この記事の結論
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普通解雇後に判明した事実の追加主張は裁判例上認められやすい。懲戒解雇では原則不可という違いがある

解雇時に存在していたが使用者が知らなかった事実については、後から普通解雇事由として追加主張できるとする裁判例が多くあります。制裁処分である懲戒解雇では手続的公正の観点から原則として認められないのと対照的です。

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解雇理由証明書(労基法22条)を交付している場合、記載外の理由の追加主張は解雇権濫用リスクが高まる

解雇理由証明書は解雇の理由を公式に示した書面であるため、後から記載されていない理由を持ち出すことは「後付けの理由」として厳しく評価されます。証明書の記載を幅広く・具体的に行うことが重要な予防策です。

01普通解雇後に判明した事実の追加主張:裁判例の傾向

 普通解雇した時点で既に存在していたものの、使用者に判明しておらず当初は解雇理由とされていなかった事実が後から判明した場合、その事実を後から普通解雇事由として追加主張することができるとする裁判例が多くあります。

 この考え方の背景には、普通解雇が「労働契約の解消」という性格を持つものであり、解雇時に存在していた事実については、使用者が当時それを知っていたかどうかにかかわらず、解雇の有効性を支える根拠として機能し得るという論理があります。解雇の有効性は解雇時の客観的な状況によって判断されるべきという考え方に基づくものです。

 ただし、追加主張を認める裁判例が多いとはいえ、すべての場合に認められるわけではありません。当初の解雇理由が解雇権濫用と判断されるほど薄弱な場合、後から追加した事由だけで有効性が認められるとは限りません。また、後述するとおり解雇理由証明書との関係でリスクが生じる場合があります。

02懲戒解雇との違い:懲戒事由の追加主張は原則不可

 普通解雇では追加主張を認める裁判例が多いのに対し、懲戒解雇の場合は特段の事情がない限り懲戒事由の追加主張が許されないとするのが一般的です。

 この違いは、両者の制度的な性格の違いから生じます。懲戒解雇は使用者が労働者に対して行う制裁処分であり、被処分者が対象となる事由を事前に知った上で弁明の機会を持つことが手続的公正の観点から重視されます。解雇時に示されなかった事由を後から懲戒理由として追加することは、この手続的公正に反するとして、原則として認められません。

 一方、普通解雇はこうした制裁としての性格を持たないため、より柔軟な扱いがなされています。この違いは、解雇形式の選択(懲戒解雇か普通解雇か)が後の紛争対応に大きな影響を与えることを示しています。

03解雇理由証明書(労基法22条)とは

 労働基準法22条は、解雇された労働者が請求した場合、使用者は解雇理由を記載した証明書を交付しなければならないと定めています。

労働基準法22条1項(退職時等の証明)

労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。

 この解雇理由証明書は、解雇の理由を公式に示した書面という性格を持ちます。労働者が証明書を請求した場合に交付する義務がありますが、交付した場合には後の対応に重大な影響が生じます。証明書の記載内容が後の訴訟・労働審判で会社側の主張を縛ることになるため、記載内容の設計は極めて重要です。

04解雇理由証明書の記載外の理由で追加主張するリスク

 解雇理由証明書を交付した後に、証明書に記載されていない解雇理由を追加して主張することは、解雇権濫用(労働契約法16条)と判断されるリスクが高まります。また、事案によっては追加主張自体が認められないリスクもあります。

 解雇理由証明書は「解雇の理由を公式に示した書面」という性格を持つため、後からそこに記載されていない理由を持ち出すことは、労働者側からすれば「後付けの理由」と受け取られます。裁判所も、証明書の記載内容と異なる主張には慎重な目を向けることがあります。

 よくある経営者の誤解として「普通解雇後に不正が発覚したので、それを理由に追加主張すれば解雇が確実に有効になる」というものがありますが、慎重な判断が必要です。解雇理由証明書に記載のない理由での追加主張は解雇権濫用と判断されるリスクがある上、当初の解雇理由が解雇権濫用と判断される場合、追加事由だけで有効性が認められるとは限りません。また「解雇理由証明書は簡単に書けばよい」は誤りです。記載が不十分だと後から追加主張ができなくなるリスクがあります。

05実務上の対策:解雇理由証明書の記載を幅広く丁寧に行う

 解雇理由証明書の追加主張リスクを抑える最も有効な実務上の対策は、解雇理由証明書を交付する際に、当時判明している事実をできる限り漏れなく・具体的に記載することです。抽象的・一般的な記載にとどめず、「いつ・どのような行為があったか」「どのように注意指導したか」「それでも改善しなかったか」といった具体的な事実を盛り込むことで、解雇の客観的合理的理由の根拠を証明書上に示しておくことができます。

 そもそも解雇理由証明書に十分な内容を記載できるようにするためには、解雇を検討する段階から問題行動・注意指導の記録を積み重ねておくことが不可欠です。日常的な記録の積み重ねが、証明書の充実した記載を可能にし、後の追加主張に頼らなくて済む状況を作ります。

 解雇理由の追加主張をめぐるご相談でよく見られるのは、次のようなパターンです。

・「解雇後に横領が発覚した。解雇理由証明書にはその事実を記載していないが、後から追加主張できないか相談を受けた」→ 追加主張を試みたが、証明書記載外の理由として裁判所に慎重に評価された
・「解雇理由証明書を簡略に書いてしまったため、後から詳細な事実を主張しようとしたところ、証明書の記載と矛盾すると指摘された」

 いずれも、解雇理由証明書の作成時に弁護士への相談があれば防げたケースです。

経営上のポイント 普通解雇後に判明した事実の追加主張は裁判例上認められやすい傾向にありますが(懲戒解雇では原則不可)、解雇理由証明書(労基法22条)を交付している場合、記載外の理由の追加主張は解雇権濫用リスクが高まります。解雇理由証明書は当時判明している事実を漏れなく・具体的に記載することが重要な予防策です。証明書の作成前に弁護士に相談することをお勧めします。アドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年6月28日


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