この記事の要点

業務遂行のために参加するほかない研修は、実質的に出席の義務付けがあると評価でき、労働時間に該当する

業務との関連性が強く、不参加により業務遂行が不可能または困難になる場合は、研修への参加そのものが労務の提供と評価されます

業務に格段の支障が生じない研修は福利厚生的なものに過ぎず、使用者の明示・黙示の命令がある場合にのみ労働時間と評価される

業務との関連性が低い研修は労働契約で予定された労務の提供とは直ちには評価できません

業務関連性の高低は「研修に参加しないと業務遂行自体が不可能または困難か否か」を基準に判断する

「格段の支障」が生じるかどうかが分岐点になります

業務関連性と不利益取扱いの有無を組み合わせて、研修ごとに労働時間性を判断することが重要

248番の「不利益取扱い」と249番の「業務関連性・具体的支障」は、いずれも「実質的出席強制の有無」を判断するための観点です

01業務との関連性が問題とされる理由

 研修等の内容が業務遂行上必要な知識技能の習得を目的としており、研修等に参加しないと業務遂行自体が不可能または困難になるような場合は、業務遂行のためには研修等に参加するほかありませんから、実質的にみて出席の義務付けがあると評価することができます。これに対し、研修等に参加しなくても業務遂行に格段の支障は生じないような場合には、実質的にみて出席の義務付けがあるとまでは評価することができません。

 この「格段の支障が生じるか否か」が判断の分岐点となる理由は、研修への参加が「業務遂行のために不可欠か否か」という観点から、社員が実質的に研修への参加を強いられているかどうかを判断するためです。不利益取扱いの有無(248番で解説)が「外部からの強制」による実質的義務付けを問うのに対し、業務関連性と具体的支障の有無は「業務の性質から生じる実質的義務付け」を問うものといえます。

02業務遂行上必要な研修——労働時間と評価される場合

 研修等の内容が業務遂行上必要な知識技能の習得を目的としており、研修等に参加しないと業務遂行自体が不可能または困難になるような場合は、研修等への参加それ自体が労働契約で予定された労務の提供(業務の遂行)であり、使用者の指揮命令下に置かれているものと評価することができます。したがって、それに要する時間は労基法上および労働契約上の労働時間に該当するものと考えられます。

 典型的な例としては、業務上必要な資格・免許の取得のための講習、特定の機械・設備の操作に必要な安全衛生教育、職種の変更に伴い新たな業務遂行に必須となる技術習得研修などが挙げられます。これらは、研修に参加しなければその業務に就くこと自体ができないという意味で、研修への参加が業務遂行と一体のものとして位置付けられます。

業務遂行上必要な研修の具体例
業務上必要な資格・免許の取得講習(フォークリフト運転技能、危険物取扱者講習等)、特定の機械・設備の操作に必要な安全衛生教育、職種変更に伴い新業務の遂行に必須となる技術習得研修、法令上受講が義務付けられている安全衛生教育——これらは研修不参加により業務遂行自体が不可能または困難となるため、労働時間と評価されやすいです。

03業務との関連性が低い研修——福利厚生的性格と労働時間性

 他方、研修等に参加しなくても業務遂行に格段の支障は生じないような場合には、当該研修等は福利厚生のようなものに過ぎず、研修等への参加は必ずしも労働契約で予定された労務の提供と評価することはできません。そのため、直ちに使用者の指揮命令下に置かれているものと評価することはできず、研修等に要する時間が労働時間と評価されるのは、使用者により明示または黙示に参加を命じられた場合に限られると考えられます。

 例えば、業務とは直接関係のない自己啓発的なセミナー、スキルアップを目的とした語学講座(業務上必須でない場合)、社内での懇親・親睦を目的とした活動などは、不参加によって業務遂行に格段の支障が生じないため、福利厚生的な性格のものと評価されやすくなります。この場合、労働時間と評価されるのは、使用者が明示的または黙示的に参加を命じた場合に限られます。

04判断基準の比較と実務上の注意点

判断要素 業務関連性が高い場合 業務関連性が低い場合
不参加時の影響 業務遂行が不可能または困難 業務遂行に格段の支障なし
研修の性質 労働契約で予定された労務の提供と評価できる 福利厚生的なものに過ぎない
指揮命令下の評価 使用者の指揮命令下にあると評価できる 直ちに指揮命令下とは評価できない
労働時間への該当 該当する(労基法・労働契約上) 使用者の明示または黙示の命令がある場合に限り該当

 会社経営者としては、社内で実施している研修のそれぞれについて、「不参加により業務遂行に格段の支障が生じるか否か」を個別に確認することが重要です。業務関連性が高く労働時間と評価される研修については、時間外に実施した場合の割増賃金の支払い設計を適切に行う必要があります。業務関連性が低く福利厚生的な位置付けの研修については、参加命令の形式や不参加への対応方針を明確にしておくことが残業代トラブル防止の観点から重要です。

05まとめ

 研修等の労働時間性の判断において「業務との関連性が強く、不参加により本人の業務に具体的な支障が生じるか否か」が問題とされるのは、業務遂行に不可欠な研修への参加は労働契約で予定された労務の提供そのものであり、使用者の指揮命令下に置かれているものと評価できるのに対し、業務に格段の支障が生じない研修は福利厚生的なものに過ぎず、使用者の明示または黙示の参加命令がある場合にのみ労働時間と評価されるからです。

 この業務関連性という観点は、前ページ(248番)で解説した不利益取扱いの有無という観点と組み合わせて、「実質的に出席の強制があるか否か」を総合的に判断するための要素です。研修の設計・実施方法・賃金支払いについては、使用者側弁護士・会社側弁護士に相談しながら適切に対応することをお勧めします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。研修時間の労働時間該当性・残業代トラブルの予防・就業規則の整備でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 業務との関連性が高い研修は必ず労働時間に該当しますか。

A. 業務遂行上必要な知識技能の習得を目的とし、不参加により業務遂行が不可能または困難になる場合は、研修への参加自体が労働契約で予定された労務の提供と評価でき、労働時間に該当するものと考えられます。ただし、業務関連性の程度や具体的な支障の内容によって個別判断が必要です。

Q2. 業務との関連性が低い研修はどのような場合に労働時間に該当しますか。

A. 業務に格段の支障が生じない研修は福利厚生的なものに過ぎず、直ちに使用者の指揮命令下にあるとは評価できません。この場合、使用者が明示的または黙示的に参加を命じた場合にのみ労働時間と評価されます。不参加への不利益取扱いがある場合も、実質的な参加命令と評価されることがあります(248番参照)。

Q3. 業務との関連性の「高い・低い」はどのように判断しますか。

A. 「研修に参加しないと業務遂行自体が不可能または困難になるか否か」が判断基準です。業務上必要な資格・免許の取得講習、特定機械の操作に必要な安全衛生教育などは業務関連性が高いといえます。一方、業務上必須でない語学講座や自己啓発的なセミナーは業務関連性が低いといえます。

Q4. 研修の労働時間該当性について実務上どのように対応すればよいですか。

A. 社内の研修ごとに①業務関連性の高低(不参加で業務に格段の支障が生じるか否か)、②不参加への対応方針(不利益取扱いの有無)を整理してください。業務関連性が高く労働時間と評価される研修は時間外実施時の割増賃金設計が必要です。不明確な場合は使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。

最終更新日:2026年5月10日



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