この記事の要点

年俸制の社員も労基法上の労働者であり、時間外・休日・深夜に労働させた場合は残業代(割増賃金)を支払う必要がある

「年俸制=残業代不要」は法律上の根拠がない誤解です

労基法上、年俸制社員について残業代(割増賃金)の支払義務を免除する規定は存在しない

賃金の算定・支払方法が「年俸制」であることは、残業代免除の根拠になりません

「年俸制社員には残業代を支払わない」旨の合意・就業規則の定めも無効(343〜345番参照)——労働契約・就業規則の内容にかかわらず残業代支払義務が生じる

いずれの形式でも残業代免除の合意は無効です(労基法13条)

年俸制を採用している場合でも、年俸額の中に定額残業代を組み込む形で設計することは可能——ただし適法な定額残業代制度の要件を満たす必要がある(350番参照)

「年俸に残業代込み」という設計は、定額残業代制度として適法に設計した場合に限り有効です

01「年俸制=残業代不要」という誤解の根拠

 「うちの会社は年俸制を採用しているので残業代は支払わなくてよい」という誤解を持つ使用者の方は少なくありません。この誤解は「年俸は年間の業務全体に対する対価であり、残業も含んでいる」という発想から来ていると思われます。しかし、この考え方は法律上の根拠を持ちません。

 年俸制とは、社員に対して支払う賃金の「算定方法・支払サイクル」の一形態にすぎず、それ自体が労働時間規制や残業代支払義務を免除する根拠にはなりません。

02労基法上、年俸制社員への残業代免除規定は存在しない

 年俸制の社員も労基法上の労働者であり、労基法上、年俸制社員について残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)の支払義務を免除する規定はありません。

 残業代(割増賃金)の支払義務が免除される制度としては、管理監督者(労基法41条2号)のほか、高度プロフェッショナル制度(労基法41条の2)等がありますが、これらはいずれも年俸制であるかどうかとは独立した要件があり、年俸制を採用しているだけで自動的にこれらの制度が適用されるわけではありません。

誤解されやすい前提 正しい法律上の理解
年俸制を採用しているから残業代は不要 年俸制は残業代免除の根拠にならない。時間外・休日・深夜労働には割増賃金の支払義務がある(労基法37条)
年俸が高いから残業代は年俸に含まれる 高額の年俸であることは残業代免除の根拠にならない。定額残業代として組み込む場合は適法な制度設計が必要(350番参照)

03免除の合意・就業規則の定めも無効——343〜345番の原則が年俸制にも適用される

 343番で解説したとおり、残業代を支払わない旨の合意は労基法13条により無効となります。344番で解説したとおり、誓約書への署名押印も無効です。345番で解説したとおり、就業規則での定めも無効です。これらの原則は、年俸制の社員に対しても同様に適用されます。

 したがって、「年俸制社員には残業代を支払わない」旨の労働契約の合意・誓約書・就業規則の定めはいずれも無効となり、労働契約や就業規則の内容にかかわらず、年俸制社員を時間外・休日・深夜に労働させた場合には、残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)を支払う必要があります。

04年俸制を採用しながら残業代を適法に処理する方法

 年俸制を採用しながら残業代を適法に処理する方法としては、年俸の中に定額残業代(固定残業代)を組み込む形で設計することが考えられます。例えば、「年俸600万円のうち、600,000円は月40時間分の時間外割増賃金に相当する定額残業代として支払う」という形です。

 ただし、年俸の中に定額残業代を組み込む設計が有効な定額残業代制度として認められるためには、350番で解説する定額残業代制度の有効要件(通常の賃金と定額残業代の明確な区別・金額の明示・超過分の追加支払等)を満たす必要があります。適法な設計・運用については使用者側弁護士のサポートを受けながら進めることをお勧めします。

05まとめ

 年俸制の社員も労基法上の労働者であり、労基法上、年俸制社員について残業代(割増賃金)の支払義務を免除する規定はありません。残業代を支払わない旨の合意・誓約書・就業規則の定めはいずれも無効となります(343番〜345番参照)。したがって、労働契約や就業規則の内容にかかわらず、年俸制社員を時間外・休日・深夜に労働させた場合には残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)を支払う必要があります。年俸制を採用しながら残業代を適法に処理する方法については使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。アドバイスします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

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Q&Aよくある質問

Q1. 年俸制を採用すれば残業代を支払わなくてよいですか。

A. 支払わなくてよいわけではありません。年俸制は賃金の算定・支払方法の一形態にすぎず、残業代支払義務を免除する根拠にはなりません。年俸制社員を時間外・休日・深夜に労働させた場合は、労基法37条に基づく残業代(割増賃金)の支払義務が生じます。

Q2. 「年俸には残業代が含まれる」という合意をすれば残業代を別途支払わなくてよいですか。

A. 単に「年俸に含まれる」という合意だけでは不十分です。残業代に当たる部分の金額を特定しないまま「年俸に含まれる」とする合意は、残業代の支払として認められないことが多いです(348番参照)。年俸に定額残業代を組み込む場合は、適法な定額残業代制度の要件(通常賃金と残業代の明確な区別・金額の明示・超過分の追加支払等)を満たした設計が必要です(350番参照)。

最終更新日:2026年5月10日


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