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この記事の要点

「考え方を変えさせる」ではなく「行動を改めさせる」にフォーカスすることが有効です。労働契約は「しっかり働いてもらう」契約であり、考え方まで強制できません。

 他責傾向が強く成長が遅い社員の考え方は容易には変わりません。弁護士として多くのケースを見てきた経験から言えば、考え方の変更を求めるより、行動・言動を具体的事実に基づいて指導し改善させることが実務的に有効な対処法です。

他責傾向は「価値観・スタイル」であり容易には変わらない

 他責傾向は長年かけて形成された本人の価値観・スタイルです。「考え方が間違っている」という議論は生産性が低く、よほどのきっかけがない限り変わりません。考え方の変更を求めることに注力しすぎることは効果的ではありません。


労働契約は「しっかり働いてもらう」契約:行動にフォーカスする

 労働契約・雇用契約は、しっかり働いてもらう契約です。考え方を強制することはできませんが、きっちり仕事することを要求する権利は会社にあります。行動・言動の問題にフォーカスした指導が正しいアプローチです。


具体的事実に基づく指導と、成功事例の提示が有効

 「環境のせい」「人のせい」という主張には、具体的な事実をベースに対話することが有効です。また、同じ環境でうまくいっている社員の事例を複数示すことで、説得力が増します。

1. 他責傾向・成長が遅い社員の問題の本質

他責傾向は「スタイル・価値観」として形成されている

 いくら教育しても自分の非を認めることを極端に嫌がり、職場環境や他人の責任にすることばかり考えるため成長が著しく遅い社員。こうした社員を抱える経営者からのご相談は非常に多くあります。

 まず経営者が理解すべきことは、人はどのように考えるかは基本的に自由だという点です。周りのせい・環境のせいにばかりしているから、自分の足りないところに気づくことができず成長しない。それを改めることが大事だというのはもっともです。しかし、弁護士として多くのこういったタイプの社員の対応を経営者と一緒に取り組んできた経験から言わせてもらうと、この他責傾向・環境のせいにするという傾向が強い方というのは、それが本人の価値観・スタイルになっているのです。

 スタイルになっているということは、生まれついての気質に加え、本人の生まれ育ってきた環境なども大きく影響してその積み重ねで今があります。ですから、この物の考え方というのは容易に変わるものではありません。よほど大きな出来事があるか、本人が自分で何か気づかない限りは変わりにくいものです。

「考えを変えさせる」アプローチの限界

 社長からすれば「その考え方が間違っているから改めてもらって成長するように持っていこう」という発想で指導なさっていると思います。しかし残念ながらこういった方の考えというのは容易に変わるものではなく、気づかせようとあれこれやっても大体うまくいきません。たまたまうまくいくことはあるかもしれませんが、それはむしろレアなケースです。

 考え方を変えさせることをメインのターゲットにしてはいけません。価値観の勝負になってしまい、生産性がないのです。労働契約・雇用契約において価値観を会社に合わせなければならないという義務は労働者にありません。

⚠ 実務でよく見られるパターン(弁護士対応事例より)

 こうした問題をめぐる経営者からのご相談でよく聞かれるのは、次のようなパターンです。

・「何度注意しても『○○さんが悪い』『環境が悪い』と言い続け、自分の行動を振り返ろうとしない。こちらが正論を言っても価値観の議論になってしまい、何時間費やしても前に進まない」

・「考え方を変えさせようと丁寧に話し合い続けたが、何年経っても変わらず、対応に疲弊した経営者・上司が体調を崩してしまった」

 「考え方を変えさせる」アプローチに固執することが、問題を長期化・深刻化させる主な原因です。

2. 正しいアプローチ:行動・言動の改善にフォーカスする

労働契約の本質:考え方ではなく行動を要求できる

 今雇っている社員との関係は、労働契約・雇用契約を結んだ契約の相手方に過ぎません。その契約の主なものとしては、給料を会社が払い、しっかり働いてもらうという契約です。つまり、頭の中でどんなことを考えていようと、しっかり働いてもらいさえすれば文句のない契約なのです。

 やるべきことをやっていないのであれば、それはきっちり働かないからです。問題ある物の考え方を持っているからではありません。会社には「きっちり仕事してください」と要求する権利があり、考えを改めさせるではなく行動を改めてもらうことに注力するという発想への切り替えが重要です。

具体的な指導のやり方:細かく・具体的に・指示に従わせる

 行動改善にフォーカスした指導として、まず基本的なものとして挙げられるのは、具体的・細かい指示に従って動いてもらうことです。他責傾向が強く成長が遅い社員に「自分の頭で考えなさい」と言ってもできるわけがありません。そうではなく、何をどうすればよいのかを細かく伝え、その通りにまずやってもらいましょう。

 細かく指示して、場合によってはやって見せ、しっかりやれるようになってもらえれば最低限合格点と考えてください。それができるようになったらもう少し一般的な指示を出して、細かくここまで話さなくてもある程度指示の内容を理解して動いてもらえるようになったら成功ぐらいに考えてみてください。

「環境のせい」「人のせい」と言い出したときの対処

 指導の中で本人が「誰々さんが悪い」「会社の環境が悪い」と言い出してきた場合も、向かい合う必要があります。ただし、向かい合うというのは考え方や価値観の議論をするのではなく、具体的事実をベースにした議論を行うということです。

