好き勝手に振る舞う一人事務所の事務員。
目次
動画解説
1. 離れた事務所で1人勤務させることの経営リスク
本社や主要拠点から離れた事務所で、社員を1人だけ勤務させている会社は少なくありません。「業務量はそれほど多くない」「現地対応が必要だから仕方がない」といった理由で、深く考えずにこの体制を続けているケースも多いでしょう。
しかし、会社経営者として認識しておくべきなのは、1人勤務という体制自体が、複数の経営リスクを内包しているという点です。問題が表面化してから対応しようとすると、想像以上に修正が難しくなります。
最大のリスクは、業務の実態が見えなくなることです。誰と、どの程度連携し、どのように時間を使って仕事をしているのか。日常的に目が届かない環境では、業務内容がブラックボックス化しやすくなります。これは、サボりやミス、不適切な業務処理が起きやすい土壌を作ります。
また、1人勤務は、業務上の判断をすべて本人任せにする構造でもあります。軽微な判断の積み重ねが、会社にとって重大な損失につながることもありますが、その兆候を早期に把握することが困難になります。
さらに、残業管理や労働時間管理の面でもリスクが高まります。実際には業務量が少ないにもかかわらず、無駄な残業が常態化している、あるいは逆に、業務実態が分からないために残業代請求に反論できないといった問題が起きやすくなります。
会社経営者として注意すべきなのは、「今は特に問題が起きていない」という理由で、この体制を正当化してしまうことです。1人勤務のリスクは、静かに蓄積し、ある日突然、労務トラブルや金銭トラブルとして顕在化します。
離れた事務所での1人勤務は、単なる人員配置の問題ではありません。マネジメント、労務管理、内部統制の観点から見れば、極めて不安定な体制です。この前提を理解しないまま運用を続けることは、会社経営者にとって大きな賭けになります。
2. なぜ「1人事務所」は問題社員を生みやすいのか
離れた事務所での1人勤務が長期化すると、特定の社員が「問題社員化」してしまうケースは決して珍しくありません。ここで重要なのは、最初から問題のある社員だったとは限らないという点です。1人事務所という環境そのものが、問題を生みやすい構造を持っています。
最大の要因は、日常的なチェックとフィードバックが機能しなくなることです。複数人で働いていれば、仕事の進め方や時間の使い方は自然と周囲の目にさらされます。しかし、1人事務所では、その「当たり前の緊張感」が失われやすくなります。
また、業務の優先順位や判断基準が、徐々に本人基準に置き換わっていく点も見逃せません。本来であれば、上司や同僚とすり合わせるべき判断が、すべて自己完結で行われるようになると、「会社の基準」と「本人の感覚」にズレが生じます。このズレは、最初は小さくても、時間とともに拡大します。
さらに、1人事務所では、ミスや非効率なやり方が修正されにくくなります。誰からも指摘されないまま仕事を続けることで、誤った方法が「この事務所のやり方」として定着してしまうのです。後から是正しようとしても、本人にとっては「今さら何を言われても」という反発が生じやすくなります。
会社経営者として注意すべきなのは、この状態が続くと、本人に「自分は特別扱いされている」「ここは自分の城だ」という意識が芽生えやすくなることです。すると、指示への反発、報告義務の軽視、無駄な残業の常態化といった問題が表面化しやすくなります。
一方で、1人事務所は、本人が孤立しやすい環境でもあります。誰にも相談できず、判断を抱え込んだ結果、精神的な負担が蓄積し、欠勤やパフォーマンス低下につながるケースもあります。この場合、問題は「怠慢」ではなく、環境によって引き起こされたものと言えることもあります。
つまり、1人事務所は、サボりを助長する環境にも、逆に無理をさせてしまう環境にもなり得ます。いずれの場合でも、問題が表に出てくる頃には、すでに修正が難しい段階に入っていることが少なくありません。
3. サボり・ミス・無駄な残業が同時に起きる構造
1人事務所で問題が顕在化する際、会社経営者が首をかしげるのが、「サボっているように見えるのに、なぜかミスも多く、しかも残業時間は減らない」という現象です。一見すると矛盾しているようですが、実はこの三つは同時に起きやすい構造を持っています。
