精神疾患発症が疑われる社員を放置することは、安全配慮義務違反(労契法5条)として損害賠償責任を招くリスクがあります。遅刻・欠勤の急増・集中力低下・単純ミスの増加などのサインを見逃さず、早期に適切な4つのステップで対応することが会社を守る鍵です。
目次
1. 安全配慮義務とは——放置が許されない法的根拠
使用者は、社員の生命・身体・精神の健康に対して安全配慮義務を負っています(労働契約法5条)。これは単に身体的な安全にとどまらず、精神的な健康も含む広い概念です。
遅刻や欠勤が急に増えたり、集中力や判断力が低下して単純ミスが増えたりするなど、精神疾患発症が疑われる兆候が現れているにもかかわらず放置した場合、安全配慮義務違反として使用者が損害賠償責任を負う可能性があります(東芝〔うつ病・解雇〕事件・最高裁平成26年3月24日第二小法廷判決参照)。
重要なのは、精神疾患は社員が自ら申告しないことも多いという点です。同最高裁判決は「メンタルヘルスに関する情報については社員本人からの積極的な申告が期待し難い」ことを前提として、使用者側が積極的に対応する義務があることを明示しています。「本人から言ってこなかったから知らなかった」という弁解は通用しません。
2. 精神疾患発症が疑われるサインを見逃さない
以下のような変化が現れた場合は、精神疾患の発症を疑って早期に対応することが必要です。
勤怠・行動面のサイン
①遅刻・欠勤・早退の急増(特に「体調不良」「頭痛」「腹痛」などの理由が増える)、②無断欠勤・無断遅刻、③有給休暇の突発的な取得が増える、④会議や朝礼への参加を避けるようになる、⑤昼休みに席を外さなくなる・食欲の変化が見られる。
業務パフォーマンス面のサイン
①集中力・判断力の低下による単純ミスの急増、②これまでできていた業務に時間がかかるようになる、③報告・連絡・相談が減る、④仕事の抜け漏れが増える、⑤納期を守れないことが増える。
対人・言動面のサイン
①表情が暗い・覇気がなくなる、②同僚とのコミュニケーションが減る、③些細なことで感情的になる、④「消えたい」「死にたい」など自傷・自殺を示唆する発言をする(この場合は直ちに専門家に相談が必要)。
3. 実務上の対応ステップ——4つの初動対応
① 具体的問題点の記録と指摘
遅刻・欠勤の日時・回数、ミスの具体的内容・日時、業務上の問題点を客観的に記録します。記録は後の対応の証拠にもなりますし、社員に具体的に問題点を伝える際の根拠にもなります。「最近、〇月〇日に遅刻が△回あり、〇〇の業務でこのようなミスがあった」と具体的に伝え、本人の状況を把握する面談を行います。
② 医療機関受診の勧奨
「最近、体調はいかがですか。お体のことが心配なのですが、一度、医療機関を受診してみてはいかがでしょうか」と声をかけ、受診を勧奨します。精神疾患の疑いがあることを直接指摘することは本人を傷つけるリスクがあるため、「体調面が心配」という形で声をかけるのが実務上の定石です。受診勧奨の事実と本人の応答は記録に残します。
③ 産業医面談の活用
産業医がいる場合(常時50人以上の事業場は選任義務あり・労安衛法13条)は、産業医面談を設定します。産業医は医学的観点から就業上の配慮事項を判断できるため、その後の対応方針を決める上で重要な役割を果たします。産業医がいない場合は、外部の産業医サービスや地域産業保健センターの活用を検討します。
④ 業務負荷の調整
精神疾患の発症・悪化が疑われる場合は、時間外労働の免除・業務量の軽減・負担の重い業務(出張・深夜勤務等)の一時的な停止などの措置を取ります。これ自体が安全配慮義務の履行であり、後に「必要な措置を取っていた」という証拠にもなります。
⚠ 絶対にやってはいけない対応
・精神疾患の兆候を把握しながら放置する→ 安全配慮義務違反のリスク
・「気合が足りない」「根性がない」などと精神論で叱責する→ ハラスメント・症状悪化のリスク
・精神疾患を理由に即座に解雇する→ 解雇権濫用・不当解雇のリスク
・業務量を減らさず長時間労働を継続させる→ 症状悪化・安全配慮義務違反のリスク
精神疾患が疑われる社員への対応方針・安全配慮義務の範囲・就業規則の整備について、弁護士へのご相談をお勧めします。→ 経営労働相談はこちら
さらに詳しく知りたい方はこちら
- 精神疾患発症が疑われる社員本人からの申告がなくても、何らかの配慮が必要ですか。
- 精神疾患を発症したものの、所定労働時間内の通常業務であれば問題なく行える程度の症状である場合は、どのように対応すればいいですか?
- 精神疾患を発症した社員が長期間にわたって所定労働時間の勤務さえできない場合は、どのように対応すればいいですか?
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日 2026/04/10