問題社員299 仕事の成果を意図的にミニマムラインしか出さない。
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この記事の要点
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まず確認すべきは、その社員が契約上の義務を果たしているかどうか。果たしているのであれば、労働契約上の問題があるとは言いにくい 他の問題社員と異なり、この問題は法的な違反の有無ではなく、モチベーションと制度設計の問題として捉える必要がある |
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最低限を超えて頑張ることにどのようなメリットがあるのかを、経営者自身が言語化して説明できるようにする 説明もせずに「察してほしい」というのでは、伝わるはずがない |
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言葉だけでは足りない。頑張った社員が現に報われ、幸せそうに働いているという事実を示せるかどうかが決定的 5年後、10年後の先輩の姿こそが、最も説得力のあるメッセージになる |
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「言わなくても察して行動しろ」という発想は、リスクを社員に転嫁するものであり、公正とは言い難い どのような会社にしたいのか、何を義務とするのかを、経営者が主体的・戦略的に決めることが出発点になる |
目次
1. なぜ最低限以上の仕事をしないのか
意図的ではないかと疑われるほど、最低限の仕事しかしない社員がいる。経営者の目線からすれば、最低限の仕事しかできない社員がそれ以上をやらないのは仕方がないとしても、もっとできるはずの社員がやらないという状況は、歯がゆく感じられるものです。
もっとも、働く側からすると、そもそも最低限を超える仕事をする意味があるのかと考え、頑張る意味が感じられないからやらない、というケースが多いのが実情です。経営者としては、目先の損得ではなく、今頑張って求められている以上のものを出すことで、将来より良い方向に進むのだという発想をお持ちの方が多いところですが、それが通じる相手ばかりではありませんし、それが報われる職場ばかりではないというのも、また現実です。
そこで本記事では、仕事の成果を意図的にミニマムラインしか出さない社員への対処法について解説します。
2. 前提の確認:契約上の義務を果たしているか
最初に確認すべきは、その社員が契約上の義務を果たしているのかという点です。
「仕事の成果を意図的にミニマムラインしか出さない」という言葉からは、最低限の仕事はできている、という状況が読み取れます。労働契約において予定されている義務を果たしているのであれば、労働契約上の問題があるとは言いにくいところです。
この問題の性質を正しく捉える
労働者は、労働契約に基づき、債務の本旨に従った労務を提供する義務を負っています。逆に言えば、その義務を果たしている限り、義務の履行という点で法的な問題を指摘することは困難です。職場の活気が失われるという悩みはあるにしても、契約上の違反として構成することは難しいと言わざるを得ません。
そうなると、これは注意指導や懲戒処分によって解決すべき問題ではなく、「上を目指したい」「やった方が得だ」と思ってもらえるかどうかという、モチベーションと制度設計の問題ということになります。
3. 頑張ることのメリットを言語化する
そう考えると、最も大事なのは、ミニマムラインを超えて成果を出すことにメリットがあるのか、それによって幸せになれるのか、という点に尽きます。
したがって、経営者がまず行うべきは、それを言語化することです。どうしてミニマムラインを超えて頑張り、成果を出すことで幸せになれるのかを、説明できる状態にしておく。これが最低限やるべきことです。その説明をしようともせずに、「そのくらい察してほしい」というのでは、伝わるはずがありません。
4. 言葉だけでは足りない。報われている先輩の存在を示す
もっとも、言葉だけでは信用されません。どれだけ美しい言葉を並べたところで、実際にそれで幸せになっている社員がいなければ、信じてもらえるはずがないのです。
ミニマムラインを超えて頑張り、成果を出した結果、どれだけ良い思いができるのか、幸せになれるのか。それを見せる必要があります。
短期と長期、二つの視点
| 短期的な視点 | 最低限の働き方をしても頑張っても、評価が変わらない、給与が変わらない、賞与が変わらないという仕組みであれば、頑張るモチベーションにはなりません。頑張れば評価が上がり、給与や賞与に反映されるという設計になっているかを確認する必要があります |
| 長期的な視点 | 5年後、10年後、20年後にどうなるのか。ミニマムラインを超えて頑張ってきた先輩たちが大勢会社に残っており、皆が幸せそうに働いている。そうした姿を示すことができれば、頑張ろうという社員も出てきます。「自分もあの人のようになりたい」と思える先輩が多くいるかどうかが、決定的に重要です |
