仮病・体調不良が疑わしい欠勤への対応

 

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仮病・体調不良が疑わしい欠勤への対応。
決めつけず、放置せず、
客観的事実で判断する手順を解説します。

体調不良を理由に欠勤・遅刻・早退を繰り返しているものの、医師の診断書の提出がなく真に体調不良であるか判然としない事案は、実務上対応の難易度が特に高い類型です。十分な根拠なく「仮病」と決めつけて処断すれば後日の責任問題となり、漫然と受け入れ続ければ周囲の社員の負担と職場秩序の崩壊を招きます。本ページでは、事実関係のリストアップ、出勤時の就労状況による二分、診断書提出要請、産業医面談、継続的観察、安全配慮義務と賃金控除の判断まで、会社側専門の弁護士が会社経営者向けに解説いたします。

VIDEO

本ページの基となる解説動画

 

本ページの解説内容は、藤田進太郎弁護士による解説動画「本当に体調不良で欠勤・遅刻・早退しているのか分からない社員の対処法」「医師の診断書なく、体調不良を理由に週2日程度の欠勤を繰り返す社員の対処法」を素材として、当事務所が文章化しているものです。本ページの記載と動画の内容に齟齬がある場合や、より詳しい解説をご覧になりたい場合は、動画を直接ご視聴ください。

本記事の要点

仮病・体調不良が疑わしい欠勤への対応は、「仮病と決めつけない」「事実関係をリストアップする」「出勤時に労務提供ができているか観察する」という三つの基本姿勢から始めます。出勤時にまともに働けていない場合は安全配慮義務の観点から休養を促し、出勤時は元気であれば診断書提出要請と産業医面談により客観的判断を積み重ねます。継続的な面談を通じて、多くの事案では本人側から自然な形で解消へと進みます。真に体調不良であった場合の対応、真に仮病であった場合の処分、いずれの方向に進む場合も、事実の丁寧な記録化と医学的意見の裏付けが判断の基礎となります。

CHAPTER 01

疑わしい事案の特徴と対応の難しさ

 

 欠勤・遅刻・早退事案のうち、実務上もっとも対応が難しい類型の一つが、本人は「体調不良」を理由として申告しているものの、医師の診断書の提出がなく、真に体調不良であるかが判然としない事案です。「月に7日程度の欠勤、遅刻3回、早退2回」「週2日程度の欠勤が半年以上継続」といった態様で、勤怠が不安定な状態が常態化しているケースが典型です。

経営者を悩ませる「疑わしい」構造

 経営者の側から見ると、本人が「体調不良」を主張しているものの、会社で見かけた限りでは特に体調が悪そうな様子はなく、通常どおりに仕事をこなしているようにも見える、というケースが少なくありません。一方で、休む日には確かに休んでおり、仕事量の低下も認められるため、「仮病だ」と断定することもできないという、グレーゾーンに属する事案です。

 このグレーゾーンで経営者が直面するのが、二つの相反するリスクです。一方には、仮病と決めつけて処断した結果、後日真に体調不良であったことが判明し、ハラスメント・不当処分等の責任を問われるリスク。他方には、漫然と受け入れ続けた結果、周囲の社員の業務負担と職場秩序の崩壊を招き、真面目に勤務する他の社員の不満が蓄積するリスクです。

 いずれも放置できないリスクであるため、決めつけず、かつ放置せず、客観的事実を積み上げて判断を進めるという、慎重で時間のかかる対応が求められます。

周囲の社員を守る責任

 疑わしい事案への対応が重要となる理由の一つが、周囲で業務に従事する他の社員の保護という観点です。一定の社員が継続的に週2日程度の欠勤を繰り返していれば、その業務の穴埋めは周囲の社員に分担されます。「あの社員は仕事を当てにできない」「戦力として期待できない」との認識が職場内に広まれば、業務遂行の効率と他の社員の心理的負担の両面に悪影響が生じます。

 経営者としては、体調不良の本人の健康を気遣うことと同時に、周囲の社員の負担過重を防ぐ責任があります。本ページで解説する対応手順は、本人の健康への配慮と周囲の社員への配慮を両立させる、三方を守る視点に立脚したものとなります。

