問題社員128 やりたくない仕事は全て断る。
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断られた業務が労働契約で予定された範囲内かをまず確認し、契約上の義務であることを踏まえて明確な業務命令として整理することが出発点となる 職種限定の合意があるかどうかで、拒否の正当性に関する評価は大きく異なります。 |
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義務論だけでなく、その社員に業務を任せ続けることが本当に会社にとって合理的かという経営判断もあわせて求められる 適性不足が背景にある場合には、配置転換や退職勧奨も現実的な選択肢になります。 |
目次
「やりたくない仕事は全て断る社員がいる」というご相談を受けた場合、会社経営者として最初に検討すべきなのは、その断られた仕事が労働契約で予定された業務の範囲内かどうかという点です。
本記事では、やりたくない仕事を全て断る社員への対応について、会社経営者がどのような順序で判断すべきかを解説します。
01労働契約の範囲の確認と、正社員・職種限定社員の違い
感情的には「雇っている以上、言われた仕事はやるのが当然だ」と考えたくなりますが、法的にはそう単純ではありません。職種や担当業務が契約上限定されている場合、その範囲を明らかに超える業務については、社員が拒否しても直ちに違法とはなりません。一方、「そのために採用した」という業務であれば、それを一律に拒否することは労働契約上の義務違反が問題となります。まず雇用契約書、労働条件通知書、就業規則を確認し、業務内容の範囲がどのように定められているのかを整理する必要があります。2024年4月以降は労働条件明示事項として「業務の変更の範囲」の明示が求められている点も、あわせて確認してください。
この確認において重要なのが、正社員と職種限定社員との違いです。パートタイマーやアルバイト、契約社員などの場合、契約書上で担当業務が明確に限定されているケースが少なくなく、その範囲を超える業務については拒否しても直ちに義務違反とは評価できません。一方、日本企業における典型的な正社員は職種限定が明確に合意されていないことが多く、「会社の命じる業務に従事する」といった包括的な定めになっているのが一般的です。この場合、現在の担当業務とは多少異なる内容であっても、会社が人事権に基づいて指示する業務については原則として従う義務が生じ、「当面の担当ではなかった」というだけでは拒否の正当理由にはなりにくいといえます。
02業務命令の濫用該当性と、明確な業務命令の出し方
正社員であり契約上も包括的に業務に従事する義務があると整理できたとしても、それだけで直ちに「拒否は許されない」と結論づけるのは早計です。会社には業務命令権がありますが無制限ではなく、嫌がらせ目的で著しく不合理な業務を命じる、能力や経験を無視した過重な業務を突然課す、健康状態を無視して過度な負担をかけるといった場合には、業務命令自体が違法と評価される可能性があります。単に「本人がやりたくない」というだけでは濫用とはなりませんが、①業務上の必要性、②特定の社員に命じる合理的理由、③負担の程度が社会通念上相当といえるか、という観点で整理し、合理性を説明できる状態にしておくことが重要です。
業務命令の伝え方も見落とせません。「これ、できればやってもらえないかな」といった打診のような伝え方では、後に従わなかったとしても業務命令違反とまでは評価できない可能性があります。本当にやってもらう必要がある業務であれば、「これは業務命令です。従ってください」と明確に伝える必要がありますが、威圧的になる必要はなく、礼儀正しく率直に、何をいつまでに行うのかを具体的に示すことが求められます。曖昧で遠回しな表現は紛争の温床になるだけでなく、侮辱的なニュアンスが混ざればパワハラ主張まで誘発しかねないため、「命令は明確に、態度は冷静に」という原則を徹底してください。
03注意指導・厳重注意の実務と、懲戒処分・解雇の判断基準
業務命令に従わない社員に対して、いきなり強い処分を行うのではなく、まずは段階的な注意指導が必要です。口頭による注意だけで改善が見られない場合は、書面による厳重注意書や指導警告書の交付を検討し、どのような指示を出したのか、それに対して社員がどのような態度で拒否したのかという事実関係を具体的に記載します。この注意指導の記録は、後に「会社として是正の機会を十分に与えた」ことを証明する重要な証拠となるため、これを怠ったまま重い懲戒処分を行うと、手続的な不備を突かれるリスクが高まります。
