この記事の要点

社員本人からの申告がなくても、使用者は安全配慮義務(労契法5条)を負います。「申告がなかったから知らなかった」は通用しません。東芝うつ病解雇事件・最高裁判決(平成26年3月24日)が明確にこの義務を認定しています。

1. 「申告がなければ責任なし」は通用しない

 会社経営者の中には、「精神疾患のことは本人から何も言ってこなかったから、知るよしもなかった。責任はない」と考える方がいます。しかし、この考え方は最高裁判例によって否定されています。

 東芝〔うつ病・解雇〕事件最高裁平成26年3月24日第二小法廷判決は、「使用者は、必ずしも労働者からの申告がなくても、その健康に関わる労働環境等に十分な注意を払うべき安全配慮義務を負っている」と明示しています。これは労働契約法5条が定める安全配慮義務の具体的内容を示すものです。

 さらに同判決は、「メンタルヘルスに関する情報については労働者本人からの積極的な申告が期待し難いことを前提とした上で、必要に応じてその業務を軽減するなど労働者の心身の健康への配慮に努める必要がある」と判示しています。

2. なぜ社員は申告しないのか——精神疾患の特性

 メンタルヘルスに関する情報について社員本人からの積極的な申告が期待し難い理由は、精神疾患の特性にあります。

 ①病識の欠如:うつ病等の精神疾患は、本人自身が「病気だ」と認識できないことが多い。「怠け」「気持ちの問題」と思い込んで受診しないケースが少なくない。②スティグマへの恐れ:精神疾患を申告することで職場での評価が下がる・不利益を受けると恐れている。③疾患による判断力の低下:精神疾患そのものが判断力・コミュニケーション能力を低下させており、「助けを求める」という行動を取ることが困難になっている。

 これらの特性があるからこそ、最高裁は「使用者が自ら積極的に状況を把握して対応する義務がある」と判断しているのです。

3. 会社として取るべき具体的な対応

 申告がない場合でも、以下の状況を使用者が認識していれば、安全配慮義務の履行として必要な対応を取ることが求められます。

 ①過重な業務が続いている中で体調の悪化が看取される場合:業務量の軽減・時間外労働の免除・受診勧奨を行う。②遅刻・欠勤・ミスの急増など職務行動の変化が見られる場合:面談を設定し、体調を確認した上で医療機関受診や産業医面談を勧める。③本人が「大丈夫です」と答える場合:メンタルヘルスの特性上、「大丈夫」という回答は額面通りには受け取れない。客観的な行動・勤怠の変化に注目して対応を継続する。

⚠ 「本人から申告がなかった」という弁解が通じない典型的ケース

月100時間を超える残業が続いた社員が精神疾患を発症し、会社が「本人は何も言ってこなかった」と主張したところ、裁判所は「それだけの残業量と体調悪化の兆候があれば認識できたはずだ」として安全配慮義務違反を認定した事例が多数あります。長時間労働+体調変化のサインがあった場合は特に注意が必要です。

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弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 /  「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

 

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最終更新日 2026/04/10


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