パワハラと言われない注意指導の方法

 
FOR COMPANY OWNERS

パワハラと言われない、
教育効果の高い
注意指導の方法を解説します。

問題社員に注意指導したいのに「パワハラだと言われるかもしれない」と心配で踏み出せない。相談に来られる経営者から最もよく聞くお悩みのひとつです。しかし、注意指導をパワハラと評価されない方法は、実はシンプルです。それは「評価」ではなく「事実」を伝えること、すなわち5W1Hで具体的に言動を指摘することにあります。事実を中心に伝える注意指導は、教育効果が高く、社員からなめられず、裁判でも有利で、パワハラと評価される確率が大幅に下がるという四重の効果を持ちます。本ページでは、パワハラと言われない注意指導の実践的な方法を、会社側専門の弁護士が会社経営者向けに解説いたします。

VIDEO

本ページの基となる解説動画

 

本ページの解説内容は、以下の藤田進太郎弁護士による解説動画を素材として、当事務所が文章化しているものです。本ページの記載と動画の内容に齟齬がある場合や、より詳しい解説をご覧になりたい場合は、動画を直接ご視聴ください。

本記事の要点

パワハラと言われない注意指導の核心は、「評価」ではなく「事実」を伝えることにあります。評価(あなたは勤務態度が悪い、協調性がない等)は、本人に改善を促さず、社長の好き嫌いで指導していると受け取られやすく、パワハラと評価されるリスクも高まります。これに対し、5W1H(何月何日の何時頃、どこで、誰に対し、どのように何をしたか)で具体的事実を伝える注意指導は、教育効果が高く、経営者がなめられず、裁判でも有利で、パワハラと評価される確率が大幅に下がるという四重の効果を持ちます。客観的事実を正確に伝える限り、差別的発言や極端に不適切な伝え方をしない限り、注意指導がパワハラと評価されることは実務上ほとんどありません。

CHAPTER 01

注意指導の目的は改善を促すこと

 

 注意指導の方法論に入る前に、そもそも注意指導を何のために行うのか、その目的を明確にしておきたいと思います。注意指導の目的は、本人の問題行動を改めてもらうこと、すなわち改善を促すことです。裁判のアリバイ作りではありません。

 この目的を見失うと、「これまでうるさく言ってこなかったけれど、この社員をどうにかしたいから、今後は厳しく指導しておこう」という発想で人工的な指導記録を重ねることになり、本人の行動は改善せず、記録の中身も薄くなります。結果として、教育効果も法的効果もいずれも得られない指導に終わります。注意指導を行う際は、何よりもまず「本人に改善してもらうこと」を目的として意識し続けてください。

CHAPTER 02

「事実を伝える」が、すべての出発点

 

 注意指導で最も大事なこと、そしてパワハラと評価されないための最大のコツは、一点に集約されます。それは、「事実を伝える」という原則です。ここで言う事実とは、5W1H、すなわち「いつ」「どこで」「誰が」「誰に対して」「何を」「どのように」やったのかという、客観的に特定できる情報を指します。

理想的な伝え方のイメージ

伝え方の例:
「2026年2月1日の午前10時30分頃、第1会議室において、あなたは○○部長に対し、大声で『○○○○』と発言しました。この発言は○○という理由で不適切です。今後このようなことがないようにしてください。」

 この形式で伝えれば、本人は「どの場面のどの行動について指摘されているのか」を具体的に理解できます。本人が反省するにしても、事情を説明するにしても、議論の対象が明確になり、建設的な対話が成立します。抽象的な評価で終わらせず、必ず5W1Hの具体性を持った事実を伝える、これを注意指導の鉄則としてください。

CHAPTER 03

「評価」ではなく「事実」を中心に据える

 

悪い例(評価ベースの注意指導)