注意指導を経てもなお態度を改めない場合、懲戒処分を検討することになりますが、最も重要なのは「処分の重さと行為の程度との均衡」です。10の業務命令のうち1つ2つを拒否したにすぎない場合と、命じられた業務を恒常的に全て拒否する場合とでは評価が大きく異なります。懲戒処分や解雇が有効とされるためには、①業務命令が適法であること、②違反事実が明確であること、③段階的な是正機会を与えていること、④処分が社会通念上相当であることを総合的に満たす必要があり、特に解雇は最も重い処分として厳格に判断されます。就業規則上の根拠条文との対応関係を明確にし、弁明の機会を与え、処分理由を書面で具体的に示すことが不可欠です。
04「義務論」だけでは足りない経営判断|適性不足への対応と配置転換
法的に命じられるかどうかという視点だけで判断するのは十分ではありません。重要なのは「その社員にその仕事を任せ続けることが、本当に会社にとって合理的か」という経営判断です。処理能力が著しく低い、経験が不足しているといった事情がある場合、無理に担当させることで成果が出ないどころか、上司や同僚が常にフォローに回り、組織全体の生産性が落ちることがあります。単なる選り好みではなく適性や能力不足が背景にある場合には、単純に命令違反として処分を重ねるだけでは問題は解決しません。まず教育・指導体制の強化を検討し、それでも改善が見込めない場合には、この社員を育成する合理性があるかを冷静に評価する必要があります。
適性や能力の問題が明らかになった場合、次に検討すべきは配置転換の可能性です。現在の業務では成果が出ないとしても、対人折衝は苦手でも定型的な事務作業であれば正確に処理できるといったケースは珍しくなく、配置転換は単なる問題回避ではなく適材適所を実現する経営判断です。もっとも、すべての企業に十分な配置余地があるわけではなく、中小企業や専門性の高い業務を行う企業では「他に任せられる仕事がない」という現実もあります。その場合でも、実際に検討を尽くしたかどうかが、後に紛争となった場合の評価を左右します。
05退職勧奨を検討する場合の注意点
配置転換の余地もなく、教育・指導を尽くしても改善が見込めず、業務命令違反も繰り返されている場合、退職という選択肢を検討せざるを得ないことがあります。ただし、ここで直ちに解雇に踏み切るのは慎重であるべきであり、まず検討すべきは退職勧奨です。退職勧奨であっても進め方を誤れば違法と評価され、長時間にわたる執拗な説得や人格を否定するような発言は、退職強要として問題化するリスクがあります。①現状の問題点を具体的に整理し、②これまでの注意指導や改善機会の経過を示し、③会社としての限界を説明したうえで、④あくまで選択肢の一つとして退職を提示する、という姿勢が重要です。
重要なのは「辞めさせる」ことが目的ではなく、「会社と本人の双方にとって現実的な出口を探る」という姿勢です。無理に在籍させ続ければ会社にとっても本人にとっても不幸な結果を招くことがある一方、拙速な解雇は重大な法的リスクを伴います。やりたくない仕事を全て断る社員への対応は、契約、業務命令、能力評価、配置、そして最終的な出口戦略までを含めた総合的な経営課題であり、重大な処分や退職勧奨を検討する局面では、必ず弁護士の助言を得ながら進めることをお勧めします。
06よくある質問(FAQ)
Q. 「契約外の仕事だ」と言って業務を拒否された場合、どう対応すべきですか。
まずは雇用契約書や就業規則を確認し、職種や業務範囲が限定されているか(職種限定合意の有無)を特定してください。限定がない正社員の場合、合理的理由がある業務命令であれば拒否は原則として認められません。
Q. 業務命令違反を理由に、いきなり懲戒解雇することは可能ですか。
極めて困難です。まずは口頭注意、次に書面による厳重注意など、段階的な改善機会を与える必要があります。これらのプロセスを経てもなお改善が見られず、企業秩序を著しく乱すと判断される場合に初めて、解雇の有効性が検討されます。
Q. 能力不足で「できない」と言っている社員にも業務命令は有効ですか。
業務命令自体は有効ですが、能力や適性が著しく不足している場合、単に従わせるだけでなく教育・指導体制の整備や、配置転換の検討が必要です。無理な強制がメンタル不調を招くと安全配慮義務違反を問われるリスクがあるため、経営的判断も求められます。
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。業務命令・配置転換に関するお悩みがございましたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
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最終更新日:2026年7月9日
