この記事の結論
1

労働委員会は集団的労使紛争・不当労働行為を扱う

労働委員会は、労働組合と会社の間の集団的労使関係を扱う行政委員会です。不当労働行為の審査・救済命令や、労働争議の調整を行います。労働組合が関与する紛争で関わる可能性があります。

2

労働局は個別労働紛争を扱い、相談・助言指導・あっせんを行う

都道府県労働局は、解雇・賃金・ハラスメント等の個別労働紛争を中心に、総合労働相談・助言指導・あっせんを通じて話合いによる解決を促します。裁判の前段階の手続です。

3

機関の関与=会社が不利な判断を受けたわけではない

これらの機関が関与しても、直ちに会社が不利な判断を受けるわけではありません。多くは話合い・調整による解決を目的としています。過度に恐れず、しかし軽視せず、冷静に対応することが重要です。

01行政による紛争解決機関を知っておくべき理由

 労働トラブルが発生した場合、「裁判になるのではないか」「すぐに弁護士対応が必要なのではないか」と身構える会社経営者も少なくありません。しかし、実務上、労働紛争のすべてが最初から裁判に進むわけではありません。

 実際には、裁判に至る前段階として、行政による紛争解決機関が関与するケースが多く存在します。社員や労働組合が、まずこれらの機関に相談や申立てを行い、そこから会社側に連絡が入るという流れは、決して珍しいものではありません。

 会社経営者として重要なのは、「どのような機関があり、何を扱っているのか」をあらかじめ把握しておくことです。仕組みを知らないまま対応してしまうと、「なぜこの機関から連絡が来たのか分からない」「どこまで応じる必要があるのか判断できない」といった不安や混乱が生じやすくなります。行政の紛争解決機関は、裁判とは異なり、話合いや調整を通じて解決を図ることを目的としているものが多く、必ずしも会社に不利な結論が出るとは限りません。

02労働委員会とは(不当労働行為・集団的労使紛争)

 行政による紛争解決機関の中でも、会社経営者が押さえておくべきなのが労働委員会です。労働委員会は、労働組合と使用者との関係(集団的労使関係)を安定させ、正常化することを主な目的として設置された行政委員会です。公益委員・労働者委員・使用者委員という立場の異なる委員によって構成され、労使双方の主張を踏まえた判断がなされる仕組みになっています。

 労働委員会が中心的に扱うのが、不当労働行為と呼ばれる問題です。不当労働行為とは、労働組合法7条で禁止されている使用者による一定の行為で、具体的には、労働組合に加入したことや組合活動を理由とする不利益取扱い(1号)、正当な理由のない団体交渉の拒否(2号)、組合活動への支配介入(3号)などが典型例です。

労働委員会が扱う主な事項

・不当労働行為の審査と救済命令(労組法7条・27条)
・労働争議(ストライキ等)の調整(あっせん・調停・仲裁)
・労働組合の資格審査
・個別労働紛争のあっせん(都道府県により実施)

 会社経営者として注意すべきなのは、「会社としては通常の人事・労務対応のつもりだった行為」が、労働組合側から不当労働行為として問題視されるケースがある点です。意図的でなくても、対応の仕方次第で労働委員会に申立てがなされる可能性があります。労働組合が存在する会社・合同労組(ユニオン)から団体交渉を申し込まれた会社では、現実に関与する可能性のある機関です。

03個別労働紛争における労働委員会の役割

 労働委員会は集団的労使関係を主な対象とする機関ですが、多くの都道府県の労働委員会では、個別労働紛争(解雇・雇止め・配置転換・労働条件の変更など、個々の社員と会社の間のトラブル)についてもあっせんを行っています。

 個別労働紛争に関しては、労働委員会が積極的に「判断」を下すというよりも、話合いによる解決を促す役割が中心です。裁判のように白黒をつける場ではなく、当事者双方の主張を聞いたうえで調整を図る位置付けです。「労働委員会に呼ばれた=会社が違法なことをした」という意味ではありません。

 一方で、対応を誤ると、個別の解雇や処分をきっかけに労働組合(合同労組等)が関与し、不当労働行為として申立てがなされるなど、集団的な労使紛争に発展する可能性もあります。個別労働紛争であっても、「今後、集団的な問題に発展する可能性はないか」という視点を持つことが重要です。

04労働局による紛争解決制度(相談・助言指導・あっせん)

 労働委員会と並んで会社が関わる可能性が高いのが、都道府県労働局による個別労働紛争解決制度です(個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律)。労働局は、解雇・雇止め・賃金未払い・配置転換・ハラスメントなど、個々の社員と会社の間のトラブルを中心に、比較的早い段階で関与します。社員が最初の相談先として利用するケースも多く見られます。

 この制度は、次の3段階で構成されています。

労働局による個別労働紛争解決制度の3段階

① 総合労働相談
社員が気軽に利用できる相談窓口。この段階では会社に直接連絡が入らないことも多く、労働局が事実関係を整理し、制度の説明や一般的な助言を行うにとどまる。

② 都道府県労働局長による助言・指導
当事者双方に対し、問題点を整理したうえで一定の助言・指導を行う。強制力のある判断が示されるわけではなく、自主的な解決を促すことが目的。