CHAPTER 02

「仮病」と決めつけてはならない理由

 

 本類型の対応における最も基本的な姿勢として、「仮病と決めつけない」ことが挙げられます。十分な根拠を欠いたまま「仮病」という前提で処遇を組み立てると、対応そのものが正当性を失い、後日の責任問題にも発展します。

決めつけが招く三つのリスク

 第一に、ハラスメントのリスクです。「仮病」という主観的判断を前提に処分、配置転換、評価等を行った場合、後日真に体調不良であったことが判明すると、当該処遇がパワーハラスメント又は差別として責任追及される可能性があります。

 第二に、処分の有効性を失うリスクです。仮病を前提として懲戒処分や解雇に踏み切った場合、前提となる事実(仮病であること)の立証責任は会社側にあります。医師の所見も含めた客観的証拠なく「仮病である」と主張しても、労働審判・訴訟において認められない可能性が高くなります。

 第三に、判断の粗雑化です。「仮病だ」と決めつけると、その前提から逆算して事実を見るようになり、目の前の客観的状況を丁寧に観察する姿勢が失われます。結果として、真に体調不良の兆候を見逃す、あるいは別の配慮が必要な状況を看過する事態を招きます。

「仮病かもしれない」と「仮病である」の区別

 決めつけを避けるとは、「仮病の可能性を検討すること自体を避ける」ことではありません。経営者として、「仮病かもしれない」という懸念を持つこと自体は自然であり、懸念に基づいて事実関係を調査し、客観的判断に至るプロセスを踏むことは適切な経営行為です。

 禁じられるのは、「仮病であると判断できるだけの事実関係が揃わないうちに、仮病を前提とした処遇を行うこと」であり、「調査の出発点として仮病の可能性を意識すること」ではありません。本章以下で解説する各手順は、この「仮病の可能性を検討しつつ、決めつけを避ける」道筋を、実務として整理するものです。

仲間内の雑談は別問題

 経営者間や管理職間の雑談の中で「あれは仮病なのではないか」という話題が出ることは、現実の職場で避けがたいものです。これ自体は、必ずしも問題視されるものではありません。問題となるのは、雑談レベルの推測を、正式な処遇判断の前提として使用することです。

 社内での非公式な会話と、会社としての公式な処遇判断は、明確に分けて運用します。公式判断には、本章以下で解説する客観的手順と記録化を伴うこと、これが本類型対応の基本です。

CHAPTER 03

事実関係のリストアップと客観化

 

 「仮病かもしれない」という印象を、漠然とした感覚のまま扱わず、事実関係をリストアップして客観化する作業が、対応の出発点となります。具体的な事実を書き出すことで、印象と実態の乖離が明らかになり、頭も整理され、正しい判断に近づきます。

リストアップすべき事実項目

 リストアップすべき事実項目は、具体的には以下のとおりです。欠勤・遅刻・早退の日付と時刻、各回の理由(本人からの申告内容)、頻度(月単位の集計)、継続期間、出勤時の就労状況(業務遂行の態様、パフォーマンス、他の社員との関係)、本人の見た目の様子、届出書類の有無と内容、診断書の有無、週末・休日の様子(知り得る範囲で)

 これらを日付単位で時系列に整理することで、「月に7日欠勤、遅刻3回、早退2回が何か月も継続している」「欠勤日の申告理由は体調不良のみで、具体的病名は一貫して不明」「出勤時の業務遂行に明らかな支障が見られる・見られない」といった、客観的に評価可能な実態が浮かび上がります。

職場での仕事状況を見る

 リストアップの中でも特に重要なのが、職場での仕事状況の把握です。職場は労働契約に基づいて仕事を行う場であり、仕事が契約で予定された水準で遂行されていれば、本来問題視する対象ではありません。逆に、仕事がまともにできていないのであれば、本人の体調に何らかの問題が生じている可能性が高まります。

 「見かけ上元気そうか」だけでなく、「担当業務がきちんと完了しているか」「社内で正社員として許容される範囲のパフォーマンスを上げられているか」を観察します。例えば、「新人でも30分程度で完了する業務を、本人は3時間以上かけても完了できない」「以前は問題なく遂行していた業務が、最近は明らかに精度・スピードが落ちている」といった具体的事実が出てくれば、体調不良の可能性を裏付ける重要な情報となります。

