問題社員311 転勤命令に従わない社員への最初の対処法
動画解説
この記事の要点
|
✓
|
権限があるか、濫用に当たらないかを検討するより先に、まず事情をよく聞く どうして担当業務の変更が嫌なのか、どうして転勤するわけにはいかないのか。法律論の前に、ここをしっかり聞く |
|
✓
|
配転は何のために行うのかを思い出す。適正配置、本人の才能の発揮、育成。それを判断するには本人の事情が要る この人はこの仕事に向いていると思っていたら、それが勘違いだったということもある |
|
✓
|
事情を把握したら、なぜ異動してもらう必要があるのかを具体的に説明する 「人事権が広いのだから従ってください」という抽象的な定型文では、納得してもらえるはずがない |
|
✓
|
説得することが策とは限らない。話してみた結果、今回は異動なしという判断もあり得る 目的は命令を通すことではなく、本人がやる気を出して活躍でき、会社に貢献してもらえる配置を実現すること |
目次
1. 異動を拒む社員が増えている
正社員であれば、担当業務を変わってもらわなければならないことがあります。また、事業所が各地にある会社であれば、転勤にも応じてもらわなければ全体として回らないということもあるでしょう。とりわけ雇用を維持しなければならないことを考えると、人手が必要なところに回したり、戦力になる社員に別の拠点へ行ってもらってそこを盛り立ててもらったりすることもあります。
そうしたものについて、言うことを聞いてもらえないケースが最近増えています。
拒む理由は様々
- キャリア形成:自分のキャリアを形成していく上でこの仕事をやりたい、他の仕事はやりたくない
- 家庭の事情:育児、介護など、様々な問題があります
- 配偶者のキャリア:自分が転勤すると配偶者と離れて暮らさなければならない。相手もキャリアを積んでいるので、仕事を辞めてついてくるわけにはいかない
そこで本記事では、担当業務の変更や転勤命令に従わない社員への対処法のうち、まず最初に何をしなければならないのか、初動について解説します。
2. 弁護士に相談すると、通常はこう答える
担当業務の変更を嫌だと言われたら、どうされますか。この人に行ってもらおうと思って転勤を命じたら断られたら、どうされますか。
弁護士に相談すると、たいていはこう答えます。「転勤や担当業務の変更をさせる権限はありますか。就業規則にそうした定めがあるのですね。では、正社員であれば権限自体はありますね。特別な約束もしていませんね。では権限は大丈夫です。ただ、濫用になると無効になってしまいますから、転勤や担当業務の変更の必要性、嫌がらせに当たらないか、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を与えるものではないか、といった点をチェックしていきましょう」。これが通常の助言です。
しかし、それより先に考えていただきたいことがあります。
3. それより先に、まず事情をよく聞く
それは、事情をよく聞くということです。
もちろん、通常の対応であっても事情は聞くでしょう。私が申し上げているのは、最初に事情をよく聞くということです。法律とか、権限があるかないかとか、そういったものの前に、どうして担当業務の変更が嫌なのか、どうして転勤するわけにはいかないのか。それをしっかり聞いてください。
4. なぜ事情を聞くのか。配転の目的に立ち返る
なぜでしょうか。もちろん、通常弁護士が助言するように、転勤や担当業務の変更を命じたときに相手が嫌だと言った場合、有効になるか無効になるかを判断するために事実をしっかり調査する必要がある、ということもあります。しかし、それだけではありません。
配転は、何のために行うのか
- 仕事や働く場所を変わってもらって、会社全体として活気を持たせる、有機的に協力して働けるようにする、適正配置を実現する
- 本人の才能、適性、やる気を踏まえて、向いている仕事、才能のある仕事でキャリアを積んでもらう
- 幹部社員にしたいのであれば、一時的にでも別の仕事に就いてもらい、全体を見渡せる視野の広い人材に育ってもらう
そうしたことを考えていくわけですから、それができるかどうかを判断するにあたって、本人の事情をよく聞かなければ判断できないのです。
それを踏まえずに、よかれと思って「こういうつもりで会社はやっているのだから言うことを聞いてください」というのでは、相手は不満を持って辞めてしまう可能性も高いでしょう。今の時代、そうなれば育成も何もあったものではありません。才能の活用も何もあったものではありません。
それに、この人はこの仕事に向いている、こういうことができるはずだと思っていたら、それが勘違いだったということもあるのです。本人から事情を聞いてみたら、「確かに、そういうことであれば、この仕事をやらせるのは適切ではないかもしれない」ということがあります。適性があったとしても、今この仕事をこの場所でやらせるわけにはいかない事情がある、ということもあるわけです。
