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管理能力のない管理職の降格。
人事権行使と懲戒処分
実務の要点を会社側専門弁護士が解説します。

管理職として登用したものの、管理能力が不足し機能していない社員の降格には、「懲戒処分としての降格」と「人事権行使としての降格」の二種類があり、両者は法的性質が全く異なります。さらに、降格に伴う給料減額こそが、実務上最も紛争が生じやすいポイントです。本ページでは、降格の類型整理から制度設計までを、会社経営者向けに体系的に解説いたします。

本記事の要点

管理職の降格には、「懲戒処分としての降格」と「人事権行使としての降格」の二類型があり、両者は法的性質が全く異なります。管理能力不足を理由とする降格は人事権行使として実行可能な場合が多いのですが、実務上の最大の紛争ポイントは降格に伴う給料減額であり、これには就業規則上の明確な根拠が不可欠です。役職手当方式を採用すれば、制度設計を大幅に簡素化できます。

CHAPTER 01

降格の二類型──懲戒処分と人事権行使

 

 管理職の降格を検討するに当たり、最初に明確に区別しておかなければならないのが、「懲戒処分としての降格」「人事権行使としての降格」という二つの類型です。両者は法的性質が全く異なり、要件・手続・効果のいずれもが異なります。実務上、この区別が曖昧なまま降格を実行した結果、後日の紛争で会社側が不利な立場に立たされる事案が見られます。

懲戒処分としての降格

 懲戒処分としての降格は、企業秩序違反に対する制裁として行われるものです。典型例としては、部長職の社員がパワーハラスメントやセクシュアルハラスメント等の不祥事を起こした場合に、懲戒処分として部長の職位から降ろす処分が該当します。この類型は、就業規則の懲戒規定に基づいて行われ、懲戒事由該当性・相当性等の要件審査を経ることになります。

人事権行使としての降格

 他方、人事権行使としての降格は、ルール違反や不祥事によるものではなく、人事配置の見直しとして行われるものです。典型的には、管理職として登用したものの管理能力が不足しており、管理職の役割を十分に果たせていない社員について、プレイヤー職に戻すといった場面が該当します。

 この類型は、制裁的性格を持たない点で懲戒処分と大きく異なります。例えば、普通にプレイヤーとして働いていた社員を課長に登用し、その後部長に昇進させたところ、部長としての業績は十分に出せなかったため課長に戻す、といった対応は、人事権行使としての降格にあたります。

能力不足の管理職への対応は人事権行使

 管理能力が不足している管理職への降格対応は、原則として人事権行使としての降格で検討することになります。ルール違反や不祥事を起こしたわけではなく、単に管理職の役割を十分に果たせないというだけの事案を懲戒処分として扱うことは、懲戒権の濫用と評価されるリスクがあるためです。本ページでは、主に人事権行使としての降格を念頭に解説を進めます。

CHAPTER 02

人事権行使としての降格はどのような場合に認められるか

 

 人事権行使としての降格は、会社に人事権が留保されている限り、実務上広く認められるのが一般的です。日本の会社の多くは、就業規則上、人事異動・配置転換・職位の変更に関する権限を会社に留保する定めを置いており、管理職の降格もこの人事権行使の一形態として位置づけられます。

 したがって、管理職として登用した社員の管理能力が不足していることが判明した場合、原則として降格を実行する権限自体は会社にあると考えられます。実務上検討すべきは、権限の有無ではなく、当該降格が権利濫用に当たらないかという別の論点です。

降格の必要性が認められやすい場面

 管理能力不足による降格が必要性の観点から認められやすい典型的場面としては、以下のようなものがあります。

 第一に、部下の指導・育成が適切に行えない場面です。プレイヤーとしての業績は一定水準あるものの、部下への指示が曖昧である、適切なフィードバックができない、部下のモチベーションを下げる言動がある、といった事象が継続している場合が該当します。

 第二に、部門運営のマネジメントが機能していない場面です。目標管理が回っていない、業務の優先順位付けや進捗管理ができていない、部門としての成果が他部門と比較して明らかに劣る、といった事象が該当します。

