本ページの基となる解説動画
本ページの解説内容は、藤田進太郎弁護士による解説動画「毎日2時間近く遅刻して出社し、注意しても口論になるだけで改善しない社員の対処法」「遅刻を注意すると逆ギレして反省せず遅刻を繰り返す社員の対処法」「体調不良を理由に遅刻を繰り返す社員の対処法」を素材として、当事務所が文章化しているものです。本ページの記載と動画の内容に齟齬がある場合や、より詳しい解説をご覧になりたい場合は、動画を直接ご視聴ください。
遅刻を繰り返す社員への対応の基本は、客観的な勤怠記録、事実ベースの注意指導、書面化、段階的懲戒処分という手順に尽きます。逆ギレされる事案では感情的応酬に巻き込まれず事実の確認に徹する姿勢が、体調不良口実の事案では診断書提出要請や産業医面談を活用した真偽判断が、既得権益化した事案ではまず警告と運用改善の告知を経てから段階的処分に進む配慮が必要となります。定年後再雇用拒絶を視野に入れる場合も、事前の丁寧なマネジメントなしには困難であり、今から適切に対応を積み重ねることが結果的に合理的な経営判断となります。
遅刻事案の類型と契約論的整理
遅刻を繰り返す社員への対応を検討するにあたり、まず事案を類型ごとに整理する必要があります。遅刻の態様は単一ではなく、類型により対応の進め方が大きく異なるためです。
遅刻の契約論的位置づけ
遅刻とは、所定の始業時刻に遅れて労務提供を開始する状態をいい、所定労働時間の一部について労務提供が行われない事象です。正当な理由のない遅刻は、労働契約上の債務不履行として評価される行為であり、単なる個人のだらしなさの問題ではなく、契約上の義務違反として会社が正当に対処できる対象です。
遅刻した時間分の賃金は、ノーワーク・ノーペイの原則により、控除が可能です(時間割計算)。もっとも、就業規則にその旨を明示し、実際に控除を行う運用が定着していることが前提となります。詳細は第3章で扱います。
遅刻事案の三つの類型
実務上、遅刻を繰り返す社員の事案は、大きく三つの類型に整理されます。
第一類型は、ルール違反型です。体調上の問題はなく、寝坊、生活習慣の乱れ、ルール軽視等の理由で遅刻を繰り返す社員です。本人に「遅刻しないように」と注意しても、「2時間ぐらいの遅刻は当然の権利だ」といった態度で受け止めるケースや、「毎日2時間近く遅刻して出社し、注意しても口論になるだけで改善しない」というご相談も、この類型に属します。
第二類型は、逆ギレ型です。遅刻自体の頻度はそれほど高くないものの、注意指導をした瞬間に本人が感情的に反発し、「パワハラだ」等の主張を行って、注意指導そのものを成立させないケースです。上司や管理職が注意指導に消極的になる結果、遅刻が黙認され続け、事態が悪化します。
第三類型は、体調不良口実型です。体調不良を理由に遅刻を繰り返すものの、医師の診断書の提出がなく、真に体調不良であるのか判断しづらい事案です。単純な仮病として処断すべきでなく、一方で毎日の遅刻を無条件に受け入れることも職場秩序上相当ではない、難しい類型です。
以下、各類型に共通する基本手順(勤怠記録・注意指導・懲戒処分)と、類型ごとの固有論点を順次解説いたします。
遅刻時間の客観的記録化
遅刻事案の対応の出発点は、遅刻時間の客観的記録化です。注意指導、書面による厳重注意、懲戒処分、解雇のいずれの段階においても、「何月何日に何時何分出社し、合計何分の遅刻があったのか」を客観的証拠により示せる状態であることが、手続の適法性を基礎づける前提となります。
タイムカード及び勤怠管理システムの重要性
遅刻時間の記録化には、タイムカード又は勤怠管理システムの導入が実務上最も有効です。労働基準法及び労働安全衛生法の下で使用者には労働時間の適正把握義務が課されており、客観性の高い勤怠記録の整備はこの義務履行の基本要素でもあります。