逆に、長い目で見ても、頑張ってきた社員が疲れ果てた顔で働いているようであれば、誰もそうなりたいとは思いません。それでは頑張るはずがなく、最低限の仕事にとどめておこうと考えるのは、むしろ自然なことです。管理職になることが罰ゲームのように受け止められている会社も見られますが、そのような状態で「もっと頑張れ」と言っても、説得力はありません。
5. それでも最低限しかやらない社員がいる場合
頑張れば成果に応じて給与も賞与も上がり、頑張ってきた社員が生き生きと働いている。そのような会社であっても、最低限しか働かない社員はいるでしょう。
しかし、それはそれで受け入れることになるのではないでしょうか。全員がそうであるわけではないでしょうし、そもそもミニマムラインをその水準に設定したのは会社です。ある意味で、経営者自身が「それでよい」と決めた水準なのです。
これはミニマムラインをどの水準に設定するかという問題であり、経営者が、場合によっては労使で話し合って決めたことです。その水準で良しと会社が考えているのであれば、それを守っている社員を問題視することには無理があります。
6. 要求水準を引き上げたい場合の注意点
「それでは良しとしない。要求水準を引き上げたい」という発想を持たれる経営者もいらっしゃるでしょう。それも一つの方法ですが、社員の側からすれば既得権を奪われる形になりますので、トラブルが生じやすい領域です。
「今までがおかしかったのだ。改革するのだ」として、何の見返りもなく水準だけを引き上げれば、混乱が生じます。会社としては見返りを用意できる状況にないのかもしれませんが、社員の側から見れば不利益だけを課されることになるからです。
労働条件の変更として法的な検討が必要になる場合がある
要求水準の引き上げが、賃金や評価制度の変更を伴う場合や、就業規則の変更によって行われる場合には、労働条件の変更の問題となります。労働条件は、労働者と使用者の合意によって変更するのが原則であり(労働契約法8条、9条)、就業規則の変更によって労働者に不利益に労働条件を変更する場合には、変更後の就業規則を周知させ、かつ変更の内容が、労働者の受ける不利益の程度、必要性、内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の事情に照らして合理的であることが求められます(同法10条)。
運用の見直しにとどまるのか、労働条件の変更に当たるのかは、事案によって判断が分かれるところです。改革に踏み切りたいという場合は、進め方の設計段階から弁護士に相談されることをお勧めします。
7. 根本的な話:主体的・戦略的に考える
ここまでが基本的な対応ですが、より根本的な話として、経営者が主体的・戦略的に考えることが重要になります。
どのような形で働いてもらいたいのか。働いてもらったことに対して、どのように報いていくのか。それを言語化して伝えていく。これを経営者自身が主体的に考えていただきたいのです。
経営者の中には、「社員の方こそ主体的に動いてほしい」「こちらから言わなくても自発的に動いてほしい」という思いを強くお持ちの方がいらっしゃいます。「いちいちこちらから教えていては、いつまでも成長しない。だからあえて言わない。最低限の仕事だけではいけないのだと自分で気づいて、さらに上を目指してほしい」というお考えです。
うまく回っている会社であれば、それでよいのです。しかし、うまくいっていない会社の場合、これはやりたくないことをお互いに押し付け合っているだけという状態に陥っていることがあります。
お互いに「主体的に動いてほしい」と思っている状態
主体的に動いても働く側があまり得をしない会社では、得をする社員がいても例外的であり、すぐには報われず、長い目で見ても先輩たちが幸せそうではない。そうした状況で「自発的に動いて会社に貢献しなさい」というのは、無理な話です。
会社の側は「はっきりとやってくださいとは言わないが、やってくれた分については、すぐに報いなくてもよい。将来的に報いるのだから、そう短期的に考えるものではない」という感覚でいることが多い。他方で社員の側は「経営者の方こそ動いてほしい」と思っている。こうして、お互いに嫌なことを押し付け合うような状態になり、職場の雰囲気が悪くなっていくのです。
そもそも、ミニマムラインをその水準に設定したのは会社です。その水準が低すぎると感じているのかもしれませんが、給与もそれに見合った水準になっているのかもしれません。ミニマムラインが極めて低いのに高額の給与を支払っているというのであれば別ですが、それ相応の給与であれば、その低い水準で釣り合っているという見方もできます。フェアな制度を作るよう努力してみてはいかがでしょうか。
8. 「察して行動しろ」はリスクの転嫁になりかねない
「ミニマムラインとは、やろうと思ってもできない社員のためのものであって、できるのならやらなければおかしいではないか」と思われた経営者も多いのではないでしょうか。
