昇格した同僚を妬む。
目次
動画解説
1. 昇格した同僚を妬む社員が経営問題に発展する瞬間
同じ部署で働いていた社員の一人が昇格し、もう一人が昇格しなかった。このような場面自体は、どの会社でも起こり得る出来事です。しかし、昇格しなかった社員が強い不満や妬みを抱き始めたとき、この問題は単なる感情の問題では済まなくなります。
会社経営者として注意すべきなのは、不満そのものではありません。「なぜ自分ではなかったのか」と感じること自体は、人として自然な反応です。問題が経営問題に発展するのは、その感情が態度や行動として表に出始めた瞬間です。
例えば、上司や昇格した同僚への露骨な反発、指示に対する消極的な対応、業務の質やスピードの低下、職場の空気を悪化させる言動などが見られるようになると、もはや個人の感情の問題とは言えません。組織全体に影響を及ぼす段階に入っています。
特に厄介なのは、本人が「正当な不満を持っている」と強く思い込んでいるケースです。この場合、注意や指導をしても、「評価が不公平だった」「会社が自分を正しく見ていない」といった主張にすり替わりやすく、話が噛み合わなくなります。
会社経営者として重要なのは、「感情の問題だから時間が解決するだろう」と楽観視しないことです。昇格をきっかけに表面化した態度の変化は、放置すれば自然に収まるものではありません。むしろ、早い段階で整理すべき経営課題です。
2. 「不満を抱く気持ち」と「業務を放棄する行動」は別物
昇格しなかったことに対して不満を抱く社員に接するとき、会社経営者が最初に整理すべきなのは、「感情」と「行動」を明確に切り分ける視点です。この二つを混同すると、対応の軸がぶれてしまいます。
不満や落胆、悔しさといった感情を持つこと自体は、社員として許されないものではありません。評価結果に納得できない気持ちが生じるのは、人として自然な反応です。会社は、社員の内心の感情まで統制することはできませんし、すべきでもありません。
しかし、その感情が業務態度や行動に表れた時点で、話は別になります。指示に従わない、露骨にやる気を失った態度を取る、周囲の士気を下げる発言を繰り返すといった行動は、業務上許されるものではありません。ここから先は、感情の問題ではなく、職務遂行上の問題です。
会社経営者として注意すべきなのは、「気持ちは分かるから」と行動面まで曖昧に扱ってしまうことです。同情が先行し、業務上の問題を放置すると、「不満を示せば態度が許される」という誤ったメッセージを組織に与えてしまいます。
重要なのは、会社として一貫した線引きを示すことです。不満を抱くこと自体は否定しないが、業務を放棄したり、職場秩序を乱す行動は許容しない。この線引きを、早い段階で明確に伝える必要があります。
3. 昇格しなかった社員が誤解しやすい評価の落とし穴
昇格しなかった社員が強い不満を示す背景には、多くの場合、「評価」に対する誤解があります。会社経営者としては、この誤解を放置したまま態度や行動だけを是正しようとしても、問題は根本的に解決しません。
最も典型的なのは、「自分は成果を出していた」「あの同僚と比べて劣っていたとは思えない」という認識です。本人にとっては事実であり、努力してきたという自負もあるため、「なぜ昇格できなかったのか」が感情的に受け入れられなくなります。
しかし、昇格判断は、単なる成果の多寡だけで決まるものではありません。将来的に担わせたい役割、他の社員への影響、判断力や安定性など、複数の要素を総合して行われるのが通常です。この点が十分に伝わっていないと、社員は「評価=今までの頑張りへの点数」と誤解してしまいます。
特に注意すべきなのは、「自分は今の仕事を問題なくこなしている」という理由で、昇格できなかったことに納得できないケースです。現職を無難にこなせることと、上位職として組織を引っ張れるかどうかは、必ずしも一致しません。しかし、この違いは、説明されなければ理解されにくいポイントです。
4. 未熟な態度を理由に即切り捨ててはいけない理由
昇格しなかったことへの不満から、態度が悪化している社員を見ると、「社会人として未熟だ」「この程度で拗ねるなら不要ではないか」と感じる会社経営者も少なくありません。しかし、その感覚のまま結論を急ぐことには、大きなリスクがあります。
まず理解しておくべきなのは、未熟な態度と、法的に問題社員として切り離せるかどうかは、全く別の問題だという点です。態度が幼稚に見える、感情的になっているという事情だけでは、直ちに厳しい人事判断を正当化することはできません。
特に昇格をきっかけに態度が崩れた場合、その背景には「評価に対する理解不足」や「将来への不安」が潜んでいることが多くあります。この段階で会社が即座に距離を置いたり、冷たい対応を取ったりすると、社員側は「やはり会社は自分を切り捨てるつもりだった」と受け取り、対立構造が固定化します。
会社経営者として重要なのは、「態度が悪い」という評価を、そのまま人事判断の理由にしないことです。問題にすべきなのは、具体的にどの行動が業務に支障を与えているのか、どの点が職務上許容できないのかという客観的な事実です。
5. まず最優先で行うべきモチベーション低下のケア
昇格しなかった社員の態度が悪化している場合、会社経営者としてまず最優先で行うべきなのは、注意や処分ではなく、モチベーション低下へのケアです。ここを飛ばしてしまうと、その後どのような対応を取っても、問題はこじれやすくなります。
重要なのは、モチベーション低下の原因が「評価そのもの」なのか、「評価の理由が理解できていないこと」なのかを切り分けることです。多くのケースでは、昇格しなかった事実そのものよりも、「なぜ自分が選ばれなかったのかが分からない」という点が、不満や反発の根源になっています。