中小企業の中には、タイムカード等を導入せず、完全自己申告制で給与計算を行っている会社もあります。このような会社では、遅刻の事実を客観的に立証することが著しく困難となり、後述する自己申告と実態の乖離という問題に直面しやすくなります。遅刻事案への対応を本格化する場合、勤怠管理システムの導入を優先的に検討することをお勧めいたします。
記録すべき情報の粒度
遅刻時間の記録は、日付、所定始業時刻、実際の出社時刻、遅刻時間、遅刻理由の各項目を、日付単位で記録するのが実務上の標準です。遅刻理由については、本人からの申告をそのまま記録するとともに、会社として客観的に確認できた事情(交通機関の遅延証明等の客観資料の有無)も併記します。
これらの記録は、個々の遅刻の事実を特定できる粒度で残す必要があります。「最近遅刻が多い」といった抽象的な把握では、注意指導の際に具体的事実を示すことができず、後の段階的処分にも移行できません。
出社時刻を上司が現認する運用
タイムカードや勤怠管理システムが導入されていない会社、又は本人による不正打刻のリスクがある会社では、上司が出社時刻を現認して記録する運用も有効です。「何月何日何時何分に出社した」という現認記録を、上司の日報、メール、社内メッセージ等に残すことで、客観的証拠として機能します。
遅刻が発生した日には、当日中に本人に対して遅刻事実の指摘を行い、遅刻理由を聴取した記録も併せて残します。これにより、後の注意指導・懲戒処分の際に、個別具体的な事実を示した対応が可能となります。
自己申告制と欠勤控除の適正運用
遅刻事案の実務で頻繁に問題となるのが、自己申告制と実態の乖離です。会社の就業規則では「遅刻した時間分は時間割計算で控除する」と規定されているにもかかわらず、運用実態としては自己申告のまま給与が満額支払われており、実際の遅刻と賃金計算が一致していない事例が散見されます。
「毎日2時間遅刻しても満額支給」の問題点
典型例として、「毎日2時間近く遅刻して出社しているにもかかわらず、自己申告に基づき給与を満額支払っている」という事案があります。タイムカードを設置せず、本人の自己申告を形式的に受け入れて給与計算を行う運用が、現場で長年継続している類型です。
この状態を会社が認識しつつ放置すると、「会社は遅刻を黙認している」と評価され、注意指導や懲戒処分の根拠が著しく弱くなります。「これまで認められていた遅刻を、今更問題視されても困る」との本人側の反論を招き、対応の正当性そのものが失われる結果となります。
経営判断としての選択
遅刻しても賃金を満額支給する制度とするか、時間割計算で控除する制度とするかは、経営者としての経営判断の問題です。就業規則で「遅刻しても満額支給」と明確に定め、それで経営上差し支えないと判断されているのであれば、それ自体に法的問題はありません。
他方、就業規則上は時間割控除が定められているのに、運用実態が乖離しているとなれば、マネジメント不全として評価されかねません。出勤時刻を上司が現認できる状態であるにもかかわらず、本人からの自己申告と異なる記録を残さず、本人の申告通りに給与計算を行っているのは、会社としての管理責任の不履行です。
まず経営者として、どのような制度設計を意図しているのかを明確化します。その上で、就業規則の規定と運用実態を一致させる作業を行い、運用が乱れているのであれば正常化するための周知と指導を実施します。
自己申告と現認記録の乖離への対応
自己申告が実態と異なる場合の具体的対応としては、「本人の申告はこのとおり受領したが、会社として現認したところ実際の出社時刻は別である。自己申告とは異なる記録を採用するため、当該記録に基づき時間割計算を行う」旨を本人に明示し、書面により通知する運用が考えられます。その上で、修正後の賃金計算を実施します。
この対応は、実態と異なる自己申告を是認し続けることによる組織秩序の崩壊を防ぐ意味で重要です。ただし、過去に遡って賃金を返還させる対応は、不利益遡及となる等のリスクがあるため、弁護士と協議の上で慎重に判断することが必要です。
「逆ギレ」される注意指導の問題点
