しい乖離があれば、実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をする必要があります。
Q. 定額残業代制度を導入していれば、これらの措置は不要ですか。
不要ではありません。むしろ、定額残業代の定額払等が申告を阻害する要因になっていないかを確認することも、ガイドラインが求める措置の一つです。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。労働時間管理体制の整備でお困りでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日:2026年7月13日