年次有給休暇(労基法39条)を買い上げることはできますか。
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強制買い上げは不可。合意による買い上げも原則として認められない 使用者が強制的に年休を買い上げることはできず、労働者との合意による買い上げも、労基法39条の趣旨(「休暇を与える制度」)に反するものは労基法13条により無効となります。 |
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例外的に認められる買い上げは2場面 ①退職時に消化しきれなかった年休の買い上げ、②2年の消滅時効にかかった年休の買い上げ、は通常労働者に不利益が生じないため、労基法39条の趣旨に反せず例外的に認められます。 |
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法定外の上乗せ年休部分は制限が及ばない 就業規則等で法定を上回って付与された年休(法定外年休)の部分については、労基法39条の規制が及ばないため、一般的に合意による買い上げが認められます。 |
目次
01年次有給休暇の買い上げが原則として認められない理由
年次有給休暇(労基法39条)は労基法上の権利であるため、使用者が強制的に買い上げることはできません。また、労働者との買い上げ合意があったとしても、それが労基法39条の趣旨に反するものについては、労基法13条(労基法の基準を下回る労働契約の無効)により無効となり、使用者は労働者の年休取得を拒むことができなくなると考えられます。
年休制度(労基法39条)は本来、労働者に休暇を与えることが目的の制度です。金銭を支払うことで休暇取得の機会を奪うことは、この制度の本旨に反します。「年休を買い上げるから取得しなくてよい」という運用が常態化すれば、労働者は実質的に年休を取得できなくなってしまいます。このため、合意による年休買い上げが認められるのは特別なケースに限定されます。
02例外的に認められる場面①:退職時の未消化分
労働者が退職するに際し、消化しきれなかった年休を買い上げる場合は、通常は労働者に不利益が生じないため、労基法39条の趣旨に反せず、例外的に合意による買い上げが認められると考えられます。
なぜ不利益が生じないかというと、退職後は年休を取得する権利が消滅するためです(477番参照)。退職後に使えない年休を金銭で清算することは、労働者にとって不利益ではなく、むしろ利益となります。
ただし、買い上げに応じることは使用者の義務ではありません。退職時の未消化年休の買い上げを行うかどうか、買い上げる場合の単価をいくらにするかは、使用者と労働者の交渉によって決まります。就業規則や雇用契約に買い上げの定めがある場合はそれに従い、定めがない場合は事前に方針を統一しておくことをお勧めします。
03例外的に認められる場面②:消滅時効にかかった年休
2年の消滅時効(労基法115条)にかかった年休は、法律上の権利としてすでに消滅しています(487番参照)。すでに取得する権利がなくなった年休を買い上げても、労働者の年休取得機会を奪うことにはならないため、労基法39条の趣旨には反せず、合意による買い上げが認められると考えられます。
ただし、就業規則で2年超の繰越を認めている場合は、就業規則上の権利として継続していますので、この場合には単に「時効消滅分の買い上げ」とは言えません。就業規則の規定との整合性を確認したうえで対応してください。
04法定外年休(上乗せ部分)の買い上げ
労基法39条により付与された年休ではなく、就業規則等により上乗せで付与された部分の有給休暇(法定外年休)については、労基法39条の規制が及びません。法定外年休は使用者が任意に付与するものですから、その取扱い(買い上げの可否・条件等)は就業規則等で自由に定めることができます。
例えば、法定の付与日数が20日の社員に対して25日を付与している場合、法定超過の5日分(法定外年休)については、会社の判断で買い上げ制度を設けることが可能です。多くの場合、就業規則に「法定を超える部分の年休残日数は、退職時にX円で買い上げる」などの定めを置くことで対応しています。
法定外年休の買い上げ制度を設ける際は、対象となる年休の範囲(法定分と法定外分の区別)、買い上げの単価、買い上げの条件などを明確に就業規則に定めておくことが重要です。
05買い上げを行う際の実務上の注意点
年休の買い上げを行う場合、特に以下の点に注意が必要です。
第一に、年5日の取得義務化(労基法39条7項)との関係です。年10日以上の年休が付与される社員については、使用者は毎年5日以上の年休を取得させる義務があります。年休を買い上げることで取得日数が5日を下回る状態を作ってはいけません。買い上げは「5日の義務的取得後の残余」について検討するものと理解してください。
第二に、買い上げを常態化することは年休制度の趣旨に反するリスクがあります。繁忙期に年休を取得させず、後で買い上げるという慣行は、実質的に年休取得を禁じているのと変わりません。「忙しいから買い取るから取らなくていい」という運用は、年休を取得させなかった不法行為として損害賠償請求を受けるリスクがあります。
第三に、退職時の買い上げについては方針を統一し、就業規則や退職規程に明記しておくことをお勧めします。一部の退職者にのみ買い上げに応じた場合、他の退職者から「自分にも買い上げてくれ」と要求される事態が生じかねません。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
Q&Aよくある質問
Q1. 繁忙期に「年休を取らないでくれ、その分上乗せして給与に入れる」という運用をしていますが問題ありますか。
A. 問題があります。この運用は実質的に「年休取得を禁じた上で金銭で代替する」もので、労基法39条の趣旨に反します。「年休の上乗せ賃金」の合意は無効となり、社員は本来の年休取得権を失いません。また、年5日の取得義務化に違反するリスクもあります。加えて、年休を取得させなかったことが不法行為として損害賠償請求を受けるリスクがあります。繁忙期の人員配置を改善し、計画的に年休を取得させる体制を整えることをお勧めします。
Q2. 退職時の未消化年休の買い上げ単価はいくらにすべきですか。法律上の定めはありますか。
A. 買い上げ単価を定める法律上の規定はありません。「通常の賃金(所定労働時間分)」「平均賃金」など、実態に即した単価を当事者間で合意する形になります。就業規則や退職規程に買い上げ単価の基準を定めておくと、退職交渉でのトラブルを防げます。なお、買い上げに応じること自体は義務ではありませんので、買い上げを行わない方針も可能です。
Q3. 法定外年休の買い上げ制度を就業規則に定める場合、どのような点に注意が必要ですか。
A. ①法定分と法定外分を明確に区別すること(例:「年休が25日付与される場合、法定の20日を超える5日分が法定外年休」)、②買い上げ単価を明示すること、③買い上げの条件(退職時のみか、毎年度末か)を定めること、が重要です。また、法定外年休の買い上げ制度を設けた場合、社員が法定外年休を優先的に消化し、法定年休を温存して退職時に全て消化しようとする行動変容が生じることも想定しておいてください。
Q4. 社員本人が「年休を買い上げてほしい」と申し出てきました。応じることはできますか。
A. 在職中の社員からの申し出であれば、原則として応じることはできません(労基法39条の趣旨に反するため)。退職が決まっている場合の退職時の未消化分、あるいは消滅時効にかかった分であれば例外的に応じることができます。法定外年休の部分であれば就業規則の定めに従って対応可能です。いずれの場合も、どの種類の年休について買い上げに応じるかを明確にしたうえで対応してください。
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最終更新日:2026年2月25日