遅刻事案でしばしば直面するのが、注意指導の場で本人が逆ギレして口論になる類型です。上司が遅刻を指摘すると、「なぜ自分だけ責められるのか」「他にも遅刻する人はいる」「パワハラだ」等と反発し、注意指導そのものが成立しなくなる事態が生じます。
逆ギレされると担当者が退きがちになる構造
逆ギレ事案の最大の弊害は、上司や管理職が注意指導に消極的になることです。「また口論になるくらいなら、注意指導はやらないでおこう」という判断が現場で定着すると、遅刻が事実上黙認され、本人は「反発すれば注意指導は止まる」という誤った学習をします。結果として、遅刻の頻度と態度の悪化が進行します。
この状態を放置したまま、ある日突然重い処分や解雇に踏み切ると、「長年注意されたこともないのに、突然処分された」との本人側の主張を招き、処分の有効性が覆されるリスクが高まります。逆ギレされた時点で引き下がらず、冷静に事実を示した指導を継続する姿勢が、結果的に事案解決に最も近い道となります。
感情的応酬に巻き込まれない
逆ギレへの基本的な対応は、感情的応酬に巻き込まれず、事実の確認と改善の求めに徹することです。本人が感情的に反発してきても、上司側は感情で応じず、淡々と「何月何日に何時何分出社し、何分の遅刻であった。これは就業規則第〇条の規定に反する。今後は始業時刻までに出社していただきたい」と事実と要求を明示します。
「やる気がない」「だらしない」といった評価的・人格的な言葉は使用しません。これらの表現はパワーハラスメントと評価されるリスクを高め、本人側の反論の足場を与える結果となります。事実と規定に基づく指摘に終始することが、逆ギレに巻き込まれないための基本姿勢です。
管理職が機能していない場合の経営者の関与
注意指導を任された管理職が、逆ギレを恐れて指導を怠っている場合、その管理職はマネジメント職としての職責を果たしていない状態にあります。経営者としては、当該管理職に対し、注意指導を行うべき義務があることを伝え、必要に応じて指導方法を助言し、改善が見られない場合には管理職人事の見直しを検討することとなります。
管理職が動けない状況であれば、経営者自らが率先して注意指導に関与することも一つの選択です。社長や上席経営陣が直接対応することで、組織として本件を重視している姿勢を示すとともに、以後のマネジメントの土台を築くことができます。
事実ベースの注意指導と書面化
遅刻事案における注意指導は、事実ベース・書面化・口頭と書面の併用という三原則により進めます。この原則を守ることで、改善効果と証拠化の両方を達成することが可能となります。
会議室等に呼んで改まった場で実施する
日常業務の中で立ち話的に注意するのでは、本人に事の重大性が伝わりません。会議室等の改まった場に呼び、面と向かって注意指導を行うことが基本です。立ち話は「形式的に注意した」との印象を残しにくく、事態の改善にも後の証拠化にも十分機能しません。
面談では、具体的な遅刻の事実(日付、時刻、合計頻度)を示した上で、「これは就業規則上の義務違反にあたる。今後は始業時刻までに出社するよう求める」旨を明確に伝えます。同時に、遅刻の理由、改善の見込み、本人として認識している課題等を聴取し、対話の形で進めることで、一方的な指導と受け取られるリスクも抑えられます。
書面による厳重注意への移行
口頭での注意指導を重ねても改善が見られない場合、「厳重注意書」の書面交付に進みます。書面には、対象期間内の遅刻事実(日付・時刻)、違反した就業規則上の規定、今後の改善要求、改善がない場合の取扱い(懲戒処分の可能性等)を、5W1Hを意識して具体的に記載します。
書面交付は、本人に事態の深刻さを認識させる効果があり、同時に後日の紛争において「注意指導を行った事実」を客観的に立証する重要証拠となります。押印済みの書面をPDF化して保管し、その上で本人に原本を交付する運用が標準です。
電子メール単独の注意指導は避ける
電子メールのみの注意指導は、本人の誤解と反発を招きやすく、逆ギレ型事案を悪化させる要因となります。電子メールは文字情報のみで、声のトーンや表情を伴わないため、書き手の意図とは異なる受け止められ方をしやすいという特性があります。