 「何月何日何時頃、どこで何をやったことがうまくいかなかったのか」「それが環境のせいである・先輩や同僚のせいであるのはなぜなのか」を本人に説明させてください。「自分はやれることをしっかりやっている」と言うのであれば、その根拠となる事実を示させてください。実際のパフォーマンスの事実に関してお互いやり取りしていくと、どこかで議論は噛み合います。意見が違いますという結論になることはあっても、事実ベースの対話は前進します。

✕ よくある経営者の誤解

「自分だったらこんな考え方はしない。だから相手も変えられるはずだ」→ 誤りです。
 発想が根本的に違う相手に、自分の価値観・発想で「こうすべき」を押し付けても大体うまくいきません。自分が彼・彼女の立場だったらというのではなく、「この人の価値観・スタイルの人が、この立場だったらどう行動するか」という観点から相手を理解することが重要です。

「経営者として苦難を乗り越えてきた価値観を伝えれば理解してくれるはず」→ 効果は限定的です。
 経営者的な発想を持つ人同士であれば話が合うかもしれませんが、相手は給料を稼ぐために就職して仕事をしている社員に過ぎません。そういった方に向かって経営者的な価値観を押し付けても大体うまくいきません。心の中では全くそう思っていないのに、表向きだけ合わせてくることがほとんどです。

 他責傾向が強い社員との具体的なやり取りの方法・対話の進め方について、個別の状況に応じたご相談をお受けしています。「こう言ったら、こう言ってきた。どう答えればいいか」という段階でのサポートも可能です。→ 経営労働相談はこちら

3. 説得力を高める:同じ環境でうまくいっている社員の事例を示す

成功事例・モデルケースを複数示すことが有効

 行動改善の指導において説得力を増す方法として、同じような環境・同じような人たちで仕事をしていてもうまく仕事ができている人を見せることが挙げられます。「環境が悪い」と言うけれど、誰々さんはできていますよね。同じような人たちと仕事していても誰々さんはしっかりできているじゃないですか。環境が悪い・人が悪いというだけではなく、あなたの実際の行動に問題があったのではないですかという話をするわけです。

 成功事例・モデルケースが複数あるということを示せると、会社の言っていることの説得力が増し、本人の「環境が悪い・周りが悪い」という主張の説得力が落ちていくという関係にあります。できれば複数人示せるのが理想的です。

誰もうまくいっていないなら、会社側も反省が必要

 逆に、誰もうまくいっている人がいないのであれば、経営者の方も反省しなければなりません。やはり環境や周りに問題がある可能性はある程度あります。環境や周りに問題がないと言うのであれば、やはり誰かはうまくいっているはずなのです。誰もうまくいかないというのは環境や周りに問題がある可能性があるため、そこは振り返ってしっかりチェックしなければなりません。

4. 相手の価値観を理解する「通訳」という視点

発想が違う相手を「翻訳」して理解する必要がある

 他責傾向が強い社員は、こちらから見ると人のせい・環境のせいにばかりしているように見えるものが、本人のスタイル・価値観・考え方では正当な理由があると本気で思っていたりします。驚いたことに、全倒なことを言っていると本気で思っていたりすることがあります。

 ですので、自分だったらこうなのに、自分が相手の立場だったらこうなのにと考えては読めません。相手のような物の考え方をする人が相手の立場だったら、どういうつもりでこういうことを言ったりやったりしているのかを読んで対応する必要があります。これはちょうど言語が違うようなものです。英語を話す人は英語で表現し、ドイツ語で話す人はドイツ語で表現します。異なる言語で表現するわけですので、自分の言語で読もうとしても理解できません。

 特に自社の社員相手では感情も入ってしまい、冷静に客観的に相手の考えを読むことが難しくなります。こういった場面では「通訳」が必要になることがあります。具体的な対話の場面で「こう言ったら、こう言ってきた。どう答えればいいか」という段階から弁護士に相談しながら対応していくことが有効です。

5. まとめ:経営者が取るべき対応の全体像

行動にフォーカスし、具体的事実で対話する

 他責傾向が強く成長が著しく遅い社員への対応の核心は次の通りです。

 第一に、人によって物の考え方が全然違うのだということをまず理解してください。その上で、労働契約・雇用契約というのはしっかり働いてもらう契約に過ぎず、どんな物の考え方をするのかは労働者の自由で契約で強制できるものではないことをよく理解してください。

 第二に、物の考え方を変えさせるではなく、行動にフォーカスして能力開発をしていく必要があります。細かく具体的に指示を出し、その通りに動いてもらうことから始めましょう。「環境が悪い」「人のせいだ」という主張には、具体的事実をベースに対話することで議論を前進させてください。

 第三に、考え方を変えたいと思うのであれば、同じような環境・人たちの中で成功してキラキラ輝いている先輩たちを複数見せることで、本人が「あんな風になりたい」と思って考え方が変わることがあるかもしれません(変わらないこともありますが)。

 こうした対応でも改善が見られず、業務上の支障が継続する場合は、退職勧奨・解雇という選択肢も視野に入ります。その判断は法的な検討が必要ですので、弁護士にご相談ください。

弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 /  「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

 

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最終更新日 2026/04/05


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