この記事の結論
1

就業規則がなくても普通解雇は可能(民法627条)。ただし「就業規則がない=解雇が自由」は誤り

期間の定めのない雇用契約では民法627条を根拠として解雇できます。しかし解雇権濫用法理(労働契約法16条)は就業規則の有無にかかわらず適用されます。客観的合理的理由と社会通念上の相当性がなければ解雇は無効です。

2

就業規則がないことで紛争時に会社側が不利になるリスクがある。早期整備が重要

就業規則がない場合、解雇事由の明文規定がなく、客観的合理性の立証が困難になります。懲戒解雇は就業規則なしでは原則として実施できません。早期の就業規則整備が労務リスク管理の観点から重要です。

01就業規則がなくても普通解雇できる法的根拠

 期間の定めのない雇用契約(正社員等)においては、使用者はいつでも解雇の申し入れをすることができます。これは民法627条に規定されており、就業規則の有無にかかわらず適用される一般的なルールです。

民法627条(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)

第1項 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。

第2項 期間によって報酬を定めた場合には、解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。

第6項(旧3項) 6か月以上の期間によって報酬を定めた場合には、解約の申入れは、3か月前にしなければならない。

 この規定を根拠に、就業規則がない会社であっても、使用者は普通解雇を行うことができます。ただし、民法627条の「2週間」という申入れ期間と、労働基準法20条の「30日前予告または解雇予告手当の支払」は、別の規律です。労基法20条が適用される場合には30日前予告等が必要です。

02懲戒解雇との対比:就業規則なしでは原則不可

 懲戒解雇は、使用者が従業員に対して制裁(懲戒)として行う解雇であり、就業規則に懲戒事由と懲戒手続が規定されていることが有効要件の一つとなります。就業規則がない場合、原則として懲戒解雇を行うことはできません。

 これに対して普通解雇は、労働契約の解消という性質を持ち、民法の一般規定を根拠とすることができるため、就業規則がなくても実施することが可能です。この点が両者の大きな違いです。ただし、普通解雇であっても、解雇権濫用法理の適用を受ける点は同じです。

03「就業規則がなければ解雇が自由」という誤解に注意

 就業規則がない会社でも普通解雇自体は可能ですが、それは「自由に解雇できる」ということではありません。労働契約法16条に定める解雇権濫用法理は、就業規則の有無にかかわらず適用されます。

労働契約法16条(解雇)

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

 この規定により、①客観的に合理的な理由があること、②社会通念上相当であること、という2つの要件を満たさない解雇は、就業規則がない場合であっても無効となります。「就業規則がないから、解雇は自由にできる」という理解は誤りです。また、「10人未満の小さな会社だから就業規則は不要」と考える経営者もいますが、就業規則の作成義務(労働基準法89条)は常時10人以上の事業場に課されるものの、10人未満でも就業規則がなければ紛争時に会社側が不利な立場に置かれます。

04就業規則がないことで生じる紛争リスク

 就業規則が整備されていない会社においては、解雇の有効性をめぐる紛争において不利な立場に置かれるリスクがあります。就業規則がある場合、解雇事由が明文化されており、「この行為が解雇事由に該当する」という主張をしやすくなります。しかし就業規則がない場合、解雇の客観的合理性を立証する証拠が乏しくなりがちです。

 弁護士として会社側の相談を受ける中で実感するのは、「就業規則がないから大丈夫だろう」という判断で進めた解雇が、後になって解雇権濫用として無効と判断されるケースが少なくないという点です。具体的には次のようなパターンがよく見られます。

・「就業規則がないから自由に解雇できると思っていた。解雇した後に労働審判を申し立てられ、解雇無効と判断されてしまった」
・「注意指導の記録もなく、いきなり解雇したところ、客観的合理的理由がないとして多額のバックペイを請求された」

 就業規則がないことで紛争時の立証が困難になります。就業規則の整備は、解雇リスクを下げる上でも重要な経営上の課題です。

05普通解雇が有効となるための実務上のポイント

 就業規則の有無にかかわらず、普通解雇が有効と認められるためには、以下の手順を踏んでいることが重要です。

 まず、解雇に至る前に十分な注意指導を行い、改善の機会を与えることが必要です。一度の問題行動でいきなり解雇に踏み切ることは、社会通念上の相当性を欠くとして無効とされるリスクがあります。また、注意指導の内容・日時・本人の応答を記録として残しておくことが、後の紛争において会社側を守る重要な証拠となります。

 特に就業規則がない場合は、「どのような行為が解雇に値するか」の基準が明文化されていないため、注意指導の記録と改善機会の付与が通常以上に重要な意味を持ちます。

06就業規則の早期整備を検討する

 就業規則がない場合、解雇事由の明確化・手続の適正化・証拠の整備という観点から、早期に就業規則を整備することを強くお勧めします。常時10人以上の労働者を使用する事業場は労働基準法上の就業規則作成義務がありますが(労基法89条)、10人未満の事業場であっても、就業規則の整備は労務リスクの管理において不可欠です。

 就業規則を整備することにより、①解雇事由の明文化②懲戒手続の整備(懲戒解雇の適法な実施が可能になる)③普通解雇の客観的合理性の立証が容易になる、という三つの効果が得られます。

経営上のポイント 就業規則がない会社でも民法627条を根拠として普通解雇は可能です。ただし解雇権濫用法理(労契法16条)は就業規則の有無にかかわらず適用されます。「就業規則がない=解雇が自由」は誤りであり、紛争時に会社側が不利な立場に置かれるリスクを高めます。解雇を検討している場合や就業規則の整備について相談したい場合は、早めに弁護士に相談することをお勧めします。アドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年6月28日


Return to Top ▲Return to Top ▲