「パワハラだ」と言い返す社員への対応

 
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注意指導に
「パワハラだ」と言い返す
社員への対応を解説します。

まともな注意指導をしているにもかかわらず、本人から「それはパワハラだ」と言い返されて、その後の対応に悩む経営者・管理職の方は少なくありません。この一言で怯んで注意指導を止めてしまうと、問題社員の行動はエスカレートし、まじめな社員が見放されたと感じて職場が崩れていきます。しかし、パワハラに該当するか否かは相手の主観ではなく客観的な基準で決まるものであり、適正な注意指導に対して「パワハラ」と言われても、基本的に逃げる必要はありません。本ページでは、「パワハラだ」と言い返す社員への対応の基本姿勢、法律上のパワハラ3要件、議論の舞台を「事実」に移す方法、「90点の注意指導」を目指す発想までを、会社側専門の弁護士が会社経営者向けに解説いたします。

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本ページの基となる解説動画

 

 本ページの解説内容は、以下の藤田進太郎弁護士による解説動画を素材として、当事務所が文章化しているものです。本ページの記載と動画の内容に齟齬がある場合や、より詳しい解説をご覧になりたい場合は、動画を直接ご視聴ください。

①注意指導するとパワハラだと言い返す問題社員

②注意指導するとパワハラだと言って指導に従わない

本記事の要点

まともな注意指導に対して「パワハラだ」と言い返す問題社員への対応の核心は、この一言で怯んで注意指導を止めないことにあります。パワハラに該当するか否かは、相手の主観ではなく客観的な基準(厚労省指針の3要件)で判断されるものであり、「相手がそう思ったらパワハラ」は完全な誤解です。注意指導が客観的に見て業務上必要かつ相当な範囲で適正になされていれば、本人がパワハラだと感じたとしても法的にパワハラと評価されることはほぼありません。議論の舞台は「パワハラか否か」という評価ではなく、「何月何日にどのような言動があったか」という事実に置き、注意指導自体を「ギリギリ政府」ではなく「90点」を目指す水準で設計することが、パワハラ評価リスクを大幅に下げる最も確実な方法です。

CHAPTER 01

「パワハラだ」と言い返されたときの基本姿勢

 

 当事務所への相談で頻繁にお聞きするパターンのひとつに、経営者や管理職がまともな注意指導をしたところ、本人から「それはパワハラです」と言い返され、その一言でどう対応してよいかわからなくなり、注意指導自体を止めてしまうというケースがあります。「パワハラだ」という言葉の持つ重さと、万一そう認定されたときの会社側の損害の大きさを考えると、経営者が躊躇する気持ちは十分に理解できます。

 しかし、まともな注意指導に対して「パワハラだ」という言葉で威嚇し、注意指導そのものを止めさせようとする社員は、実務上一定数存在します。そして、この一言で経営者側が引き下がると、問題社員は「この会社では、パワハラだと言えばうるさく言われない」と学習し、行動はエスカレートします。結果として、まじめに働く周囲の社員が被害を受け続けることになります。「パワハラだ」と言い返された局面こそ、経営者が引かない姿勢を示すべき局面です。

CHAPTER 02

逃げてはいけない3つの理由

 

理由① 問題社員の行動がエスカレートする

 経営者や管理職が「パワハラ」という言葉に屈して注意指導を止めると、問題社員は「この会社ではパワハラと言えばうるさく言われなくて済む」という認識を形成します。行動はより大胆になり、仕事をサボる、自分の気に入らない同僚にいじめのような嫌がらせをする、会社のルールを無視する、といった方向へ事態が悪化していきます。注意指導を止めたことが、問題の拡大を招くという逆説的な結果を生むわけです。

理由② まじめな社員が「見捨てられた」と感じる

 問題社員の行動で被害を受けているのは、多くの場合、同じ職場でまじめに働いている他の社員です。経営者がパワハラと言われて引き下がり、問題社員を放置した場合、周囲の社員は「この会社は、声の大きい人の言いなりだ」「自分が迷惑を受けても、会社は守ってくれない」と受け止めます。結果として、優秀な社員ほど早い段階で転職を考え、会社から抜けていきます。会社にとって最も失いたくない人材が、先に去っていくという構造が生まれます。

