就業規則に定年の定めがない場合、60歳を超えた正社員に退職してもらうことができるでしょうか。定年制がない以上、労働者は年齢を理由に当然に退職する義務を負わず、使用者側も年齢のみを理由として雇用を終了させることはできません。高年齢者雇用安定法の趣旨や解雇制限法理の観点からも、慎重な対応が求められます。

一方で、業務遂行能力の著しい低下、心身の故障、勤務状況の不良など、年齢以外の客観的事由がある場合には、通常の解雇・退職勧奨の手続を適正に経ることにより、雇用関係を終了させることが認められる場合があります。また、将来に向けた制度整備として、就業規則に定年制を新たに設けることも選択肢の一つです。

本記事では、使用者側・会社側の立場から、就業規則に定年の定めがない場合の基本的な取扱い、合意退職の可否、継続雇用を拒否できる例外的な場合、解雇制限法理との関係、定年制を新たに導入する際の注意点と実務対応を解説します。

01定年の定めがない場合の基本的な考え方

就業規則に定年の定めがない場合、期間の定めのない労働契約を締結している労働者は、年齢を理由として当然に退職する義務を負いません。60歳を超えたという事実だけでは、使用者は雇用関係を終了させることができません。

高年齢者雇用安定法は、65歳までの雇用確保措置として定年延長・継続雇用制度・定年廃止のいずれかを義務付けています。定年の定めがない企業(定年廃止企業)では、年齢のみを理由に高年齢者の継続雇用を拒否することは、同法の趣旨に反します。

したがって、定年の定めがない場合には、通常の無期雇用労働者と同様の枠組みで雇用関係の継続・終了が判断されます。具体的には、解雇の場合には解雇制限法理(労働契約法第16条)が適用され、退職勧奨の場合には真に自由意思に基づく合意が必要となります。

02合意退職(退職勧奨)による対応

会社と労働者が合意のうえで雇用契約を終了させること(合意退職)は、年齢にかかわらず有効です。定年の定めがない場合でも、労働者が自由意思に基づいて退職に合意すれば、雇用関係を終了させることができます。

ただし、退職勧奨にあたっては、使用者の優越的地位を利用した強要と評価されないよう注意が必要です。退職を断った場合に不利益な取扱いを示唆する、執拗に退職を迫る、不当な圧力をかけるといった対応は、退職の意思表示を無効とする原因になり得ます。また、強迫や詐欺を理由として退職合意の取消しを主張される可能性もあります。

退職勧奨を行う場合は、①退職勧奨の理由・目的を明確にする、②複数回の面談を行い、本人が熟慮できる環境を整える、③退職条件(退職金・有給休暇の処理等)を書面で明確にする、④退職届・退職合意書を書面で取得するという手順を踏むことが重要です。

03年齢以外の理由による解雇が認められる場合

定年の定めがない場合でも、年齢以外の客観的事由があれば、解雇または継続雇用拒否が認められる場合があります。高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針は、継続雇用しないことが認められる例として、次のような場合を挙げています。

第一に、心身の故障のために業務に堪えられないと認められる場合です。ただし、傷病の場合は休職制度の適用を経ることが前提となります。第二に、勤務状況が著しく不良で、引き続き従業員としての職責を果たすことができないと認められる場合です。これは、業務遂行能力の著しい低下、業務命令違反の継続、職場規律の著しい乱れなどが該当します。

これらの事情があるとしても、直ちに解雇が有効となるわけではありません。指導・注意・改善機会の付与を尽くしたうえで、なお改善が見込まれない場合に限り、解雇の合理性・相当性が認められます。証拠(業務指示書・注意書・改善計画書等)の整備が重要です。

04定年制を新たに導入する場合の注意点と実務

将来の同様の問題を防ぐために、就業規則に定年制を新たに設けることは有効な対応です。ただし、既存の無期雇用労働者にとって不利益な労働条件変更となるため、就業規則変更の合理性が求められます(労働契約法第10条)。

定年制導入の合理性は、①導入の必要性・目的、②定年年齢の相当性、③既存従業員が受ける不利益の大きさ、④継続雇用制度等の経過措置の有無、⑤従業員代表・組合との交渉経緯を総合的に考慮して判断されます。定年年齢を60歳以上に設定し(高年齢者雇用安定法第8条)、65歳までの雇用確保措置を設けることが必要です。

実務上は、まず現在の雇用年齢構成を把握した上で定年年齢を設定し、継続雇用制度(再雇用制度または勤務延長制度)を整備し、従業員代表への意見聴取・周知を行った上で就業規則を改訂します。既に高齢の在籍従業員への影響を考慮した経過規定も検討すべきです。

弁護士 藤田 進太郎

監修者弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

05よくある質問

Q1. 定年の定めがない会社で、65歳になった従業員に退職してもらえますか?

年齢のみを理由に退職を強制することはできません。本人の合意があれば合意退職が成立しますが、合意がない場合は、業務遂行能力の低下・心身の故障・勤務状況の著しい不良など、年齢以外の客観的事由が必要です。これらの事由がない限り、解雇は無効となります。

Q2. 定年がない会社に、高年齢の問題社員がいます。どう対応すればよいですか?

まず、問題行動・能力不足の内容を文書化し、改善を求める指導を行います。それでも改善が見られない場合には、退職勧奨を経て合意退職を目指すか、客観的事由に基づく解雇を検討します。解雇の場合は労働審判・訴訟リスクを考慮し、事前に弁護士に相談することをお勧めします。

Q3. 定年制を新たに就業規則に設ける場合、在籍中の高齢従業員への適用はどうなりますか?

定年制の導入は就業規則の変更ですが、既に定年年齢を超えている従業員に対して直ちに適用することは難しい場合があります。特に合理的な経過規定(一定期間の猶予など)を設けないまま、既に60歳を超えている従業員に適用すると、変更の合理性が否定されるリスクがあります。

Q4. 定年制を設けたいのですが、定年年齢を何歳にすれば良いですか?

高年齢者雇用安定法第8条により、定年年齢は60歳以上でなければなりません。また、同法は65歳までの雇用確保措置(定年延長・継続雇用制度・定年廃止)を義務付けており、さらに2021年改正により70歳までの就業確保措置(努力義務)が加わっています。実務上は、定年65歳とし再雇用制度を設けるか、定年60歳のうえ継続雇用制度(65歳まで)を設けるパターンが一般的です。

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最終更新日:2026年5月10日