この記事の結論
1

踏み切るのは、解雇が有効であることを証拠で立証できるようになってから

解雇のタイミングは感情ではなく、証拠に基づく法的評価で判断すべきものです。①事実の書き出し、②証拠の確認、③相当性の確認という3段階チェックを経てから踏み切るのが正攻法です。

2

証拠が揃わない段階での解雇は、高額の和解金や「辞めてもらえない」事態を招く

有効性を証明できる証拠がないまま解雇すると、和解金が高額になりがちです。労働者側が金銭解決を望まない場合には、復職を認めざるを得ないこともあります。できる限り正攻法を選ぶことをお勧めします。

01解雇に踏み切るタイミングの原則

 解雇に踏み切るのは、原則として、解雇が有効であることを証拠により立証できるようになってからです。「感情的にもう限界だ」「いい加減にしてほしい」という気持ちは理解できますが、解雇のタイミングは感情ではなく、証拠に基づく法的評価で判断しなければなりません。感情に任せた解雇は、後で有効性を争われたときに最も脆いものになります。

 以下の3段階チェックを一つずつ確認し、すべてクリアできてから解雇に踏み切ることが、遠回りに見えて最も確実な正攻法です。

02解雇前の3段階チェック

STEP 1:事実の書き出し

 まずは、何月何日にどこでどのようなことがあったのか、解雇に客観的に合理的な理由があるといえる事実を、紙に書き出してみてください。

 紙に書き出した事実だけで、解雇に客観的に合理的な理由があるといえるでしょうか。そう言えるだけの事実を書き出せないようであれば、解雇は時期尚早と考えた方がよいでしょう。

STEP 2:証拠の確認

 次に、書き出した事実を立証するための証拠があるかどうかを確認してください。書面・記録・メール・写真等の客観的証拠があるでしょうか。それとも、一般に証明力が高いとはいえない陳述書や法廷での証言で立証するほかない状態でしょうか。

 証拠の有無や証明力を踏まえて事実認定を想定した場合に、解雇に客観的に合理的な理由があると評価できるだけの事実を証明できないようであれば、やはり解雇は時期尚早と考えられます。

STEP 3:社会通念上の相当性の確認

 解雇に客観的に合理的な理由があることを証明できるだけの証拠が揃っている場合には、最終的な検討に入ります。その解雇が社会通念上相当といえるかどうか、そしてそれを証明するための客観的証拠があるかどうかについても、同様に紙に書き出して確認してみるとよいでしょう。

 解雇が社会通念上相当であることを証明できると判断できた場合に、はじめて解雇の準備が整ったことになります。ここまで確認できて、ようやく解雇に踏み切るタイミングです。

よくある会社経営者の危険な判断

 「もう我慢の限界だ。感情的になってでも今すぐ解雇する」→ 最も危険なパターンです。感情的なタイミングでの解雇は、証拠や手続の確認が不十分なまま踏み切ることが多く、後で解雇無効となるリスクが高まります。

 「証拠は揃っていないが、とりあえず解雇してから後で対応すればいい」→ 後戻りできなくなります。解雇後に証拠を整えようとしても、「後から作った」として信用性を疑われます。証拠は解雇前に揃えることが鉄則です。

03証拠が揃っていない段階での解雇のリスク

高額の和解金と「辞めてもらえない」リスク

 以上が正攻法ですが、解雇の有効性を証明できるだけの証拠が揃っていない時点で解雇に踏み切るケースも、ないわけではありません。しかし、有効性を証明できるだけの証拠が揃っていない以上、和解金の金額は高額になりがちです。さらに、労働者側が金銭による解決を望まない場合には、どれだけ高い金額を提示しても辞めてもらえないこともあります。

 特別な事情がある場合は別として、できる限り正攻法を選択することを、会社の基本方針とされることを強くお勧めします。急がば回れが、結果として最も損失の少ない道になります。

実務でよく見られるパターン

・感情的になった経営者が証拠を確認せずに即解雇した。解雇の有効性を証明する証拠がほとんどなく、高額の和解金を支払うか、職場復帰を認めるかという選択を迫られた。

・解雇を検討した段階で弁護士に相談し、3段階チェックを実施した。証拠が不十分と判断し、注意指導・懲戒処分を数か月間積み重ねた後に解雇したところ、解雇有効とされ、訴訟提起もなかった。

経営上のポイント 解雇に踏み切るのは、解雇が有効であることを証拠により立証できるようになってからが原則です。①解雇に客観的合理的理由があるといえる事実を書き出せるか、②その事実を立証する客観的証拠があるか、③社会通念上の相当性を証明できるか、という3段階チェックを経てから踏み切ることが正攻法です。証拠が揃わない段階での解雇は、高額の和解金や、復職を認めざるを得ない事態を招きます。「今すぐ辞めさせたい」という気持ちのままに動くのではなく、問題社員の解雇のタイミングは会社側専門の弁護士と一緒に見極めることをお勧めします。具体的な事情に応じて、実務で使える方針をアドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年7月1日


Return to Top ▲Return to Top ▲