問題社員298 客先とトラブルを起こして契約を打ち切られる。
動画解説
この記事の要点
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最も重要なのは適正配置。危ないと感じたのであれば、少なくとも重要な仕事は任せない 「本人ができると言ったから任せた」は、仕事を割り当てる理由にはならない。任せるかどうかを判断するのは経営者である |
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その社員を外せないのであれば、信頼できる人物を関与させる。一人に丸ごと任せる体制はリスクが高い 営業先への同行、現場の管理者の配置により、トラブルの抑止と情報の早期把握の両方が期待できる |
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悪気なくトラブルを起こしてしまう社員も存在する。モラルを説いても状況は変わらない その業務に向いていないのであれば、本人に向いた仕事への配置転換を検討する方が、双方にとって建設的である |
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損害が生じた後の損害賠償請求は、焼け石に水になることが多い。賠償額は信義則上大きく制限され、回収も容易ではない 弁護士への相談も、損害賠償を検討する段階では遅い。「この社員は危ないのではないか」と感じた段階での相談が有効 |
目次
1. 客先とのトラブルが会社に与える損失
客先とのトラブルが多い社員がいると、会社は本当に困ります。注意しても改善しない場合はなおさらです。トラブルの結果、契約を打ち切られてしまえば、会社の売上が大幅に減少することもあります。企業規模によっては、それだけで会社経営が傾きかねません。その結果、他の社員の待遇にも影響が及ぶことになります。
さらに、経営者に対する信頼も損なわれます。社内で働く社員からの信頼という意味でも、顧客からの信頼という意味でもです。そこで本記事では、客先とトラブルを起こして契約を打ち切られる社員への対処法について解説します。
2. 最も重要なのは適正配置
この問題について最も重要なのは、適正配置です。
「この社員にこの仕事を任せたら危ないのではないか」と感じたのであれば、任せない。少なくとも、重要な仕事は任せない。その危うさの程度に応じて、重要度の低い業務や契約金額の小さい案件を割り当てていく。これが基本になります。
チャレンジさせるのであれば、失敗する覚悟を持つ
「この社員は微妙だ」と分かっていながら重要な仕事を割り当て、案の定失敗してしまったというケースがあります。本人にチャレンジさせようという意図だったのかもしれません。しかし、それならば失敗する覚悟の上で任せるべきです。傍から見ても失敗する可能性が相応にあると分かっており、経営者自身もそれをはっきり感じ取っていたのに任せ、やはり失敗してしまったというのでは、残念な結果と言うほかありません。
大丈夫だと考え、これがベストだと判断して任せた結果の失敗であれば、やむを得ないものとして納得もできるはずです。問題なのは、失敗した後に「裏切られた」と感じてしまうような任せ方をしていた場合です。
3. 「本人ができると言ったから」は、任せる理由にならない
「本人ができると言ったから任せたのに」という言葉をよく耳にします。しかし、本人がそう述べたかどうかは、考慮要素の一つにすぎません。それ自体は、その社員にその仕事を任せる理由にはなりません。
本人の言葉を一つの材料としつつも、その人物にその仕事を任せて本当に大丈夫なのかを判断するのは、経営者の役割です。
もちろん、あらゆる業務にはリスクがあります。うまくいかない可能性を計算に入れた上で、それでも誰かに任せなければならないから任せたということは当然にあり得ます。しかし、「この社員に任せればおおむね失敗するだろう」と分かっていながら、本人が大丈夫だと言うから任せた、という判断は避けなければなりません。不確実性がある中でも、誰にどの仕事をどのように割り振るのか、ベストを尽くして判断することが極めて重要です。
4. 外せない社員には、信頼できる人物を関与させる