「あなたは常日頃から勤務態度が悪く、周りに迷惑ばかりかけているので、今後そのようなことがないように注意してください。」

 この伝え方は、一見もっともらしく聞こえますが、本人にとっては「一体何のことを言っているのか」がまったく分かりません。「勤務態度が悪い」「周りに迷惑をかけている」は、いずれも「評価」であり、事実ではありません。

 しかも、評価ベースの指摘を受けた本人は、多くの場合「社長は私のことが気に食わないから、こういう難癖をつけているのではないか」と受け止めます。結果として、改善行動は取らず、内心で会社や経営者への不信感を募らせる方向に進みます。これは教育効果の観点からも、パワハラ評価リスクの観点からも、最悪の結果を招く指導方法です。

良い例(事実ベースの注意指導)

「2月1日の午前10時30分頃、第1会議室で、あなたは○○部長に対し、大声で『○○○○』と発言しました。この発言は会議の進行を著しく妨げ、上司への不遜な態度を示すものであり、不適切です。今後、同様のことがないようにしてください。」

 この伝え方であれば、本人は「あの会議でのあの発言のことだ」と具体的に認識できます。事実に認識の齟齬がなければ、そのまま反省して改善に進めます。事実に齟齬があれば、「言った」「言っていない」「言ったが意図は違う」という事実ベースの建設的な議論に移行できます。評価レベルの空中戦ではなく、事実レベルの生産的対話が成立するのが、この方法の決定的な優位性です。

CHAPTER 04

事実を伝えることがもたらす3つの効果

 

効果① 教育効果が高まる

 多くの問題社員は、悪意を持って計画的に問題行動を起こしているのではなく、自分にとってのデフォルトの行動様式が結果として問題行動となっているケースが大半を占めます。本人は「自分は普通にやっているだけ」という認識であり、「勤務態度が悪い」と抽象的に指摘されても、何をどう改善すべきか分かりません。ところが、「○月○日のこの場面でのこの発言」と具体的事実を示されれば、本人は自分のどの行動が問題と評価されたかを初めて認識できます。ここから改善行動が始まります。

効果② 経営者が「なめられない」

 事実を具体的に指摘できる経営者は、社員から尊敬されます。逆に、遠回しに抽象的なことしか言えない経営者は、「この社長は自分のことを怖がっているから、はっきり言えないのだ」「要するに、何も言えない社長だ」と軽く見られがちです。事実を客観的に、冷静に、具体的に指摘する姿勢は、経営者のリーダーシップの証明として機能します。社員は、自分の行動を正確に見てくれている経営者を尊敬し、その指示に従おうとするものです。

効果③ 裁判で有利になる

 注意指導が後の懲戒処分・解雇の前提資料となる事案では、指導記録の具体性が訴訟の勝敗を左右します。裁判官が判断する対象は「何があったか」という事実であり、「本人がパワハラを認めました」「いつも勤務態度が悪いと指導しました」といった抽象的な記録では、事実認定の裏付けとして機能しません。5W1Hで具体的事実を記録した注意指導書は、懲戒処分や解雇の有効性を支える決定的な証拠となり、訴訟での会社側の立場を大きく強化します。

CHAPTER 05

パワハラと評価されない注意指導の実践

 

客観的事実を伝える限り、基本的にパワハラにはならない

 当事務所への相談で経営者から最も多く寄せられる懸念のひとつが、「注意指導したら、パワハラと言われないだろうか」という不安です。この不安に対する実務上の回答は明快です。客観的に正しい事実を伝える注意指導が、パワハラと評価されることは、実務上ほとんどありません。パワハラと評価されるのは、事実ではなく評価的な侮辱を伝えた場合、差別的発言を含む場合、言い方が極端に不適切な場合に、集中しています。

具体例。営業成績の指摘

OK例(事実ベース):
「1月のあなたの営業成績は、10人いる営業社員のなかで最も低い3件でした。平均は20件でしたので、大きな乖離があります。この状況をどう改善していくかを一緒に考えたいと思います。」