この段階で会社経営者がやるべきことは、慰めることでも、納得させることでもありません。昇格判断の考え方、求めている役割、今後に期待している点を、できる限り具体的に言語化して伝えることです。「今回は縁がなかった」「次は頑張ってほしい」といった抽象的な説明では、かえって不信感を強めます。
会社経営者として注意すべきなのは、「時間が経てば落ち着くだろう」と放置することです。モチベーションが大きく下がった状態で業務を続けさせると、態度悪化や業務品質の低下が常態化し、それが後の指導や処分を難しくします。
6. 期待している社員ほど説明を尽くす必要がある
昇格しなかった社員への対応で、会社経営者が見落としがちなのが、「本来、期待している社員ほど、丁寧な説明が必要になる」という点です。期待が大きかった社員ほど、昇格しなかったことによる落差も大きく、その理由が不明確なままだと、態度や行動に強く表れやすくなります。
会社経営者としては、「期待していない社員ではないからこそ、今回は昇格させなかった」という判断をしていることも多いでしょう。しかし、この意図は、説明しなければ本人には伝わりません。説明がないままでは、「評価されていない」「見限られた」という受け止め方に変わってしまいます。
特に注意すべきなのは、「言わなくても分かるだろう」「大人なのだから理解するはずだ」という思い込みです。昇格という結果だけが示され、理由や背景が語られなければ、社員は自分なりの解釈で空白を埋めます。その多くは、会社にとって不利な解釈になります。
説明の目的は、会社としての判断基準と考え方を伝え、理解可能な形にすることにあります。このプロセスを経て初めて、次に考えるべき「当事者を引き離す配置転換」という選択肢が、現実的なものとして浮かび上がってきます。
7. 当事者を引き離す配置転換という選択肢の使い方
昇格を巡る不満や妬みが、特定の同僚や上司との関係に強く結び付いている場合、会社経営者として検討すべき選択肢の一つが、当事者を引き離す配置転換です。ただし、この判断は使い方を誤ると、問題を悪化させる危険があります。
まず押さえておくべきなのは、配置転換は「問題社員への制裁」ではないという点です。配置転換の目的は、対立関係を物理的に切り離し、業務に集中できる環境を整えることにあります。この位置付けを誤ると、本人に「不満を言ったから飛ばされた」「評価に抗議したから外された」と受け取られかねません。
実務上は、配置転換と併せて、業務上の期待や行動基準を改めて明確に伝えることが重要です。「場所を変えたのだから、次はどう働いてほしいのか」「どの点が問題で、どの点は期待しているのか」を整理せずに異動させると、本人は「理由の分からない異動」と感じ、反発を強めます。
8. 配置転換しても態度が改善しない場合の考え方
当事者を引き離す配置転換を行っても、なお態度や業務姿勢が改善しないケースは少なくありません。この段階に至ると、会社経営者は、問題の本質が環境ではなく本人の業務姿勢にあることを認識し、職務遂行上の問題として捉え直す必要があります。
この段階で会社経営者が整理すべきなのは、態度が改善していない理由です。新しい環境での業務内容が適切だったのか、期待される役割や行動基準を明確に伝えていたのか。これらが曖昧なままでは、「改善しなかった」とは言い切れません。
会社経営者として注意すべきなのは、「もう少し様子を見よう」という判断を繰り返し、対応を先送りにしてしまうことです。改善が見られない状態を放置すると、「結局、何をしても許される」という誤ったメッセージを本人だけでなく周囲にも与えてしまいます。
9. 注意指導・厳重注意・懲戒処分を検討する判断軸
説明やケアも尽くしたにもかかわらず、なお態度や業務姿勢が改善しない場合、段階的対応を検討します。基準にすべきなのは、感情の強さではなく、業務上どのような支障が生じているかという客観的事実です。
注意指導の段階では、問題となっている行動を具体的に指摘し、業務上求められる行動とのズレを明確にします。それでも改善が見られない場合、厳重注意を検討します。厳重注意は、「この行動は会社として看過できない」という明確な警告です。
懲戒処分を検討すべきかどうかの判断軸は、問題行動が就業規則上の服務規律違反に該当するかどうかです。会社経営者として特に注意すべきなのは、注意や指導を十分に行わないまま、いきなり懲戒処分に進むことです。この場合、「改善の機会を与えていない」と法的に評価されるリスクが高まります。
10. ベストを尽くした後に会社経営者が下すべき結論
手を尽くしてきたにもかかわらず、なお態度や業務姿勢が改善しない場合、会社経営者は最終的な結論と向き合う必要があります。この局面を避け続けることは、経営判断としてもリスクが高まります。
まず確認すべきなのは、「会社としてやるべきことは本当に尽くしたか」という点です。評価の考え方を説明したか、感情と行動を切り分けて指導したか、改善の機会を具体的に与えたか。これらを振り返り、説明可能な対応を積み重ねてきたのであれば、会社としての土台は整っています。
会社経営者として下すべき結論は、「この社員を今後どのような位置付けで雇用し続けるのか」という整理です。曖昧な状態を続けることが最も危険です。組織を守り、他の社員を守り、会社経営者自身を守るために必要な、責任ある経営判断を下す時です。

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日:2026年3月1日
