この記事の結論
1

事前買い上げは原則禁止だが、退職時の未消化分の買い上げは例外的に許容される

有給休暇の事前買い上げは労基法39条の趣旨に反し、合意があっても労基法13条により無効です。しかし退職後は取得機会が失われるため、退職時の清算は労働者にとって利益になります。

2

退職合意書への明記と合理的な単価設定が紛争防止の鍵

法定外休暇(独自付与の有給)は合意により自由に買い上げが可能です。退職勧奨の解決金に有給消化分を組み込むことも有効な手段です。

01原則:年次有給休暇の買い上げ禁止

 労働基準法39条が定める年次有給休暇は、労働者の心身の疲労を回復させ、ゆとりある生活を保障するための権利です。そのため、使用者が「休暇を与える代わりに金銭を支払って権利を消滅させる」という事前買い上げは、たとえ労働者との合意があっても原則として認められません。このような合意は労基法13条により無効となり、使用者は依然として労働者の年休取得を拒むことができません。

02退職時における買い上げが認められる理由

 退職勧奨に応じて退職することが決まった労働者が、退職日までに消化しきれない年休を抱えている場合があります。この未消化分を退職時に買い上げることは、実務上許容されています。退職してしまえば、その後その会社で年休を取得する機会は物理的に失われます。消化しきれない年休をそのまま消滅させるよりは、金銭で清算して労働者に還元するほうが労働者にとって利益になるため、労基法39条の趣旨(休暇の付与)に反しないと解釈されるからです。

03「法定休暇」と「法定外休暇」の区別

①法定休暇(労基法39条の休暇)
上記のとおり、退職時などの例外を除き、買い上げは厳しく制限されます。

②法定外休暇
会社が福利厚生として就業規則等で独自に上乗せ付与した有給休暇(夏季休暇・リフレッシュ休暇・法定を上回る日数の年休等)です。これらについては労基法の直接的な規制が及ばないため、社内規定や個別の合意に基づき自由に買い上げることが可能です。

04退職勧奨の実務(解決金への組み込み)

 退職勧奨の現場では、早期退職を促すために「有給休暇をすべて消化してから辞める」か「有給消化分を含めた解決金を支払って即時退職するか」が交渉の焦点になることがよくあります。経営者としては、次の点に留意して合意形成を図ってください。

①任意の合意
あくまで労働者が買い上げを選択することに同意していることが大前提です。

②合意書への明記
「未消化有給休暇〇日分の清算として金〇〇円を支払う」旨を退職合意書に明記し、後日の紛争を防止します。

③不利益の回避
買い上げ単価が極端に低い場合などは「不利益」とみなされるリスクがあるため、労働者が納得できる合理的な金額設定が求められます。

よくある誤解

 「在職中に有給を買い上げれば休ませずに済む」→ 誤りです。在職中の事前買い上げは労基法違反として無効です。買い上げが許容されるのは退職時の未消化分の清算に限られます。

05よくある質問(FAQ)

Q. 退職時の有給休暇の買い上げは違法ですか。

違法ではありません。事前買い上げは労基法39条の趣旨に反し原則禁止ですが、退職時に消化しきれなかった年休を清算のために買い上げることは、労働者にとって不利益にならないため許容されています。

Q. 法定外休暇(夏季休暇等)も買い上げの制限を受けますか。

受けません。会社が独自に上乗せ付与した法定外休暇には労基法の直接的な規制が及ばないため、社内規定や個別の合意に基づき自由に買い上げることが可能です。

Q. 退職勧奨の解決金に有給消化分を組み込むことは有効ですか。

有効です。引継ぎ業務等の都合で有給を完全消化させることが難しい場合、有給消化分を含めた解決金を提示することで、早期退職と労働者の利益確保を両立させることができます。

Q. 買い上げの単価はどう決めればよいですか。

明確な法定単価はありませんが、極端に低い単価は「不利益」とみなされるリスクがあります。通常の賃金相当額を基準に、労働者が納得できる合理的な金額を設定し、退職合意書に明記することが重要です。

経営上のポイント 有給休暇の事前買い上げは労基法39条の趣旨に反し原則禁止ですが、退職時の未消化分の買い上げは、労働者にとって利益になるため許容されています。法定外休暇(独自付与の有給)は合意により自由に買い上げが可能です。退職合意書に「未消化有給○日分の清算として金○○円を支払う」旨を明記し、合理的な単価を設定することが紛争防止の要諦です。買い上げはあくまで労使の合意が前提であり、会社から強制することはできません。退職前の年休申請と合わせて、退職勧奨の解決金設計について会社側専門の弁護士にご相談ください。具体的な事情に応じて、実務で使える方針をアドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年7月2日


Return to Top ▲Return to Top ▲