問題社員313 退職勧奨を断られた後に人事異動を行う場合の注意点
動画解説
この記事の要点
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退職勧奨を断られた直後の人事異動は、トラブルが非常に多い 経営者に悪気がまったくなくても、本人からは「断ったから嫌がらせで異動させられた」と受け止められることが多い |
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不当な動機・目的の有無は、経営者の内心の問題ではない。客観的な事実関係から推認されて決められてしまう 「こちらにその気はないのだから大丈夫」と思っていると、ひどい目に遭うことがある |
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すでにこの状況にあるなら、言葉に神経を使う。顧客に対して話すのと同じくらいの心構えで、具体的に説得する コツの一つは、「どこなら、どんな仕事なら満足なのか」を聞いてみること |
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根本的な対策は、そもそも退職勧奨を先にしないこと。先に異動先や別業務を提案し、それも嫌なら退職も選択肢として並べる 提案されて断るのと、提案すらされないのとでは、受け止め方がまったく違う |
目次
1. 退職勧奨を断られ、それから異動させるという流れ
退職勧奨を断られて困った、ということはありませんか。
よくある経緯
- 特定の拠点がなくなったので、他で働きたいとは思わないだろうと考えて、辞めてもらう話をした
- この仕事は向いていないな、他の仕事に就いてもらった方がよいのではないか、当社にいるよりも転職した方がよい人生を送れるのではないかと思って、辞めてもらう話をした
- 周囲とトラブルを起こし、人間関係が壊れてしまった。ここにいても協調してやっていけないから、辞めてもらった方が本人のためにもなると思って退職勧奨をした
ところが、退職勧奨を断られてしまいました。毎回話がつくわけではありませんから、どうしてもあることです。
そのとき、「そうか、そんなに辞めたくないという意思が固いのであれば仕方がない。ではこの拠点は閉鎖になるけれども、他の拠点で、少し遠いけれども働いてもらおう」「この仕事は縮小するので人もいらないから、別の仕事をやってもらおう」「周囲とうまくいかないのであれば、ここにいても毎日喧嘩ばかりになってしまうから、少し離れたところへ行ってもらって、新しい人間関係を築いてやり直してもらおう」。そう考えて、別のところへ異動させることがありますよね。
ところが、これはトラブルが多いのです。そこで本記事では、退職勧奨を断られた後に人事異動を行う場合の注意点について解説します。
2. なぜトラブルが多いのか。労働者の立場から見ると
なぜでしょうか。それは、退職勧奨を断ったから嫌がらせで異動させられたのだ、やりたくもない仕事をやらされるのだ、と受け止められることが多いからです。
経営者の側にその気がないことは分かります。「辞めた方が本人のためにもなると思ったから話したのだけれど、本人が断ってくる、辞めないとなったら、今のままここに置いておくわけにはいかないから、他の場所に移すか別の仕事をやってもらうしかない」。そういう感覚で「別の場所で働いてください」「別の仕事をやってください」と話を持っていっただけだったりするわけです。正直なところ、悪気も何もありません。
ところが、労働者の立場になってみると
辞めてくださいという提案があり、お断りした。色々と説得されたけれども、それでも断った。すると「他に異動してください」「別の仕事をやってください」と言われるわけです。
そうすると、「嫌がらせで、辞めさせるためにこんなことをやっているのだ」と受け止める方が本当に多いのです。別の場所へ、通勤時間の長い場所へ、場合によっては転勤しなければならない場所へ。あるいは、馴染みのない、これまでやってきた仕事ではない、自分のキャリアとは関係のない仕事をさせて、「この会社にいてもしょうがない」と思わせて辞めさせようとしているのだ、と。
経営者に悪気がなくても、その意図がまったくなくても、相手の立場に立つと、そう感じることが多いのです。
したがって、悪気がなく、本人が辞めたくないというから異動させただけだ、別の仕事に就けただけだと言っても、向こうはそういう目でこちらを見てきます。トラブルになりやすいのです。納得しませんし、その後の態度も悪くなりますし、内容証明が届いたり、場合によっては裁判を起こされたりすることだってあります。