理由③ 経営者・管理職が「なめられる」

 「パワハラ」という言葉で引き下がる経営者・管理職は、社員全体から軽く見られます。「この上司は、パワハラと言われるのを怖がっているから、きちんと物を言えない」「要するに、ちょろい上司だ」という評価が社内に広がります。一度そう見られると、他の業務命令や指示についても従順な反応が得られにくくなり、組織全体の規律が緩みます。注意指導局面での毅然とした態度は、経営者のリーダーシップそのものを守る行為でもあります。

CHAPTER 03

「相手がそう思ったらパワハラ」は誤解

 

この誤解が職場を麻痺させる

 世間で広く信じられている「相手がパワハラだと感じたらパワハラ」という言説は、完全な誤解です。法律上、パワハラに該当するか否かは、相手の主観ではなく、客観的な基準で判断されます。ここを誤解したまま「相手がそう思ったらパワハラなのだから、何も言えない」という発想に陥ってしまうと、問題社員に対してあらゆる注意指導ができなくなり、職場そのものが麻痺してしまいます。

「客観的に」とはどういう意味か

 パワハラ判断における「客観的」とは、厚生労働省の指針上、「平均的な労働者の感じ方」を基準とするとされています。わかりやすく言い換えれば、「同じような状況で同じような立場の労働者であれば、大多数の人がどのように感じるか」という基準です。当該社員本人がどう感じたかは、判断の一要素としては考慮されますが、それ自体が基準となるわけではありません。

 したがって、経営者や管理職が適正な注意指導をしたところ、受けた本人が「これはパワハラだ」と感じたとしても、客観的に見て適正な注意指導であれば、法的にはパワハラと評価されません。この事実を知らないまま「パワハラと言われたのだからパワハラなのだろう」と思い込むと、不必要に萎縮した職場運営になってしまいます。

CHAPTER 04

法律上のパワハラ3要件(厚労省指針)

 

 厚生労働省の指針上、職場におけるパワーハラスメントは、次の3つの要件をすべて満たすものとされています。

要件① 優越的な関係を背景とした言動であること

上司から部下という上下関係が典型ですが、同僚間・部下から上司に対するものであっても、業務上の力関係によっては成立し得ます。

要件② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること

業務に必要のない言動、または必要はあっても相当性を欠く過剰な言動であることが要件となります。業務上必要かつ相当な範囲内の指導は、この要件を満たしません。

要件③ 労働者の就業環境が害されるものであること

その言動により、受けた労働者の就業環境が現実に悪化することが要件となります。ここも「平均的な労働者の感じ方」を基準とした客観的判断です。

厚労省の「適正な指導はパワハラではない」という公式宣言

 厚生労働省のパンフレットには、「客観的に見て、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、パワハラに該当しない」と明記されています。これは会社側専門弁護士が勝手に言っていることではなく、厚生労働省の公式な見解です。経営者として、この事実をしっかり認識したうえで、「パワハラだ」という言葉に必要以上に怯まないでください。

CHAPTER 05

議論の舞台を「評価」から「事実」に移す

 

「パワハラか否か」で議論すると必ず空中戦になる

 本人から「それはパワハラだ」と言われたとき、「パワハラじゃない」「パワハラだ」という議論を続けても、結論には至りません。「パワハラ」とは評価の問題であり、評価レベルの議論は必ず平行線を辿ります。

 対応の核心は、議論の舞台を「パワハラか否か」という評価から、「何月何日にどのような事実があったか」という事実に移すことです。「先ほど私が申し上げたのは、○月○日の○時頃、○○の場面で、あなたが○○と発言したこと、それが不適切であったという点です。この事実について、ご認識に相違はありますか」という形で、事実レベルでの応答を促します。

事実ベースの議論は生産的である

 事実レベルの応答を求められた本人は、「言った」「言っていない」「言ったが意図は違う」という具体的な応答をせざるを得ません。ここから建設的な議論が始まります。「言った」のであれば、その行動がなぜ問題なのかを具体的に伝えられます。「言っていない」のであれば、証拠と突き合わせた事実認定に進めます。いずれにしても、評価レベルの空中戦ではなく、事実レベルの生産的対話が成立します。この姿勢は、注意指導の基本構造としてパワハラと言われない注意指導の方法のページで詳しく解説しています。