電子メールで注意事項を送る場合であっても、必ず口頭での注意指導とセットで実施します。対面で話すことが困難な場合でも、電話又はオンライン会議による対話を組み合わせ、文字情報だけで完結させないことが実務上の原則です。
体調不良を理由とする遅刻への対応
体調不良を理由として遅刻を繰り返す社員への対応は、単純なルール違反型事案と異なる配慮を要する類型です。本当に体調不良であれば安全配慮義務の問題が前面に出る一方、体調不良が口実として利用されているだけの場合には、漫然と受け入れ続けることは職場秩序上相当ではないためです。
「仮病」と決めつけない姿勢
本人が「体調不良」と主張している以上、十分な根拠なく「仮病」と決めつけて処断することは避ける必要があります。後日、真に体調不良であったことが判明した場合、ハラスメント、不当処分として会社側の責任が問われるリスクが生じます。
まずは具体的な遅刻事実(頻度、時間、期間)を示した上で、「これだけの頻度の遅刻が続いているので、体調の状況を詳しく教えていただきたい」と本人から事情を丁寧に聴取します。この段階で、本当に体調不良であれば、多くの場合には具体的な病状や医師の受診状況について本人から説明がなされます。
診断書の提出を求める
体調不良の主張が続き、遅刻の頻度が一定水準を超える場合には、医師の診断書の提出を求めることが相当です。就業規則に「一定日数以上の欠勤又は遅刻が継続する場合、診断書の提出を求めることができる」旨の規定がある会社では、当該規定を根拠に提出を求めることが可能です。
就業規則に根拠規定がない場合であっても、相当程度の頻度で体調不良を理由とする遅刻が続いている状況であれば、診断書の提出を求めること自体は社会通念上相当な対応として是認されます。提出を促す際には、「会社として安全配慮義務を果たすために、病状の確認が必要である」旨を伝え、本人の療養支援のためであることを説明することで、納得を得やすくなります。
産業医面談の活用
産業医がいる職場では、産業医面談を勧める運用も有効です。産業医は職場の業務内容と医学の両面を踏まえた意見を述べられる立場にあり、「現在の病状で、遅刻することなく通常勤務が可能か」「残業や出張を抑制する必要があるか」といった具体的判断を得ることができます。
産業医面談での意見を踏まえ、本当に体調不良であれば休養や休職の勧奨、残業抑制等の配慮措置に切り替えます。他方、客観的に体調不良と認められない場合には、ルール違反型の遅刻として通常の注意指導・懲戒処分の手順に進むこととなります。
体調不良が真実であった場合の手順
丁寧な事情聴取、診断書、産業医意見により、体調不良が真実であると確認された場合は、遅刻を継続しながら勤務を続けさせるのではなく、休養又は休職の勧奨、時短勤務の検討等、体調不良社員に対する通常の対応に切り替えます。詳細は、関連ページ「体調不良・メンタル不調の社員対応」をご参照ください。
既得権益化した遅刻の是正手順
長年にわたり遅刻が黙認されてきた結果、遅刻が既得権益化している事案は、対応の難易度が特に高くなります。「毎日2時間の遅刻が数年以上続いており、会社もそれを認めてきた」という状態からの是正は、通常の注意指導とは異なる段取りを必要とします。
いきなり懲戒処分はできない
長年黙認してきた遅刻について、いきなり懲戒処分を行うことは実務上困難です。会社側にも黙認という落ち度があるため、「これまで認められていたものを、突然問題視して処分するのは不当である」との本人側の主張に、一定の根拠を与えてしまうためです。
是正の手順は、まず運用方針の転換を明確に告知するところから始めます。「今後は正当な理由のない遅刻を認めない。従来の運用は是正する。次に遅刻した場合は、従来は控除していなかった時間分を控除する。継続する遅刻については、厳重注意・懲戒処分の対象とする」旨を、書面及び口頭で全社員に周知します。全社員向けに周知することで、特定個人を狙い撃ちしているのではなく、組織全体の方針転換であるという位置づけを明確化できます。
