この記事の結論
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解雇理由よりも「解雇通知の到達」が最大の課題。解雇の意思表示は相手方への到達が必要

長期の無断欠勤は解雇事由に該当するのが通常です。もっとも、解雇の意思表示は相手方に到達して初めて効力を生じるため(民法97条1項)、行方不明の場合はどこへ通知すれば到達したといえるかが問題になります。

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完全に行方不明なら公示による意思表示(民法98条)が必要。家族・身元保証人への通知では足りない

自宅に住んでいれば自宅への通知で足りますが、自宅が引き払われている・長期間戻った形跡がない場合は自宅への到達でも不十分です。完全に行方不明なら、簡易裁判所での公示による意思表示の手続が必要になります。

01行方不明社員の解雇は「通知方法」が課題になる

 長期間の無断欠勤は、普通解雇事由にも懲戒解雇事由にも該当するのが通常です。ですから、行方不明のために長期の欠勤が続いている場合、解雇を通知することさえできれば、解雇そのものは有効と判断される可能性が高いといえます。この種の事案では、解雇理由の当否は、実はあまり大きな争点になりません。

 むしろ本当の難所は、その手前にあります。いくら捜しても社員が見つからない場合、どこ宛に解雇通知書を発送すればよいのか、という「通知の方法」です。解雇の意思表示は、解雇通知が相手方に到達して初めて効力を生じます(民法97条1項)。ですから、有効か無効か以前の問題として、解雇通知が行方不明の社員に到達しなければ、解雇の効力はそもそも生じようがないのです。ここを詰めずに「もう辞めたことにしよう」と処理してしまうと、後で足元をすくわれます。

02状況別の解雇通知方法

 「行方不明」と一口にいっても、その中身はさまざまです。状況ごとに、到達の考え方が変わってきます。

①自宅に居住している場合(単に出社を拒否しているケース)

 社員が自宅で生活していて、単に出社を拒否しているにすぎないような場合であれば、社員の自宅に解雇通知が届けば、その社員の支配権内に置かれたことになります。実際に社員が通知を読んでいなくても、解雇の意思表示は到達したものと扱われます。この場合は、通知の到達で悩むことはありません。

②自宅が引き払われている・長期間帰宅形跡がない場合

 会社が把握している自宅がすでに引き払われているなど、本当の意味で行方不明で、どこに住んでいるのか皆目見当がつかない場合は、そもそも解雇通知を発送すべき宛先が分かりません。

 また、会社が把握している自宅が引き払われてはいなくても、長期間にわたって社員が自宅に戻っている形跡がまったくないような場合は、その自宅に解雇通知が届いたとしても、社員の支配権内に置かれたと評価することはできません。この場合、解雇の意思表示が社員に到達したことにはならず、解雇の効力は生じません。「郵便は送った」というだけでは足りない、ということです。

③電子メールによる通知

 電子メールによる解雇通知は、行方不明の社員から返信があれば、通常は解雇の意思表示がその社員に到達し、解雇の効力が生じていると考えることができます。もっとも、メールに返信があるような事案では、そもそも「行方不明」といえるのかという疑問も出てきます。解雇権の濫用(労契法16条)とされないよう、解雇に先立って、その社員と連絡を取る努力を尽くしておく必要があります。

 他方、メールを送っても返信がない場合は、到達したと考えることにはリスクが伴います。連絡を取る努力を尽くしたうえで、リスクを覚悟のうえで退職処理に踏み切るという判断もあり得ますが、ここは慎重に見極めるべき場面です。

④家族・身元保証人への通知は、原則として効力がない

 行方不明の社員の家族や身元保証人に対して解雇通知を送っても、本人への解雇の意思表示が到達したとは評価できず、解雇の効力は生じないのが原則です。家族に届けば本人にも伝わるだろう、という発想は通用しません。

 なお、兵庫県社土木事務所事件最高裁第一小法廷平成11年7月15日判決では、特殊な事案において解雇の効力発生が認められていますが、その射程を広く考えることはできません。家族に解雇通知書を交付し、社内報に掲載したといった程度で解雇の意思表示が到達したと考えるのは、通常は困難です。

⑤完全に行方不明の場合:公示による意思表示(民法98条)

 完全に行方不明の社員に解雇を通知する場合は、簡易裁判所において、公示による意思表示(民法98条)の手続を取る必要があります。この手続の要件を満たせば、解雇の意思表示が行方不明の社員に到達したものとみなしてもらうことができます。手間はかかりますが、確実に到達の効果を得るための、いわば正攻法です。

やってはいけない対応

 「自宅に郵便を送ったのだから、これで解雇は成立した」→ 状況によっては誤りです。自宅が引き払われている、長期間戻った形跡がないといった場合は、自宅への到達だけでは解雇の効力は生じません。

 「家族に解雇通知書を渡したから、本人に伝わったはずだ」→ 原則として効力はありません。本人への到達が必要であり、家族・身元保証人への通知では足りないのが原則です。

経営上のポイント 行方不明社員の長期無断欠勤は解雇事由に該当するのが通常ですが、解雇の意思表示は相手方への到達が必要(民法97条1項)なので、通知方法が最大の課題になります。自宅に住んでいれば自宅への通知で足りますが、自宅が引き払われている・長期間帰宅形跡がない場合は自宅への到達でも足りません。メールへの返信があれば到達と考えられます。家族・身元保証人への通知は原則として効力がなく、完全に行方不明の場合は簡易裁判所での公示による意思表示(民法98条)の手続が必要です。「送ったつもり」で退職処理してしまうと後で覆りかねませんので、無断欠勤への対応を含め、会社側専門の弁護士にご相談ください。具体的な事情に応じて、実務で使える方針をアドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年7月1日


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