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本ページの基となる解説動画
本ページの解説内容は、以下の藤田進太郎弁護士による解説動画を素材として、当事務所が文章化しているものです。本ページの記載と動画の内容に齟齬がある場合や、より詳しい解説をご覧になりたい場合は、動画を直接ご視聴ください。
①「相手がパワハラだと思ったらパワハラ」は誤解です
②何でもパワハラだと言う
「相手がパワハラだと感じたらパワハラ」という言説は、法律上も厚生労働省指針上も完全な誤解です。パワハラに該当するか否かは、相手や行為者の主観ではなく、平均的な労働者の感じ方という客観的基準で判断されます。この誤解が職場に広まると、気軽に「パワハラ」という言葉が使われ、管理職が必要な注意指導を萎縮して行わなくなり、問題社員の行動がエスカレートし、まじめな社員が被害を受ける悪循環が生まれます。対応の核心は、誤解を厚労省指針の原文に基づいて正すこと、安易な主張には面談で逃げずに対峙すること、そして調査の結果として管理職側に問題が見つかる可能性も視野に入れ、適正配置の検討につなげる前向きな経営判断を行うことにあります。
「相手がそう思ったらパワハラ」という嘘が流布している
「相手がパワハラだと感じたらパワハラなんです」という言説を、社内外で耳にしたことはないでしょうか。テレビ、SNS、一部のマネジメント研修、そして現場の雑談の場で、この言説は誠しやかに語られています。しかし結論から申し上げると、これは法律上も厚生労働省の指針上も完全な誤解であり、根拠のない嘘です。
少し考えていただければ分かる話です。もし「相手がそう思ったらパワハラ」という基準が本当だったとしたら、どうなるでしょうか。相手の気分次第で、何でもかんでもパワハラに仕立て上げられてしまいます。業務上必要な指示も、適正な注意指導も、相手が「それはパワハラだ」と主観的に感じさえすればパワハラ認定されるということになり、職場はまったく機能しなくなります。
それにもかかわらず、この誤解が広まっているために、「パワハラと言われるのが怖くて、必要な注意指導ができません」という相談が、当事務所に数多く寄せられています。本ページでは、この誤解を厚労省指針の原文に基づいて正すこと、そして誤解が蔓延した職場への具体的対応を、順を追って解説いたします。
厚生労働省のパワハラ指針を原文で確認する
パワハラの定義は、いわゆるパワハラ防止法(労働施策総合推進法)と、厚生労働省が公表している「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(いわゆるパワハラ指針)に示されています。指針の原文の趣旨を要約すると、職場におけるパワーハラスメントは次の3要件をすべて満たすものとされています。
要件① 優越的な関係を背景とした言動
上司から部下へという典型的な上下関係に限らず、力関係によっては、同僚間や部下から上司に対する言動もこの要件を満たし得ます。
要件② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
業務上必要のない言動、または必要はあっても相当性を欠く過剰な言動がこの要件に該当します。業務上必要かつ相当な範囲内の指導は、この要件を満たしません。
要件③ 労働者の就業環境が害されるもの
その言動により、受けた労働者の就業環境が現実に害されることがこの要件です。「害される」か否かも、次章で説明する平均的な労働者の感じ方で判断されます。
厚労省の決定的な一文
厚労省のパワハラ指針および関連パンフレットには、上記3要件の説明に続けて、次の趣旨の一文が明記されています。
厚労省指針の決定的な一文(趣旨):
「客観的に見て、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しない。」
これは、当事務所が勝手に解釈しているものではなく、国の指針として公式に示されている判断枠組みです。「客観的に見て」という文言が明記されている以上、本人の主観だけでパワハラ該当性が決まるという「相手がそう思ったらパワハラ」言説は、厚労省の公式見解とも完全に矛盾します。部下や社員から「それはパワハラだ」と言われた際には、この厚労省指針を冷静に示し、「客観的に見て適正な業務指示や指導はパワハラに該当しません」と落ち着いて応答していただいて構いません。