リストアップを弁護士と共に行う

 事実のリストアップは、経営者単独で行うよりも、弁護士と協議しながら行う方が実務上有効です。弁護士は、後日の紛争で証拠として機能する情報とそうでない情報の違いを判別でき、必要な情報の粒度と抜け漏れを指摘することができます。

 リストアップの結果を見ながら、「この事実関係を踏まえると、どこまでが言える状態か」「次にどの事実を追加確認すべきか」「どの時点で診断書提出を求めるべきか」といった対応方針を、弁護士と一緒に設計していきます。

CHAPTER 04

出勤時の就労状況による判断の分岐

 

 リストアップの結果から、事案を大きく二つの類型に分けて判断することができます。「出勤時にまともに働けていない類型」と「出勤時は問題なく働けている類型」です。両者では、採るべき対応方針が根本的に異なります。

出勤時にまともに働けていない類型

 出勤してきても業務がまともに遂行できていない状態であれば、本人の体調が実際に悪い可能性が高いと評価できます。この場合、仮病の疑いを深掘りする前に、まず体調不良として適切な対応を組み立てる必要があります。

 具体的には、本人に対して「お医者さんに見てもらった方がよいのではないか」「しばらく休養した方がよいのではないか」と丁寧に勧めることから始めます。本人の納得を得て、医師受診、休養取得、必要に応じて休職の検討に進みます。安全配慮義務の観点から、体調不良と見られる状態で無理に働かせて病状を悪化させることは、会社として避けなければなりません。

 本人が「働ける、大丈夫だ」と言い張る場合には、第3章で整理した具体的事実(新人30分の業務に3時間以上かかる等)を示した上で、面談の場で丁寧に説得します。「通常の社員と比較して明らかに業務遂行ができていない。これは体調が影響していると考えられる」という具体的事実に基づく説得は、説得力があり、本人の納得を得やすくなります。

出勤時は問題なく働けている類型

 他方、出勤してきた日には問題なく業務を遂行し、仕事のスピード・精度も通常水準を維持している、にもかかわらず週2日程度の欠勤が継続している、という類型もあります。この場合、「出勤時これだけ元気に仕事ができているのに、なぜ週2日も休む必要があるのか」という疑問が、合理的に生じます。

 この類型では、仮病又は他の理由による欠勤(副業、私的用事等)の可能性を一定の確度で検討することとなります。ただし、第2章で述べたとおり、十分な根拠なく仮病と決めつけることはできないため、以下第5章・第6章で解説する手順(診断書提出要請、産業医面談、継続的面談)を通じて、客観的判断の基礎を整えていきます。

一時的な休みと継続的な休みの区別

 欠勤の頻度と継続期間も、判断の重要要素です。たまたまある週だけ週2日休んだという程度であれば、特段の対応を要しません。一方、週2日欠勤が3か月、半年、1年と継続しているのであれば、確認作業に本格的に進む必要があります。

 継続期間が長くなるほど、周囲の社員の負担は増加し、職場秩序への影響も深刻化します。会社として対応を躊躇していると、問題が深刻化してから対応するのでは手遅れとなる場合もあります。継続性が認められた時点で、早期に対応を開始することが重要です。

CHAPTER 05

診断書提出要請の実務

 

 疑わしい事案の対応における最も基本的な手段の一つが、医師の診断書の提出要請です。会社として本人の体調状態を客観的に把握するための基礎情報であり、本人の申告を裏付ける(又は反証する)資料として機能します。

就業規則を根拠とした形式的要請

 就業規則に「一定期間(例:連続3日以上)の欠勤について、医師の診断書の提出を求めることができる」旨の規定がある会社では、当該規定を根拠に形式的に診断書の提出を求めることが可能です。就業規則の規定を示しながら、「本規定に基づき、診断書の提出をお願いします」と伝える運用が、最もトラブルを招きにくい形式となります。

 自社の就業規則を点検し、関連規定が設けられていない場合には、将来の同様事案への備えとして就業規則改訂を検討することも合理的です。規定整備は、平時に計画的に進めることをお勧めいたします。