告知後の段階的処分
運用方針の転換を告知した後、以後の遅刻に対して段階的処分を開始します。告知からしばらくの観察期間を設け、改善が見られない場合にまず口頭での注意指導、次に書面による厳重注意、その後も改善しない場合に譴責・減給・出勤停止といった段階的懲戒処分へと進みます。
告知を経た後の遅刻については、会社の方針転換後の遅刻として処分の根拠が明確になります。「知らなかった」「これまで認められていた」との弁解が通用しなくなり、処分の有効性を基礎づけやすくなります。
マネジメント体制の同時整備
既得権益化した遅刻の是正は、当該社員個人への対応のみならず、マネジメント体制全体の見直しを同時に行う必要があります。具体的には、勤怠管理システムの導入、管理職への指導体制の教育、経営層の率先した関与等、会社としての組織的対応を整えます。
長年の既得権益化は、特定の社員個人の問題ではなく、組織のマネジメント不全の帰結でもあるためです。個人への処分のみで解決しようとしても、他の社員に対する同様の運用が継続していれば、組織秩序は回復しません。
懲戒処分・解雇・定年後再雇用拒絶の検討
注意指導及び書面による厳重注意を経ても遅刻が改善しない事案については、懲戒処分、退職勧奨、解雇、定年後再雇用拒絶といった、より強い措置の検討に進みます。本章では、各措置の実務判断のポイントを整理いたします。
段階的懲戒処分の運用
遅刻を理由とする懲戒処分は、譴責、減給、出勤停止の順に、段階的に運用するのが原則です。人事院「懲戒処分の指針」では、遅刻・早退について「勤務時間の始め又は終わりに繰り返し勤務を欠いた職員は、戒告とする」と規定されており、民間企業における懲戒処分の軽重判断の参考となります。
軽い懲戒処分を経てもなお改善が見られない場合には、減給、出勤停止と段階を上げます。いきなり重い処分を課すと懲戒権濫用として無効と判断されるリスクがあるため、段階的進行が実務上の安全な選択です。
解雇の判断
懲戒処分を複数回繰り返しても遅刻が改まらず、業務への支障が深刻である場合には、解雇の検討に進みます。遅刻を理由とする解雇の実務的選択としては、普通解雇(予告解雇)が標準です。懲戒解雇や即時解雇にこだわる必要性のある事案はほとんど存在せず、予告解雇により労働契約関係の解消という目的を達成することが可能です。
解雇の有効性が認められるためには、勤怠違反の程度が甚だしいこと、改善機会を十分に与えたこと、業務への重大な支障が生じていることを、客観的証拠により立証できる状態である必要があります。この立証のためにも、第2章以下で解説した勤怠記録、注意指導記録、書面による厳重注意、懲戒処分通知書等の証拠の整備が不可欠です。
定年後再雇用拒絶の可否
60歳定年後の継続雇用制度(再雇用制度)を有する会社において、遅刻を繰り返す社員について再雇用を拒絶することができるかという論点があります。高年齢者雇用安定法の下で、会社には原則として再雇用義務があるものの、解雇事由又はこれに準ずる客観的・合理的理由がある場合には、例外的に再雇用を拒絶することが可能とされています。
遅刻の多さのみを理由とする再雇用拒絶は、事前の丁寧なマネジメントなしには困難です。「マネジメントをきちんと行ってこなかったのに、定年のタイミングで帳尻を合わせようとしている」と評価されると、再雇用拒絶の有効性は認められにくくなります。逆に、定年を迎える前に注意指導・懲戒処分を積み重ねて、遅刻が改まらなかった客観的経過を整えておけば、再雇用拒絶の合理性を基礎づけることが可能となる場合があります。
定年後再雇用を拒絶したい意向があるのであれば、定年を迎える前に適切なマネジメントを積み重ねておくことが、結果的に最も合理的な経営判断となります。「定年まで我慢して、定年で解決しよう」という発想では、解決できない可能性が高いのです。
本人が再雇用を希望しない可能性