「平均的な労働者の感じ方」という客観的基準の意味
「客観的」とは「平均的な労働者の感じ方」を指す
第2章で確認したとおり、パワハラ該当性は「客観的に」判断されます。この「客観的」とは、具体的には「平均的な労働者の感じ方」を基準とすると指針上解されています。言い換えれば、「同じような状況で同じような立場の労働者であれば、大多数の人がどのように感じるか」という基準です。
本人がどう感じたかは考慮要素の一つにすぎない
本人の主観的な受け止め方は、客観的判断を下すうえで考慮される要素の一つにはなりますが、それだけで結論が決まるわけではありません。経営者や管理職の主観(「悪気はなかった」「そのつもりはなかった」)も同様に、考慮要素の一つにすぎず、それだけでパワハラ認定を免れるものではありません。
つまり、この客観的基準は、経営者・管理職にとって「安心材料」と「耳の痛い話」の両面を持ちます。本人がパワハラだと感じただけでパワハラ認定されるわけではないという点は安心材料ですが、悪気がなかったとしても、平均的な労働者の感じ方として「これはパワハラだ」と評価されるような言動を取れば、それはパワハラだと認定されるという点は、経営者側としても意識すべき論点です。
「同じような状況・立場」の考慮
「平均的な労働者」と言っても、すべての労働者一般の平均ではなく、「同じような状況にあり、同じような立場にある大多数の労働者」を指すと解されます。新入社員への指導、管理職候補への高度な指導、専門職に対する技術指導など、同じような状況・立場を共有する労働者の感じ方を基準に判断するため、個別事情はある程度考慮されます。しかし、当該社員本人の個性や主観的な感受性のみで判断されるわけではないという点は、変わりません。
安易な「パワハラ」発言が蔓延する職場の実害
「相手がそう思ったらパワハラ」という誤解が職場に浸透すると、気軽に「パワハラだ」という言葉が使われるようになります。この状態を放置すると、職場に次のような実害が生まれます。
実害① コミュニケーションの停滞
「ちょっと話しかけたらパワハラと言われた」という経験が社内で広まると、上司や同僚が当該社員に対して必要以上に気を遣うようになり、業務に必要なやり取りすら躊躇するようになります。結果として、業務の停滞、情報の非共有、連携不足が生じ、組織全体のパフォーマンスが低下します。
実害② 必要な注意指導・教育指導の停止
安易にパワハラと口にする社員に対して、上司が「また言われるのが嫌だから、今回は注意指導をスキップしよう」と判断する場面が積み重なると、業務上のルール違反、問題行動、業務品質の低下といった問題が放置されます。この放置状態が、問題行動のエスカレートを招き、さらに言えば、周囲の社員に対する悪影響(まじめに働いている人が見捨てられた感覚を持つ等)にもつながります。
実害③ 優秀な社員の離反
実害①と②が重なると、職場全体の規律が緩み、まじめに働く社員ほど「この会社にいても、ちゃんと仕事をする人が評価されない」という感覚を持つようになります。優秀な社員ほど他の会社への転職機会があるため、先に離反していきます。会社にとって最も失いたくない人材が、こうした職場文化の悪化によって、先に去っていくという最悪の結果を招きます。
管理職の萎縮問題。必要な指導ができなくなる
第4章の実害のうち、経営者として最も警戒すべきは、管理職の萎縮です。「パワハラと言われるのが怖い」という感覚が管理職に根付くと、本来果たすべき監督機能が働かなくなります。
部下のルール違反を見ても「指摘したらパワハラと言われるかも」と考えて黙認する、業務品質の低下を見ても注意指導を避ける、問題行動への懲戒処分を提案するのを躊躇する、といった消極的行動が蓄積します。このような萎縮した管理職が複数存在する職場では、会社秩序を維持するための実効的な機能が失われ、経営者一人ですべての問題に対処せざるを得ない状態に陥ります。
この問題の根本解決には、管理職に対して「客観的に適正な注意指導はパワハラに該当しない」という正しい法的理解を徹底すること、管理職が自信を持って事実ベースの注意指導を行えるようにスキルアップの機会を提供すること、そして、必要であれば会社側を専門に扱う弁護士への相談チャネルを用意しておくことが、経営者の課題となります。適正な注意指導の具体的方法は、パワハラと言われない注意指導の方法のページで詳しく解説しています。
安易な主張には面談で逃げずに対峙する