適正配置を考える上で、次に重要になるのが、信頼できる人物を関与させるということです。事業の内容によっては、その社員を完全に外すわけにはいかないというケースも多いでしょう。その場合、信頼できる社員と組ませて仕事をさせることで、問題を軽減できることがあります。
信頼できる人物を関与させることの効果
| 営業先に同行させる | その場でトラブルの芽に対応できるほか、同席者がいること自体が、不適切な言動の抑止になる |
| 現場に管理者を置く | 特定の事業場で就業させる場合、管理する立場の社員を配置し、何が起きているのかをすぐに把握できるようにする |
| 情報が経営者に届きやすくなる | 信頼できる社員が現場にいれば、現場の情報が経営者の耳に入りやすくなり、適切な判断がしやすくなる |
一人にまるごと任せてしまうと、リスクは著しく高くなります。その社員を外すわけにはいかない業務であっても、他の社員と組ませるか、少なくとも現場レベルで状況を把握できる体制を整えた上で対応することで、トラブルは減らせるはずです。
5. 悪気なくトラブルを起こす社員には、配置転換も検討する
ここで一つ、覚えておいていただきたいことがあります。意図的にトラブルを起こす社員ばかりではないということです。悪気なく、本人としては普通にやっているつもりでトラブルを起こしてしまう社員も存在します。
このような社員に対して、モラルを説いても状況は変わりません。悪気なくトラブルを起こしてしまうのですから、心構えの問題として話をしても、本人には何をどう変えればよいのかが分からないからです。要するに、その業務が本人に向いていないのだと考えるべき場合があります。
教育指導によってレベルアップを図ることも一つの方法ですが、最低限の基礎的なことすらできないという状況であれば、成長を期待することは難しいと言わざるを得ません。あまりにも向いていない、悪気なくトラブルばかりを起こしてしまうという社員については、配置転換を検討する方が建設的です。本人に向いている仕事は何なのかをよく考え、その業務に就けてあげるという発想も必要でしょう。社内に適した業務が見当たらない場合には、他の会社やフリーランスとして自分に向いた仕事を探していただくという選択肢も、視野に入れざるを得ないことがあります。
弁護士への相談は、この段階から
まずは配置を会社として決めることが出発点ですが、「周囲とうまくいっていないようだ」「客先とのトラブルがやたらと多いようだ」という状況になったのであれば、厳重注意や懲戒処分といった法的な手段を検討する前の段階、つまり大きな事件が起きる前の段階で弁護士に相談されることをお勧めします。配置転換を含め、どのようなタイプの問題である可能性が高いのかという見立ても含めて、ご一緒に検討することができます。
6. 損害賠償請求は焼け石に水になることが多い
トラブルによって損害が生じてしまった場合、社員に対する損害賠償請求を考える経営者は少なくありません。しかし、損害賠償請求は焼け石に水になることが多いという点は、あらかじめ知っておいていただきたいところです。
賠償額が制限される理由
会社は、人を雇うことによって事業を拡大し、利益を得ています。そうである以上、人を雇った結果として生じた損害についても、ある程度は会社が負担すべきであるという考え方があります。また、一定の危険を伴う事業を営んでいる以上、その危険が現実化した結果についても会社が負担すべきではないか、という考え方もあります。
最高裁も、使用者が労働者に対して損害賠償を請求できるのは、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度に限られるとしており、実務上、賠償額は大きく制限されるのが通常です。
実際のところ、軽い過失があった程度では損害賠償請求が全く認められないことも多く、重大な過失があった場合であっても、実際の損害の半分、あるいは3割程度しか認められないということも珍しくありません。故意に損害を与えたようなケースであれば全額に近い賠償が認められる可能性もありますが、そもそもそのような社員をなぜその業務に配置したのかという、配置判断そのものの問題になってしまいます。
さらに、裁判で勝訴したとしても、相手方に資力がなければ回収はできません。このような事態を起こす社員の中には、十分な資産を持たない方も少なくなく、回収に至らないケースも普通にあります。分割払いの和解が成立しても、途中から支払いが止まり、やがて破産手続開始の通知が届く、ということも実務上よく見られるところです。