5. 事情を聞くことは、法的にも要請されている
ここまでは、良い会社を作るという観点からのお話です。もっとも、事情を聞くことは、法的にも要請されている場面があります。
育児・介護の状況への配慮は、会社の義務
会社は、労働者の就業場所の変更を伴う配置転換をしようとする場合において、その就業場所の変更により就業しつつ子の養育または家族の介護を行うことが困難となる労働者がいるときは、その労働者の子の養育または家族の介護の状況に配慮しなければならないとされています(育児介護休業法26条)。
配慮するためには、まず状況を把握しなければなりません。つまり、事情を聞かずに命令を出すという進め方は、この配慮を行う前提を欠くことになります。そして、配慮を尽くしていないという評価は、「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである」という判断につながりやすくなります。
事情をよく聞くという実務上の助言は、法的な要請とも一致しているのです。
人材を適正配置し、本人の才能を発揮してもらい、会社としても活気のある会社にしていくためには、こちらでも色々と考えることに加えて、本人からも事情をよく聞き、事実をしっかり把握して、どの人をどの場所に配置するのかを考えていかなければなりません。
「嫌です」と言ってくる場合、それなりの理由があることも多いものです。すぐにその理由を言葉で表現できる方ばかりではありませんから、よく話してみる。そして、もっともな理由があるのかどうかを見極める。「確かに、この状況でこの方を別の仕事に就けたり、別の場所で働いてもらったりしたら、かえって本人の才能の発揮を妨げるのではないか」「いや、そんなことはない、異動した方がきっと能力を発揮できるから説得しよう」。色々と出てくるはずです。必要に応じて質問をしたり、資料を提出してもらったりしながら、どの人をどこに配置するのがベストなのかを考えていっていただくとよいと思います。
この発想が出てくるかどうかが分かれ目
「会社の人事権は広いのだから言うことを聞きなさい」「一応話は聞くけれども、広範な裁量に委ねられていることなのだから、最終的には会社の判断に従ってください」。そうした発想を持っていると、事情をよく聞くという行動はなかなか出てきません。
今申し上げたことは、基本的には正しいのです。正社員については、かなり広範な人事裁量を持っているケースが多いですから。今なお、そうしたものは多いのです。
しかし、本人の才能を発揮してもらう、活躍してもらう、会社の利益になるよう活気のある会社にしていくということを考えると、権限があるかどうかだけで決めてはいけないし、濫用になるかどうかだけで決めてもいけないのです。どうやったら活躍してもらえるのか、会社のために貢献してもらえるのかを、よく考えなければなりません。
6. 次に、具体的に説明する
事情を把握したら、次に、なぜ転勤してもらわなければならないのか、担当業務を変更しなければならないのかを、しっかり説明していきます。
これでは、納得してもらえるはずがない
「あなたは正社員で、就業規則に転勤や担当業務の変更の権限が定められていて、周知されていますよね。それに最高裁判決があって、こういう雇い方をしている社員については、拠点がたくさんあるような会社であればローテーション人事でもよいと言われているのです。だから従ってください」
これで納得するはずがありません。抽象的なもので画一的に対応したのでは、だめなのです。もちろん、頭の片隅には置いておき、「裁判になったら勝てるな」と思いながら話していただいてもよいのですが、具体的な事情をしっかり聞いて、なぜ異動しなければならないのかを具体的に説明してもらうようにした方がよいですし、そうすべきだと考えます。
なぜ異動しなければならないのかをしっかり具体的に説明すると、本人もやる気が出ますし、辞めてしまうリスクも減っていきます。前提として本人から事情をよく聞き、その事情を踏まえて受け答えしていくわけですから、話が噛み合います。コミュニケーションがしっかり取れている会社の上層部なのだ、経営者なのだということを示すことができます。そうすると、辞めてしまう可能性も随分下がります。
具体的に話すということは、言っていることが間違っていたら「おかしい」と言われるということでもあります。それに対しても、きっちり受け答えをしていく。本人の要望がすべて通るわけではないにしても、正面から逃げずに具体的にやり取りをして説得活動をする。そうしていただければ、一旦は嫌だと言ったものの、「そういうことであれば、しばらくは行ってきますよ」ということだってあるかもしれません。
