問題社員129 年次有給休暇取得を頑なに拒む。
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年次有給休暇は労働者の権利であると同時に、年10日以上付与される場合は会社が年5日を確実に取得させる義務を負う制度でもある 本人の同意があっても、この義務は免除されません。 |
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管理監督者であっても取得義務の対象であり、取得が進まない場合は会社が時季指定権を行使して取得日を特定する必要がある 計画的付与制度の活用によって、個人の意思に委ねずに組織として取得を進める方法もあります。 |
目次
年次有給休暇を「自分は取らない」と言って頑なに出勤を続ける管理職がいる場合、一見頼もしく感じるかもしれません。しかし、この問題は個人の働き方の問題ではなく、企業全体に波及する経営リスクを内包しています。
本記事では、年休を取らない管理職への対応について、会社経営者がどのような順序で判断すべきかを解説します。
01年休取得を拒む管理職がもたらすリスクと、権利義務の二重構造
現在、会社には年5日の年次有給休暇を取得させる義務があります。本人が「休みません」と言っても、会社が取得させなければ法令違反となり得るため、管理職本人の意思とは関係なく会社経営者が責任を問われる構造になっています。管理職が休暇を取らない姿勢を示すと、部下も「上司が取らないのに自分だけ取れない」と考え、年休取得率が全体的に下がる可能性もあります。さらに、休暇を取得しない状態が続けば本人の心身の不調につながり、長期休職や離職を招く可能性もあるため、「本人が望んでいるから問題ない」という発想からの脱却が求められます。
年次有給休暇は一般に「労働者の権利」として理解されていますが、2019年の法改正以降、年10日以上の年休が付与される労働者については、会社に対して「年5日は確実に取得させる義務」が課されています。これは、労働者が自発的に取得しない場合であっても、会社側が時季を指定して取得させなければならないという制度です。「本人が同意しているから問題ない」という理屈は通用せず、労働法は労働者の自己犠牲的な意思表示によって法令違反を正当化することを認めていません。年休は権利であると同時に、会社にとっては履行すべき法的義務でもあるという二重構造を正確に理解することが、適切な対応の出発点です。
02年5日取得義務の基本構造と、管理監督者への適用
年5日取得義務の対象となるのは、年10日以上の年休が付与される労働者です。付与日から1年以内に5日については確実に取得させる必要があり、労働者が自ら請求して5日以上取得していれば問題ありませんが、取得が進んでいない場合には会社が時季を指定して休ませなければなりません。この義務は努力義務ではなく、違反した場合には罰則の対象となり得る点にも注意が必要です。会社経営者に求められるのは、取得状況を把握し、必要に応じて時季指定を行う運用体制を構築することです。
会社経営者が誤解しやすいのが、「管理監督者には適用されないのではないか」という点です。管理監督者については労働時間や休憩、休日の規制が適用されない特例がありますが、年次有給休暇の制度は別です。管理監督者であっても年次有給休暇の付与対象であることに変わりはなく、年10日以上付与される場合には年5日の取得義務も同様に適用されます。むしろ、責任感が強く業務が属人化している管理職ほど「自分が休むと現場が回らない」と考えがちですが、その状態自体が組織上のリスクであり、業務の可視化や属人化の是正を進める契機として捉える必要があります。
03時季指定に応じない場合の実務対応と、出勤強行への対処
時季指定は単なる提案ではなく、会社としての正式な指定であることを明確にすることが重要です。取得日を具体的に特定し、その日は業務から離れることを明確に伝え、それでも出勤してしまう場合には、上司や経営層から直接「今日は年休取得日であるため勤務しないように」と明確に指示する必要があります。出勤を黙認してしまうと「実質的には働いていた」と評価され、年休を取得させたことにならない可能性もあるため、業務連絡を控えさせる、社内システムへのアクセスを制限するなど、実質的に休める環境を整えることも検討すべきです。