実質的な要請の論理

 就業規則に規定がない場合でも、実質的な要請の論理により診断書の提出を求めることは可能です。「今月は7日欠勤、遅刻3回、早退2回という状態が続いている。このような継続的な勤怠の乱れが体調不良によるものとのご申告なので、会社として安全配慮義務を果たすためにも、具体的な病状を確認する必要がある」といった説明により、診断書提出の正当性を本人に伝えることができます。

 この説明は、会社が本人を疑っているのではなく、本人の健康を気遣い、会社としての責任を果たすために必要な情報であるとの位置づけで行うことが重要です。「あなたを疑っている」「仮病じゃないのか」という文脈で診断書を求めると、本人の反発を招き、手続がこじれます。

診断書が提出された場合の対応

 体調不良を裏付ける診断書が提出された場合には、原則として体調不良を前提として対応します。医師の診断は医学の専門家による判断であり、他の医師の診断や意見が反対するものがない限り、会社として診断内容を覆すことは実務上困難です。

 診断内容に応じて、出社を認めず休養させる、休職制度の適用を検討する、配置転換により負担軽減を図る等の対応に進みます。この段階では、疑わしい事案から通常の体調不良社員の対応に切り替わることとなり、関連ページ「体調不良・メンタル不調の社員対応」の手順に沿って進めます。

診断書が提出されない場合の対応

 診断書提出の要請に対して、本人が提出を拒否する、又は提出を引き延ばし続ける場合があります。この場合、提出しないという事実自体が、対応判断における重要な考慮要素となります。「真に体調不良であれば、診断書の提出は医師の受診により可能であるはず」「提出を拒むのは、医師の診断によって体調不良の裏付けが得られない可能性を示唆する」といった推論が、一定の合理性を持つためです。

 診断書の不提出が続く場合、次章で解説する産業医面談の活用、第7章で解説する継続的面談と観察による対応に進みます。

CHAPTER 06

産業医面談の活用と主治医との関係

 

 疑わしい事案において、医学的判断を得るためのもう一つの重要ルートが、産業医面談です。産業医は職場と医学の両面を踏まえた判断ができる立場にある医師であり、主治医の判断との相互補完により、より精度の高い就労可能性の評価が可能となります。

産業医面談を勧める意義

 産業医面談では、会社側から本人の業務内容、勤怠違反の事実関係、出勤時の就労状況等を情報提供した上で、産業医が本人と面談を行い、「現在の病状で、この業務を遂行することが可能か」「就労継続により病状悪化のおそれがあるか」という観点から医学的意見を述べます。

 主治医の診断は日常生活の回復度を基準とすることが多いのに対し、産業医は職場の業務負荷を踏まえた具体的判断が可能です。疑わしい事案では、本人の就労状況と医学的評価を結び付けた判断が必要であり、産業医面談は不可欠な手続となります。

主治医との意見の相違への対応

 主治医が「体調不良で就労困難」と判断しているのに対し、産業医が「問題なく就労可能」と判断する事案、あるいはその逆の事案が生じることがあります。両者の意見が一致しない場合、双方の判断根拠を照らし合わせ、どちらの信用性が高いかを検討することとなります。

 検討の要素としては、各医師が診察した回数、時間、事実把握の精度、業務内容の理解度、判断根拠の詳細さ等があります。いずれの医師の判断も完全には正確でない場合があるため、会社としては、両者の判断を踏まえた上で、一定のリスクのある中で経営判断を下すことになります。この判断は、医師・弁護士と並走しながら、慎重に進めることが不可欠です。

主治医への直接照会

 本人の同意を得られる場合、主治医に対して会社側から直接照会を行うことも選択肢となります。「本人の業務内容はこのような内容です。現在の病状で、これらの業務を遂行することは可能でしょうか。出張、残業、対人折衝はどの程度可能でしょうか」と具体的な業務内容を示して照会することで、主治医から業務との関係を踏まえた回答を得ることが可能です。

 主治医としても、プロの医師として具体的業務を示されれば、それを踏まえた医学的判断を提供することが多くあります。主治医の漠然とした「体調不良」診断ではなく、具体的業務との関係での意見を得ることで、就労可能性の評価の精度が上がります。

