退職後の競業行為が不法行為と判断される場合のポイントを教えてください。
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退職後の競業は原則自由。就業規則等があれば別 従業員の退職後の競業は、原則として自由と考えられています。退職後の競業避止義務が認められる場合として、まず、就業規則の規定や個別の合意があり、これらが有効な場合が考えられます。 |
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自由競争の範囲を逸脱した顧客奪取は不法行為になり得る 規定や合意がなくても、元従業員の競業行為が社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法な態様で顧客を奪取したとみられる場合は、不法行為を構成することがあります(三佳テック事件、最高裁一小平成22年3月25日判決)。 |
目次
809の記事で解説した在職中の競業避止義務とは異なり、退職後の競業行為は、原則として労働者の自由に委ねられています。もっとも、一定の条件のもとでは、就業規則や個別合意による制限、あるいは不法行為としての責任追及が可能になります。
会社側専門の弁護士の立場から、退職後の競業行為が不法行為と判断される場合のポイントを解説します。
01退職後の競業は原則自由
従業員の退職後の競業は、原則として自由と考えられています。労働契約が終了すれば、労働者は職業選択の自由を回復し、退職前の勤務先と競合する事業を行うことも、法的には原則として問題ありません。
02就業規則・個別合意による競業避止義務
退職後の競業避止義務が認められる場合としては、まず、就業規則の規定や個別の合意があり、これらが有効な場合が考えられます。就業規則は、在職中の従業員の労働条件を規律するものであり退職後は適用することはできないのではないかという意見もありますが、裁判例は、適用を肯定しています。
03規定がなくても不法行為となる場合(三佳テック事件)
退職後の競業避止義務が就業規則の規定や個別合意から認められない場合でも、職業選択の自由や自由競争の原理を逸脱する競業が行われたときは、不法行為が成立する余地があると考えられます。裁判所は、三佳テック事件(最高裁一小平成22年3月25日判決)において、「雇用契約終了後は、当然に競業避止義務を負うものではないが、元従業員の競業行為が、社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法な態様で雇用者の顧客を奪取したとみられるような場合等は、不法行為を構成することがあるというべきである」と述べています。
この判例では、実際には、退職従業員が営業秘密を用いたり、会社の信用をおとしめるなどの不当な方法で営業活動を行ったとは認められないとして、結論として不法行為の成立は否定されました。単に取引先の営業担当であった人的関係を利用して受注を得た程度では、自由競争の範囲を逸脱したとまではいえないと判断されたためです。この結論は、退職後の競業について、不法行為が成立するのは、営業秘密の利用や信用毀損といった、よほど悪質な行為態様がある場合に限られることを示しています。
04規定・合意の有効性を判断する要素
退職後の競業避止義務に関する就業規則の規定や個別の合意の有効性を判断する要素は、次のとおりです。
- 守るべき企業の利益があるかどうか
- 従業員の地位
- 地域的な限定があるか
- 競業避止義務の存続期間
- 禁止されている行為の範囲に必要な制限がかけられているか
これらの要素を総合的に考慮し、労働者の職業選択の自由を過度に制約するものでないかが審査されます。制限が広範すぎたり、代償措置がなかったりする場合には、規定・合意自体が無効と判断されるリスクがあります。
05会社側が押さえておくべき視点
会社側が退職後の競業避止義務を実効的なものにするためには、単に「退職後2年間は同業に就職してはならない」といった漠然とした規定を置くだけでは不十分です。守るべき企業の利益(技術情報、顧客情報等)を明確にし、対象となる従業員の地位や、地域・期間の限定を合理的な範囲にとどめ、可能であれば代償措置(退職金の上乗せ等)を設けることが、規定の有効性を高めるうえで重要です。
規定や合意がない場合でも、元従業員の競業行為が、営業秘密の利用や信用毀損など、明らかに自由競争の範囲を逸脱した悪質なものであれば、不法行為として責任追及できる可能性があります。もっとも、三佳テック事件が示すとおり、単なる人的関係の利用にとどまる場合は、不法行為の成立は容易には認められないことを理解しておく必要があります。
06よくある質問(FAQ)
Q. 退職後の競業避止義務の規定が就業規則にあれば、退職者にも適用されますか。
適用が肯定されるのが裁判例の傾向です。もっとも、企業の利益、従業員の地位、地域的限定、存続期間、行為範囲の制限等の要素から、規定内容自体の有効性が審査されます。
Q. 就業規則に競業避止義務の規定がなければ、退職者の競業は一切問題にできませんか。
一切問題にできないわけではありません。競業行為が社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法な態様で顧客を奪取したとみられる場合には、不法行為が成立する余地があります(三佳テック事件)。
Q. 退職者が元の取引先に営業をかけただけで、不法行為になりますか。
単に営業担当であった人的関係を利用する程度では、不法行為とは評価されにくいとされています。営業秘密の利用や信用毀損等、悪質な態様が必要です(三佳テック事件)。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。競業避止義務規定の整備でお困りでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日:2026年7月13日