3. 裁判で争われる論点:不当な動機・目的
裁判を起こされた場合、どんな論点として争われやすいのでしょうか。他の論点もたくさんありますが、最も多いのは不当な動機・目的による人事異動だと言われることです。
人事異動の権限がないのに異動させられない、というのは分かりやすい話です。ところが、配転の権限があったとしても、不当な動機・目的でなされた配転については、その権限の濫用で無効だと判断されることがあるわけです。
しかし、経営者としては、不当な動機・目的など落ちさらさらない。嫌がらせをする気持ちもまったくない。そうすると、「何を言っているのか、こちらにその気はないのだから、嫌がらせをする気などさらさらないのだから、別にいいでしょう」となってしまうわけです。
ところが、結構争われて苦戦することが多いのです。退職を提案したら断られ、その直後に異動させた、別の仕事をさせたということになると、裁判で苦戦することが多い。もちろん勝つこともありますし、絶対にだめだと言っているのではありません。しかし、裁判官や外部の人の目から見て「これはちょっとないのではないか」と思われてしまうと、こちらにまったく悪気がなくても負けてしまうのです。
4. 悪気がなくても負ける。内心ではなく客観的事実から推認される
ここが、最も重要なポイントです。
不当な動機・目的は、社長の内心の問題ではない
不当な動機・目的があるかどうかは、経営者の内心の問題ではなく、客観的な事実関係から「こう評価してよいのではないか」と推測して決められてしまうのです。
そもそも、人の内心を直接立証することはできません。ですから、外形的な事実の積み重ねから推認するほかない。そして、「退職勧奨をした」「断られた」「その直後に異動を命じた」という時系列そのものが、不当な動機・目的を推認させる事実として機能してしまうわけです。
「こちらは辞めさせる目的も嫌がらせの目的もまったくないから、不当な動機・目的があったら危ないと弁護士は言っているけれど、心配しなくていいや」と思っていると、ひどい目に遭うことがあります。社長の内心の話ではなく、客観的な事実関係から推認される事実やその評価について、冷静に外部の人間に判断してもらう必要があるのです。
これは、普通はできないことです。経営者には本業がありますし、会社経営をやっていかなければならない。もっとやりたい仕事がたくさんある。こんなことを自分でマスターするのは無理ですし、そんな時間があれば本業にエネルギーを注ぎたいわけです。優秀な人事担当者であれば、ある程度うまくできるかもしれませんが、とりわけリスクの高い案件とお考えいただいた方がよいので、人事部長などに任せる場合も、その部長と顧問弁護士が相談し、対話をしながらより良い手段を探っていく作業がどうしても必要になります。
退職勧奨をしたら断られた、というのはトラブルの多い案件です。自力で何とかするというよりは、弁護士に相談しながら、助言を受けながら次の一手を打っていく。「こういう風に話をしたら、向こうはこう返してきたので、では次はこういう話をしましょうか」と進めていくことをお勧めします。
5. すでにこの状況にある場合のコツ
基本的には弁護士と相談しながら進めるべきなのですが、それとは別に、コツのようなものもお伝えします。
すでに退職勧奨をして断られている事案については、申し上げたとおり、相手はこちらに強い不信感を持っています。こちらに悪気がなくても、不信感を持っている。そういう関係になってしまったと思ってください。
顧客に対するのと同じ心構えで
そうした方と話すわけですから、言葉には神経を使ってください。お客様に対して話す言葉と同じくらい、お客様相手に契約を取るために話すのと同じくらいの心構えはあった方がよいと思います。場合によってはそれ以上です。
言葉を選んで、相手を不必要に刺激しないように話す。相手の話していることはきっちり受け止めて、それを踏まえて受け答えする。この作業がどうしても必要になります。
もちろん、相手の言っていることを受け止めるというのは、言うことを聞かなければならないという意味ではありません。お断りすることもたくさんあります。お断りするにしても、お客様のご要望をお断りするときと同じようなイメージで、丁寧にお断りするのです。
そして、その場合も理由をしっかり説明する。普段であれば、部下に指示を出すときに理由を伝えることはあるにしても、簡易な理由で終わりだったりする。それでも回っているのが普通だと思います。ところが、退職勧奨を断られたという関係になってしまうと、それではうまくいかないことが多いのです。