産業医がいない会社の対応

 常時50人未満の事業場では産業医の選任義務はありませんが、スポット契約や嘱託契約による産業医の関与、地域産業保健センターによる医師面談の活用等の選択肢があります。本格的に疑わしい事案への対応を進めるのであれば、医学的判断を得るルートの確保は不可欠であり、いずれかの手段を整備することをお勧めいたします。

CHAPTER 07

継続的な面談と観察の実施

 

 疑わしい事案の対応において、一度の面談や一回の要請で判断が確定することは多くありません。継続的な面談と観察を重ねることで、本人の状態を多角的に把握し、最終的な判断に至ることが実務の基本となります。

定期面談の実施

 週2日程度の欠勤が継続的に続いている社員に対しては、定期的な面談の実施が有効です。月1〜2回程度、会議室等の改まった場で面談を行い、本人から体調の状況、欠勤の具体的理由、医師の受診状況、業務への影響への認識等を聴取します。

 定期面談を制度化する理由は、本人の体調状況の把握と、本人への「会社は状況を継続的に把握している」というメッセージの発信の双方にあります。本人としても、継続的に面談で具体的事実を問われる状況下では、仮に仮病であれば継続的に嘘をつき続けることが心理的負担となり、自然な形での是正につながることが少なくありません。

嘘をつき続けることの心理的困難

 実務上の観察として、具体的事実を問われる面談を継続的に受ける中で、仮病を貫き通せる人は多くないという傾向があります。「今月も7日欠勤していますね。どのような体調不良なのか、もう少し詳しく教えてください」「先週は休む日と出勤する日で、どのような違いがあったのですか」といった具体的な問いかけを重ねられると、嘘をつく負担が蓄積し、本人の側から出社できなくなる、退職を申し出る、といった展開に至るケースも相当数あります。

 もちろん、貫徹的に嘘をつき続けられる人が全くいないわけではありません。ただし、会社として丁寧な事実確認作業を継続することで、多くの事案では自然な形での解消が期待できます。対応を急がず、時間をかけて丁寧な確認を重ねる姿勢が、結果的に最も安定した解決につながります。

真に体調不良であった事案の見極め

 継続的な観察を通じて、真に体調不良であったことが判明する事案もあります。当初は仮病を疑っていた経営者が、継続的な面談と観察の結果として「やはり本当に体調が悪いのだ」と認識を改めることも、実務上珍しくありません。

 このような場合、休養勧奨、休職制度の適用、時短勤務の検討、傷病手当金申請の案内等、体調不良社員への通常対応に切り替えます。「疑わしい事案」への対応は、最終的に「仮病の処分」に至ることを目的とするものではなく、事実に即した正しい判断に至ることを目的とするものです。この原則を忘れず、決めつけを避ける姿勢を継続することが重要です。

記録化の継続

 各回の面談、観察結果、本人の言動、体調状態、業務遂行状況等は、全て日付単位で記録化します。記録は、時系列で連続的に蓄積することで、本人の状態変化や継続性の評価の基礎となります。また、万一の紛争化時には、会社が丁寧な対応を継続してきた客観的証拠として機能します。

CHAPTER 08

出社拒絶と賃金控除の判断

 

 疑わしい事案の対応の中で、特に難しい判断を要するのが、出社を拒絶して休ませる場合の賃金の取扱いです。出社を拒絶する判断自体、そして賃金を控除するかの判断いずれも、事案の状況を正確に評価した上での慎重な決定が必要となります。

出社拒絶が正当化される場面

 出勤してきても明らかに仕事がまともにできない状態にあり、産業医の意見や客観的な業務遂行状況からも体調悪化のおそれが強く認められる場合、使用者の安全配慮義務履行として出社を拒絶し、休養させる判断が正当化されます。この場合の出社拒絶は、本人の利益を守るための配慮措置であり、本人が出社を望んでも受け入れることはできません。

 出社拒絶の実施方法としては、「明日から当面出社しないでください。体調の回復を待って、改めて出社の可否を判断します」と口頭及び書面で伝え、出社してきた場合にも職場に入れない運用を徹底します。強制的な休養となるため、本人の納得を得る努力も重要です。

