退職予定の社員が在職中に競業の準備を行っていた場合,競業避止義務違反になりますか?
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在職中に競業を行えば当然に義務違反。準備行為は影響度で判断 在職中に競業を行った場合は当然に競業避止義務違反になります。在職中の競業準備行為については、職位・他の従業員の引抜き・顧客の奪取・企業秘密の漏洩等、使用者の事業活動にどれほどの影響を及ぼすかにより判断されます。 |
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高い役職・企業秘密に密接した従業員は義務違反が認められやすい 部長等の高い役職の従業員や企業秘密に密に接していた従業員は、競業避止義務違反を認められやすい傾向があります。役職が低い従業員の責任は否定されることがあります。 |
01在職中の競業行為と競業準備行為の違い
在職中に競業を行った場合(競業会社に就職する、自ら競業する事業を営む等)は、当然に競業避止義務違反になります。労働者は在職中、使用者に対して誠実義務・競業避止義務を負っているためです。
問題となるのは、在職しながら退職後に向けて競業の「準備」をしていた場合です。例えば、退職前に競業他社に転職先を確定させる、競業会社の設立を計画・準備する、同僚に声をかけて一緒に転職することを誘う、顧客リストを持ち出す、といった行為です。これらは「競業」そのものではなく「競業の準備」ですが、会社にとって重大な損害につながる場合があります。
02競業準備行為の判断基準
在職中に競業の準備を行っていた場合については、競業避止義務違反になるかどうかは、次のような事情によってどのくらい使用者の事業活動に影響を及ぼす行為が行われていたかにより判断される傾向があります。
判断で考慮される事情
・競業の準備を行った従業員の職位(部長・役員等の高い役職か否か)
・他の従業員の引き抜きの有無
・顧客の奪取(顧客リストの持出し・顧客への接触等)
・企業秘密の漏洩等
これらのうち、特に他の従業員の引き抜きや顧客リストの持出し、企業秘密の漏洩を伴う場合は、競業避止義務違反だけでなく、不法行為(損害賠償)や不正競争防止法違反としても問題になります。また、部長等の高い役職の従業員や、企業秘密に密接して関わっていた従業員は、競業避止義務違反を認められやすい傾向があります。
03裁判例(カナッツコミュニティほか事件・吉野事件)
カナッツコミュニティほか事件(東京地裁平成23年6月15日判決)
従業員が退職日前に競業会社の取締役に就任し、営業活動を行っていたことについて、競業避止義務違反を認めた事例です。退職前から取締役として競業会社の経営・営業に関与するという行為は、在職中の競業そのものに準じる重大な準備行為として義務違反が肯定されました。
吉野事件(東京地裁平成7年6月12日判決)
競合他社の設立を企画した高い役職の従業員の責任を認めつつ、これに賛同しただけの下位の従業員の責任を否定した事例です。役職や関与の程度によって、同じ「競業準備行為」への関与であっても、義務違反の有無が分かれることを示す重要な裁判例です。
これらの裁判例が示すとおり、高い役職の従業員や積極的に競業準備を主導した従業員は義務違反が認められやすく、それに賛同・同調しただけの下位の従業員については義務違反が否定されることがあります。
04会社経営者が取るべき実務上の対応
退職予定の社員が競業の準備をしていると疑われる場合、会社としては早期に証拠の保全と事実の確認を行うことが重要です。特に、顧客リストや社内情報の持出し、他の従業員への接触、競合他社への就職活動の実態などを、証拠として確保しておく必要があります。
競業避止義務違反が確認された場合、損害賠償請求や差止請求(競業行為の差止め等)が考えられます。また、引き抜き行為や企業秘密の漏洩が伴う場合には、不法行為・不正競争防止法違反としての請求も視野に入ります。これらの判断は法律的に複雑であるため、問題の兆候を把握した段階で、早めに使用者側弁護士に相談することをお勧めします。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
Q&Aよくある質問
Q1. 退職前に同僚を誘って一緒に独立しようと声をかけていた場合、どう対応すればよいですか。
A. 他の従業員の引き抜きは、在職中の競業準備行為として義務違反を構成する可能性がある、重要な事情の一つです。まず、声をかけた従業員・声をかけられた従業員双方から、事実関係を確認・記録することが重要です。会社への影響の程度によっては、退職引止め交渉、損害賠償請求、差止請求も検討に値します。早急に使用者側弁護士に状況を相談することをお勧めします。
Q2. 顧客リストを持ち出した従業員への対応はどうすればよいですか。
A. 顧客リストが営業秘密に当たる場合、競業避止義務違反に加えて、不正競争防止法違反(営業秘密の不正取得・使用)として損害賠償請求や差止請求が可能な場合があります。まず、持ち出しの事実・経路・持出しデータの内容を証拠として確保することが重要です。また、当該従業員が持ち出した情報を使って顧客に接触しているかの確認も必要です。競業避止義務違反と不正競争防止法の両面から、早期に弁護士に相談することをお勧めします。
Q3. 競業避止義務違反に対して、退職金の返還を求めることはできますか。
A. 就業規則に「競業避止義務に違反した場合は退職金の全部または一部を返還する」旨の規定がある場合には、返還を求める法的根拠となります。ただし、退職金は長年の労働に対する対価の性質もあるため、裁判所は返還の範囲を限定的に解釈することもあります。競業行為の悪質性・会社への損害の程度等を踏まえて判断されますので、具体的な対応は弁護士に相談することをお勧めします。
最終更新日:2026年2月25日