定年退職後に再雇用した従業員について、再雇用前の勤続年数を有給休暇の付与日数計算に通算すべきかどうかは、多くの会社が直面する労務管理上の問題です。通算を要するかどうかによって、入社初年度から最大20日の有給休暇を付与しなければならないケースもあり、会社のコスト負担に直接影響します。

年次有給休暇の付与日数は労働基準法第39条に定められており、「継続勤務年数」に応じて段階的に増加します。定年退職後に再雇用した場合、退職前の勤務期間が「継続勤務」として評価されるかどうかは、単に雇用契約の形式だけでなく、実態に即した判断が必要です。行政通達や裁判例の蓄積により、通算が必要となる場合と不要となる場合の基準はある程度明確になっています。

本記事では、使用者側・会社側の立場から、定年後再雇用における有給休暇の勤続年数通算の要否、継続勤務と評価される基準、再雇用時の有休残日数の取扱い、そして実務上の管理方法について解説します。

01年次有給休暇の付与要件と勤続年数の考え方

労働基準法第39条は、使用者は、採用の日から起算して6か月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、10日の年次有給休暇を与えなければならないと規定しています。その後、継続勤務年数が増えるにつれて付与日数が増加し、6年6か月以上で年間20日が上限となります。

ここでいう「継続勤務」とは、同一の使用者との勤務関係が継続していることを指しますが、その判断にあたっては雇用契約の形式的な継続・途絶ではなく、勤務の実態を重視することが行政解釈上確立されています(昭和63年3月14日基発第150号)。したがって、定年退職という雇用契約の一応の終了があったとしても、その実態が継続勤務と評価されれば、勤続年数は通算されます。

通算が必要かどうかは、①退職から再雇用までの期間の長短、②業務内容・労働条件の連続性、③退職と再雇用が慣行化・制度化されているかどうか、などの要素を総合的に考慮して判断されます。

02定年退職後の再雇用で勤続年数が通算されるケース

行政通達(昭和63年基発第150号、平成6年基発第1号等)は、定年退職後に引き続き再雇用された場合には、原則として継続勤務として取り扱うべきであるとしています。「引き続き」とは、退職と再雇用の間に社会通念上相当程度の期間が生じていないことを意味し、定年翌日または数日以内に再雇用する場合がこれにあたります。

また、高年齢者雇用安定法の改正に伴い、65歳までの雇用確保措置として継続雇用制度を導入している企業では、制度として定年後の再雇用が予定されています。このような場合には、退職と再雇用が実質的に連続した一つの雇用関係の継続と評価され、有給休暇の付与日数計算上も勤続年数を通算しなければなりません。

具体的には、定年が60歳であり、60歳の誕生日翌日から嘱託社員として継続雇用する制度を採用している場合、再雇用後も退職前の勤続年数を引き継いで有給休暇を付与する必要があります。この場合、再雇用初年度から最大20日の有給休暇を付与しなければならない可能性があります。

03再雇用時の有休残日数の取扱い

定年退職時に未消化の有給休暇が残っていた場合、その残日数を再雇用後に引き継ぐかどうかは、勤続年数の通算とは別に検討が必要です。

まず、定年退職により雇用契約は一度終了しますので、退職時点で消滅した有給休暇残日数を再雇用後に引き継ぐ法律上の義務はありません。再雇用後は、通算された勤続年数に基づく付与日数の有給休暇を新たに付与することになります。ただし、就業規則や再雇用契約において残日数を引き継ぐと定めている場合は、その定めに従う必要があります。

一方、年5日の時季指定義務(労働基準法第39条第7項)との関係では、再雇用後の付与日数が10日以上となる場合に義務が生じます。勤続年数が通算される場合、再雇用初年度から付与日数が多くなるため、時季指定義務の管理も再雇用開始時点からきちんと行う必要があります。管理が漏れた場合、会社は30万円以下の罰金の対象となる可能性があります(労働基準法第120条)。

04再雇用制度と有給休暇管理の実務対応

定年後再雇用制度を運用する会社は、有給休暇の管理について以下の点を確認・整備することが重要です。

第一に、就業規則および再雇用契約書において、勤続年数の通算に関する定めを明確にしておくことが必要です。法律上通算が義務付けられる場合でも、規定上の明確化によって労使間の認識の齟齬を防ぎます。

第二に、再雇用開始時に付与する有給休暇日数を正確に計算し、有給休暇管理台帳に記録します。勤続年数が通算される場合、入社後1年目から最大20日の有給休暇が付与される可能性があるため、他の従業員と同じ基準で管理を行う必要があります。

第三に、年5日の時季指定義務の管理を再雇用開始日から行います。付与基準日と管理期間を明確にし、対象従業員に対して計画的に有給休暇を取得させる仕組みを整備します。

第四に、嘱託社員・契約社員として週所定労働日数が変わる場合は、比例付与の規定(労働基準法第39条第3項)に基づき付与日数を計算します。週5日未満のパートタイムとして再雇用する場合は、所定労働日数に応じた比例付与日数が適用されます。ただし、勤続年数の通算は比例付与の場合にも同様に必要です。

執筆者
藤田 進太郎
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士

使用者側・会社側専門の労働問題弁護士として、定年後再雇用制度の設計・有給休暇管理・労働トラブル対応まで、企業の労務問題を幅広くサポートしています。労働審判・訴訟対応の実績も豊富です。

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05よくある質問

Q1. 定年退職後すぐに再雇用した場合、有給休暇の勤続年数は必ず通算しなければなりませんか?

はい、定年退職後に引き続き(翌日または数日以内に)再雇用した場合は、原則として継続勤務として扱い、勤続年数を通算した上で有給休暇を付与しなければなりません。行政通達および裁判例でも、このような場合は継続勤務と評価されています。

Q2. 再雇用時に雇用形態がパートタイムに変わった場合も通算が必要ですか?

はい、雇用形態がパートタイムに変わっても、勤続年数の通算義務はなくなりません。ただし、週所定労働日数が4日以下かつ週所定労働時間が30時間未満の場合は、比例付与の規定が適用され、付与日数は所定労働日数に応じた日数となります。この場合も、通算された勤続年数に基づいて比例付与日数を計算します。

Q3. 定年退職時の有給休暇残日数を再雇用後に引き継ぐ義務はありますか?

法律上の義務はありません。定年退職により雇用契約は一度終了し、退職時点で未消化の有給休暇は消滅します。再雇用後は、通算された勤続年数に基づく付与日数の有給休暇を新たに付与することになります。ただし、就業規則や再雇用契約で引き継ぐ旨を定めている場合は、その定めに従う必要があります。

Q4. 定年後再雇用で年5日の有給休暇取得義務はどう管理すればよいですか?

再雇用後の付与日数が10日以上となる場合、年5日の時季指定義務が生じます。勤続年数が通算される場合、再雇用初年度から付与日数が多くなるため、再雇用開始日から管理を開始します。有給休暇管理台帳を整備し、計画的に取得させる仕組みを設けることが重要です。違反した場合、会社は30万円以下の罰金の対象となる可能性があります。

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最終更新日:2026年5月10日

弁護士 藤田 進太郎

監修者弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年5月10日