CHAPTER 06

「ギリギリ政府」ではなく「90点」を目指す発想

 

パワハラは「白か黒か」ではなく「点数」で考える

 世の中には「これはパワハラか、セーフか」という二択で議論する書籍や記事が多くありますが、この発想は実務上とても危険です。パワハラ該当性は「白か黒か」ではなく、0点から100点の間のスコアで考えるほうが、はるかに実務的です。

 たとえば、赤点(パワハラ認定)の境界線が40点だとします。ある経営者が自分の注意指導について弁護士に相談し、「これは42点、ギリギリセーフでパワハラにはなりません」と回答されたとします。42点であれば確かに現時点ではパワハラと評価されない可能性が高いですが、事実関係の認識に若干のズレがあったり、相手の反応や状況がわずかに変わっただけで38点になり、パワハラと評価されるリスクが高いゾーンにいます。

目指すべきは「90点の注意指導」

 実務上は、「ギリギリセーフ」を狙うのではなく、「90点の注意指導」を目指してください。90点の注意指導とは、事実を具体的に伝え、業務上の必要性と相当性が明確で、評価的侮辱を含まず、本人の人格ではなく行動に焦点を当てた指導です。90点の水準であれば、認識や状況が多少変動しても依然として高得点ゾーンにあり、パワハラと評価される余地はほぼありません。しかも、90点の注意指導は教育効果も高く、本人の改善が期待できます。「ギリギリ政府狙い」は、後ろ向きの発想であり、教育効果も薄く、リスクも高いため、避けるべき方向性です。

CHAPTER 07

「パワハラだ」と言われた管理職を守ることも経営者の役割

 

 もうひとつ、経営者が意識すべき重要な論点があります。それは、部下から「あの上司はパワハラをしている」と申告を受けたときに、その申告だけを真に受けて、いきなり当該管理職をマイナス評価したり処分したりするのは誤りだということです。

 申告内容を丁寧に調査し、当該管理職の注意指導がまともなものであったことが確認できれば、その管理職は非難されるべきでなく、むしろ守るべき存在です。まともな注意指導を行っている管理職を、「パワハラだと言われた」という事実だけで不利に扱ってしまうと、他の管理職も問題社員への注意指導を躊躇するようになり、会社全体の規律が緩みます。

 もちろん、調査の結果、当該管理職の指導に問題があることが判明した場合は、改善指導や懲戒処分の検討が必要になります。しかし、その判断は、申告を受けた直後ではなく、客観的な事実認定を踏まえた上で行うべきです。「パワハラだ」という言葉の重みに流されて拙速な判断を下すことは、経営者として避けるべき誤りです。調査プロセスの詳細は、ハラスメント対応の柱ページもあわせてご参照ください。

CHAPTER 08

実践力を高める練習法と弁護士の伴走支援

 

知識のインプットだけでは足りない

 パワハラに関する書籍を読み、セミナーを受講し、厚生労働省のパンフレットを読み込むことは、基礎知識を整えるうえで非常に有益です。しかし、実際に「パワハラだ」と言い返される場面で冷静に対応するためには、知識のインプットだけでは足りません。スポーツや楽器の演奏と同じように、アウトプットの練習が必要です。知識があっても、本番で言葉が出てこないのでは意味がありません。

ロールプレイによる練習の有効性

 当事務所では、問題社員対応のご相談のなかで、ロールプレイによる練習をご希望される経営者の方に、弁護士が「パワハラだと騒ぐ問題社員役」を演じ、経営者ご自身が注意指導する役で応答するという練習を行うことがあります。弁護士は多くの事案で、実際の問題社員よりも手厳しい応答をしますので、弁護士相手に対応できるようになれば、実際の社員相手の場面では、かなりの余裕を持って対応できるようになります。社内で信頼できる方にロールプレイ相手をお願いする方法も、実践的な選択肢です。

