この記事の要点

就業規則に一定額・一定割合以上の定期昇給を行う義務が定められている場合。凍結するためには労働協約の締結か就業規則変更が必要

就業規則に義務規定がある場合、一方的に凍結することはできません

同意が得られず就業規則変更による一方的変更を行う場合。合理性(労契法10条)の有無が問題となり、特に高度の必要性が要求される(375番参照)

賃金に関する不利益変更として厳格に審査されます

就業規則に努力義務のみが定められている場合。定期昇給をしなくても法的問題はない

まず自社の就業規則の条文を確認することが出発点です

01まず就業規則の定め方を確認する

 定期昇給(毎年一定時期に賃金を引き上げる制度)を凍結できるかどうかは、自社の就業規則の定め方によって大きく異なります。対応方針を検討する前に、まず就業規則の昇給に関する条項を確認することが出発点です。

就業規則の定め方 凍結のための法的対応
一定額・一定割合以上の定期昇給義務が定められている 労働協約の締結または就業規則変更が必要(合意なき一方的変更には合理性の要件あり)
定期昇給の努力義務が定められているにすぎない 凍結しても法的問題なし(ただし労使関係・組織運営上の考慮は別途必要)

02義務規定がある場合。労働協約または就業規則変更が必要

 就業規則に「毎年○月に○%以上の昇給を行う」といった義務規定がある場合、その規定は最低基準として機能します。一方的に凍結すれば、就業規則の義務に違反した状態となり、昇給しなかった差額の支払義務が発生するリスクがあります。

 この場合、定期昇給を凍結するためには次のいずれかの方法を取る必要があります。

 第一の方法は、労働協約を締結することです(労働組合が存在する場合)。労働組合との間で「定期昇給を○年○月分から凍結する」旨の労働協約を締結すれば、その効力が組合員に及びます(369番参照)。ただし、既発生の昇給請求権(既に到来した昇給時期に発生した権利)には遡及効は及びません(371番参照)。

 第二の方法は、就業規則変更によることです。「定期昇給を凍結する旨の附則を設ける」等の形で就業規則を変更する方法です。社員または労働組合の同意を得て変更できれば問題はありません。同意が得られない場合は一方的変更となりますが、その合理性が厳格に問われます(次節参照)。

03同意が得られない場合の就業規則による一方的変更の合理性

 労働協約を締結できず、かつ同意も得られない場合には、就業規則を一方的に変更して定期昇給を凍結せざるを得ない状況が生じることがあります。この場合、就業規則変更の合理性(労契法10条)が問われます。

 定期昇給の凍結は、賃金に関する不利益変更に当たるため、大曲市農協事件(最高裁昭和63年2月16日)が示す「高度の必要性に基づいた合理的な内容」という水準が要求されます(375番参照)。単なる収益性の低下や将来不安といった理由では合理性が認められにくく、より切迫した経営上の必要性・他のコスト削減措置の先行実施・説明と協議の実績等が求められます(373番参照)。

04努力義務にすぎない場合。凍結しても法的問題はない

 就業規則の昇給に関する規定が「できる限り昇給するよう努める」「業績に応じて昇給を検討する」といった努力義務・訓示規定にとどまる場合は、定期昇給をしなくても法的問題は生じません。努力義務は法的な履行請求の対象とはならないからです。

 ただし、法的問題がないこととと、労使関係・従業員のモチベーション・組織運営上の問題がないこととは別の話です。長年の慣行として毎年昇給を行ってきた場合、突然の凍結は従業員の信頼を損ない、離職の一因になる可能性もあります。法的には凍結できるとしても、経営判断として丁寧な説明と合意形成を試みることが現実的な対応といえます。

 また、「努力義務か義務規定か」が不明確な文言になっている就業規則も存在します。自社の就業規則の条文が明確でない場合は、使用者側弁護士に解釈を確認した上で対応することをお勧めします。

05まとめ

 定期昇給を凍結できるかどうかは、就業規則に義務規定があるかどうかで大きく異なります。義務規定がある場合は、労働協約の締結または就業規則変更が必要であり、一方的変更の場合は合理性(高度の必要性)が厳格に問われます。努力義務のみが定められている場合は、凍結しても法的問題は生じません。まず自社の就業規則の定め方を確認し、義務規定の有無を判断することが対応の第一歩です。具体的な対応については使用者側弁護士のサポートを受けることをお勧めします。アドバイスします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

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Q&Aよくある質問

Q1. 就業規則に「業績に応じて昇給を行う」とある場合、業績が悪いという理由だけで昇給をゼロにできますか。

A. 「業績に応じて」という文言が、会社に一定の裁量を与えるものとして解釈できる場合は、業績悪化を理由とした昇給ゼロも可能となり得ます。ただし「業績が悪い」だけでなく、昇給ゼロが「業績に応じた合理的な結果」といえるかどうかの評価が問題となります。規定の趣旨・過去の運用実績・説明の実施状況等を踏まえて具体的に判断する必要があります。

Q2. 定期昇給の凍結はベースアップの凍結と異なりますか。

A. 異なります。定期昇給(定昇)は就業規則等で制度化されている場合に発生する昇給であり、義務規定がある場合は凍結するための手続が必要です。ベースアップは労使交渉の結果として特別に行われるものであり、特段の決定がない限り実施義務はありません(382番参照)。両者は法的性質が異なります。

最終更新日:2026年5月31日


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