しかし、そのルールを決めたのは会社です。話し合って決めたのかもしれませんが、いずれにせよ決めたことに違いはありません。そのとおりに働いている社員に対して、後からそれはおかしいと言うのでは、筋が通りません。何をやらなければならないのか、何が義務なのかというところまで含めて、経営者が主体的に決め、必要であれば交渉して合意をまとめていく必要があります。
「義務ではないが察して行動しろ」という考え方の問題点
義務ではないと整理しておきながら、察して行動することを期待するというのは、少々傲慢な考え方ではないでしょうか。それは、報われなかったとしても「好きで自分で選んでやったのでしょう」という理屈になりかねず、言ってみればリスクを相手に転嫁する考え方です。公正とは言い難く、実際に報われているのであれば結果として問題は表面化しないかもしれませんが、報われない社員が一定割合を超えると、不信感を生むことになります。
会社として何かをしてほしいのであれば、それを義務という形にする。義務とはしないのであれば、説得する。説得に失敗したのであれば、それは説得できなかったというだけのことです。義務ではないことをやらないからといって、責めることはできません。義務以上のことをした社員にはそれに報いる。そうすれば、義務以上のことをする社員も出てくるかもしれませんが、それはその社員が自らの意思で選んだことであって、やらない社員が責められる筋合いのものではないのです。
一体、経営者として何をしたいのか。どのような関係を築きたいのか。目的地さえ決まれば、そこに至る手段については、弁護士としてお手伝いすることができます。しかし、目的地が定まっていなければ、お手伝いのしようがありません。
9. まとめ
- まず、契約上の義務を果たしているかを確認する。果たしているのであれば、法的な問題として構成することは難しい
- ミニマムラインを設定したのは会社である。その水準を守っている社員を問題視することには無理がある
- 頑張ることのメリットを言語化する。説明もせずに察してほしいというのでは伝わらない
- 言葉だけでは足りない。頑張った社員が現に報われ、幸せそうに働いている事実を示せるかどうかが決定的
- 要求水準を引き上げる場合は、労働条件の変更の問題になり得る。設計段階から弁護士に相談する
- 「察して行動しろ」はリスクの転嫁になりかねない。義務とするのか、説得するのか、報いるのかを主体的に決める
どのような会社にしたいのか、社員とどのように関わっていきたいのか、社員にどうしてほしいのかをはっきりさせること。それを主体的・戦略的に考えていくことが、会社経営者の仕事です。制度の設計や労働条件の変更の進め方でお悩みの経営者の皆様は、ぜひ弁護士にご相談ください。
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 最低限の仕事しかしない社員を、人事評価で低く評価することはできますか。
A. できます。人事評価については、会社に一定の裁量が認められており、期待される成果を上げていない社員を、評価制度の基準に沿って低く評価すること自体は問題ありません。むしろ、頑張った社員とそうでない社員の評価が変わらない仕組みこそが、この問題の根本にあります。もっとも、評価基準が社員に周知されていない場合や、恣意的な運用がなされている場合には、裁量の逸脱として違法と評価されるおそれがあります。評価の結果を賃金の引き下げに直結させる場合には、就業規則上の根拠や労働条件の変更の問題も生じますので、制度の設計は弁護士に相談してください。
Q2. 最低限の仕事しかしないことを理由に、解雇や退職勧奨をすることはできますか。
A. 求められている水準の労務を提供している以上、それだけを理由とする解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、無効となる可能性が高いと言わざるを得ません(労働契約法16条)。「もっとできるはずなのにやらない」という会社側の評価は、義務の不履行とは異なるものです。他方、退職勧奨は、労働者の自由な意思を尊重する方法で行われる限り、それ自体が違法となるものではありません。もっとも、執拗な勧奨や退職を強要するような言動は違法と評価され、損害賠償の対象となり得ます。この問題は、まず制度と説明の見直しから検討すべきであり、雇用終了を先に考えるべき事案ではありません。
Q3. これまで求めていなかった水準の業務を、新たに指示することはできますか。
A. 労働契約や就業規則で定められた業務の範囲内であり、業務上の必要性に基づく合理的な指示であれば、業務命令として指示することができます。他方、契約で予定された業務の範囲を超える場合や、賃金・評価制度の変更を伴う場合には、労働条件の変更の問題となり、労働者との合意によることが原則となります(労働契約法8条、9条)。就業規則の変更による場合は、周知と変更内容の合理性が必要です(同法10条)。どこまでが運用の範囲内で、どこからが労働条件の変更に当たるのかは判断が分かれるところですので、事前に弁護士に相談してください。
最終更新日:2026年7月17日