職務・勤務地・労働時間が限定された正社員(いわゆる「限定正社員」)を解雇できるかどうかは、通常の正社員とは異なる法的な考慮が必要です。限定正社員は、使用者の配転・転勤の裁量が契約上制限されている一方、解雇の有効性判断においては、配転による雇用維持が想定されていない分、一定の場合に解雇が肯定されやすくなる側面もあります。
ただし、「限定正社員だから解雇しやすい」という誤解は危険です。解雇の有効性は依然として解雇権濫用法理(労働契約法第16条)に基づき厳格に判断されます。限定性が解雇の合理性の一要素として評価されるにすぎず、合理的理由や社会通念上の相当性が欠ける場合には解雇は無効となります。
本記事では、使用者側・会社側の立場から、限定正社員における解雇制限法理の考え方、勤務成績不良・能力喪失・整理解雇の各場面での有効性判断のポイント、労働契約書の定め方と実態の重要性、そして実務上の対応について解説します。
01限定正社員の特徴と解雇制限法理の考え方
限定正社員とは、労働契約において従事する職務内容、勤務する事業所・地域、または労働時間等があらかじめ特定されている正社員を指します。通常の正社員が幅広い配転・転勤の対象となるのに対し、限定正社員は使用者の人事裁量権が労働契約によって制限されています。
解雇の有効性は、解雇権濫用法理に基づき、①客観的に合理的な理由があること、②社会通念上相当であることの二要件によって判断されます(労働契約法第16条)。この枠組みは限定正社員であっても変わりません。
ただし、限定正社員の場合、解雇の有効性を判断する際に重要な考慮要素として「配転による雇用維持の可能性」があります。通常の正社員であれば、解雇回避措置として他の職種・事業所への配転が検討されます。しかし、職務や勤務地が限定されている場合には、契約上そのような配転が予定されておらず、解雇回避措置として配転を求めることができないため、その分、解雇の合理性が認められやすくなる場合があります。
02勤務成績不良・能力喪失を理由とする解雇の有効性
職務が限定されている正社員について、その限定された職務における能力不足や勤務成績不良が問題となった場合、通常の正社員に比べて解雇の合理性が認められやすい状況が生じ得ます。他職種への配転という解雇回避手段が契約上予定されていないためです。
例えば、特定のIT技術者として採用した限定正社員が、その技術スキルを習得できず、あるいは疾病等によりその業務を全うできなくなった場合、他の業務への配転が予定されていない以上、雇用を継続することが困難という合理的理由が認められる可能性が高まります。
ただし、勤務成績不良・能力喪失を理由とする解雇であっても、直ちに有効となるわけではありません。限定された職務の範囲内での指導・改善機会の付与・業務調整を尽くしたかどうかは引き続き重要な判断要素です。また、解雇前に退職勧奨を行い、本人の意向を確認するプロセスも、社会通念上の相当性の観点から重要です。
03整理解雇(事業所閉鎖・組織再編)における有効性判断
事業所の閉鎖・縮小・業務廃止といった経営上の理由による整理解雇の場面でも、限定正社員は通常の正社員と異なる取扱いがされることがあります。勤務地が限定されている場合、他の事業所への転勤を前提とした雇用維持を求めることが契約上困難であるためです。
例えば、特定の事業所への勤務地限定で採用された正社員が勤務する事業所を会社が閉鎖した場合、他事業所への転勤を強要することは労働契約の内容に反します。このような場合には、雇用継続のために必要な配転・転勤という選択肢がない以上、整理解雇の有効性が肯定されやすくなります。
もっとも、整理解雇は、①人員削減の経営上の必要性、②解雇回避努力、③解雇対象者の選定の合理性、④手続の相当性という四要素から判断されます。限定正社員であることは「解雇回避努力」の判断(配転不可)に影響しますが、他の要素については通常の整理解雇と同様に厳格な検討が必要です。
04労働契約書の明確化と実態の一致が不可欠
限定正社員であることを根拠に解雇の有効性を主張するには、前提として労働契約書・就業規則・雇用条件通知書において、職務・勤務地・労働時間の限定が明確に定められていることが必要です。「口頭で限定正社員として扱うつもりだった」という主張は認められません。
さらに重要なのは、書面上の定めと実際の運用が一致していることです。たとえ労働契約書に「職務限定」と記載していても、実際には別の職種へ配転を行ったり、複数の事業所へ異動させていたりすれば、「実態として無限定正社員と同じ」と評価される可能性があります。
裁判所は契約書の文言のみならず実態を重視するため、限定正社員として採用した後は、その限定内容に沿った人事運用を徹底することが重要です。後日の紛争を防ぐためにも、配転・転勤の指示が生じた場合には、都度本人の同意を書面で取得することが有効です。
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
05よくある質問
Q1. 職務限定の正社員が、限定された職務を遂行できなくなった場合、すぐに解雇できますか?
すぐに解雇できるとは限りません。解雇を有効にするには、①限定された職務範囲内での指導・改善機会の付与・業務調整を尽くしたこと、②配転が契約上不可能であること、③解雇に至る経緯が社会通念上相当であることが必要です。解雇前に退職勧奨を行うことも慎重に検討すべきです。
Q2. 勤務地限定で採用した従業員がいる事業所を閉鎖する場合、整理解雇は有効ですか?
有効となる可能性はありますが、整理解雇の四要素(経営上の必要性・解雇回避努力・対象者選定の合理性・手続の相当性)を充足しているかどうかを検討する必要があります。勤務地限定により他の事業所への転勤が困難な点は「解雇回避努力」の文脈で考慮されますが、他の要素についても慎重な検討が必要です。
Q3. 限定正社員の限定内容は必ず書面で定めなければなりませんか?
法律上、労働契約の内容(就業場所・従事すべき業務)は労働条件通知書で明示する義務があります。また、限定内容を根拠に解雇を主張するためには、書面上の明確な定めが不可欠です。口頭合意だけでは「限定性」を立証することが困難であるため、必ず書面で明確化することが重要です。
Q4. 実際には複数の職種を担当させていた場合、職務限定の効果は失われますか?
その可能性があります。裁判所は契約書の文言だけでなく実態を重視するため、書面上職務限定と定めていても、実際には複数の職種を担当させていた場合、「実質的には無限定正社員と同様」と判断される可能性があります。その結果、解雇回避措置として他職種への配転可能性が考慮され、解雇が無効とされるリスクがあります。
06関連ページ
退職後の競業避止義務の有効性はどう判断されるか?|会社側弁護士が解説
就業規則の不利益変更を有効にする方法・成果主義導入の実務|会社側弁護士が解説
店舗の店長が管理監督者に該当するかが問題になった裁判例|会社側弁護士が解説
最終更新日:2026年5月10日