時季指定を行ったにもかかわらず出勤を強行する場合、それは単なる熱心さではなく、会社の統治方針に反する行動と評価され得ます。出勤を認めてしまえば「休んだことにするが実際は働く」という実態が生まれ、制度が形骸化するだけでなく、部下にも「休まなくてもよい」という空気が広がり、会社全体の年休取得率が下がる結果を招きます。もちろん背景に業務過多や属人化がある場合には、その構造の是正が前提となりますが、それと年休制度の履行は別問題であり、「働きすぎを美徳としない」という明確なメッセージを示すことが企業秩序を維持する鍵になります。
04計画的付与制度の活用と、労使協定・就業規則の整備
管理職が年休を取得しない問題に対して有効な選択肢の一つが「計画的付与制度」の活用です。労使協定を締結することで、年次有給休暇のうち5日を超える部分について、あらかじめ取得日を計画的に割り振ることができます。会社全体で一斉に休業日を設ける方法や、部署単位で交代制にする方法など、運用の仕方は企業規模や業態によって柔軟に設計でき、管理職が自ら休もうとしない場合でも、制度として取得日が組み込まれていれば「自分だけ特別扱いする」という発想を抑制できます。
計画的付与制度を活用する場合、労働者代表との間で書面による労使協定を締結する必要があり、対象者の範囲、付与方法、具体的な取得方法などを明確に定めなければなりません。就業規則との整合性も重要であり、年次有給休暇に関する規定が古いまま放置されていると、運用と規程が一致せず紛争の原因になります。また、労働者代表の選出手続が適切であることも確認が必要です。制度導入の段階で確実な法的基盤を築くことが、企業リスクを最小化する鍵となります。
05年休取得率が採用・定着に与える影響と、会社経営者が取るべき方針
近年、求職者は企業を選ぶ際に「働きやすさ」を強く意識しており、年休取得率はその分かりやすい指標の一つです。管理職が休まず取得率が低迷している企業は、外部から見ると長時間労働体質の会社と評価されかねません。上司が休まない文化の中では部下も休みにくくなり、慢性的な疲労の蓄積が離職につながることもあります。計画的に休暇を取得し、業務を分担しながら組織を回せる管理職こそが、現代的な意味で優れたマネジメントを行っているといえます。
管理職が年休を取得しないという問題の本質は、会社経営者の統治姿勢にあります。「年休は確実に取得させる」という会社としての方針を明確にし、取得状況の定期的な把握、時季指定の徹底、計画年休の活用、業務の属人化の是正といった制度と運用の両面から体制を整えてください。「休むことも責任の一部である」というメッセージを管理職に明確に伝えることが、法令遵守・人材戦略・組織設計の三つの観点から企業価値を守る最も確実な道です。判断に迷う場合は、会社側専門の弁護士にご相談ください。
06よくある質問(FAQ)
Q. 管理監督者(部長や役員待遇など)であっても、年5日の年休取得義務は適用されますか。
はい、適用されます。労働時間や休日の規制が除外される管理監督者であっても、年次有給休暇の規定は適用対象です。年10日以上の年休が付与される場合は、会社は年5日を確実に取得させる義務を負います。
Q. 本人が「休みたくない」と明確に拒否している場合でも、無理に休ませる必要がありますか。
必要です。年5日の取得は会社の法的義務であり、本人の同意があっても免除されません。取得が進まない場合は、会社が「時季指定権」を行使して取得日を特定し、業務を休むよう命じる必要があります。
Q. 時季指定をして休ませる日に、本人が勝手に出勤してきた場合はどうすればよいですか。
出勤を黙認してはいけません。当日は業務を行わないよう明確に指示し、必要であればシステムへのアクセス制限などの措置を講じてください。放置すると「実質的な勤務」とみなされ、取得義務違反を問われる恐れがあります。
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。年次有給休暇・労務管理に関するお悩みがございましたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
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最終更新日:2026年7月9日