 第三に、部下から深刻な苦情・相談が寄せられている場面です。ハラスメントに至らないまでも、指示の不整合、えこひいき、感情的な対応等により、部下が疲弊しているとの相談が複数名から寄せられている場合、マネジメント失敗として降格検討の対象となります。

プレイヤーとしての能力と管理職としての能力は別物

 実務上重要な認識として、プレイヤーとしての能力と管理職としての能力は別物であるという点があります。プレイヤーとしては高い業績を出せていた社員が、管理職に登用された途端に機能不全に陥る事案は決して珍しくありません。

 これは、プレイヤーの業務が個人の職務遂行能力を主眼とするのに対し、管理職の業務は他者の行動をコントロールして組織の成果に結びつける能力を求められるためであり、両者は異なる能力であるためです。プレイヤー時代の業績を根拠に管理職として機能するだろうと期待した登用が、結果的に失敗することは構造的に避け難い面があります。降格は、この構造的ミスマッチを是正する合理的な措置と位置づけられます。

CHAPTER 03

権利濫用と評価される典型類型

 

 降格の権限自体は会社にあるとしても、当該降格が権利濫用と評価される場合には、降格は無効となります。権利濫用が問題となる典型的類型としては、以下のようなものが挙げられます。

不当な動機・目的による降格

 第一に、退職に追い込むことを目的とした降格や、個人的な好悪・怨恨に基づく降格は、権利濫用として無効となります。管理能力不足という外形を装いながら、実際には退職勧奨を拒否した社員に対する報復として降格を行った場合、不当な動機目的があったと評価される可能性が高まります。

 降格の必要性を、具体的事実に基づいて説明できるかが分水嶺となります。「部下から複数の苦情が寄せられている」「部門の業績が継続的に他部門を下回っている」といった事実の積み重ねにより、不当な動機目的に基づくものではないことを示す必要があります。

通常甘受すべき不利益を超える不利益

 第二に、降格に伴って生じる不利益が、労働者が通常甘受すべき程度を著しく超える場合にも、権利濫用と評価されます。典型的には、降格の必要性がそれほど大きくないにもかかわらず、給料が大幅に減額されるような場合です。

 例えば、部下からの軽微な苦情しかない管理職について、月給を40%減額するような降格を行えば、不利益の程度に対して必要性の根拠が弱く、権利濫用とされるリスクが高くなります。他方、管理能力不足が深刻で部門運営に支障が出ていることが客観的に明らかな場合には、相応の給料減額も正当化されやすくなります。

手続的配慮の欠如

 第三に、降格の実行に当たり、本人への事前説明や改善機会の付与が全く行われていない場合も、手続的配慮を欠くとして権利濫用評価のリスクが高まります。管理能力不足を理由に降格する場合、事前に本人に対して問題点を指摘し、改善指導を行った上で、それでも改善が認められない場合に降格を実行するという段階を踏むのが、手続上も安全です。

CHAPTER 04

降格に伴う給料減額──最大の紛争ポイント

 

 管理職の降格に関する実務相談を受ける中で、最も紛争が生じやすい論点は、役職から外すこと自体ではなく、降格に伴う給料減額の根拠です。職位を下げるだけであれば権限の問題はほぼ生じないのに対し、給料を下げる部分については、その根拠と範囲をめぐって争いが絶えません。

職位の降格と給料減額は別論点

 まず認識しておくべき基本的整理として、職位の降格と給料の減額は、法的には別論点として扱われるという点があります。職位を下げる権限があったとしても、それに連動して給料を下げる権限があるとは限りません。給料減額については、別途、就業規則上の根拠や賃金に関する合意上の根拠が必要となります。

 「職位が下がったのだから給料が下がるのは当然である」という経営者の直感は、残念ながら法的には通用しないことが多いのが実情です。「どの職位の場合にいくら支給する」という対応関係が制度として明文化されていなければ、職位の下降が即座に給料減額につながる法的効果は発生しません。