最大の原因は、業務の進め方が本人任せになっていることです。誰からもチェックされない環境では、仕事の優先順位付けや時間配分が、徐々に甘くなっていきます。集中すべき業務が後回しにされ、効率の悪い作業や不要な手間が増えていきます。
その結果、日中の時間が十分に活用されず、業務が終わらないまま残業に突入します。外から見れば「長時間働いている」ように見えますが、実際には非効率な作業の積み重ねによる残業であるケースが少なくありません。
同時に、ミスも増えやすくなります。1人事務所では、ダブルチェックや相談の機会がほとんどありません。本来であれば早い段階で修正できたはずの小さなミスが、そのまま放置され、後になって大きなトラブルとして発覚することがあります。
さらに厄介なのは、本人が「忙しい」「残業している」という自覚を強めていく点です。会社側から見ると業務量は多くないにもかかわらず、本人は「これだけやっているのに評価されない」「なぜ残業を疑われるのか」と不満を募らせやすくなります。
この状態が続くと、会社経営者が注意や指導を行っても、「ちゃんとやっている」「忙しくて仕方がない」と反発されることになります。問題は能力や意欲だけでなく、業務構造そのものにあるにもかかわらず、議論が噛み合わなくなっていきます。
4. 他の社員が不満を抱き始めたときに見逃してはいけない兆候
1人事務所の問題が本格的な経営問題に発展する一つの分岐点が、「他の社員から不満が出始めたとき」です。この兆候を見逃すと、問題は一気に深刻化します。
典型的なのは、「あの事務所だけ残業が多いのはおかしい」「仕事量が少ないはずなのに、なぜあの人だけ忙しいのか」といった声です。こうした不満は、単なる陰口ではなく、業務運営や労務管理に対する疑問の表れです。
また、「ミスの後処理をこちらがやらされている」「現地で判断せず、後からこちらに丸投げしてくる」といった具体的な不満が出てきた場合には、すでに業務に実害が生じている可能性があります。この段階では、問題は1人事務所だけにとどまらず、組織全体に影響を及ぼし始めています。
会社経営者として特に注意すべきなのは、他の社員が「不公平感」を強めている兆候です。残業代、評価、負担の偏りに対する不満が蓄積すると、「真面目にやるのが損だ」という空気が広がり、組織全体の士気が低下します。これは、数字には表れにくいものの、極めて大きな経営リスクです。
5. 「もう1人入れれば解決する」という発想の落とし穴
1人事務所で問題が顕在化すると、会社経営者が真っ先に思い浮かべる対策が、「もう1人入れれば状況は改善するのではないか」という発想です。確かに、人が増えれば業務負担は分散され、チェック体制も強化されるように見えます。
しかし、この判断には大きな落とし穴があります。問題の本質が「人手不足」ではなく、「マネジメント不在」や「業務構造の歪み」にある場合、人を増やしても根本的な解決にはなりません。むしろ、問題を拡大させる結果になることすらあります。
典型的なのは、問題を起こしている社員の業務の進め方や時間管理が改善されないまま、新たな社員が配置されるケースです。この場合、新人は適切な指示やフォローを受けられず、非効率なやり方をそのまま引き継いでしまいます。結果として、「2人分の問題」が生まれることになります。
また、もう1人入れることで、問題社員が「自分は管理する立場になった」「現地責任者だ」という誤った認識を持つリスクもあります。会社として明確な役割整理や指揮命令系統を示さなければ、かえって統制が取れなくなります。
6. 弱い社員を配置してはいけない理由
1人事務所の人選を考える際、「この社員なら問題を起こさなさそうだ」「大人しく、言うことを聞いてくれそうだ」という理由で配置を決めてしまうケースがあります。しかし、この判断は、長期的に見ると非常に危険です。
ここで言う「弱い社員」とは、能力が低いという意味ではありません。判断力や自己管理能力が十分でない、指示待ち傾向が強い、困ったときに相談できない、あるいはストレスを抱え込みやすいといった特性を持つ社員を指します。
1人事務所では、日常的な指示や確認がありません。業務の優先順位付け、時間管理、トラブル対応など、すべてを本人が判断しなければなりません。この環境で、判断に迷いやすい社員を配置すると、問題はほぼ確実に表面化します。