賃金を控除できる場合・できない場合

 出社を拒絶した期間の賃金の取扱いは、労働者側の事情による労務不履行か、使用者側の事情による休業かにより異なります。本人の体調不良が原因で労働契約で予定された労務提供ができない状態であれば、ノーワーク・ノーペイの原則により賃金支払義務は原則として発生しません。他方、使用者側の事情による休業と評価されれば、休業手当(賃金の6割以上)又は満額の賃金支払義務が生じます。

 本類型の事案では、「体調不良による労務不履行」と「会社都合の休業」の境界線上に立つ判断が必要となります。本人が「働ける」と主張しているのに会社が拒絶した場合、後日の判断次第で休業手当や満額賃金の支払義務が生じる可能性があります。不確実性のある判断であり、弁護士と協議の上で慎重に進めることが不可欠です。

経営判断としての性格

 疑わしい事案における出社拒絶と賃金控除の判断は、不確実な情報の中での経営判断という性格を持ちます。全ての事情が完全に明らかになるまで判断を留保するという姿勢では、事案が長期化し、周囲の社員の負担は解消しません。他方、早すぎる段階での厳しい判断は、後日覆される法的リスクを伴います。

 経営判断としては、「このリスクを取りつつ、こちらの選択をする」という明確な意思決定を行い、その判断の責任を経営者として引き受けることが求められます。判断を下す過程で、医師の意見と弁護士の助言を得ながら、必要最小限の不確実性の中で判断を進めていくことが実務の姿勢となります。

継続的対応の先にある解消

 疑わしい事案の多くは、継続的な事実確認と面談を経る中で、何らかの形で自然に解消していきます。本人が真に体調不良であれば休養・休職・退職等の流れに、仮病であれば面談の負担から本人側の退職や出社継続の改善に、それぞれ進むケースが多いためです。

 経営者としては、結果を急がず、丁寧な対応を積み重ねる姿勢を維持することが、最終的に最も安定した解決につながります。一方で、周囲の社員の負担が限界に達する前に適切な対応を開始することも不可欠です。両者のバランスを取った対応が、弁護士との並走により可能となります。

CHAPTER 09

当事務所のサポート体制

 

 弁護士法人四谷麹町法律事務所は、会社側(使用者側)の労働問題に特化した法律事務所です。仮病・体調不良が疑わしい欠勤への対応については、事実関係のリストアップの支援から、診断書提出要請の文案作成、産業医への情報提供方法の設計、定期面談の実施支援、出社拒絶・賃金控除の判断、紛争化時の労働審判・訴訟対応まで、一貫してサポートいたします。

 当事務所では、オンライン打合せを活用した継続的支援を多く採用しております。疑わしい事案は継続的な判断を要する類型であり、Zoom等を用いた30分単位のオンライン打合せを事案の進行に応じて随時実施することで、局面ごとに最適な対応を確定していきます。「弁護士に依頼する」というより「弁護士と並走する」イメージで、不確実性の高い判断を経営者が孤立して抱え込むことがない体制を整えております。

具体的な支援内容

 第一に、事実関係整理の支援です。会社からのヒアリングを通じて、リストアップすべき事実項目の洗い出し、記録化の粒度、抜け漏れのチェックを行います。

 第二に、本人とのコミュニケーション設計です。面談のシナリオ、診断書提出要請の文案、産業医面談を勧める際の説明内容を、本人の反発を招かない形で設計いたします。

 第三に、医学的判断ルートの整備です。産業医への情報提供書の作成、主治医への照会文書の作成、医学的意見の評価等を、弁護士の視点から支援いたします。

 第四に、出社拒絶・賃金控除・紛争化時の対応です。不確実性の高い判断を要する局面で、事案の状況を踏まえた判断指針をご提示するとともに、労働審判・訴訟対応まで一貫して担当いたします。

関連ページ 欠勤・遅刻・早退対応の全体像については「欠勤・遅刻・早退を繰り返す社員への対応」(柱ページ)、遅刻事案については「遅刻を繰り返す社員への対応」、真の体調不良・メンタル不調対応については「体調不良・メンタル不調の社員対応」(柱ページ)もあわせてご参照ください。

