この記事の結論
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まず「虚偽情報がなければ取得したといえる年休日数」を実質的に検討する

虚偽の年休日数情報の提供がなければ当該労働者が取得したといえる年休日数を、実際の取得状況等から実質的に検討することが出発点となります。

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①不足年休に相当する賃金との因果関係は否定、②欠勤・病休による給与減額分との因果関係は肯定(裁判例)

裁判例では、①不足する年休日数に相応する賃金相当損害金との因果関係は否定し、②欠勤・病休による給与減額分との因果関係を肯定したものがあります。

01検討の出発点(実質的な年休日数の検討)

 使用者が労働者に虚偽の年休日数の情報を告げ、その結果として労働者が年休を取得できなかったとして損害賠償請求がなされた場合、まず、当該虚偽の年休日数の情報提供がなければ当該労働者が取得したといえる年休日数を実質的に検討することになります。

 「虚偽情報がなければ取得していたはずの日数」が出発点となるのは、因果関係(損害賠償請求が認められるためには「虚偽情報」と「損害」との間に因果関係が必要)の判断のためです。虚偽情報を告げられていなければ労働者が実際に年休を取得したかどうかが問われます。この判断には、労働者のそれまでの実際の年休取得状況が重要な事情となります。

02裁判例の概要と判断枠組み

 この問題について参考となる裁判例があります。原告が公務員であり、国家賠償法上の違法かが問題となった事案ですが、市が虚偽の情報を告げた行為について、次のように判断しています。

裁判例の判断

 不足する年休日数に相応する賃金相当損害金との間の因果関係は否定

 欠勤・病休による給与減額分との間の因果関係は肯定

 以下では、①②それぞれの判断理由を説明します。

03①不足年休に相当する賃金との因果関係の否定

 裁判所は、不足する年休日数に相応する賃金相当損害金について、次の理由から因果関係を否定しました。

裁判所の判示(①について)

「原告の年休取得状況に照らせば、原告は、1年間で年休を1日ないし4日強しか取得していない年もあるから、上記陳述書によっても、原告に虚偽の年休日数の情報が提供されていなければ、原告が不足日数全部について年休を取得した蓋然性が高いと認めるに足りない。原告は実際に取得した日数以上に年休付与請求を行っていないから、原告の就労義務は消滅していないことにも照らせば、被告の行為と、不足する年休日数に対応する賃金相当損害金との間に因果関係があるとは認められない。」

 つまり、労働者の過去の年休取得状況から、虚偽情報がなかったとしても不足分全部を取得した蓋然性(可能性)が高いとはいえない、また実際に年休付与請求(年休取得の意思表示)もしていないことから、因果関係が否定されました。「虚偽情報がなければ年休を取得していたはず」という立証が十分でなかったと判断されたものです。

04②欠勤・病休による給与減額分との因果関係の肯定

 一方、裁判所は、欠勤または病休による給与減額分については、次の理由から因果関係を肯定しました。

裁判所の判示(②について)

「労基法上原告に付与すべき年休日数の範囲内で欠勤または病休をした部分については、被告による虚偽情報の提供がなければ年休を取得し得たといえるから、欠勤または病欠によって、給与が減額された部分については、被告の行為との間に因果関係が認められる。」

 すなわち、労基法上付与すべき年休日数の範囲内で欠勤・病休をした部分については、虚偽情報がなければ年休として取得できたはずであり、その結果として給与が減額されたことについては因果関係が認められました。

 ①の「不足年休分全部に対応する賃金相当損害金」は否定されましたが、②の「実際に欠勤・病休として扱われて給与が減額された分」については認容されたという点が、この裁判例の重要な結論です。会社経営者としては、年休の正確な管理・付与と、欠勤・病休の記録管理が重要であることが分かります。年休管理の適正化や紛争への対応については、使用者側弁護士に相談することをお勧めします。

経営上のポイント 虚偽の年休情報を告げられ年休を取得できなかったとする損害賠償請求では、まず「虚偽情報がなければ取得したであろう年休日数」を、過去の取得状況から実質的に検討します。裁判例では、①不足年休に対応する賃金相当額との因果関係は否定、②欠勤・病休で給与が減額された部分との因果関係は肯定されました。年休の正確な付与・管理と欠勤・病休記録の適正管理が重要です。対応に迷う場合は弁護士に相談することをお勧めします。アドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 社員から「年休残日数の通知が間違っていたため年休を取得できなかった」と申し出がありました。どう対応すればよいですか。

A. まず、年休残日数の誤通知の事実と、その経緯を確認することが重要です。次に、本裁判例の判断枠組みを参考に、①誤通知がなければ実際に年休を取得していた蓋然性(過去の取得状況等)と②誤通知が原因で欠勤・病休扱いとなり給与減額が生じた事実の有無を確認してください。給与減額が生じている場合は、補填を検討する必要があります。事実関係を整理したうえで弁護士に相談することをお勧めします。

Q2. この裁判例は公務員の事案ですが、民間企業にも適用されますか。

A. この裁判例は国家賠償法上の違法を問題とした公務員の事案ですが、判断の枠組み(因果関係の検討方法・「不足年休全部を取得した蓋然性が高いか」「欠勤・病休による給与減額との因果関係」という考え方)は、民間企業での同種の紛争においても参考となる考え方です。民間企業においては不法行為(民法709条)による損害賠償が問題となりますが、因果関係の判断枠組みは共通して適用されます。

Q3. 年休残日数を正確に管理するにはどうすればよいですか。

A. 年休の付与・取得・残日数の管理は、会社の人事・給与管理の基本です。具体的には、各社員の入社日・年休付与基準日・付与日数・取得日数・繰越日数を記録した年休管理台帳を整備し、随時更新することが重要です。また、年5日の年休確実取得義務(2019年4月施行)への対応として、各社員の年休取得状況を定期的に確認する体制も必要です。労務管理ソフトの活用や社会保険労務士への相談も有効です。

最終更新日:2026年2月25日


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