横領・不正受給した社員の懲戒処分
動画解説
この記事の要点
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金銭を返してもらうだけではけじめがつかない——懲戒処分によって職場の秩序を守り、周りの社員の納得感を確保する 真面目に働いている社員が一定の給与しかもらえない中で不正に金銭を得た社員がお金を返すだけで終わるのでは、職場の秩序が崩れる。懲戒処分でけじめをつけることが不可欠 |
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懲戒処分の核心は具体的事実の認定——「いつ・いくら・どうやって」を確認し、一覧表で整理することが基礎になる 「大体1000万円横領した」という大雑把な認識で処分すると、後で「実際は200万円だった」という問題が生じる。金額と時期の正確な把握が処分の根拠になる |
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横領(着服・窃盗)と手当の不正受給では処分の妥当な重さが大きく異なる——横領は懲戒解雇が有効になりやすいが、不正受給は慎重な判断が必要 国家公務員の懲戒処分指針では横領は原則「免職」、手当の不正受給は「免職または停職」と大きく異なる。同じ「お金を不正に取得した」でも法的評価が違う |
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懲戒解雇など重い処分をする場合は必ず事前に弁護士に相談する——軽い処分であれば周囲の相談で対処できる場合もある マニュアル的に「横領だから解雇」と判断すると失敗することがある。個別の事情に基づいた事実認定と処分の重さの判断が必要 |
目次
1. なぜ「お金を返してもらえばいい」では足りないのか
会社経営者の皆様、こんにちは。弁護士法人四谷麹町法律事務所の代表弁護士、藤田進太郎です。
横領・不正受給が発覚した際に金銭を返還してもらうことはもちろん重要ですが、それだけではけじめがつきません。なぜ懲戒処分が必要なのかを考えてみましょう。
「お金を返すだけ」では職場秩序が崩れる理由
- 真面目に働いている社員は一定の給与しか得られない中で、不正行為をした社員がお金を返しただけで終わるのでは「ルール違反をしても割に合う」というメッセージになる
- 「あの人は返しただけでお咎めなしか」という周りの社員の不満・不公平感が高まる
- 職場の秩序が崩れ、モラルハザードが広がるリスクがある
- 「取られてしまったお金を取り返したに過ぎない」という状態では、経営者として秩序を守る姿勢を示せない
周りの社員の納得感を確保し、職場の秩序を守るためにも、懲戒処分によってしっかりけじめをつけることが必要です。
2. 懲戒処分に踏み切るために必要な「決意」
懲戒処分をやらなければならないと分かっていても、気が重くてなかなか踏み切れない経営者がいます。
どちらかというとポジティブな仕事(売上を増やす・新サービスを開発する等)に向かいたい経営者にとって、問題社員への処分という後ろ向きな対応は本当に気が重い作業です。「寛大な社長の方が器が大きくて気持ちいい」という感覚を持つ方もいます。
しかし冷静に考えてください。他の真面目な社員の納得感のためにも、会社の秩序を維持するためにも、懲戒処分から逃げてはいけません。しっかりとけじめをつけることが会社と社員を守ることになります。
3. 懲戒処分の基礎——具体的事実の認定が最重要
懲戒処分を行う際の出発点は、他の問題社員対応と同じく「具体的事実の認定」です。
「確かに自分が横領しました。窃盗しました。不正受給しました。いかなる処分にも従います」という抽象的な認白には、懲戒処分の根拠としての価値はほとんどありません。それは結論部分であり、まず一体何があったのかという事実の確認が最重要です。
横領・不正受給の懲戒処分で特に重要な事実確認項目
- いつから・いつまでの期間にわたって行ったか
- それぞれいくらを・どのような方法で不正に取得したか
- 合計金額はいくらか(時期別・行為別の一覧表を作成する)
- どのような手口・経路で行ったか(再発防止策を考えるためにも重要)
これらの事実を証拠と照合しながら確定していくことが、懲戒処分の正当な根拠を作ることになります。
4. 金額と時期の特定——一覧表で整理する
横領・不正受給の懲戒処分において特に重要なのが、金額と時期の正確な特定です。これは金銭返還の話とも直結するため、どうせやる作業ですが、懲戒処分の根拠としても不可欠です。
なぜ金額と時期の正確な特定が必要か:本人が「大体1000万円ぐらい取ったと思います」という大雑把な自白をもとに処分・返還合意をしてしまい、後で客観的証拠と照合したら実際は200万円だったということになると大変です。処分の根拠も返還合意も見直しが必要になります。正確な計算は面倒ですが、これをしっかりやることが後の対応を安定させます。
一覧表の形式で整理することをお勧めします。いつの時点でいくら不正に取得したかを行ごとに記載し、合計を算出します。この一覧表が懲戒処分通知書・返還合意書の基礎資料になります。
5. 懲戒処分通知書への記載——事実を具体的に書く
懲戒処分通知書には、確定した事実を具体的に記載してください。
懲戒処分通知書の記載例(横領の場合)