もう一つ実務的に重要なのが、適切なマネジメントを行う過程で、本人が自ら再雇用を希望しなくなる可能性です。ルール遵守を厳格に求められる職場環境は、ルーズな働き方を望む社員にとっては居心地の悪いものとなり、本人の側から「こんな窮屈な会社で働き続けるのは嫌だ」と再雇用を希望しない判断に至るケースも珍しくありません。
会社から再雇用を提示しているのに本人が希望しないのであれば、労働契約は定年により自然に終了します。再雇用を拒絶するという困難な判断を回避しつつ、結果として目的を達成できる流れです。定年前のマネジメントを整えることは、この意味でも合理的な経営判断となります。
当事務所のサポート体制
弁護士法人四谷麹町法律事務所は、会社側(使用者側)の労働問題に特化した法律事務所です。遅刻を繰り返す社員への対応については、勤怠管理体制の点検、注意指導の文案作成、書面による厳重注意、懲戒処分通知書の作成、退職勧奨、解雇、定年後再雇用拒絶の判断、紛争化時の労働審判・訴訟対応まで、一貫してサポートいたします。
当事務所では、オンライン打合せを活用した継続的支援を多く採用しております。Zoom等を用いた30分単位のオンライン打合せを、事案の進行に応じて随時実施し、局面ごとに具体的助言を提供いたします。「弁護士に依頼する」というより「弁護士と並走する」イメージで、経営者が判断を孤立して抱え込むことがない体制を整えております。
具体的な支援内容
第一に、勤怠管理体制の点検と改善提案です。タイムカード、勤怠管理システム、自己申告と現認の乖離、就業規則上の規定と運用の整合性を点検し、必要な是正策をご提案いたします。
第二に、注意指導・懲戒処分の文書作成です。厳重注意書、懲戒処分通知書、運用方針転換の社内告知文書等を、事案に即して作成又はレビューいたします。5W1Hを意識した事実記載により、後日の証拠として機能する書面に整えます。
第三に、退職勧奨・解雇・再雇用拒絶の判断です。各措置の実施可否、タイミング、文書作成、想定される反応への対応を、事案に即して助言いたします。
第四に、紛争化時の対応です。労働審判、訴訟、労働組合との団体交渉等が生じた場合、事案発生当初から関与してきた同じ弁護士チームが一貫して対応いたします。
関連ページ 欠勤・遅刻・早退対応の全体像については「欠勤・遅刻・早退を繰り返す社員への対応」(柱ページ)、体調不良を理由とする欠勤・遅刻への対応については「仮病・体調不良が疑わしい欠勤への対応」、無断欠勤・年休使い切り事案については「無断欠勤・年休使い切りへの対応」もあわせてご参照ください。
よくあるご質問
Q.毎日2時間近く遅刻して出社する社員がいます。過去に上司が注意しても口論になるだけで改善しませんでした。どう対応すべきでしょうか。
A.「過去に注意しても改善しなかった」ことは、注意指導をこれ以上行わない理由にはなりません。過去に改善しなかったのは、当時の上司の対応能力の問題か、注意指導の方法が不十分であったためと整理できます。対応能力のある管理職を担当させる、又は経営者自らが率先して関与するといった体制で、会議室での改まった注意指導を再開してください。逆ギレされても感情的応酬に巻き込まれず、事実に基づく指摘に徹する姿勢が重要です。
Q.当社にはタイムカードがなく、自己申告制です。遅刻しても満額給与を支払っていますが、問題ありますか。
A.就業規則で「遅刻しても満額支給」と明確に定め、経営判断としてそれを選択しているのであれば、それ自体に法的問題はありません。他方、就業規則上は時間割控除が定められているのに、運用実態が自己申告のみで乖離しているのであれば、マネジメント不全として評価されかねません。就業規則と運用の一致を図り、必要に応じて勤怠管理システムの導入を検討することをお勧めいたします。
Q.遅刻を注意すると「パワハラだ」と逆ギレされます。注意指導を続けるべきでしょうか。