7. 説得が策とは限らない
今は説得に成功した事例についてお話ししましたが、必ずしも説得することが策とは限りません。
本人と話していたところ、「確かに、この人を今こんな別の仕事に移したり、転勤させたりするのは適切ではないな」と判断されるケースもあります。そうしたケースについては、「では今回は異動なしにしましょう」という話でよいわけです。
本人がやる気を出して、なおかつ活躍できる、本人の適性のある仕事で、会社のために貢献してもらえそうな場所。適材適所という働かせ方をすることを念頭に、しっかり対応して決めていくとよいと思います。
8. まとめ
- 権限や濫用の検討より先に、まず事情をよく聞く
- 配転の目的に立ち返る。適正配置、才能の発揮、育成。それを判断するには本人の事情が要る
- 育児・介護の状況への配慮は法的義務でもある(育児介護休業法26条)。聞かなければ配慮できない
- 事情を踏まえて、具体的に説明する。「人事権が広いから」では納得してもらえない
- 説得が策とは限らない。今回は異動なしという判断もあり得る
最後の最後は、会社によっては抽象的な説明しかできないこともあるでしょう。それならそれで仕方がありません。しかし、具体的な事情をしっかり聞き、それを踏まえて具体的な理由を伝えてあげられると、本人のやる気や才能を生かすことができる仕事に就けたり、転勤命令を出したら辞めてしまったという事態を防いだりして、人材活用をしていけるのではないでしょうか。
「そこまで具体的に対応するのは辛い。広範な人事異動の権限を雇用維持の義務と引き換えに持っているのだから、もっと抽象的な説明で済ませたい。みんな我慢してきたのに、なぜ今そんなに具体的に話さなければならないのか」と思われるかもしれません。しかし、それをできる範囲で前向きに行い、しっかり事情を聞いて具体的に説明できると、良い会社になると思います。納得感も得やすくなります。また、具体的な話をしていく中で、適材適所も正しく行いやすくなっていきます。具体的に対話しているわけですから、自分の勘違いに気づき、それを正すきっかけにもなるのです。
手間がかかるかもしれません。煩わしいかもしれません。しかし、これこそが経営者の仕事だと思います。あるいは、経営者が人事担当者や配転の権限がある方に対して、できる限りやってもらうよう努力すべき部分だと思います。良い会社を作るためです。人事異動でお悩みの経営者の皆様は、ぜひ弁護士にご相談ください。
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 事情を聞くと、それを認めたことになって、後で異動させにくくなりませんか。
A. そうはなりません。事情を聞くことと、その要望を受け入れることは別です。むしろ、事情を聞かずに命令を出す方が、後の場面で会社に不利に働きます。育児や介護の事情があった場合、会社は配置転換の際にその状況に配慮しなければならないとされており(育児介護休業法26条)、聞いていなければ配慮のしようがないからです。事情を聴取した上で、なお業務上の必要性が上回ると判断し、その理由を説明したという経過が残っていれば、会社の対応の相当性を裏付ける材料になります。
Q2. どのような事情を聞き、どこまで資料の提出を求めてよいのですか。
A. 異動を拒む理由として本人が述べた事情について、その内容を具体的に確認していくことになります。育児や介護、家族の健康状態など、本人が自ら理由として挙げた事柄であれば、必要な範囲で確認を求めることに問題はありません。もっとも、家族の健康情報などは機微な個人情報ですので、取得の目的を明示し、必要な範囲にとどめ、取扱う担当者を限定して管理してください。本人が理由として挙げていない私的な事柄にまで踏み込むことは避けるべきです。
Q3. 事情を聞いて説明もしましたが、それでも拒否されました。次はどうすべきですか。
A. まず、その人事異動命令が有効と言えるかを改めて確認してください。権限があるか、そして業務上の必要性・不当な動機目的の有無・通常甘受すべき程度を著しく超える不利益とならないかという観点からの検討です。有効と判断できるのであれば、命令として発した上で、なお従わない場合に業務命令違反として次の段階を検討することになります。ただし、この判断は事案によって結論が分かれますし、進め方を誤ると会社が不利になります。この段階に至ったら、必ず弁護士に相談してください。
関連ページ
| ►人事異動命令の有効性の判断ポイント |
| ►前例のない人事異動を実施する際の注意点 |
| ►退職勧奨を断られた後に人事異動を行う場合の注意点 |
| ►賃金の大幅減額を伴う人事異動を行う際の注意点 |
| ►配置転換拒否社員の解雇 |
| ►問題社員対応の総合解説 |
最終更新日:2026年7月17日