Q & A

よくあるご質問

 

Q.体調不良を理由とする欠勤が続いているのに診断書の提出がありません。仮病として処断してよろしいでしょうか。

A.十分な根拠なく「仮病」と決めつけて処断することは避ける必要があります。後日真に体調不良であったことが判明すれば、ハラスメント・不当処分として責任を問われるリスクがあります。まず事実関係をリストアップし、診断書の提出を要請し、産業医面談を勧めます。これらの客観的手続を経た上で、医学的判断と客観的事実に基づいて対応を進めることが相当です。

Q.週2日程度の欠勤が半年以上続いています。どのタイミングで本格的な対応を開始すべきでしょうか。

A.一時的な数週間の欠勤であればそこまでの対応は要しませんが、数か月以上継続している段階では、対応開始が相当です。周囲の社員の負担が蓄積し始めており、戦力として期待できない状態が常態化しているためです。事実関係のリストアップ、面談による事情聴取、診断書提出要請、産業医面談の検討を順次進めてください。

Q.本人が出勤している日は、一見元気に業務を遂行しています。欠勤の理由が「体調不良」というのは疑わしいのですが、どう確認すればよいでしょうか。

A.出勤時に業務を通常どおり遂行できているのであれば、「これだけ元気に仕事ができているのに、なぜ週2日も休むのか」という疑問は合理的に生じます。ただし、だからといって直ちに仮病と決めつけることはできません。具体的な欠勤日の理由、病状、医師の受診状況を面談で丁寧に聴取し、継続的な欠勤の理由について本人から説明を求めてください。必要に応じて診断書の提出を求めます。

Q.本人が医師の受診を拒否しています。会社として受診を強制できますか。

A.本人の意思に反して医師の受診を強制することは、原則としてできません。ただし、会社として産業医面談を勧めることは可能であり、産業医面談は就業規則上の業務命令として求めることができる場合もあります。また、診断書の提出要請自体は可能であり、本人が応じないとの事実は、後の判断における重要な考慮要素となります。

Q.主治医は「体調不良で就労困難」、産業医は「問題なく就労可能」と意見が分かれました。どう判断すべきでしょうか。

A.両者の意見が分かれた場合、どちらの信用性が高いかを慎重に検討します。検討要素としては、各医師の診察回数・時間・事実把握の精度・業務内容の理解度・判断根拠の詳細さ等があります。本人の同意を得て主治医に直接照会する、追加の産業医面談を実施する等の確認作業を経た上で、最終的には経営判断として方針を確定します。この局面は、弁護士と並走しての判断が不可欠です。

Q.出社拒絶して休ませる場合、賃金は払わなくてよいでしょうか。

A.賃金の取扱いは、労働者側の事情による労務不履行か、使用者側の事情による休業かにより異なります。本人の体調不良が原因で労務提供ができない状態と評価されれば、ノーワーク・ノーペイの原則により支払義務は生じません。他方、使用者側の事情による休業と評価されれば、休業手当(6割以上)又は満額の賃金支払義務が生じる可能性があります。境界線上の判断となるため、弁護士と協議の上で慎重に決定してください。

Q.就業規則に診断書提出に関する規定がありません。どうすればよいでしょうか。

A.就業規則に規定がない場合でも、実質的な要請の論理により診断書の提出を求めることは可能です。継続的な勤怠の乱れが体調不良によるものとの申告である以上、会社として安全配慮義務を果たすために病状確認が必要であるとの説明で提出を求めます。将来の同種事案への備えとして、就業規則への関連規定の追加を検討することをお勧めいたします。

Q.周囲の社員の負担が限界に達しています。対応を急ぎたいのですが、どうすればよいでしょうか。

A.周囲の社員を守る責任は経営者の重要な責務です。対応を急ぐ必要があるのであれば、事実関係のリストアップ、面談による事情聴取、診断書提出要請、産業医面談を短期間に集中的に実施します。判断の不確実性は残るものの、一定のリスクを引き受けた上での経営判断を進めることとなります。並行して、業務分担の見直し、応援要員の手配等、周囲の社員への配慮措置も実施してください。全ての局面で弁護士と並走することが不可欠です。

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SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

 
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最終更新日 2026/04/20