A.注意指導の際に具体的事実に基づく礼儀正しい指摘がなされていれば、パワハラと評価される可能性は低いといえます。「やる気がない」「だらしない」といった評価的・人格的表現や、大声・威圧的態度を避け、事実ベースの指摘に徹することが基本です。本人の感情的反発に応じて引き下がると、以後「反発すれば注意指導は止まる」との誤った学習を与え、事態が悪化します。冷静に事実を示し、改善を求める姿勢を継続することが解決への道です。
Q.体調不良を理由に遅刻を繰り返している社員がいます。真偽が判然としませんが、仮病として処断してよいでしょうか。
A.十分な根拠なく「仮病」と決めつけて処断することは避ける必要があります。まず具体的な遅刻事実を示した面談で事情を聴取し、必要に応じて医師の診断書の提出を求めます。産業医面談の活用も有効です。真に体調不良であれば、休養・休職・時短勤務等の配慮措置に切り替えます。客観的に体調不良と認められない場合には、通常の注意指導・懲戒処分の手順に進みます。
Q.長年遅刻を黙認してきました。今から是正するにはどうすればよいでしょうか。
A.既得権益化した遅刻を直ちに懲戒処分とすることは困難です。まず運用方針の転換を書面及び口頭で全社員に周知し、「今後は正当な理由のない遅刻を認めない」旨を明確化してください。その後、告知後の遅刻に対して、段階的に口頭注意、書面による厳重注意、譴責・減給・出勤停止等の懲戒処分へと進みます。全社員向けの方針転換として位置づけることで、特定個人への狙い撃ちとの批判を回避できます。
Q.60歳定年を迎える遅刻常習者について、再雇用を拒絶することは可能でしょうか。
A.解雇事由に準ずる客観的・合理的理由がある場合には、再雇用拒絶が認められる余地があります。ただし、事前に注意指導・懲戒処分を積み重ねた客観的経過が整っていない場合、再雇用拒絶の有効性は認められにくいのが実務の通例です。「定年で解決しよう」という発想ではなく、定年前に適切なマネジメントを行うことが、結果的に最も合理的な経営判断となります。なお、適切なマネジメントを行う過程で、本人の側から再雇用を希望しないケースも相当数存在します。
Q.管理職が遅刻に関する注意指導を怠っています。どう対応すべきでしょうか。
A.注意指導を怠っている管理職は、マネジメント職としての職責を果たしていない状態にあります。当該管理職に対し、注意指導を行う義務があることを明示し、指導方法を助言した上で、改善が見られない場合には管理職人事の見直しを検討することとなります。当面の対応として、経営者自らが率先して関与することも有効な選択肢です。遅刻問題の解決は、本人への対応のみならず、マネジメント体制全体の整備と並行して進める必要があります。
Q.懲戒処分を繰り返しても遅刻が改善しない場合、解雇は可能でしょうか。
A.勤怠違反の程度が甚だしく、改善機会を十分に与えても改まらず、業務への重大な支障が生じていることが客観的証拠により立証できる状態であれば、普通解雇(予告解雇)の検討が可能となります。懲戒解雇や即時解雇にこだわる必要性のある事案はほとんどなく、予告解雇により労働契約関係の解消という目的は達成できます。解雇に先立ち、勤怠記録、注意指導記録、書面による厳重注意、懲戒処分通知書等の証拠が整備されているかを十分に点検することが不可欠です。
さらに詳しく知りたい方はこちら
- >欠勤・遅刻・早退を繰り返す社員への対応【柱ページ】
- >仮病・体調不良が疑わしい欠勤への対応
- >無断欠勤・年休使い切りへの対応
- >体調不良・メンタル不調の社員対応【柱ページ】
- >問題社員の懲戒処分【柱ページ】
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
遅刻事案は、初期対応と段階的手順の設計で
結果が大きく変わります。
勤怠管理体制の点検、注意指導の文案作成、懲戒処分通知書の作成、解雇・再雇用拒絶の判断、紛争対応まで、会社側専門の弁護士が一貫してサポートいたします。オンライン打合せでの継続的な伴走支援も可能です。
最終更新日 2026/04/20