③ 紛争調整委員会によるあっせん
弁護士等の学識経験者である第三者が間に入り、双方の主張を整理して話合いを促進する。双方が希望すればあっせん案が提示されることもあるが、合意を強制するものではない。

 「労働局から連絡が来た=違法行為が確定した」という理解は誤りです。多くの場合、社員側の相談をきっかけに、状況確認や意見聴取が行われる段階に過ぎません。これらの手続はいずれも「裁判ではない」点が重要であり、法的な白黒をつける場ではなく、話合いによる解決を目指す制度です。ただし、対応を誤ると紛争が長期化したり、労働審判・訴訟といった別の手続に発展したりする可能性がある点には注意が必要です。

05弁護士会の仲裁センターという選択肢

 行政による紛争解決機関とは別に、会社経営者が知っておくべき選択肢として、弁護士会の仲裁センター(紛争解決センター・あっせん仲裁センター等、名称は弁護士会により異なります)があります。これは裁判外紛争解決手続(ADR)の一つであり、当事者間の話合いだけでは解決が難しい紛争について、第三者を交えて解決を図る制度です。

 仲裁センターの特徴は、裁判とは異なり非公開で手続が進められる点にあります。弁護士などの仲裁人・あっせん人が関与し、当事者双方の主張を整理しながら解決の糸口を探っていきます。比較的迅速かつ柔軟な対応が可能で、感情的な対立を避けながら話を進めやすいというメリットがあります。

 もっとも、仲裁センターは行政機関のように無料で利用できる制度ではなく、一定の費用がかかります。また、利用するかどうかは当事者双方の合意が前提となるため、相手方が応じない場合には利用できません。「労働委員会や労働局だけが選択肢ではない」という点を理解しておくことが重要です。

06どの紛争解決機関を想定すべきか

 労働トラブルが発生した場合、「どの紛争解決機関が、どのような場面で関与してくるのか」をあらかじめ理解しておくことが重要です。各機関の役割と対象を整理すると、次のとおりです。

各紛争解決機関の対象と特徴

労働委員会
労働組合との関係・不当労働行為などの集団的労使紛争が中心(個別紛争のあっせんも実施)。

労働局
解雇・賃金・ハラスメント等の個別労働紛争が中心。相談・助言指導・あっせんを通じて話合いによる解決を促す。

弁護士会の仲裁センター(ADR)
非公開かつ柔軟な解決を目指す選択肢。双方の合意が前提で、費用がかかる。

 これらの機関が関与したからといって、直ちに会社が不利な判断を受けるわけではありません。多くの場合、まずは話合いや調整を通じて紛争の拡大を防ぐことが目的です。過度に恐れる必要はありませんが、軽視してよいものでもありません。「どの機関から、どのような連絡が来たのか」「その手続はどの段階にあるのか」を冷静に見極めたうえで、必要に応じて使用者側弁護士に相談しながら適切に対応することが求められます。

経営上のポイント 労働紛争は、裁判の前段階で行政の紛争解決機関が関与することが多くあります。労働委員会は集団的労使紛争・不当労働行為を、労働局は個別労働紛争を扱い、いずれも話合いによる解決を目指す制度です。弁護士会の仲裁センター(ADR)という選択肢もあります。機関の関与は会社に不利な判断が確定したことを意味しませんが、初期対応を誤ると紛争が長期化するため、どの機関がどの段階で関与しているかを見極め、必要に応じて弁護士に相談することをお勧めします。アドバイスします。
SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 労働局のあっせんに「参加しない」という対応はできますか。

A. 労働局のあっせんは、当事者の任意の手続です。会社があっせんに参加しない(不参加)という対応をとることも可能で、参加を強制されることはありません。ただし、あっせんに参加せずに問題を放置すると、社員が労働審判や訴訟といった次の手続に進むことがあります。あっせんは話合いで早期解決を図れる機会でもありますので、参加・不参加の判断は、紛争の内容・会社の主張の強さ・解決の見通しを踏まえて慎重に行うことをお勧めします。弁護士に相談のうえ判断するとよいでしょう。

Q2. 労働委員会の不当労働行為救済命令に従わない場合、どうなりますか。

A. 労働委員会の救済命令には法的拘束力があり、これに不服がある場合は中央労働委員会への再審査申立てや、裁判所への取消訴訟を提起することができます。確定した救済命令に従わない場合は、過料の制裁の対象となるほか、緊急命令違反の場合は罰則の対象になることもあります。労働局のあっせんとは異なり、労働委員会の不当労働行為救済手続は準司法的な手続ですので、対応には専門的な知識が必要です。申立てを受けた場合は速やかに使用者側弁護士に相談することをお勧めします。

Q3. これらの行政機関と労働審判・訴訟はどのような関係にありますか。

A. 労働局のあっせん・労働委員会の個別紛争あっせんは、いずれも話合いによる解決を目指す任意の手続であり、合意に至らなければ解決しません。これに対して労働審判・訴訟は、裁判所が関与して法的な判断を行う手続です。あっせん等で解決しなかった場合に、社員が労働審判や訴訟を提起するという流れになることが多いです。なお、不当労働行為の救済は労働委員会の専属的な手続です。それぞれの手続の性質・効果が異なりますので、どの段階の手続かを正確に把握して対応することが重要です。

最終更新日:2026年2月25日


Return to Top ▲Return to Top ▲