極端に能力が不足している社員を本採用してしまった場合の退職勧奨
動画解説
目次
1. 本採用後の退職勧奨は心理的ハードルが高い理由
試用期間を経て本採用になった後に「能力不足でやめてほしい」と伝えることは、試用期間中と比べて格段に難しくなります。
その最大の理由は、本人の心理にあります。試用期間を経て本採用になったという事実は、本人にとって「このパフォーマンスで会社に受け入れてもらえた」「ここで働き続けることが認められた」という認識につながります。たとえパフォーマンスが低くても、少なくとも本採用した時点では会社がそれを受け入れたと感じているのです。
⚠ 「この出来の悪さは明らかなはずだ」という一方的な認識は通用しない
「これだけ問題を起こしているのだから、やめるべきだと本人も分かるはずだ」という思い込みで退職勧奨に臨むと、必ず失敗します。本人からすれば「本採用されたんだから大丈夫だと思っていたのに」という気持ちがあり、納得のない退職勧奨は感情的な反発を招きます。
2. ポイント① 能力不足の理由を具体的な事実ベースで説明する
退職勧奨の最重要ポイントは、「なぜ能力不足といえるのかを、具体的な事実に基づいて説明すること」です。
「みんながダメだと言っている」「失敗ばかりしている」という評価的な言葉だけでは、相手は納得しません。「主観で言っている」「嫌いだから言っている」と受け取られるだけです。
▶ 具体的な事実ベースの説明とは
・いつ・どこで・何をした(しなかった)か
・どのように指導・教育したか(具体的に説明した・やって見せた)
・それを何回繰り返しても改善しなかったか
・その結果、どんな悪い影響が出たか
こうした具体的な事実を積み上げることで、「この人は自分のことをよく見た上で、こういう結論を出している」という印象が相手に伝わります。評価部分への100%の納得がなくても、「この人が言うならそうなのかもしれない」という受け取り方につながります。
これは単に退職勧奨を成功させるためだけでなく、相手をよく見るという誠実なマネジメントの姿勢そのものでもあります。相手の言動を丁寧に観察してきた人に言われることは、見てもいない人に言われることとは全く違う重みを持ちます。
3. ポイント② 配置転換・他の仕事の検討を行う(または検討したことを説明する)
能力不足の退職勧奨を行う前に、「他に向いている仕事がないか」を試みること、あるいは検討した上で断念した理由を具体的に説明することが、説得力を高めます。
人には向き不向きがあります。今の仕事での能力不足が、別の仕事でも同じとは限りません。可能であれば実際に別の仕事を試みた上で「それでもダメだった」と伝えられれば最も強い説得力を持ちます。
▶ 検討したことの説明が大切
「他の仕事も試みたがダメだった」または「色々検討したが、あなたに向いている仕事が当社にはなかった」という具体的な説明ができれば、「はいやめてください」というだけの退職勧奨よりも本人の受け取り方が変わります。「どんな仕事なら自分にできると思うか」を本人に聞くことも、対話を生む有効なアプローチです。
4. 長年雇ってきた社員への退職勧奨——さらに難易度が高い
10年・20年勤めてきた社員に「能力不足でやめてほしい」と伝えることは、本採用直後の社員よりさらに難易度が高いです。
なぜなら、長年雇い続けてきたという事実は「ずっとこのパフォーマンスで受け入れてきた」という実績そのものです。本人からすれば「10年前も今も同じパフォーマンスだったのに、なぜ今さら能力不足なのか」という疑問が生じます。
⚠ 「以前と変わらない能力」を後から問題にすることの難しさ
以前のパフォーマンスを黙って受け入れてきたのに、今さら能力不足と言われても納得感が生まれません。「採用時と比べて大幅に能力が低下した」または「時代の変化に伴い以前は許容された能力水準が今は受け入れられなくなった」という、変化を説明できる理由が必要になります。それができない場合は退職条件の提示がより重要になります。
5. 退職条件の提示——事実説明と組み合わせることで効果が出る
事実ベースの説明だけで退職に至らない場合は、退職条件の提示を組み合わせることが現実的な対応です。
退職条件の内容は状況によりますが、解決金の支払い・会社都合退職・年次有給休暇の買取・退職日まで出社不要などが考えられます。
▶ 退職条件を抑えるコツ
事実ベースの説明をしっかり行い、納得感を高めることで退職条件を抑えられます。逆に説明が不十分なまま条件提示だけに頼ると、高額の解決金を要求される傾向があります。「やめなければならない理由の説明」と「退職条件の提示」の2つを組み合わせることが、退職勧奨を成功させるための鍵です。
「能力が低い人に対してお金を払うのはおかしい」と感じるかもしれません。しかし在籍させ続けることのコスト(毎月の給与・周囲の負担・業務効率の低下)と比較すると、退職条件を払って早期に解決する方が会社にとって合理的な場合も多いです。感情ではなく経営判断として考えてください。
6. まとめ
① 本採用後の退職勧奨は心理的ハードルが高いと認識して臨む
本採用した事実は「受け入れてもらえた」という認識につながります。「当然やめるべきだろう」という一方的な見方で臨まないでください。
② 能力不足の理由を具体的な事実で説明する
「みんながダメだと言っている」ではなく、「いつ・何をした(しなかった)か」という具体的な事実を積み上げて説明してください。相手をよく見た上での発言は、納得感の質を変えます。
③ 退職条件の提示と組み合わせる
事実の説明で納得が得られない場合は退職条件の提示を組み合わせます。説明が充実しているほど条件金額を抑えられます。弁護士に相談しながら進めることをお勧めします。
よくある質問(FAQ)

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日 2026/04/14