目次
1. 就業規則に定年の定めがない場合の基本的な考え方
就業規則に定年の定めがない場合、期間の定めのない労働契約を締結している労働者は、原則として年齢を理由に当然に退職することはありません。60歳を超えたという理由だけで雇用関係を終了させることはできず、会社経営者としては慎重な対応が求められます。
このようなケースでは、労働者は引き続き無期労働契約の下で就労する地位を有しており、定年到達を理由とする雇用終了を前提にした制度運用は許されません。したがって、「高齢だから辞めてもらう」という対応は、法的に問題となる可能性が高いといえます。
高年齢者雇用に関しては、高年齢者雇用安定法に基づく指針においても、年齢のみを理由とした継続雇用の拒否は認められていません。会社経営者としては、定年の定めがない以上、通常の解雇制限法理と同様の厳しい判断が及ぶことを前提に、対応を検討する必要があります。
まずは、年齢そのものではなく、労働契約上の義務を果たせているかどうかという観点から、現状を整理することが重要といえるでしょう。
2. 合意退職による対応の可否
就業規則に定年の定めがない場合であっても、会社と労働者との間で合意退職が成立するのであれば、雇用契約を終了させること自体に法的な問題はありません。合意退職は、双方の意思が一致して雇用契約を解約するものであり、年齢にかかわらず成立し得るものです。
もっとも、会社経営者として注意すべきなのは、その「合意」が真に労働者の自由意思に基づくものであるかという点です。高齢であることを理由に退職を強く求めたり、不利益な取扱いを示唆して退職を迫った場合には、合意の有効性が否定されるおそれがあります。
特に、実質的には退職を強要したと評価されるような対応は、後に退職の無効や損害賠償請求を招くリスクがあります。会社経営者としては、合意退職を検討する場合には、退職条件や経緯を丁寧に整理し、労働者が十分に検討できる環境を整えることが重要です。
合意退職は有効な選択肢となり得ますが、あくまで例外的な手段であることを踏まえ、慎重に進める必要があるといえるでしょう。
3. 継続雇用を拒否できる例外的な場合
合意退職が成立しない場合であっても、一定の例外的な事情があるときには、60歳を超えた労働者について継続雇用を行わないことが許される場合があります。ただし、その判断は極めて慎重に行う必要があります。
「高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針」では、継続雇用をしないことが認められる例として、心身の故障により業務に堪えられないと認められる場合や、勤務状況が著しく不良で、引き続き従業員としての職責を果たすことができない場合など、年齢以外の解雇事由または退職事由に該当するケースが挙げられています。
もっとも、これらに該当すれば直ちに継続雇用を拒否できるわけではありません。指針においても、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であることが求められるとされており、実質的には労働契約法16条における解雇の有効性判断と同様の基準が適用されると考えられます。
会社経営者としては、高齢であること自体を理由にするのではなく、業務遂行能力や勤務状況など、具体的な事実に基づいて判断する必要があります。また、その前提として、指導や配置の工夫など、可能な対応を尽くしていたかどうかも重要な検討要素となる点に留意すべきでしょう。
4. 解雇制限法理との関係
就業規則に定年の定めがない場合に、60歳を超えた労働者の雇用を終了させることは、形式的には「解雇」に該当します。そのため、年齢にかかわらず、労働契約法16条に定める解雇制限法理が全面的に適用されることになります。
すなわち、解雇が有効と認められるためには、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当といえることが必要です。年齢のみを理由とした解雇は、この要件を満たさず、原則として無効となります。
前項で触れたとおり、「高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針」において例示されている事情は、あくまで年齢以外の理由による解雇事由に該当する場合に限られます。これらの事情が認められない限り、会社経営者が一方的に継続雇用を拒否することはできません。
会社経営者としては、60歳を超えた労働者についても、通常の無期雇用労働者と同様に、厳格な解雇規制が及ぶことを前提に対応を検討する必要があります。感覚的な判断や年齢を理由とした対応は、法的リスクが高い点に十分注意すべきでしょう。
5. 定年制を新たに導入する場合の注意点
就業規則に定年の定めがない状態で高年齢の労働者対応に苦慮している場合、将来に向けた対応として、定年制を新たに導入することも検討に値します。会社経営者としては、定年制の導入が直ちに違法となるわけではない点を理解しておく必要があります。
定年制の採用は、就業規則の変更に当たるため、労働者にとって不利益変更となる可能性があります。ただし、不利益変更に該当したとしても、その変更に合理性が認められる限り、就業規則の変更は有効とされます。合理性の判断にあたっては、定年制導入の必要性や目的、その内容の相当性、労働者が受ける不利益の程度、経過措置の有無などが総合的に考慮されます。
また、定年制を導入する際には、高年齢者雇用安定法との関係にも注意が必要です。定年年齢を60歳以上としたうえで、継続雇用制度を設けるなど、法令に沿った制度設計が求められます。
会社経営者としては、定年制の導入を場当たり的に行うのではなく、将来的な人事制度全体の設計の一環として検討し、労働者への十分な説明と理解を得ながら進めることが重要といえるでしょう。
6. 会社経営者が実務上取るべき対応
就業規則に定年の定めがないまま60歳を超えた期間の定めのない労働者が在籍している場合、会社経営者としては、短期的な対応と中長期的な制度整備の双方を視野に入れる必要があります。
まず、当該労働者については、年齢を理由に雇用終了を検討するのではなく、勤務状況や業務遂行能力など、客観的な事実に基づいて状況を把握することが重要です。合意退職を検討する場合でも、労働者の自由意思を尊重し、強要と評価されないよう慎重に進める必要があります。
一方で、将来的な同様の問題を防ぐためには、就業規則に定年制を明確に定めることが有効です。その際には、定年年齢や継続雇用制度の内容を含め、法令に適合した制度設計を行い、合理性のある就業規則変更として進めることが求められます。
会社経営者としては、目先の対応だけでなく、人事制度全体を見直す機会と捉え、定年制の整備や高年齢者雇用の方針を明確にすることで、将来的な労務トラブルを未然に防ぐことが重要といえるでしょう。
最終更新日2026/2/5
