この記事の結論
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私生活上の刑事事件でも、会社の社会的評価に相当重大な悪影響を与える場合は懲戒処分が可能

日本鋼管事件最高裁判決の考え方により、私生活上の行為でも会社の規制が及ぶ場合があります。ただし懲戒解雇は厳格に判断され、業種・職種・行為の性質と態様を総合的に考慮する必要があります。

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即懲戒解雇は避け、否認や悪影響が軽微な場合は軽い処分から。退職金の全額不支給が認められるとは限らない

否認がある場合や悪影響が軽微な場合は、より軽い処分にとどめ、警告書・始末書を取っておくのが実務上有効です。退職金は勤続の功を抹消するほどの背信性がなければ、全額不支給が認められないことがあります(小田急電鉄事件)。

01私生活上の行為に対する懲戒処分の可否

日本鋼管事件最高裁判決の考え方

 そもそも、私生活上の行為を理由に懲戒処分に処することができるのか、という点がまず問題になります。この点については、日本鋼管事件最高裁第二小法廷昭和49年3月15日判決が、会社が名誉・信用その他相当の社会的評価を維持することは事業の運営に不可欠であるから、会社の社会的評価に重大な悪影響を与えるような従業員の行為については、それが職務遂行と直接関係のない私生活上のものであっても、会社の規制を及ぼしうる、という趣旨を示しています。私生活上のことだから会社は一切手を出せない、というわけではないのです。

懲戒処分に必要な要件

 もっとも、就業時間外に社外で社員が刑事事件を起こしたというだけで、直ちに懲戒処分に処することができるわけではありません。①その社員の言動が就業規則の懲戒事由に該当すること、②その懲戒が、当該行為の性質・態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められること(労契法15条)が必要です。

 また、本人が犯行を否認していて、犯罪が本当に行われたのかどうかがはっきりしない場合には、犯行があったことを前提に懲戒処分をすることはリスクが高くなります。懲戒処分は、あくまで証拠から認定できる事実に基づいて行ってください。報道や噂の段階で先走ると、後で足をすくわれます。

02懲戒解雇の判断基準(日本鋼管事件の考慮要素)

「会社の社会的評価に相当重大な悪影響」が必要

 懲戒解雇・諭旨解雇・諭旨退職といった退職の効果を伴う懲戒処分は、紛争になりやすく、その効力は厳格に判断される傾向にあります。会社の社会的評価を若干低下させたというだけでは足りません。会社の社会的評価に及ぼす悪影響が「相当重大」であると客観的に評価できるような事実を、証拠によって認定できる必要があります。

 日本鋼管事件最高裁判決も、当該行為の性質・情状のほか、会社の事業の種類・態様・規模、会社が経済界に占める地位、経営方針、その従業員の会社における地位・職種等、諸般の事情を総合的に判断して、当該行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合かどうか、という枠組みで検討しています。

業種・職種による認められやすさの違い

 たとえば、タクシーやバスの運転業務に従事している社員が飲酒運転をした場合や、電鉄会社の社員のように痴漢を防止すべき立場にある者が痴漢をした場合には、一般的に懲戒解雇が有効とされやすい傾向があります。これらは、その社員の業務と非行との関連性が強く、会社の社会的評価への影響も大きいためです。同じ非行でも、業種や職種によって評価が変わってくる、という点は押さえておくべきです。

03実務上の段階的対応と警告書・始末書の活用

 懲戒解雇が無効とされるリスクがある事案については、より軽い懲戒処分にとどめておいた方が無難なことも多いのが実情です。結果として、社員が自主退職することもあります。強気に懲戒解雇へ踏み込んで無効とされるより、堅実に運ぶほうが会社を守ることになります。

 最初に刑事事件を起こした際に懲戒解雇を回避してより軽い懲戒処分にとどめる場合は、書面で、次に同種の刑事事件を起こしたら懲戒解雇する旨の警告をしておくか、次に同種の刑事事件を起こしたら懲戒解雇されても異存ない旨を記載した始末書を取っておくとよいでしょう。これがあれば万全というわけではありませんが、同じ種類の非行を再び犯した場合の懲戒解雇が、有効となりやすくなります。次への布石を一枚打っておく、という発想です。

よくある会社経営者の誤解

 「私生活上のことだから、会社は処分できないはずだ」→ 誤りです。会社の社会的評価に重大な悪影響を与える行為は、私生活上のものであっても懲戒処分の対象となり得ます(日本鋼管事件最高裁判決)。

 「刑事事件を起こしたのだから、即懲戒解雇して当然だ」→ 慎重な判断が必要です。懲戒解雇の有効性は、業種・職種・行為の性質・態様・悪影響の程度などを総合的に判断します。軽微な場合や否認がある場合は、無効となるリスクを十分に検討してから判断すべきです。

04懲戒解雇と退職金(不支給・減額の合理性)

退職金の不支給・減額の要件

 懲戒解雇事由に該当する場合を退職金の不支給・減額・返還の事由として就業規則等に規定しておけば、その個別の事案において退職金の不支給・減額の合理性がある場合には、退職金を不支給または減額したり、すでに支給した退職金の全部または一部の返還を請求したりすることができます。

 もっとも、退職金の不支給・減額事由の合理性があるかどうかは、その労働者のそれまでの勤続の功を抹消(全額不支給の場合)または減殺(一部不支給の場合)してしまうほどの、著しい背信行為があったといえるかどうかで判断されます。懲戒解雇が有効だからといって、当然に退職金を全額不支給にできるわけではない、という点に注意が必要です。

小田急電鉄事件(東京高裁平成15年12月11日判決)

 懲戒解雇が有効であっても、勤続の功を抹消するほどの著しい背信行為があるとまではいえない場合には、本来の退職金支給額の一部の支払が命じられることがあります。小田急電鉄(退職金請求)事件東京高裁平成15年12月11日判決は、鉄道会社の従業員が私生活上で行った電車内での痴漢行為を理由とする懲戒解雇そのものは有効と判断しつつ、それまでの勤続の功を抹消するほど強度の背信性を持つ行為であるとまではいえないとして、本来の退職金支給額の30%の支払を命じました。懲戒解雇と退職金の取扱いは、別々に検討すべき問題だということを示す一例です。

経営上のポイント 就業時間外の刑事事件を理由とした懲戒解雇は、就業規則の懲戒事由への該当に加え、客観的合理的理由と社会通念上の相当性(労契法15条)が必要です。会社の社会的評価に相当重大な悪影響を与える場合に限って処分が可能で(日本鋼管事件最高裁判決)、業種・職種・行為の性質と態様を総合的に判断します。懲戒解雇のリスクが高い事案では、軽い処分から段階的に対応し、警告書・始末書を取っておくのが有効です。退職金の不支給・減額は、勤続の功を抹消するほどの著しい背信行為があるかどうかで判断され、懲戒解雇が有効でも全額不支給が認められるとは限りません(小田急電鉄事件)。本人の否認がある場合はとりわけ慎重を要しますので、懲戒処分・解雇の進め方を含め、早めに会社側専門の弁護士にご相談ください。具体的な事情に応じて、実務で使える方針をアドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年7月1日


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