「あなたは20○○年○月○日から20○○年○月○日にかけて、○○の方法により会社の金銭を着服し、合計○○万○千円を横領しました。この行為は就業規則第○条の○号に定める懲戒事由に該当します。よって以下の通り懲戒処分を通知します」
長期間にわたる不正の場合、全件を通知書に記載するのが難しいこともあります。その場合は、期間と合計金額を記載した上で、詳細を一覧表として別紙添付する方法や、懲戒処分通知書とは別に本人が認めた書面(事情聴取書・顛末書等)を組み合わせて使う方法もあります。
どのような形式で記載するかについては、弁護士に相談しながら決めることをお勧めします。
6. 処分の重さ——横領(着服)と手当不正受給の大きな違い
懲戒処分の重さを決める際に、多くの経営者が見落としがちな重要な点があります。横領(着服・窃盗)と手当の不正受給では、法的に認められる処分の重さが大きく異なります。
横領と不正受給の法的評価の違い
| 種類 | 一般的な法的評価 |
|---|---|
| 横領・着服・窃盗 | 金額が小さくても懲戒解雇が有効とされる事例が多い。会社から預かった・任された金銭を不正に取得した背信性の高さが評価される |
| 手当の不正受給(通勤手当の虚偽申告等) | 横領・窃盗と比べて慎重な判断が必要なケースが多い。金額・態様・期間・認識(故意か否か)などによって評価が大きく変わる |
「お金を不正に取ったのだから同じだ」という発想は危険です。手当の不正受給は通勤経路の申告ミス・引越し後の手続き漏れなど、必ずしも悪意がないケースもあり、態様・認識・金額によって評価が大きく変わります。手当の不正受給で懲戒解雇を行い、裁判で無効とされて大金を取られるというケースが実際にあります。
7. 国家公務員の懲戒処分指針を参考にした一般的な重さの目安
一般的な重さの目安として、国家公務員の懲戒処分指針(人事院)が参考になります。
国家公務員の懲戒処分指針(参考)
| 行為の種類 | 原則的な処分の重さ |
|---|---|
| 横領・着服・窃盗 | 免職(解雇相当)——原則として最も重い処分 |
| 諸給与の違法・不適正受給(不正受給) | 免職または停職(状況に応じて判断)——横領より軽くなりうる |
ただし、この指針はあくまで参考情報です。実際の民間企業の懲戒処分においては、当該会社の就業規則の内容・職場の秩序の強さ・過去の処分歴・本人の反省の態度など、様々な個別事情を総合的に考慮して処分の重さを決める必要があります。
「横領だから解雇」という単純なマニュアル的判断は危険です。一体どんな事実があったのかを個別にしっかり認定した上で、その悪さの程度に応じて処分を決めることが重要です。
8. 重い処分をする場合は必ず弁護士に相談する
処分の重さに応じて、弁護士への相談の必要度が変わります。
処分の重さと弁護士への相談の必要度
| 軽い処分(けん責・減給など) | 周囲の信頼できる方への相談で対処できる場合もある。ただし就業規則の確認は必要 |
| 重い処分(出勤停止・懲戒解雇・普通解雇) | 必ず事前に弁護士に相談してからリスクコントロールして実施する。処分が無効になった場合の会社へのダメージが大きい |
特に懲戒解雇は、有効か無効かが争われた場合に大きな費用・時間的負担が生じます。弁護士に相談しながら「本当にこれでいいか・手続きはどうやればいいか」を確認した上で実施してください。
9. まとめ
- 金銭を返してもらうだけではけじめがつかない——懲戒処分によって職場秩序を守り、周りの社員の納得感を確保する
- 懲戒処分に踏み切る決意を持つ——気が重くても、処分から逃げると会社の秩序が崩れる
- 懲戒処分の基礎は具体的事実の認定——抽象的な自白ではなく、いつ・いくら・どのように不正行為をしたかの確定が必要
- 金額と時期を一覧表で整理する——大雑把な把握では後から問題が生じる
- 横領(着服)と手当の不正受給では処分の妥当な重さが大きく異なる——マニュアル的に判断すると失敗する
- 懲戒解雇など重い処分は必ず事前に弁護士に相談する——個別事情に基づいた判断が不可欠
横領・不正受給した社員への懲戒処分でお悩みの経営者の皆様は、ぜひ弁護士にご相談ください。
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 通勤手当を多く申告していた社員が発覚しました。懲戒解雇できますか。
A. 通勤手当の不正受給(虚偽申告)の場合、懲戒解雇の有効性はケースバイケースで判断されます。金額・期間・故意性(意図的な虚偽申告か引越し後の手続き漏れ等か)・本人の反省の態度などを総合的に考慮する必要があります。横領と比べて慎重な判断が求められますので、必ず弁護士に相談した上で処分方針を決めてください。
Q2. 懲戒解雇と退職金の支払いはどのような関係になりますか。
A. 就業規則に「懲戒解雇の場合は退職金を支給しない(または減額する)」という規定がある場合、懲戒解雇により退職金を不支給または減額にすることができます。ただし横領等の不正行為と退職金の不支給が相当な比例関係にあることが必要とされる場合があります。就業規則の内容と個別の事情を弁護士に確認してもらってから判断してください。
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最終更新日:2026年4月30日