制度設計がないまま給料減額を実行した場合のリスク

 就業規則等に明確な根拠がないまま、降格に伴って基本給を減額したような場合、差額賃金の請求を受けるリスクがあります。裁判所は、「職位が下がったこと」を理由に一方的に基本給を減額することについては権限がないと判断する傾向にあり、結果として降格前の水準との差額を支払うよう命じる判決が出ることも少なくありません。

 仮に差額賃金の請求が認められた場合、遡及的に数か月から数年分の差額賃金を一度に支払う結果となり、会社のキャッシュフローに深刻な影響を与えることもあります。この論点は、降格実行前に必ず検討しておく必要があります。

CHAPTER 05

給料減額の制度設計──役職手当方式と職位別賃金

 

 降格に伴う給料減額を法的に安全に実行するためには、事前の制度設計が不可欠です。実務的に採用される設計手法には、大きく二つのパターンがあります。

役職手当方式(シンプル・推奨)

 最もシンプルで、中小企業にお勧めできるのが役職手当方式です。基本給は職位に連動させず、役職に就いている期間中のみ「役職手当」として一定額を支給するという制度です。

 例えば、賃金規程に「部長職にある者には役職手当として月額〇万円を支給する」「課長職にある者には月額〇万円を支給する」「係長職にある者には月額〇万円を支給する」といった定めを置き、役職から外れた時点で当該手当の支給を停止するという運用です。

 この方式であれば、役職から外れることと手当の支給停止が一対一で対応しているため、給料減額の根拠が明確であり、法的紛争のリスクが極めて低くなります。小規模事業主であっても、就業規則・賃金規程の改訂だけで導入できるため、実装のハードルも低いのが利点です。

職位別賃金テーブル方式

 より本格的な制度としては、職位別の賃金テーブルを作成する方式もあります。「等級・職位ごとに適用される基本給の幅」を賃金規程で明確に定め、職位が下がれば適用される賃金テーブルも変わるという設計です。

 この方式は一定の制度設計コストがかかりますが、人事評価・昇給・降格の運用を体系的に整備したい中堅以上の企業には適しています。他方、制度が複雑になるため、小規模事業主が無理に導入すると運用が破綻するリスクもありますので、組織規模に応じた選択が必要です。

実務上の推奨 中小企業の会社経営者の方には、まずは役職手当方式の導入を強くお勧めします。就業規則と賃金規程の一部改訂のみで制度化でき、将来の降格時に確実に給料減額を実行できる体制を整えられます。

CHAPTER 06

役職限定契約で採用した管理職の場合

 

 社内での昇進・昇格を経ずに、外部から部長職・幹部職として直接採用した社員については、降格の論点が大きく異なる可能性があります。

 職種を「部長職」に限定して中途採用した場合、当該労働契約は部長職としての労務提供が予定されているものと解釈されます。このような役職限定契約の社員に対し、下位の職位への人事異動を一方的に命じることは、契約上の予定範囲を超えるものとして、人事権行使としての降格権限自体が認められない可能性が高くなります。

 このため、役職限定契約で採用した管理職に管理能力不足が認められた場合、検討すべきは降格ではなく、退職勧奨・解雇の方向性となります。降格命令を発令しても無効とされる可能性が高く、かえって紛争を長期化させるリスクがあります。

関連ページ 役職限定契約の管理職に対する退職勧奨・解雇については、関連する「能力不足社員への退職勧奨」及び柱ページ「能力不足の社員は解雇できるか」もあわせてご参照ください。

CHAPTER 07

降格命令の発令手続

 

 降格を実行する際の具体的な手続は、以下の流れで進めるのが安全です。

事前準備

 第一に、就業規則の根拠確認です。人事権行使としての降格に関する規定、及び給料減額の制度(役職手当や職位別賃金テーブル)が整っているかを確認します。必要に応じて事前に就業規則改訂を行います。

 第二に、降格の必要性の事実整理です。管理能力不足を裏付ける具体的事実(部下からの苦情、部門業績、指導・面談の経過等)を5W1Hで整理します。評価ではなく事実の積み重ねが必要です。