7. 身元保証人への請求にも限界がある
それでは、身元保証人に対する請求はできないのでしょうか。請求できる場合もありますが、本人以上に認められる額が制限されることが多いというのが実情です。
そもそも本人のレベルで、軽過失であれば減額され、重大な過失があっても一部しか認められないことが多いことは、先に述べたとおりです。加えて、身元保証に関する法律は、裁判所が身元保証人の責任やその金額を定めるにあたり、使用者の監督に関する過失の有無、身元保証をするに至った事由、被用者の任務や身上の変化その他一切の事情を斟酌するものと定めています(身元保証ニ関スル法律5条)。したがって、身元保証人に対する請求は、さらに制限を受けることになります。
身元保証契約について、あわせて確認しておきたい点
- 期間の制限:期間を定めない場合は原則3年、期間を定める場合でも最長5年です(身元保証ニ関スル法律1条、2条)。自動更新はされませんので、期限切れのまま放置されている例が少なくありません
- 極度額の定めが必要:2020年4月1日以降に締結された身元保証契約は、賠償額の上限となる極度額を定めなければ無効となります(民法465条の2)。極度額の定めのない身元保証書を使い続けている会社は、この機会に見直しをお勧めします
身元保証人は、本人との連絡役として、また事実上間を取り持ってくれる存在として有用ですし、自発的に責任を果たしてくれることもあります。もっとも、本人にまったく資力がないケースで、身元保証人に全額を負担してもらおうとしても、期待どおりの金額を回収できないことはよくあります。過度に期待しすぎることなく、その中でベストを尽くすということになります。
8. それでも損害賠償請求を行う意味
そうすると、大きな損害が生じてしまった後の損害賠償請求とは、一体何なのかということになります。
実務上は、どれだけの損害が生じたのかを数字で評価し、説明がつく状態にしておく必要があるという観点から、コンプライアンス上の要請として、しっかりと請求を行い、金額を確定させ、債権回収の努力をするという発想で進めることがあります。損得勘定ではなく、筋を通すために行うというイメージです。筋は通るかもしれませんが、収支としてはマイナスになることもありますし、損害を実際には回復できないという結果も珍しくありません。
そして、それとは別に、会社の信頼が損なわれるという問題があります。顧客からすれば、その社員も会社側の人間です。「なぜこのような社員を担当に付けたのか。経営者は何を考えているのか」という目で見られます。取引の打ち切りや重要な取引先の喪失といった事態に至れば、社内の社員からも「なぜこの社員に、この体制でこの仕事をさせたのか。会社の仕組みづくりが間違っていたのではないか」という目で見られることになります。
起きてしまったことについては、損害賠償請求を行わざるを得ないこともあります。しかし、可能であれば、そのような事態に至る前の段階、「この社員は危ないのではないか」と感じた段階でご相談いただく方が、会社が大きなダメージを受けずに済む可能性が高まります。
9. 注意指導と業務命令書の活用
実際に問題行動があり、トラブルになってしまった場合には、注意指導や業務命令などを個別に検討していくことになります。問題のある言動に気づいたら、その都度対応してください。反発する社員もいますが、逃げてはいけません。やるべきことをせずに問題が拡大すれば、顧客からは無責任と映りますし、周囲の社員からも、問題行動を取り締まることすらできない経営者だと見られてしまいます。
問題が大きい言動については、業務命令書、厳重注意書、懲戒処分通知書などを交付することもあります。
業務命令書が有効な理由
客先でトラブルを起こす社員の中には、会社の指示どおりのやり方で仕事をしない社員が相応の割合で存在します。「このように仕事をしてください」と伝えても、そのとおりにしない。逆に、「やめてください」と伝えていることを客先で行い、顧客からクレームが入る。業務と関係のない余計なことをして迷惑をかけてしまう。こうしたケースでは、「このような方法で仕事をすること」「このようなことはしないこと」という業務命令を明確に出していくことが有効です。
