パワハラ・セクハラ紛争の類型には、どのようなものがありますか。
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パワハラ・セクハラ紛争の主な類型は4つ。①損害賠償請求、②解雇・休職期間満了退職無効による地位確認、③合意退職の錯誤無効・強迫取消等による地位確認、④労災認定 それぞれの類型で法的な論点・対応方針が異なります |
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②③の地位確認請求では、解雇の有効性・合意の有効性がメインの争点であり、パワハラ・セクハラは背景事情・付随的請求として主張されることが多い(394番参照) 「パワハラで訴えられた」の実態は②③のケースが多い |
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④労災認定の問題は、民事賠償責任とは別の行政的手続。ただし労災認定があれば安全配慮義務違反等の立証に影響する場合があるため、会社経営者として注意が必要 「労災の問題だから民事は別」という発想は危険です |
目次
01類型①:安全配慮義務違反・不法行為(使用者)責任による損害賠償請求
最も典型的なパワハラ・セクハラ紛争の類型が、損害賠償請求です。根拠としては、①安全配慮義務違反(労契法5条)と、②加害者個人の不法行為に対する使用者責任(民法715条)が主なものとなります。
安全配慮義務違反とは、会社が労働者に対して職場環境を安全に保持する義務を怠ったという主張です。会社がパワハラ・セクハラを放置した・適切な対処をしなかったという事実が問題となります。使用者責任とは、加害者(管理職等)の不法行為に対して、使用者(会社)が連帯して賠償責任を負うという制度です。
ただし、394番で解説したとおり、パワハラ・セクハラを単独メインとした損害賠償請求の訴訟・労働審判は実際にはあまり多くなく、②③の地位確認請求に付随して損害賠償請求がなされるケースが多い傾向があります。
02類型②:解雇・休職期間満了退職無効による地位確認請求
実務上最もよく見られる類型の一つが、解雇または休職期間満了退職を無効として、地位確認と未払い賃金の支払を請求するものです。
例えば、会社が従業員の問題行動(能力不足・勤怠不良等)を理由に解雇したところ、従業員側が「パワハラを受けたことが原因で問題が起きた」「パワハラを原因とするメンタルヘルス不調があったのに適切な配慮がなかった」と主張して、解雇の無効を争うケースがあります。あるいは、休職期間満了による退職後に、「パワハラが原因で休職したのだから、会社の責任が問われる」として地位確認請求がなされるケースもあります。
この類型では、解雇の有効性や休職事由の存否がメインの争点ですが、パワハラの有無・会社の安全配慮義務違反が重要な争点となることがあります。解雇時の手続き・根拠の適正さと、パワハラ申告への対応の両方が問われます。
03類型③:合意退職の錯誤無効・強迫取消等による地位確認請求
実務上重要な類型として、いったん合意退職(自主退職・退職合意書の締結等)が成立したにもかかわらず、後になってその合意の効力を争う地位確認請求があります。
具体的には、「パワハラを受けて追い詰められた状態で退職届に署名した。錯誤または強迫による無効・取消だ」という主張や、「退職勧奨があまりにも執拗で、断れない状況で退職に追い込まれた。意思表示の瑕疵がある」という主張です。
この類型は、合意退職が成立しているという会社側の認識と、その効力が争われるという状況のギャップが問題です。退職合意書を取得していても、①錯誤(民法95条)・②強迫(民法96条)・③詐欺を理由として合意の効力が否定されるリスクがあります。退職勧奨の方法・退職合意書取得の経緯・状況が重要な事実関係となります。
04類型④:労災認定の問題
パワハラ・セクハラが原因で精神疾患を発症したとして、労働基準監督署に労災申請がなされるケースがあります。これが類型④の「労災認定の問題」です。
労災認定は行政上の手続きであり、民事上の損害賠償請求とは直接連動するものではありません。しかし、労災認定がなされた場合、会社側にとっては安全配慮義務違反等の民事責任を問われる際の証拠・事実として影響する可能性があります。「労災は行政の話だから民事とは別」という発想は危険です。
また、労災申請中・認定後の従業員への不利益取扱い(解雇等)は、労基法上の制限がある場合があります(労基法19条等)。会社経営者としては、労災申請があった場合の対応方針を、使用者側弁護士と連携して慎重に検討する必要があります。
054類型の関係と実務上の対応方針
4つの類型は相互に関連します。例えば、パワハラを原因とするメンタルヘルス不調(→④労災認定の問題)→休職(→②休職期間満了退職の問題)→退職後の損害賠償請求(→①損害賠償請求)という流れで、複数の類型が連動して問題となるケースも少なくありません。
類型別の実務上の対応方針の概要
①損害賠償請求:パワハラ・セクハラ言動の具体的事実・程度を証拠により反論。業務上必要で方法が相当な行為であることを主張
②解雇・休職期間満了退職:解雇理由・手続の適正さ・パワハラ申告への対応経緯を整理し、解雇の有効性を主張
③合意退職の錯誤無効等:退職に至る経緯・合意形成のプロセス・退職合意書取得の状況を証拠で示し、意思表示の瑕疵がないことを主張
④労災認定:労基署の調査に対して事実を適正に説明し、民事責任との連動を見据えた対応方針を検討
06まとめ
パワハラ・セクハラ紛争の類型は主に4つです。①安全配慮義務違反・不法行為(使用者)責任による損害賠償請求、②解雇・休職期間満了退職無効による地位確認請求、③合意退職の錯誤無効・強迫取消等による地位確認請求、④労災認定の問題です。②③の地位確認請求では、パワハラ・セクハラが付随的請求として主張されることが多く(394番参照)、4つの類型が連動して発生するケースもあります。各類型に応じた適切な対応方針の策定については、早期に使用者側弁護士のサポートを受けることをお勧めします。アドバイスします。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
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Q&Aよくある質問
Q1. 退職届に署名してもらいましたが、後から「強迫による取消」と主張されました。どう対応すればよいですか。
A. 退職合意書の効力が争われる類型③の典型例です。強迫取消が認められるかどうかは、退職に至る経緯(退職勧奨の方法・回数・内容・拒否できる環境があったか等)を客観的に評価して判断されます。退職合意書があっても強迫的状況があれば取消が認められる可能性があります。具体的な経緯を使用者側弁護士に伝えた上で対応方針を決定することをお勧めします。
Q2. 従業員がパワハラを理由に労災申請しました。会社として対応すべきことは何ですか。
A. 労基署の調査が入る可能性があります。調査には真摯に対応し、事実関係を適正に説明することが基本です。この段階での不誠実な対応は後の民事紛争において不利に働く可能性があります。また、労災申請中・認定後の当該従業員への不利益取扱い(解雇等)には制限がある場合があるため(労基法19条等)、早期に使用者側弁護士に相談して対応方針を検討することをお勧めします。
最終更新日:2026年5月31日