さらに深刻なのは、精神的な負担の問題です。弱い社員を1人事務所に置くと、孤立感や不安が強まり、体調不良や欠勤につながるケースがあります。この場合、問題は本人の資質ではなく、配置そのものが不適切だったと評価される可能性があります。
7. マネジメントできる人物のそばで働かせるという原則
1人事務所の問題を整理していくと、最終的に行き着く結論は非常にシンプルです。それは、「マネジメントできない環境に社員を置かない」という原則です。特に問題が生じている社員については、この原則を外してはいけません。
マネジメントとは、単に指示を出すことではありません。日常的な報告を受け、業務の進め方を確認し、ズレがあればその場で修正する。この積み重ねがあって初めて、業務の質と時間管理は安定します。
会社経営者として意識すべきなのは、「性善説で回る組織」を前提にしないことです。どれほど真面目な社員であっても、管理の目がなければ、判断基準や行動は徐々に自己流になります。これは人格の問題ではなく、環境の問題です。
そのため、問題が生じている社員については、マネジメントできる人物のそばで働かせることが原則となります。上司や責任者が近くにいる環境で、日常的に進捗や時間の使い方を確認できる状態を作ることが、最も現実的な改善策です。
8. 問題社員を異動させる場合の実務上の注意点
1人事務所の問題に対する対応として、社員の異動を検討することは、決して珍しい判断ではありません。しかし、問題社員を異動させる場面では、そのやり方次第で、問題を解決するどころか、新たなトラブルを招くことがあります。
まず理解しておくべきなのは、異動は「問題を処理するための制裁」ではないという点です。異動はあくまで人事権に基づく経営判断であり、業務改善や組織運営上の必要性が前提になります。この位置付けを誤ると、本人の反発や法的リスクが一気に高まります。
また、異動先の環境も重要です。問題が生じた社員を、再び管理の目が届かない環境に配置してしまえば、同じ問題が繰り返される可能性が高くなります。異動は、「どこへ移すか」まで含めて初めて意味を持つ判断です。
さらに、異動の伝え方も極めて重要です。本人に対しては、「処分」や「左遷」と受け取られないよう、業務改善と管理体制の見直しという観点から説明する必要があります。説明が不十分だと、「不当な扱いを受けた」という不満が蓄積し、後の紛争につながります。
9. 管理職や経営者が現地に出向くという選択肢
1人事務所の問題が顕在化したとき、「異動させるか」「人を増やすか」という発想に偏りがちですが、もう一つ重要な選択肢があります。それが、管理職や会社経営者自身が、一定期間、現地に出向くという判断です。
一見すると非効率に思えるかもしれませんが、現地に足を運ぶことでしか見えない問題は確実に存在します。業務の進め方、時間の使い方、判断の癖、事務所の空気感などは、報告書やオンライン会議だけでは把握できません。
管理職や経営者が現地に出向くこと自体が、強いメッセージになります。「この事務所は放置されていない」「業務のやり方を会社として見直す」という姿勢を示すことで、本人の意識が大きく変わるケースも少なくありません。
10. 無駄な残業だけを止めようとする発想が危険な理由
1人事務所の問題が表面化したとき、会社経営者が最後に辿り着きがちなのが、「とにかく残業だけ減らそう」という対応です。確かに、無駄な残業は越正すべき問題ですが、残業時間だけに焦点を当てた対応は、かえってリスクを高めることがあります。
なぜなら、無駄な残業は原因ではなく結果であることが多いからです。業務の進め方、判断の遅れ、管理の不在といった構造的な問題が解消されないまま、「残業するな」「早く帰れ」と指示しても、仕事そのものは減りません。その結果、業務の質が下がり、ミスやトラブルが増える可能性があります。
会社経営者として重要なのは、「残業時間を減らすこと」を目的にしないことです。目的は、業務を適正に管理し、会社として説明可能な働き方を実現することにあります。その結果として、無駄な残業が減るのであって、順序を誤ってはいけません。
1人事務所の問題は、残業の問題に見えて、実は配置、マネジメント、管理体制の問題です。表面的な数字だけを是正しようとするのではなく、構造そのものを見直すこと。それが、会社経営者に求められる本質的な判断です。

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日:2026年3月1日