どうしてこうなっているのか、どうして勤務場所を変えなければならないのか、どうして別の仕事をしなければならないのかについて、具体的に話さなければなりません。ついつい、「周囲とうまくいっていないから、ここは異動することになった。だって断ってきたのはあなたですよね」「この拠点は縮小・閉鎖する方向だから辞めてくれと話したら、あなたが嫌だと言うのだから、残ってもらうのであればこれくらい我慢してもらうしかないですよね」という感覚で話してしまう。それが普通の感覚なのです。しかし、その普通の感覚で話してしまうと、相手は強く反発します。
コツ:「どこなら、どんな仕事なら満足なのか」を聞く
具体的に一生懸命話していても、どうやら向こうは具体的な提案がないように受け止めていて、うまくいかなかった場合。そこで、「では、あなたはどこに移れば満足なのですか。どんな仕事ができれば満足なのですか」と聞いてみるのです。
「今の状況はこうですよね。この拠点も閉鎖になりますよね。では、どこで働きたいのですか」「この仕事はどんどんなくなっていますよね。では、どういう仕事をやればいいと思っているのですか。どう対応すればいいと思いますか」。そう話しながら進めていくと、「確かに、しょうがないのかな」と思う方もいます。
もちろん、「それを考えるのは経営者の仕事でしょう」と言って自分では何も言わない、という受け答えをする方もいらっしゃいます。それでも、腫れ物に触るように、具体的に話していかなければならないのです。
これができれば、ベストを尽くしたことになります。
6. 根本的な対策:そもそも退職勧奨を先にしない
では、そんなに難易度の高いことを言われても大変だ、もっと良い方法はないのか、根本的にこんな事態に陥らない方法はないのか。そう思われるでしょう。
お話しすると、最初から退職勧奨をしなければよいのです。
こう申し上げると、経営者からよく聞くのは「でも、本人だってこんな状況になったら辞めたいと思っているでしょうし、他の提案なんて本人が望んでいるとも思えません。そんなことを言われたこともないですし」というお話です。
提案されて断るのと、提案すらされないのとは、まったく違う
提案してみると、「確かに、そんなのは嫌だ」と言われることはあるかもしれませんし、よくあります。しかし、そもそも提案されないということ自体が、気分の悪いことなのです。納得がいかなくなりやすい。
提案されたものに対してお断りしたというのであれば、それがなしになっても人は納得します。ところが、提案自体をしてもらえないとなると、軽く扱われたような気分になるわけです。
では、具体的にどうすればよいのか。いきなり退職の話をするのではなく、異動できる可能性のある拠点があるのならそれも提案する。やってもらえる別の仕事があるのなら、先にそれを提案する。その上で、それでも嫌だという方については、「こういったパッケージで、ある程度の金銭をお支払いして辞めていただくという方法もあります」と、選択肢として並べて「好きなものを選んでください」という話をするのです。
「相手はこう思っているに決まっている」は失敗のもと
経営者からすれば、「通勤時間が短くてここで働きたいと言っている人が、30分もかからないところに通っているのに、1時間もかかるところなんかに行きたいわけがないでしょう」と思っているかもしれません。しかし、それを勝手に決めてはいけないのです。
「相手はこう思っているに決まっている」というのは、失敗のもとです。経営者の方が頭が良くても、だめなのです。そうではなく、聞けば答えが早く出るものが結構あるのです。聞いた結果、無駄に終わったということはもちろんありますが、聞いただけで解決する問題も山ほどあります。案外、本人がそれを望んでいることだってあるのです。
7. なぜ、この順序が効くのか
まず聞きましょう。「会社としては、この拠点を閉めるので異動してもらうとしたら、ここなのですが、どうですか」「この仕事はどんどん縮小されていって、なくなります。あなたにやってもらえる仕事としては、こちらは仕事の量が増えているのであり得るのですが、どうですか」。そう提案するわけです。
その上で、どうしても嫌だ、どれも自分の望むものではないという話であれば、「こういったパッケージを提案しますので、金銭をお受け取りいただいて辞めていただくという選択肢もありますよ」という話をしていただくのがよいと思います。
