この記事の結論
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義務付けだけでなく余儀なくされた場合も労働時間になる

業務の準備行為等を使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、特段の事情のない限り指揮命令下に置かれたものと評価できます(三菱重工業長崎造船所事件、最高裁)。

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義務がなく任意性のある行為は労働時間に当たらない

義務付けられておらず、行わなくても不利益が生じない洗身時間等は、指揮命令下に置かれていたとは評価できず、労働時間には当たらないとされています。

 908の記事で解説した労働時間の基本概念を、実務上最も紛争になりやすい「準備・後片付け時間」の場面に当てはめて詳しく解説するのが、本稿の内容です。「始業時刻前の準備作業は各自の自主的な行為だから残業代は不要」という考え方が誤りとなることを示したのが、三菱重工業長崎造船所事件最高裁判決です。

 会社側専門の弁護士の立場から、作業の準備・後片付け時間の労働時間該当性を解説します。

01準備・後片付け時間の労働時間該当性:三菱重工業事件最高裁判決の枠組み

 三菱重工業長崎造船所事件(最高裁平成12年3月9日判決)は、作業の準備・後片付けが労働時間に当たるかどうかについて、現在の実務の基礎となる判断枠組みを示した重要判例です。

 最高裁は、「就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたとき」は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できると判示しました。「義務付け」は就業規則・業務命令による明示的なものを指します。「余儀なくされた」とは、明示的な義務付けがなくても、業務の性質・職場の慣行からみて事実上行わざるを得ない状態を指します。後者は会社経営者が特に見落としやすい概念であり、「命令していないから問題ない」という考え方が通用しない場合があります。

02労働時間と認められた準備・後片付けの具体例

 裁判例で労働時間と認められた準備・後片付けの具体例を確認します。まず、作業服や防護具について、事業所内の所定場所での着用が義務付けられている場合、その装着時間は労働時間に当たります。安全確保のために不可欠な行為として業務と一体的に評価されるためです。

 次に、警備業務において朝礼への参加が義務付けられていた場合や、建設業において会社の車両置場で資材を積み込む準備時間・現場から戻った後の後片付け時間も、業務の開始・終了に不可欠な行為として労働時間と認定されています。また、駅務員の事例では、点呼後に点呼場所から勤務開始場所まで移動する時間が、業務上必要な一連の行為として労働時間に該当すると判断されています。始業時刻の前後だけでなく、業務との一体性・必要性が判断の決め手です。

03労働時間と認められなかった準備・後片付けの具体例

 一方で、準備・後片付けに関する行為が常に労働時間になるわけではありません。使用者の指揮命令下に置かれていたとはいえないとして、労働時間性が否定されたケースも存在します。

 代表例は、三菱重工業長崎造船所事件において、実作業終了後に事業所内の施設で行った洗身時間です。この事案では、洗身を行うことが使用者から義務付けられておらず、また洗身しなければ通勤が困難になるなどの事情もありませんでした。そのため、当該時間は使用者の指揮命令下に置かれていたとは評価できないとされています。また、着替えの時間や更衣室から作業場への移動時間についても、就業規則に特段の定めがなく、タイムカード打刻後に移動するという運用が定着していたようなケースでは、移動時間は労働時間に当たらないと判断されています。任意性があり、自由利用が保障されている行為は、労働時間とは評価されないのが原則です。

04トラブル防止のための実務対応

 まず、準備行為や後片付けが業務上どのような位置付けにあるのかを明確にすることが重要です。業務遂行に不可欠であり、行わなければ仕事が始まらない・終わらない行為については、労働時間として取り扱うことを前提に制度設計を行ってください。

 次に、労働時間に含めないと整理するのであれば、当該行為が義務ではなく、行わなくても不利益が生じない運用になっているかを確認してください。就業規則の記載だけでなく、現場の慣行・上司の指示・暗黙の期待が存在していないかもチェックが必要です。また、始業・終業時刻の管理方法にも注意が必要です。タイムカードの打刻時刻と実際の業務開始・終了時刻に乖離がある場合、実態に基づいて労働時間が認定されるリスクがあります。「準備や後片付けは各自の判断」という曖昧な運用を放置せず、労働時間に含める行為と含めない行為を整理したうえで、制度と実態を一致させることが最も有効なリスク対策です。

05よくある質問(FAQ)

Q. 始業前の作業服着用は労働時間になりますか。

事業所内の所定場所での着用が義務付けられている場合、その装着時間は労働時間に当たります。安全確保のために不可欠な行為として業務と一体的に評価されます。

Q. 作業後の洗身時間は、常に労働時間になりますか。

常にとは限りません。洗身が義務付けられておらず、行わなくても通勤等に支障が生じない場合には、労働時間に当たらないとされた最高裁判例があります。

Q. 「義務付け」がなければ、準備時間はすべて労働時間になりませんか。

なりません(労働時間になり得ます)。明示的な義務付けがなくても、業務の性質・職場の慣行から事実上行わざるを得ない場合(余儀なくされた場合)も、労働時間に該当します。

経営上のポイント 就業を命じられた業務の準備行為等を使用者から義務付けられ、又は余儀なくされたときは、特段の事情のない限り指揮命令下に置かれたものと評価され、労働時間に該当します(三菱重工業長崎造船所事件、最高裁平成12年3月9日)。作業服の着用、朝礼、資材の積み込み等、業務遂行に不可欠な行為は労働時間と認定されやすい一方、義務付けがなく任意性のある洗身時間・移動時間等は労働時間に当たらないとされています。会社側としては、準備・後片付け行為の業務上の位置付けを明確にし、労働時間に含めない場合は、義務ではなく任意の行為として運用されているかを、就業規則と現場の実態の両面から確認することが重要です。労働時間管理の適正化は、会社側・使用者側専門の弁護士にご相談ください。具体的な事情に応じて、実務で使える方針をアドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。労働時間管理の適正化でお困りでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年7月13日


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