この記事の要点

事業場外労働のみなし労働時間制の適用要件は2つ——①事業場外での業務従事 ②労働時間を算定し難いこと

両方の要件を満たして初めて、みなし労働時間制の適用が認められます

「事業場外」には自宅も含まれるが、要件②「労働時間を算定し難いとき」に該当するかが実務上の問題になることが多い

特にスマートフォン・携帯電話等で使用者が労働者に常時連絡を取れる場合は、要件②が否定されることがあります

「労働時間を算定し難いとき」の判断は厳格——使用者の指揮命令下にあると評価できる状況では要件を満たさない

労働者が自由に業務の遂行方法や時間配分を決定できる状況であることが必要です

みなし労働時間制の要件を満たさない場合、実際の労働時間で計算した残業代請求を受けるリスがある

「みなし時間制を採用しているから残業代は不要」という運用には大きなリスクがあります

01事業場外労働のみなし労働時間制の概要

 事業場外労働のみなし労働時間制(労基法38条の2)とは、287番で解説したとおり、労働者が事業場外で業務に従事する場合に、実際の労働時間を把握することが困難なときに、所定労働時間または労使協定で定めた時間を労働時間とみなす制度です。

 外回りの営業職・出張業務・取材記者等、労働者が使用者の直接の指示なしに事業場外で業務を行う場合に適用されます。ただし、この制度の適用が認められるためには、以下の2つの要件を満たす必要があります。

02要件①——事業場外で業務に従事した場合

 1つ目の要件は、「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合」であることです。

 「事業場外」とは、使用者が管理する事業場の外を意味し、会社の事業所・工場・店舗等の外での業務がこれに当たります。外回り営業・顧客訪問・出張・在宅勤務(テレワーク)なども事業場外業務に当たり得ます。

「労働時間の全部又は一部」について
「全部」のみならず「一部」が事業場外であれば要件①は満たされます。例えば、午前中は事業場内で業務を行い、午後から事業場外で外回り営業をする場合も、「一部について事業場外で業務に従事」したことになります。ただし、この場合、事業場内での労働時間は通常どおり計算する必要があります。

03要件②——「労働時間を算定し難いとき」

 2つ目の要件は、「労働時間を算定し難いとき」に当たることです。

 「労働時間を算定し難いとき」とは、使用者が労働者の労働時間を把握・管理することが客観的に困難な状況にある場合をいいます。労働者が自由に業務の遂行方法・時間配分を決定できる状況であり、使用者の指揮命令下にあると評価できない状態であることが必要です。

状況 「算定し難い」の判断
訪問先・行動順序・時間配分を自分で決定して外回り営業を行う 算定し難い(要件②充足の可能性)
数人のグループで行動し、グループ内に管理者がいて労働時間を管理している 算定し難くない(要件②不充足)
随時携帯電話・スマートフォンで連絡を受け、使用者の指示に従って業務を行っている 算定し難くない(要件②不充足の可能性)
在宅勤務で、PCのログ・チャットツール・業務管理システムで労働時間を把握できる 算定し難くない(要件②不充足の可能性)

04要件②が否定される場合——スマートフォン等による常時連絡

 スマートフォン・携帯電話の普及により、実務上、要件②「労働時間を算定し難いとき」が否定されるケースが増えています。

 使用者が労働者にスマートフォンや携帯電話を持たせ、常時連絡が取れる状態にある場合、使用者が随時業務上の指示を出すことができる状態(指揮命令下にある状態)と評価されるおそれがあります。このような場合、「労働時間を算定し難いとき」には当たらないと判断され、みなし労働時間制の適用が否定される可能性があります。

要件②が否定されやすい場合の例

①使用者が随時スマートフォンで連絡し、業務上の指示を出している
②PCのログ・業務管理システムで在宅勤務中の労働時間を把握できる環境にある
③数名グループで外回りをし、グループ内の管理者が労働時間を把握している
④訪問先・スケジュールが詳細に決まっており、使用者がその進捗を確認できる

これらの場合は「労働時間を算定し難いとき」に当たらないと判断されるリスがあります。

 なお、在宅勤務(テレワーク)については、令和3年3月(2021年)に厚生労働省が改訂した「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」において、テレワークの場合にもみなし労働時間制の適用は可能としつつ、「情報通信機器を通じて使用者の指示に即応することが求められていない」等の要件を満たすことが必要と示されています。

05みなし労働時間制が適用されない場合のリスク

 みなし労働時間制の要件(①または②)を満たさない場合、みなし労働時間制は適用されず、実際の労働時間に基づいて残業代が計算されることになります。

 「みなし労働時間制を採用しているから残業代請求には応じなくてよい」という誤った運用を続けていると、後になって実際の労働時間を基準とした多額の残業代請求を受けるリスがあります。みなし労働時間制の要件を満たしているかどうか、就業規則・労使協定の整備が適切かどうかについては、使用者側弁護士・会社側弁護士に確認を求めることをお勧めします。

06まとめ

 事業場外労働のみなし労働時間制を適用することができるためには、①「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合」であること、②「労働時間を算定し難いとき」に当たること——の2つの要件を満たす必要があります。

 「労働時間を算定し難いとき」の要件は、スマートフォン等での常時連絡・在宅勤務での業務管理システムの使用等により、近年は満たされないと判断されるケースが増えています。要件を満たさずにみなし労働時間制を運用していると、実際の労働時間を基準とした多額の残業代請求につながるリスがあります。みなし労働時間制の要件確認・就業規則の整備については、使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。みなし労働時間制の要件確認・就業規則の整備・残業代トラブルの予防でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 事業場外労働のみなし労働時間制の適用要件は何ですか。

A. ①「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合」であること、②「労働時間を算定し難いとき」に当たること——の2つの要件を満たす必要があります。両方の要件を満たして初めて、みなし労働時間制の適用が認められます。

Q2. 「労働時間を算定し難いとき」とはどのような場合ですか。

A. 使用者が労働者の労働時間を把握・管理することが客観的に困難な状況にある場合をいいます。労働者が自由に業務の遂行方法・時間配分を決定できる状況であり、使用者の指揮命令下にあると評価できない状態であることが必要です。数人のグループで行動し管理者がいる場合や、スマートフォンで随時連絡・指示が行われる場合は、「算定し難い」とは認められないことがあります。

Q3. スマートフォンを持たせて外回り営業させている場合でもみなし労働時間制は使えますか。

A. 使用者が随時スマートフォンで連絡し業務上の指示を出している場合は、「労働時間を算定し難いとき」(要件②)に当たらないと判断されるリスがあります。スマートフォンを持たせていても、使用者が実際には随時指示を出していないこと(労働者が自由に業務を進めていること)が重要です。実態に応じた判断が必要ですので、使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。

Q4. みなし労働時間制が適用されない場合、どのような問題が生じますか。

A. みなし労働時間制の要件を満たさない場合、制度の適用が否定され、実際の労働時間に基づいて残業代が計算されることになります。「みなし労働時間制を採用しているから残業代は不要」という誤った運用を続けていると、後になって実際の労働時間を基準とした多額の残業代請求を受けるリスがあります。

最終更新日:2026年5月10日




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