短時間頻回のオンライン打合せで伴走する

 パワハラ関連の事案は個別性が強く、一般論の知識だけでは対応しきれない局面が必ず訪れます。当事務所では、オンライン打合せを活用した継続的支援の体制を整えております。「先日本人に○○と伝えたところ、『それはパワハラだ』と言い返されました。次はどう応答すべきですか」「明日この場面で注意指導する予定ですが、伝え方はこれで大丈夫ですか」といった個別具体的なご相談を、案件の進行状況に応じて30分単位で頻繁に行うことで、経営者・管理職の実践力は着実に高まっていきます。事案ごとの伴走を通じて、パワハラ主張に動じない注意指導の技術を、一緒に磨いていきましょう。

Q & A

よくあるご質問

 

Q.「それはパワハラだ」と言われた瞬間、どう応答するのが正解ですか。

A.「パワハラか否か」の議論には乗らず、議論の舞台を事実に移してください。「私が申し上げたのは、○月○日の○○の場面で、あなたが○○と発言したこと、それが不適切であったという点です。この事実についてご認識の相違はありますか」という形で、具体的事実への応答を促します。本人が事実を否認する場合は、証拠と突き合わせた事実認定に進み、事実を認める場合は、行動の不適切性の説明を続けます。

Q.本人が「相手がパワハラだと感じたらパワハラだ」と主張してきます。どう反論すればよいですか。

A.それは誤解である旨を、厚生労働省の指針を示して説明してください。「パワハラに該当するかは、平均的な労働者の感じ方という客観的基準で判断されると厚労省の指針に明記されています。客観的に見て業務上必要かつ相当な範囲の適正な業務指示や指導は、パワハラに該当しません」という趣旨を、冷静に伝えれば十分です。詳細は「相手がそう思ったらパワハラ」誤解と安易な主張への対応のページもご参照ください。

Q.自社の管理職が部下から「パワハラだ」と申告されました。どう対応すべきですか。

A.申告だけを真に受けて管理職を処分するのではなく、まず事実関係の調査を行ってください。当該管理職の指導が客観的に見てまともな内容であれば、その管理職は守るべき存在です。調査の結果、指導に行き過ぎや不適切さがあれば、改善指導や懲戒処分を検討します。調査手順の詳細はハラスメント対応の柱ページをご参照ください。

Q.「パワハラだ」と言い返す社員自体を、懲戒処分や解雇することはできますか。

A.発言内容の悪質性や業務への支障の程度により、懲戒処分や解雇の対象となり得る場合があります。ただし、単に「パワハラだ」と言い返したという事実だけで重い処分を行うと、処分の有効性が争われるリスクがあります。むしろ、当該社員の業務態度、注意指導への従わなさ、職場秩序への影響等、客観的事実を積み重ねて、注意指導や懲戒処分を段階的に進めていくアプローチが実務的です。重い処分の検討は弁護士の関与のもとで行うことを強くお勧めします。

Q.自分の注意指導が「90点」レベルかどうか、どう判断すればよいですか。

A.以下の5点がすべて満たされていれば、90点水準に近いと判断できます。(1)事実を5W1Hで具体的に伝えている、(2)評価的侮辱や人格否定を含まない、(3)業務上の必要性と相当性が客観的に説明できる、(4)本人の行動に焦点を当てており人格に踏み込んでいない、(5)感情的な言い方や極端な表現を避けている。判断に迷う場合は、弁護士に文案や面談シナリオを見てもらうことで、客観的な評価を受けられます。

Q.録音されている可能性がある状況で注意指導する場合、特に気をつけることはありますか。

A.録音されている前提で発言を設計する運用が、現代の注意指導の標準です。録音があっても問題にならない内容は、事実を中心とした「90点の注意指導」です。事実を具体的に伝え、評価的侮辱を避ける原則を徹底すれば、録音の有無は大きな問題になりません。むしろ、録音を意識することで発言が慎重になり、指導の質そのものが向上するという副次的効果もあります。

Q.「パワハラだ」と言い返す社員への対応について、継続的に弁護士と相談できる体制はありますか。

A.当事務所では、オンライン打合せを活用した継続的支援を多く採用しております。注意指導の文案・伝達内容のレビュー、本人との対話後の振り返り、次の一手の検討、ロールプレイ練習までを、案件の進行状況に応じて30分単位の打合せで継続的に行います。経営者・管理職が孤立せず、自信を持って問題社員に向き合える体制を整えております。

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SUPERVISOR
弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

 
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最終更新日 2026/04/19