そうすると、本人も尊重された気持ちになります。もちろん、提案の内容次第では軽く見られたと思うこともあるでしょうけれども、提案すらないのと比べれば、よほど変な提案をしない限りは「少しはマシだ」と思うに決まっているわけです。たいていは、少なくとも一人の人間として尊重してもらったと解釈することが多いので、多少の不満はあるにしても、「どれにしようかな」と検討する機会が与えられるというのは、本人の納得感を得るために非常に良いのです。
この順序は、法的にも効いてくる
さらに、このやり方をすることによって、「辞めさせようと思ったら断られたから、嫌がらせで配転を持ちかけられたのだ」という話にはならなくなります。
そうすると、不当な動機・目的によるものだと、外から客観的に見えなくなるわけです。先ほど申し上げたとおり、不当な動機・目的は客観的な事実関係から推認されます。「退職勧奨 → 拒否 → 異動」という時系列が推認の材料になるのであれば、「異動の提案 → 拒否 → 退職も選択肢として提示」という時系列にしておけば、その材料自体が生じないのです。
提案内容がよほど変なものであれば別ですが、やれる限りの提案をして、どうしてそういう提案なのかを具体的に説明できれば大丈夫なのです。
なお、退職勧奨そのものは、労働者の自由な意思を尊重する方法で行われる限り違法ではありません。しかし、執拗な勧奨や退職を強要するような言動は違法と評価され、損害賠償の対象となり得ます。順序を工夫することは、この点のリスクを下げることにもつながります。
8. まとめ
- 退職勧奨を断られた直後の異動は、トラブルが非常に多い。悪気がなくても嫌がらせと受け止められる
- 不当な動機・目的は、内心ではなく客観的事実から推認される。「その気はないから大丈夫」は通用しない
- とりわけリスクの高い案件である。弁護士に相談しながら、一手ずつ打っていく
- すでにこの状況なら、顧客に対するのと同じ心構えで、丁寧かつ具体的に説得する
- コツは「どこなら、どんな仕事なら満足なのか」を聞くこと
- 根本策は、先に異動先や別業務を提案し、それも嫌なら退職も選択肢として並べること
- この順序は、納得感を高めるだけでなく、不当な動機・目的の推認材料そのものをなくす
トラブルの多い、難しいものに対してもしっかり対応できるようになってください。これができるようになると、説得力のある、人を導いていくリーダーだという評価が高まり、社員からも尊敬されやすくなります。退職勧奨後の人事異動でお悩みの経営者の皆様は、ぜひ弁護士にご相談ください。
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 退職勧奨から時間を空ければ、異動させても問題ありませんか。
A. 時間の間隔は考慮要素の一つですが、それだけで結論が決まるものではありません。不当な動機・目的の有無は、退職勧奨との時間的な近接性のほか、異動の業務上の必要性、異動先の内容が本人の経歴や能力に見合うものか、他の社員との取扱いの均衡、その間のやり取りの内容など、様々な事実から総合的に推認されます。時間を空けても、業務上の必要性を説明できなければ推認を覆せませんし、逆に必要性が明確で説明も尽くしていれば、近接していても認められることはあります。時間稼ぎではなく、必要性の整理に注力してください。
Q2. 拠点の閉鎖が理由なら、必要性は明らかではないでしょうか。
A. 拠点の閉鎖という事実自体は、異動の必要性を基礎づける有力な事情です。もっとも、争点になるのは「なぜその異動先なのか」「なぜその社員なのか」という点です。閉鎖に伴い他の社員は近隣の拠点に配置されたのに、退職勧奨を断ったその社員だけが遠方に配置されたとなれば、拠点閉鎖という事情があっても不当な動機・目的が推認されかねません。閉鎖という大枠の必要性と、個別の配置判断の合理性は別に説明できる状態にしておく必要があります。
Q3. 異動と退職を選択肢として並べて示すことは、退職の強要になりませんか。
A. 選択肢を示して本人に選んでもらうという進め方自体は、むしろ自由な意思を尊重する方向のものです。問題になるのは、示し方です。「異動が嫌なら辞めるしかない」と迫る、拒否しているのに繰り返し面談を求める、拒否したことを理由に不利益をほのめかすといった進め方は、退職の強要として違法と評価され得ます。あくまで選択肢の提示にとどめ、検討の時間を与え、いずれを選んでも構わないという姿勢を保ってください。伝え方に不安があれば、事前に弁護士に相談してください。
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最終更新日:2026年7月17日