軽い注意で済ませず、会議室で面談する
安易にパワハラと口にする社員に対して軽く一言注意する程度では、改善に結びつかないことがほとんどです。繰り返し同種の発言を続ける社員に対しては、会議室で面談の場を設け、正面から事実関係と法的理解について話し合う必要があります。面談は面倒な作業であり、相手の反発も予想されるため、どうしても腰が引けがちです。しかし、放置するほど問題はエスカレートし、職場全体への波及が広がるため、早期の対峙が結果として最も効率的な対応となります。
面談での伝達内容の骨子
面談では、次の3点を骨子として伝えます。第一に、パワハラ該当性は相手の主観ではなく客観的基準(平均的な労働者の感じ方)で判断されるという厚労省指針の内容。第二に、当該社員の「パワハラだ」という発言が、どの場面で、どのような文脈で、誰に対してなされたかという具体的事実の確認。第三に、当該発言が職場のコミュニケーションや業務に与えている影響と、今後の言動に対する会社としての期待。
この3点を、具体的事実に基づいて、冷静かつ丁寧に伝えることで、多くの事案は面談の場で改善方向に向かいます。面談の内容は記録に残し、繰り返し同種の言動があった場合の次の対応(懲戒処分の検討等)に備えた資料として蓄積してください。面談準備や対応に不安がある場合は、会社側を専門に扱う弁護士に事前にご相談いただき、伝達内容や想定問答を整理しておくことをお勧めします。
調査の結果、管理職側に問題があることが判明する場合
ここで経営者として意識していただきたいのが、部下から「上司のパワハラ」を訴えられた際の調査を進めるなかで、実は当該上司(管理職)側の言動にも問題がある事実が判明するケースが一定数あるということです。部下が安易にパワハラと口にしている事案だと初めは見えていたものが、詳しく事情を聴取してみると、管理職の指導が客観的に見ても行き過ぎていた、あるいは人格否定的な表現を含んでいた、という事実が浮かび上がることがあります。
特に中小企業の管理職では、プレイヤーとしては優秀であるものの、部下を育成する管理能力に課題があるケースが少なくありません。本人としては「自分は厳しく真剣に指導している」という認識のもとで、客観的には不適切な言動を重ねていることがあります。普段は経営者の耳に入らないこうした情報が、部下の「パワハラ訴え」をきっかけに初めて経営者に伝わることがあります。
この場合、単に「安易にパワハラと言う部下が悪い」という結論で処理するのではなく、管理職側の言動についても客観的に事実認定を行い、必要であれば管理職に対しても注意指導や懲戒処分を検討する必要があります。調査の進め方は、ハラスメント対応の柱ページをあわせてご参照ください。
適正配置という前向きな視点(プレイヤーと管理職)
プレイヤー優秀で管理に不向きな人材の存在
第7章で触れたような、プレイヤーとしては優秀だが管理能力に課題のある管理職を、どう処遇するかは重要な経営判断です。日本の多くの会社では、プレイヤーとして優秀な成績を収めた人物に対する「ご褒美」として管理職のポジションを与える慣習があります。しかし、プレイヤーとしての才能と、管理職としての適性は、必ずしも一致しません。むしろ、両者は質の異なる能力であり、プレイヤーに向いた人材が管理職に向かないことは、決して珍しい話ではありません。
「管理職から外す」は降格ではない
プレイヤー優秀で管理不向きな人材には、管理職から外してプレイヤー業務に専念していただくという選択肢があります。日本の人事慣行では、管理職から外すことを「降格」として捉えがちですが、給与を下げる必要はありません。プロスポーツの世界では、監督よりも年俸の高いトップ選手が多数存在します。プレイヤーとしての貢献に対して適切に処遇しつつ、管理職としては適性の高い別の人材を配置するという発想は、会社全体の組織力向上に資する前向きな経営判断です。
パワハラ訴えを「適正配置見直しのきっかけ」にする
部下からのパワハラ訴えは、経営者にとって頭の痛い出来事ですが、視点を変えれば、普段は見えない管理職の実像を確認する貴重な機会でもあります。「この管理職は、適性のある役割についているか」という問いを自らに向けることで、単に部下への対処にとどまらず、組織全体の適正配置を見直す前向きな経営判断につなげることができます。この視野の広さが、単なる人事担当者ではなく、会社経営者としての判断力の表れとなります。当事務所では、こうした経営判断を支える伴走支援を、オンライン打合せを活用した継続的支援の形でご提供しております。
