厚生労働省が定める労働時間適正把握基準とサービス残業対策【会社側弁護士が解説】
サービス残業(賃金不払い時間外労働)は、使用者の労働時間管理が不十分なことで生じるリスクがあります。厚生労働省は平成13年4月に「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」を策定し、使用者に対して具体的な労働時間管理の方法を示しました。本記事では会社側弁護士が、この基準の内容と実務上の対応を解説します。
目次
01サービス残業とは
サービス残業とは、時間外労働(法内残業を含む)を行っているにもかかわらず、それを労働時間として取り扱わず、その結果として賃金(割増賃金)が支払われていない状態をいいます。
会社経営者にとってサービス残業は重大なリスクをはらんでいます。賃金不払いは労働基準法第24条(賃金の全額払い)・第37条(割増賃金)の違反となり、労働基準監督署による調査・是正勧告・場合によっては司法処分の対象となり得ます。また、退職後に労働者から過去2〜3年分の残業代を請求されるリスクも生じます。
0236協定と時間外労働の関係
サービス残業の類型としては、以下のようなものがあります。
- 36協定の締結・届出をしていないにもかかわらず時間外労働を行わせているケース
- 36協定を締結・届出しているが、その協定に定める時間を超えた時間外労働を行っているケース
- 労働時間の管理を全くしていないケース
いずれの場合も、実際に時間外労働が行われていれば割増賃金の支払い義務が生じます。36協定を締結していないことは刑事罰の対象となりますが、それとは別に、時間外労働をさせた事実がある以上は割増賃金の支払いは免れません。
03近年のサービス残業の実態
近年のサービス残業は、従来の「タイムカードを打刻した後にさらに残業させる」といった典型的な形態のほかに、より巧妙な形態も見られます。
- 名ばかり管理職問題:本来は管理監督者ではない労働者を「管理監督者」として扱い、残業代を支払わないケース(労基法第41条第2号の管理監督者の要件を満たさない)
- みなし残業(定額残業代)の過少設定:実際の残業時間に対して定額残業代が不足しているにもかかわらず、追加支払いを行わないケース
- テレワーク・在宅勤務の管理不全:在宅勤務中の時間外労働が把握されないケース
04労働時間適正把握基準の策定(平成13年)
平成13年4月、厚生労働省は「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」を策定し、使用者が労働者の労働時間を正確に把握するために取るべき措置を具体的に示しました(平成13年4月6日基発339号通達)。
この基準は後に「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日)として更新・発展的に引き継がれており、現在に至るまで労働時間管理の実務上の基準として機能しています。
05労働時間の把握方法の3原則
上記基準では、使用者が労働者の労働時間を適正に把握するために、次の3原則を示しています。
① 始業・終業時刻の確認と記録
使用者は労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、記録すること。
② 確認・記録の方法
確認・記録の方法は原則として以下のいずれかによること。
- 使用者が自ら現認することにより確認し記録すること
- タイムカード・ICカード等の客観的な記録により確認し記録すること
③ 自己申告制の場合の留意事項
やむを得ず自己申告制を採用する場合には、以下の措置を講じること。
- 労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うよう十分な説明をすること
- 自己申告の労働時間と実際の労働時間が合致しているかどうか、必要に応じて実態調査を行うこと
- 労働者の労働時間の適正な申告を阻害する目的で、時間外労働時間数の上限を設定するなどしないこと
06会社側の実務的対応と整備事項
サービス残業を防止し、適正な労働時間管理を実現するために、会社として以下の整備が推奨されます。
- 客観的な労働時間管理の導入:タイムカード・ICカード・PC起動・シャットダウン記録等の客観的な方法で始業・終業時刻を記録する
- 管理者による把握体制の整備:上司が部下の残業状況を日常的に把握し、異常な長時間労働の兆候を早期に検知できる体制を作る
- 残業申請・許可制度の導入:残業は事前申請・上司の許可を要件とする制度を設け、無承認残業の発生を防ぐ
- テレワーク時の労働時間管理:在宅・テレワーク勤務中も、PC記録・業務日報等を活用し、実際の労働時間を把握する
- 就業規則・36協定の整備:時間外労働のルールを就業規則に明記し、36協定を適正に締結・届出する
- 専門家への相談:労働時間管理の改善・残業代問題への対応は、早期に弁護士・社会保険労務士にご相談ください
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。サービス残業・残業代問題でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
07よくある質問(FAQ)
Q. 残業代の消滅時効は何年ですか?
A. 2020年4月1日以降に発生した賃金(残業代を含む)の消滅時効は3年です(労基法第115条)。それ以前は2年でした。なお、当面の間は3年(労基法の経過措置として5年に延長される可能性あり)とされており、会社としては長期間の記録保存が重要です。
Q. 労働時間管理ができていない場合、会社はどのようなリスクを負いますか?
A. 主なリスクとして、①労働者からの未払い残業代請求(過去2〜3年分)、②労働基準監督署による調査・是正勧告、③刑事罰(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)、④過重労働による健康被害が生じた場合の安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求、などが挙げられます。
Q. テレワーク中の労働時間はどのように把握すればよいですか?
A. PC起動・シャットダウン時刻、業務日報、勤怠管理システムへの入力等を活用して始業・終業時刻を記録します。テレワーク時も事業場勤務時と同様に、客観的な記録による労働時間管理が求められます(テレワークガイドライン参照)。
Q. 労働時間適正把握ガイドラインは法律上の義務ですか?
A. ガイドラインそのものは法律ではありませんが、使用者が労働時間を適正に把握する義務(労基法第108条の賃金台帳、第109条の記録保存義務等)は法律上の義務です。ガイドラインはその具体的な実施方法を示したものであり、これに沿った対応が強く推奨されます。
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最終更新日:2026年5月