合意退職と辞職の違い・退職届の撤回可否【会社側弁護士が解説】
「退職届を出したが撤回できるか」「合意退職と辞職は何が違うのか」——こうした疑問は、退職をめぐるトラブルの場面で会社経営者・人事担当者が必ず直面するものです。退職の法的性質が「合意退職」か「辞職」かによって、撤回の可否や会社の対応が大きく異なります。
辞職とは、労働者の一方的な意思表示によって労働契約を終了させる行為であり、会社の承諾を必要としません。これに対し、合意退職とは、会社と労働者の合意によって労働契約を終了させるものです。退職届の法的性質がどちらに当たるかは、退職届の文言・提出の経緯・会社の承諾の有無などから判断されます。
本記事では、会社側専門弁護士の視点から、合意退職と辞職の違い・退職届の撤回可否の判断基準・退職に関するトラブルを防ぐための実務対応を解説します。
01合意退職と辞職の違い
辞職は、労働者が一方的に「退職します」という意思表示をすることで、会社の承諾がなくても労働契約終了の効果が生じます(民法上は雇用期間の定めがない場合、申告から2週間後に効力が発生します)。辞職の意思表示が相手方(会社)に到達した後は、原則として一方的に撤回することはできません。
合意退職は、会社と労働者が話し合い、双方が合意することで労働契約を終了させるものです。「退職願」という形式で提出された場合、通常は会社への「申込み」であり、会社が「承諾」するまでは撤回が可能と解されることが多いです。会社の承諾があって初めて労働契約が終了します。
実務上は、退職届や退職願の文言が「退職します」なのか「退職を申し出ます・お願いします」なのかで性質が異なってきます。前者は辞職(意思表示の到達で効力発生)、後者は合意退職の申込みと解される傾向があります。会社経営者としては、退職届・退職願の書式を整備し、退職の性質を明確にしておくことが重要です。
02退職届の撤回可否の判断基準
退職届の撤回が認められるかどうかは、退職届の法的性質と撤回の申出時期によって判断されます。辞職の意思表示として提出された退職届は、会社への到達後は原則として撤回できません。ただし、錯誤・強迫・詐欺によって意思表示がなされた場合は取消しが認められる場合があります。
合意退職の申込みとして提出された退職願は、会社が承諾するまでの間は撤回が可能です。会社が承諾した後は撤回できません。問題となるのは、退職届・退職願が「辞職」か「合意退職の申込み」かの区別が曖昧な場合です。裁判例では、「退職届」という形式でも、提出の事情や文言から合意退職の申込みと解されたケースがあります。
会社経営者としては、退職届を受理した後は速やかに承諾の意思表示(書面による承認通知など)を行い、法的効果を確定させることで、後日の撤回主張を防ぐことができます。
03退職勧奨と退職の関係——自由な意思の確保
退職勧奨は適法な行為ですが、退職勧奨を受けた労働者が提出した退職届の有効性が後に争われるケースがあります。特に問題となるのは、強要に近い態様(長時間・連日の面談強要、「退職か解雇か選べ」といった圧力等)で退職勧奨がなされた場合です。このような場合、退職の意思表示が強迫に基づくものとして取消しが認められたり、会社の損害賠償責任が認められたりするリスクがあります。
適切な退職勧奨を行うためには、面談回数・時間を適切に設定し、退職を強制するような言動を避け、労働者が自由な意思で判断できる環境を確保することが重要です。また、退職届の提出後に熟慮期間を設けることも、後日の撤回・取消主張を防ぐ上で有効です。
04退職に関するトラブルを防ぐための実務対応
退職に関するトラブルを防ぐためには、まず退職の手続を就業規則で明確に定めることが重要です。退職の申出期限・退職届の提出方法・会社の承認手続などを就業規則に明記し、従業員に周知しておくことが基本です。
退職届を受領した際は、その内容を確認し、速やかに会社としての承認意思を書面で通知することが望ましいといえます。これにより、合意退職の成立時点が明確となり、後日の撤回主張を防ぐことができます。また、退職勧奨を行う場合は、面談内容を記録に残し、適切な態様で行ったことを証明できるよう準備しておくことが重要です。
退職に関するトラブルが生じた場合や、退職届の撤回主張があった場合は、早期に会社側専門弁護士に相談されることをお勧めします。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長、最高裁行政との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議委員、第112回経団連労働フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員。2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。退職届の撤回・合意退職のトラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所法務相談室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
05よくある質問(FAQ)
Q1. 退職届を提出した翌日に「やはり退職しない」と言ってきた場合、撤回を認める必要がありますか?
退職届の法的性質によって異なります。辞職として提出された退職届の場合は、会社への到達後は撤回できないのが原則です。合意退職の申込みとして提出された退職願の場合は、会社が承諾するまでの間は撤回可能です。速やかに承諾の意思を書面で伝えることで、撤回主張を防ぐことが重要です。
Q2. 退職勧奨の後に提出された退職届は、強迫を理由に取消しが認められる可能性がありますか?
退職勧奨が通常の範囲を超えた強圧的・長時間・繰り返しの態様で行われ、労働者が自由な意思で退職を決断できなかった状況であれば、強迫による意思表示として取消しが認められる可能性があります。退職勧奨は適切な方法で行い、面談記録を残しておくことが重要です。
Q3. 退職届を受理する前に「考え直したい」と言われた場合、どう対応すればよいですか?
退職願が合意退職の申込みとして提出されたものであれば、会社の承諾前であれば撤回は可能です。会社としては、撤回を認めるかどうかは任意ですが、退職の意思が真意かどうかを確認し、適切に対応することが重要です。撤回を認める場合は書面で確認しておくことをお勧めします。
Q4. 退職届の書式で「辞職届」と「退職願」はどちらを使うべきですか?
会社側の立場からは、退職の意思を明確にする観点から「退職届」(辞職として扱う)の書式を用意することが多いです。ただし、退職勧奨による退職の場合は「退職合意書」などの書面で合意退職を明確にする形式が適切な場合もあります。書式の整備・使用方法については、会社側専門弁護士に相談することをお勧めします。
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最終更新日:2026年5月10日