この記事の要点

パワハラ・セクハラを法的に分析する際は「適法性」と「適切性」を区別して考えることが重要。「パワハラかどうか」という二項対立ではなく、3段階の程度の問題として捉える

この視点を持つことで、会社経営者は適正な業務指導と法的リスクのある行為を正確に区別できます

訴訟で問われるのは①違法な言動か②③適法な言動か。②不適切だが①違法とまで評価される言動はごく一部に過ぎない

「不適切な言動があった=損害賠償が認められる」という発想は誤りです

「パワハラ・セクハラかどうか」という二択の問題設定よりも「程度の問題として」分析する方が実態を正確に把握できる

程度の差によって法的結論が大きく異なります

01「適法性」と「適切性」の問題を区別する

 パワハラ・セクハラを法的に分析する際に重要なのは、「適法性」の問題と「適切性」の問題を明確に区別することです。

 「適法性」とは、その行為が法律上(民法上の不法行為・安全配慮義務違反等)の責任を生じさせる違法な行為かどうかという問題です。「適切性」とは、法的違法性とは別に、職場環境や人事管理の観点から見てその行為が適切であったかどうかという問題です。

 この2つは必ずしも一致しません。法的に違法ではない行為が「不適切」と評価されることはありますし、逆に「適切」な行為が結果として相手を傷つけることもあります。会社経営者・管理職が職場での言動を判断する際には、この2つの問題を混同しないことが重要です。

023段階の分析枠組み

 パワハラ・セクハラが問題とされる言動は、適法性・適切性の観点から次の3段階に分類することができます。

段階 評価 典型例
違法な言動(不法行為等) 暴力・ひどい暴言・人格否定的な言動・性的な身体接触等。損害賠償責任が生じる。
適法だが不適切な言動 業務上の必要性はあるが言い方が感情的・過剰であった場合等。不法行為責任までは問われないが、改善が必要な言動。
適法かつ適切な言動 業務上必要で方法も相当な注意指導・業務命令・評価。相手がパワハラと主張しても法的責任は生じない。

 ②の「適法だが不適切な言動」は数多く見られますが、①の「違法な言動」とまで評価される言動はごく一部に過ぎません。②と①の境界線を正確に理解することが、法的分析の核心となります。

03訴訟・労働審判で問われるのは何か

 損害賠償請求を伴う訴訟や労働審判において、実際に問われるのは「①違法な言動であったか、②③適法な言動であったか」という点です。②不適切な言動か③適切な言動かという区別は、①違法性の有無を判断する際の一考慮事情にはなり得ますが、それ自体が主な争点にはなりません。

 したがって、会社経営者として重要なのは「これは不適切かもしれないが、違法ではないか」という判断ではなく、「これは法的に違法(不法行為等)と評価されるか」という判断です。ここを混同すると、②適法だが不適切な言動が多数あったとしても過度に心配したり、逆に①違法な言動の深刻さを正確に認識できなかったりという問題が生じます。

「パワハラかどうか」という問題設定の限界
「これはパワハラですか・セクハラですか」という二択の問い方は、①②③の3段階の区別を見えにくくします。「程度の問題として」捉え直すと、「この行為は②不適切ではあるが①違法ではない」「この行為は①違法に当たる」という実態に即した分析が可能になります(394番参照)。

04「程度の問題として捉える」ことの実務的意味

 「パワハラ・セクハラかどうか」という二項対立の問題設定ではなく「程度の問題として」考えることで、次のような実務的メリットがあります。

 第一に、②適法だが不適切な言動と①違法な言動を正確に区別できます。②は損害賠償責任の対象にはなりませんが、職場環境・労使関係の観点から改善が望ましい言動です。①は損害賠償責任が生じる深刻な行為です。この区別を誤ると、対応の優先順位を誤ります。

 第二に、③適法かつ適切な言動であることを確認する視点を持てます。業務上必要な指導・注意は③に当たり、法的リスクを生じさせません。自信を持って業務指導を継続するための判断基準として機能します。

 第三に、相手方(申告者・従業員側)の主張を法的に評価する際の枠組みとして活用できます。「パワハラを受けた」という主張がある場合でも、それが①②③のいずれに当たるかを冷静に分析することで、適切な対応方針を立てることができます。

05会社経営者にとっての実践的な活用方法

 この3段階の分析枠組みは、パワハラ・セクハラ紛争への実際の対処において次のように活用できます。

実践的な活用方法

申告を受けた場合:申告された言動が①違法か②③適法かを冷静に分析する。①に当たる場合は迅速な対応が必要。②に当たる場合は改善指導の対象として対応。③に当たる場合は過度な対応は不要(ただし申告者への配慮は別途必要)
指導を行う場合:業務上の必要性があり方法が相当であれば③に当たる。言い方や態様に注意して③から②に下がらないよう意識する
紛争時の法的評価:自社の言動が①②③のいずれかを使用者側弁護士とともに分析し、対応方針(争う・交渉・和解等)を決定する

06まとめ

 パワハラ・セクハラを法的に分析する際は、「適法性」と「適切性」の問題を区別し、①違法な言動、②適法だが不適切な言動、③適法かつ適切な言動という3段階の枠組みで捉えることが重要です。訴訟・労働審判で問われるのは①違法か②③適法かであり、②不適切な言動が①違法とまで評価されるケースはごく一部です。「パワハラかどうか」という二項対立よりも「程度の問題として」分析する方が実態を正確に把握できます。具体的な事案の分析については使用者側弁護士のサポートを受けることをお勧めします。アドバイスします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

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Q&Aよくある質問

Q1. ②「適法だが不適切な言動」があった場合でも、会社は何も対応しなくてよいですか。

A. 対応が不要というわけではありません。②適法だが不適切な言動は法的責任(損害賠償等)の対象にはなりにくいですが、職場環境・労使関係の観点から改善が望ましい言動です。継続すれば①違法な言動へとエスカレートするリスクもあるため、管理職等への指導・注意は行うべきです。ただし、過剰な対応(謝罪の強要等)は不要です。

Q2. 業務上の注意指導が①違法と評価されるのはどのような場合ですか。

A. 業務上の必要性がない言動(業務と無関係な人格否定・侮辱)・業務上の必要性はあっても方法が著しく不相当な言動(暴力・極めてひどい言葉による侮辱等)・長期間継続的に行われた精神的圧迫等が、①違法と評価されるケースの典型例です。「業務上必要」「方法が相当」という要件を満たす限り、強い口調であっても直ちに①違法とは評価されません(392番参照)。

最終更新日:2026年5月31日


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