NG例(評価的侮辱):
「お前、今月も最下位かよ。本当にダメなやつだな。営業向いてないんじゃないの。転職したらどうだ。」

 OK例は、本人にとって耳の痛い情報を含みますが、客観的な数字という事実に基づいており、パワハラと評価されることは実務上ほぼありません。これに対してNG例は、「ダメなやつ」「向いていない」「転職したら」といった評価的・侮辱的な表現で、事実に基づかない人格否定の要素を含むため、パワハラと評価されるリスクが極めて高い発言となります。

避けるべき「評価的侮辱」のパターン

 注意指導で避けるべき典型パターンは、人格や適性の全否定です。「ダメなやつ」「使えない」「向いていない」「役に立たない」「辞めたらどうだ」といった表現は、仮に本人の営業成績が低いという客観的事実があったとしても、事実そのものではなく人格への評価を投げる発言となり、パワハラ評価の温床となります。事実に基づく指摘と、人格評価の発言とは、必ず切り離してください。

CHAPTER 06

「遠回しに気づかせる」という失敗パターン

 

「察してほしい」は、教育効果を著しく損なう

 パワハラを恐れるあまり、遠回しな表現で本人に気づかせようとする経営者も多くいらっしゃいます。「何が問題だと思う?」と問いかけて本人に自発的に答えさせようとする、コーチング的アプローチです。発想としては理解できますが、問題社員への注意指導としては、このアプローチは教育効果を著しく損ないます。

 当事務所への相談で、「1年ほど遠回しに気づかせようとしてきたのですが、いまだに気づいてくれません」というお話を伺うことが少なくありません。この1年は、問題社員の行動が改善しないまま周囲の社員が疲弊していった時間でもあります。本人に自分の頭で考えさせるアプローチは、見所のある優秀な社員をさらに伸ばすための手法であって、問題行動を改めさせるための手法ではないのです。

 問題社員への注意指導では、どの事実が問題なのかを、遠回しではなく直接的に、しかし事実ベースで伝えてください。事実を明確に指摘したうえで、「これをどう改善するか」の部分だけ本人に考えさせるという順序であれば、コーチング的要素を取り入れることは有効です。しかし、そもそもの問題設定の段階で察してもらおうとするのは、時間の浪費にすぎません。

遠回しな指導はむしろ「なめられる」

 遠回しな指導は、教育効果を損なうだけでなく、社員から「この社長は本人に直接言うのを怖がっている、はっきり物を言えない人だ」と軽く見られる結果も招きます。結果として、経営者のリーダーシップ全体に疑問符が付き、他の社員への指示も通りにくくなっていきます。事実を直接的に伝える注意指導は、経営者の側にも相応の準備と覚悟を要求しますが、その手間を惜しまないことが、信頼される経営者への道でもあります。

CHAPTER 07

言葉選びが難しいと感じたときの対処法

 

 「事実を伝える」という原則自体はシンプルですが、実際にやってみると、最初からうまくできる経営者は多くありません。「事実」と「評価」の境界線、「言うべきこと」と「言わなくてよいこと」の判断、「どのような言葉で伝えるか」の選択、いずれも実践を通じた慣れが必要な技能です。

 ご自身の注意指導が事実ベースになっているか不安な場合、あるいは難しい事案で言葉選びに迷う場合は、会社側を専門に扱う弁護士との「言葉の相談」を活用することをお勧めします。「この事案で本人にこう伝えようと思っているのですが、どうですか」とご相談いただき、「この部分は評価的なので事実に置き換えたほうがいい」「この表現はリスクがあるので別の言い方にしたほうがいい」という具体的なフィードバックを繰り返すことで、数週間から数か月で事実ベースの注意指導が自力でできるようになっていく経営者の方を、多く見てきています。