 第三に、改善機会の付与の記録化です。事前に本人に問題点を指摘し、改善指導を行った経緯を書面で残すことで、手続的配慮を果たしたことを示せるようにします。

本人との面談

 降格命令を発令する前に、本人との面談を行い、降格の理由と内容を具体的に説明します。事実に基づく理由を伝えることで、納得感を得やすくなり、後日の紛争リスクを低減できます。また、本人の言い分を聴取することは、手続的配慮の一環としても重要です。

降格命令書の交付

 最終的に、降格命令書を書面で交付します。命令書には、①降格の対象となる旧職位と新職位、②降格の発令日、③適用される新たな賃金額(役職手当の変更等)、④降格の理由の概要、を明記します。

 書面化することで、降格の事実と内容が明確になり、後日「そのような降格命令は受けていない」「条件が違う」といった主張を封じる効果があります。

CHAPTER 08

当事務所のサポート体制

 

 弁護士法人四谷麹町法律事務所は、会社側(使用者側)の労働問題に特化した法律事務所です。管理職の降格については、制度設計の段階から個別の降格実行、紛争対応まで、幅広くサポートいたします。

 第一に、就業規則・賃金規程の制度設計サポートです。役職手当方式の導入、職位別賃金テーブルの設計、降格規定の整備等、将来の降格実行に備えた制度を、現状の事業規模・運用実態に即して設計いたします。第二に、個別降格案件のサポートです。降格必要性の事実整理、本人面談の設計、降格命令書の起案までを伴走型で支援します。第三に、降格無効訴訟等の代理です。元管理職から差額賃金請求や降格無効確認請求等の訴訟が提起された場合、同じチームが一貫して対応いたします。

Q & A

よくあるご質問

 

Q.管理能力不足を理由に部長から課長に降格させることはできますか。

A.社内で昇進によって部長になった社員であれば、人事権行使としての降格として課長に戻すことは実務上広く認められます。ただし、部長として外部から役職限定で採用した場合は事情が異なり、降格ではなく退職勧奨・解雇の方向性を検討することになります。

Q.降格に伴って給料を減額することはできますか。

A.職位の降格と給料減額は法的には別論点です。職位を下げる権限があっても、給料を下げる権限が当然に認められるわけではなく、就業規則上の明確な根拠が必要となります。役職手当制度や職位別賃金テーブルを事前に整備していることが重要です。

Q.就業規則に降格の規定がない場合でも降格できますか。

A.就業規則に人事異動・配置転換の権限が留保されていれば、降格自体は人事権行使として実行できる場合が多いのが実情です。ただし、給料減額については別途の根拠が必要ですので、降格規定や役職手当規定の整備をお勧めします。

Q.降格を不服として裁判を起こされた場合、どのような結果になりますか。

A.降格の権限の有無、必要性、手続的配慮、給料減額の根拠等を総合的に判断されます。降格無効の判決が出た場合、旧職位への復帰と差額賃金の支払いが命じられるのが通常です。降格前の制度整備と事実関係の記録化が、訴訟リスクを大きく左右します。

Q.外部から部長職として採用した社員を、能力不足で降格できますか。

A.役職限定契約で採用している場合、当該契約は「部長職としての労務提供」を予定していると解釈されるため、降格権限自体が認められない可能性が高くなります。この場合は降格ではなく、退職勧奨や解雇の検討が現実的対応となります。

Q.懲戒処分としての降格と人事異動としての降格は何が違いますか。

A.懲戒処分としての降格は、企業秩序違反に対する制裁として行うもので、就業規則の懲戒規定に基づき、懲戒事由該当性や相当性が要件となります。他方、人事権行使としての降格は、制裁的性格を持たない通常の人事異動の一形態です。管理能力不足を理由とする降格は、原則として人事権行使としての降格で扱うのが適切です。

Q.降格させた社員が、かえってプレイヤーとしては活躍することはありますか。

A.実務上、そのような事例は少なくありません。プレイヤーとしての能力と管理職としての能力は別物であり、管理職の役割に苦しんでいた社員が、プレイヤー職に戻ることで本来の能力を発揮するというケースは構造的に起こり得ます。降格は本人にとっても適性回復の機会となる場合があるという視点も、制度運用上は重要です。

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SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

 
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最終更新日 2026/04/19


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