問題社員202 退職勧奨が紛争に発展しやすいケース

動画解説

この記事の要点

【失敗①】退職届・退職合意書を取らずに社員が出社しなくなった——後から「不当解雇」と主張されるリスク

「出社しなくなったから退職したと思った」では通用しない。退職の合意は必ず書面で確定させる必要がある

【失敗②】口頭での発言(「もう来なくていい」など)が録音され、解雇や暴言として評価されるリスク

退職勧奨の場では必ず録音されていると思って話す。「言葉の通りに認定されてしまう」時代であり、内心ではなく発言内容が問われる

【失敗③】注意指導・懲戒処分を経ずにいきなり退職勧奨——断られても解雇できず、トラブルが深刻化する

準備が整った状態でないと、断られた時に打つ手がなくなる。事前の注意指導・懲戒処分の積み上げが退職勧奨の成功率を上げる

1. 失敗① 退職届・合意書を取らないまま、出社しなくなった

退職勧奨を行った後、社員が出社しなくなった——。「自分から出社しなくなったのだから、納得してやめたのだろう」と思っていたところ、後日内容証明郵便が届いて「不当解雇だ」「今も在職中だから毎月の給料を払い続けろ」と請求されるケースがあります。

これは退職勧奨でトラブルになる最も典型的なパターンです。

⚠ 「出社しなくなった=退職した」ではない

出社しなくなった事実だけでは「合意退職」の証明にはなりません。退職の合意は必ず書面で確定させる必要があります。「やめる」という意思が確認できたと思った時点で、退職届または退職合意書を取ることが鉄則です。

どうしても書面を取れない場合でも、少なくともメール・LINE・その他の形で、退職日が明確に記録に残るやり取りを確保してください。「何月何日に退職する」という事実を確定させておかなければ、後から全ての交渉が覆る可能性があります。

仮に「解雇ではない」と反論できたとしても、退職の書面がなければ「在籍中」として扱われるリスクが残ります。そうなると、「出社しなくていいから職場に戻れ」という話にもなりかねず、双方にとって非常に辛い状況になります。

2. 失敗② 口頭での暴言・不用意な発言が録音されて解雇と評価された

退職勧奨の場で、感情的になって「もう来なくていい」「出勤しなくて結構です」などと言ってしまったケースがあります。社長としては「この人にはがっかりだ」という気持ちを表現したつもりでも、発言の言葉通りに「解雇」として評価されてしまうことがあります。

現在はスマートフォンで簡単に録音できます。退職勧奨の場では、ほぼ常に録音されていると思って臨む必要があります。

⚠ 「内心は違う」は通用しない時代

「そういう意味で言ったのではない」「よく付き合えば分かるはずだ」という言い訳は通用しません。発した言葉が客観的に問われる時代です。退職勧奨の場での発言は、裁判官や弁護士に聞かれても問題のない言葉を選んでください。

不用意な発言が「解雇」と評価された場合、その解雇は無効になりやすいです。解雇するつもりがなかったにもかかわらず解雇無効となると、働いていない期間の給与を支払い続ける義務が生じることになります。これは会社にとって非常に重い負担です。

退職勧奨の場では、まるでお客様に対するように言葉を選んで、丁寧に・具体的な事実に基づいて話すことが求められます。

3. 失敗③ 準備なしにいきなり退職勧奨——断られると詰む

退職勧奨で最も深刻なトラブルになりやすいのが、事前の注意指導・懲戒処分を経ずにいきなり退職勧奨を行うケースです。

準備が整った状態(注意指導・懲戒処分を重ねて解雇も視野に入る状況)での退職勧奨であれば、話がまとまりやすく、断られても解雇という選択肢がある上に解決金額も抑えられます。本人も「断ったら解雇されるかもしれない」という認識があるためです。

▶ 準備が整っている状態 vs 準備なしの状態

準備が整っている 話がまとまりやすい。断られても解雇が有効。解決金額も低く抑えられる
準備なしでいきなり 断られると解雇できない。問題社員が職場に残る。無理な対応でパワハラ認定リスク。解決金額が高額になる

準備なしで断られた場合、問題のある社員が職場に残り続けることになります。そうなると「無理にでもやめさせよう」と無理な退職勧奨を重ねてパワハラと評価されたり、無効な解雇をして解雇無効を主張されたりと、トラブルがエスカレートしていきます。

退職勧奨は、注意指導・懲戒処分を積み上げた上で、解雇も選択肢に入る状況になってから行うことが原則です。早めに弁護士に相談し、退職勧奨に向けた準備を整えてから臨むことをお勧めします。

4. まとめ

退職勧奨が紛争に発展する典型パターンと、その防止策を整理します。

① 退職の合意は必ず書面で確定させる

「出社しなくなった=退職した」は通用しません。退職届または退職合意書を必ず取り、最低でもメール・LINEで退職日が明確に残るやり取りをしてください。

② 常に録音されていると思って発言する

退職勧奨の場での発言は、裁判官に聞かれても問題のない言葉を選んでください。感情的な発言・「もう来なくていい」などの言葉は解雇と評価されるリスクがあります。

③ 注意指導・懲戒処分を積み上げてから退職勧奨を行う

準備なしのいきなり退職勧奨は最大のリスクです。注意指導・懲戒処分を重ねて解雇が視野に入る状況を作ってから退職勧奨に臨んでください。

よくある質問(FAQ)

Q
退職勧奨後に社員が出社しなくなりました。退職したと判断してよいですか?
A

判断してはいけません。今すぐ退職届または退職合意書を取ることが必要です。出社しなくなっただけでは退職の証明になりません。後から「不当解雇」「在職中」と主張されるリスクがあります。連絡が取れない場合でも、書面での意思確認を試みてください。弁護士に相談することをお勧めします。

Q
注意指導をほとんどしていませんが、すぐに退職勧奨してもよいですか?
A

状況によりますが、非常にリスクが高いです。断られた時に解雇という選択肢がなく、問題社員が職場に残り続けることになります。また解決金額が高額になりやすいです。まず弁護士に相談して、退職勧奨前にどのような準備が必要かを確認してください。

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弁護士 藤田 進太郎

監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日 2026/04/14