 当事務所では、オンライン打合せを活用した継続的支援の体制を整えております。注意指導書の文案レビュー、面談前の伝達内容の整理、面談後の振り返りと次の一手の助言を、案件の進行状況に応じて30分単位の打合せで継続的に行います。経営者が孤立せず、自信を持って問題社員に向き合える体制を、継続的支援を通じてご提供いたします。

Q & A

よくあるご質問

 

Q.事実を具体的に指摘しても、本人が「パワハラだ」と反論してくる場合はどうすればよいですか。

A.客観的事実を伝える注意指導がパワハラと評価されることは、実務上ほとんどありません。本人が「パワハラだ」と反論してきた場合でも、冷静に事実の指摘を続けてください。詳細は「パワハラだ」と言い返す社員への対応のページもあわせてご参照ください。事案によっては、本人の反論自体が問題となる場合もあります。

Q.どこまでが「事実」で、どこからが「評価」なのでしょうか。境界線がわかりにくい場合があります。

A.「客観的に観察可能で、録音・録画があれば確認できるもの」が事実、「観察者の解釈が入っているもの」が評価、と整理するとわかりやすいです。「大声で○○と発言した」は事実に近く、「失礼な態度だった」は評価です。「大声で」という表現自体はやや評価的ですが、実務上は許容範囲です。「周囲に迷惑をかけた」は評価、「周囲の業務が○分間中断した」は事実です。境界線の判断は事案ごとに難しい面もありますので、会社側を専門に扱う弁護士に相談されることをお勧めします。

Q.「相手がパワハラだと感じたらパワハラ」と聞いたのですが、本当ですか。

A.これは誤解です。パワハラに該当するか否かは、相手の主観ではなく客観的・法的な判断基準により決まります。詳細は「相手がそう思ったらパワハラ」誤解と安易な主張への対応のページもあわせてご参照ください。客観的事実を適切に伝える注意指導は、本人がパワハラだと感じたとしても、法的にパワハラと評価されることはほぼありません。

Q.注意指導は書面で行うべきですか、それとも口頭で十分ですか。

A.軽微な事案は口頭でも構いませんが、繰り返し問題行動があるケース、将来の懲戒処分・解雇を視野に入れるケースでは、書面またはメールで残すことを強くお勧めします。書面には、認定した事実(5W1H)、どの点が問題なのか、今後どのように改善してもらいたいかを具体的に記載します。口頭指導の場合でも、指導日時・場所・伝えた内容を経営者側でメモに残しておくことが、後の対応の基礎となります。

Q.注意指導しても本人が改善しない場合、次はどうすればよいですか。

A.注意指導を繰り返しても改善が見られない場合、就業規則に基づく懲戒処分(譴責、減給、出勤停止等)への段階的な進展を検討します。各段階の指導・処分記録が、将来的な重い処分や解雇の有効性を支える資料となります。詳細は問題社員の懲戒処分(事実認定を核心に)のページをご参照ください。

Q.事実ベースの注意指導が上手にできるか自信がありません。どうすれば上達しますか。

A.事例ごとに弁護士と言葉選びを相談しながら進めていく方法が、最も効率的です。「こう伝えようと思っていますが、どうですか」という叩き台を用意して弁護士と検討を重ねることで、数週間から数か月で自力で事実ベースの指導ができるようになる経営者の方を、当事務所では多く見ています。基礎を押さえれば難易度の高くない事案は自力で進められるようになり、難しい事案だけ弁護士に相談する形にシフトしていけます。

Q.注意指導や問題社員対応について、継続的に弁護士と相談できる体制はありますか。

A.当事務所では、オンライン打合せを活用した継続的支援を多く採用しております。注意指導書の文案レビュー、面談前の伝達内容の整理、面談後の振り返りと次の一手の助言を、案件の進行状況に応じて30分単位の打合せで継続的に行います。経営者が孤立せず、自信を持って問題社員対応を進められる体制を整えております。

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SUPERVISOR
弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

 
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最終更新日 2026/04/19