よくあるご質問
Q.本人が「私がパワハラと感じたのだからパワハラです」と強く主張してきます。どう反論すればよいですか。
A.厚生労働省のパワハラ指針では、パワハラ該当性は「客観的に見て」判断するものと明記されています。具体的には「平均的な労働者の感じ方」が基準です。本人の主観だけで決まるわけではないことを、厚労省指針の内容を示しながら冷静に伝えてください。「相手がそう思ったらパワハラ」という言説は、国の指針とも矛盾する誤解です。
Q.「平均的な労働者」とは、具体的にどのような労働者を指しますか。
A.すべての労働者一般ではなく、「同じような状況にあり、同じような立場にある大多数の労働者」を指します。新入社員、管理職候補、専門職、事務職等、立場ごとに基準が調整されるため、個別事情はある程度考慮されます。ただし、当該社員の特異な感受性のみで判断されるわけではない点は変わりません。
Q.「悪気はなかった」という管理職の弁明は、パワハラ認定を免れる理由になりますか。
A.経営者や管理職の主観(悪気の有無、意図の有無)は、パワハラ該当性判断における考慮要素の一つとなりますが、それだけで結論が決まるわけではありません。悪気がなくとも、客観的に見て平均的な労働者がパワハラだと感じるような言動が行われていれば、パワハラと認定される可能性があります。経営者側の主観にのみ依拠した弁明は、法的に通用しないことが多いと認識してください。
Q.安易にパワハラと口にする社員自体を、懲戒処分することはできますか。
A.単に「パワハラだ」と発言したという事実だけを理由とする懲戒処分は、有効性が争われるリスクが高くなります。まず面談で注意指導を行い、改善の機会を与えることが第一歩です。繰り返し同種の発言があり、職場秩序への影響が生じている場合は、職場秩序違反として懲戒処分を検討する余地があります。この場合も、問題社員の懲戒処分(事実認定を核心に)のページで解説した通り、具体的事実の認定が処分有効性の前提となります。
Q.部下からのパワハラ訴えを調査していたら、管理職側に問題が見つかりました。どう対応すべきですか。
A.管理職側の言動についても客観的に事実認定し、その事実が厚労省指針の3要件に該当する程度のものであれば、当該管理職に対する注意指導や懲戒処分の検討が必要です。さらに、当該管理職の「管理職としての適性」についても、経営判断として冷静に評価する機会としてください。プレイヤーとして優秀で管理職不向きな人材については、適正配置の見直しも視野に入れることが、組織力向上に資する前向きな選択肢となります。
Q.管理職を「管理職から外す」ことは、降格処分として無効になるリスクはありませんか。
A.管理職からの解任が、就業規則上の懲戒処分としての降格に該当する場合は、懲戒事由該当性と処分相当性の要件を満たす必要があります。他方、人事権の行使としての職位変更(ポジションの異動)として行う場合は、業務上の必要性と不利益の相当性のバランスで判断されます。いずれの形で行うかによって必要な手続・要件が異なりますので、具体的な進め方は弁護士にご相談ください。管理能力のない管理職の降格のページもご参照ください。
Q.安易なパワハラ主張への対応や、管理職対応について、継続的に弁護士と相談できる体制はありますか。
A.当事務所では、オンライン打合せを活用した継続的支援を多く採用しております。面談の設計、伝達内容の整理、管理職への指導方針、適正配置の検討、懲戒処分の相当性判断までを、案件の進行状況に応じて30分単位の打合せで継続的に行います。経営者が視野を広く持ち、前向きな経営判断に転換できる伴走支援を提供いたします。
さらに詳しく知りたい方はこちら
- >ハラスメント対応。会社の法的責任と対処フロー【柱ページ】
- >パワハラと言われない注意指導の方法
- >「パワハラだ」と言い返す社員への対応
- >管理能力のない管理職の降格
- >問題社員の懲戒処分(事実認定を核心に)【柱ページ】

監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
パワハラの誤解が広まった職場は、
厚労省指針を基準に正していけます。
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最終更新日 2026/04/19