会社との契約に基づき履行すべきことが履行されず、あるいはしてはならないことが行われているのに、会社が放置したままでは、顧客との信頼関係が損なわれてしまいます。一緒に働く社員にとっても、その社員が勝手なことをするために仕事がやりにくいという事態が生じます。業務命令をしっかりと出し、会社の決めた方針どおりに業務を行ってもらうことが、顧客の信頼を回復することにもつながります。
このような社員は、注意指導にせよ業務命令にせよ、反発することが多いのが現実です。会社側の受け答えを誤ると、揚げ足を取るような反論をしてくることもありますので、適切な言葉を選ぶことも重要です。書面の作成に限らず、どのように受け答えをすべきかという点も含めて、不安がある場合は弁護士に相談することをお勧めします。
10. まとめ
- 最も重要なのは適正配置。危ないと感じたのであれば、少なくとも重要な仕事は任せない
- 「本人ができると言ったから」は任せる理由にならない。判断するのは経営者である
- 外せない社員には、信頼できる人物を関与させる。一人に丸ごと任せる体制はリスクが高い
- 悪気なくトラブルを起こす社員には、モラルを説いても変わらない。向いている仕事への配置転換を検討する
- 損害賠償請求は焼け石に水になることが多い。賠償額は信義則上大きく制限され、回収も容易ではない
- 身元保証人への請求にも限界がある。期間の制限や極度額の定めについても確認しておく
- 注意指導・業務命令書を活用し、会社の方針どおりに業務を行ってもらう
- 弁護士への相談は、損害賠償を検討する段階では遅い。危ないと感じた段階での相談が有効
後から損害賠償請求で何とかしようという発想は、現実的とは言えません。後からではなく、事前に適切な人物を適切な仕事に割り当てる。この発想で対応していくことが大切です。客先とトラブルを起こす社員への対応でお悩みの経営者の皆様は、大きな事件が起きてしまう前に、ぜひ弁護士にご相談ください。
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. トラブルによって生じた損害を、その社員の給与から天引きして回収することはできますか。
A. できません。賃金は、法令に別段の定めがある場合や労使協定がある場合を除き、その全額を支払わなければならないとされています(労働基準法24条1項)。会社が損害賠償請求権を有していたとしても、これを賃金債権と一方的に相殺することは、この全額払いの原則に反し許されません。本人の自由な意思に基づく同意があると認められる場合には相殺が有効となる余地もありますが、その要件は厳格に判断されます。給与天引きによる回収は違法となるリスクが高いため、必ず事前に弁護士に相談してください。
Q2. 客先とのトラブルを繰り返す社員を、別の部署へ配置転換することはできますか。
A. 就業規則等に配転を命じ得る根拠規定があり、職種や勤務地を限定する合意がない場合、会社には配転命令について比較的広い裁量が認められています。客先とのトラブルの再発防止や適性に応じた人員配置は、業務上の必要性を基礎づける事情になり得ます。もっとも、不当な動機・目的による場合や、労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合には、権利の濫用として無効となることがあります。営業職限定での採用など職種限定の合意がある場合には、本人の同意が必要になることもありますので、進め方は弁護士に相談してください。
Q3. 客先とのトラブルで契約を打ち切られたことを理由に、その社員を解雇できますか。
A. 慎重な検討が必要です。解雇が有効となるためには、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる必要があります(労働契約法16条)。損害が大きいという結果だけで解雇が有効になるわけではなく、本人の行為の悪質性、注意指導や改善の機会を与えてきたか、会社側の配置や管理体制に落ち度がなかったかといった事情が考慮されます。むしろ、危ういと分かっていながら重要な業務を任せていたという事情は、会社側に不利に働き得ます。解雇や退職勧奨を検討する段階では、必ず事前に弁護士に相談してください。
最終更新日:2026年7月17日