パワハラが疑われる管理職の注意指導
動画解説
この記事の要点
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本当にパワハラと評価される言動があるなら、注意から逃げてはいけない 配置転換だけで済ませると、異動先で同じ問題が繰り返されうる |
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配慮すべきモチベーションは、その管理職一人のものではない 部下や周囲の社員全員のモチベーションを守るのが経営者の役目 |
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無意識の言動には、事実をベースに具体的に指導する 「大声を出すな」だけでなく、いつ・どこで・何をしたのかを示す |
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被害者の匿名の希望は、原則として尊重する。早期の介入が最良の予防策 エスカレートする前の早い段階なら、軽い注意で直せることが多い |
目次
1. パワハラが疑われる管理職への注意指導という悩み
大声を出して圧力をかけるなどのパワハラの訴えが、複数の部下からあったので、当該管理職の配置転換をすることにした。配転先でも同様の行為をする懸念があるが、パワハラを注意するとモチベーションが下がるのではないかと懸念している。こうしたご相談をいただくことがあります。本記事では、パワハラが疑われる管理職への注意指導について、会社側の視点から解説します。
2. 配置転換だけでは根本解決にならない
本当にパワハラをやっているというのであれば、それはもちろん、しっかり注意指導したいところです。ただ、今回の相談で懸念されているのは、モチベーションが下がるのではないか、ということです。もしかしたら、モチベーションを下げないようにするために配置転換をして、被害を訴えている部下たちと引き離し、当面の問題を解消させようとしたようにも見えます。しかし、このまま行動を改めさせなければ、配置転換先でも同様の行為をする懸念があります。
本当にひどいパワハラなら、逃げてはいけない
まず、本当にパワハラと評価できるようなことをやっているのであれば、逃げてはいけません。モチベーションが低下するとか、怖い相手だからすぐ言い返されて大変だとか、そういった事情はあるかもしれません。しかし、そこは覚悟を決めていただく必要があります。なぜなら、本当にひどいパワハラをやっている方がいれば、部下の方々のモチベーションが下がってしまうからです。
3. 配慮すべきは、管理職一人のモチベーションではない
モチベーション低下を気にしなければならないのは、その上司・管理職だけではありません。社長が考えてあげなければならないのは、社員全員、パート・アルバイトも含めて、働いてくれているすべての方々のモチベーションです。この管理職の方のパワハラの程度があまりにひどいのに、社長がほったらかしにしていたら、周囲は「社長に見放された」と思ってしまい、「こんな会社では一緒に働いていられない」と辞めてしまうかもしれません。
問題を解決しないまま異動させると、異動先の部下が犠牲になる
今回のケースは配置転換をしっかりしているので、その部署の方々は一応救われたかもしれません。しかし、問題を解決しないまま他の部署に配置転換したら、異動先の部下になる方々が犠牲になるかもしれません。だからこそ、こういったご相談をされているのだと思います。迷う気持ちはよく分かりますが、ここは逃げてはいけません。本当にパワハラと評価するに値するひどいことを言ったりやったりしているのであれば、早めにしっかり注意していくことが大事です。配置転換でどこかに異動させるというのは、よほどそのままでは収まりがつかなくなったときに使う手法です。もっと早い段階から情報を仕入れて対応していれば、ここまでひどくならなかった可能性もあります。
4. 注意指導の方法(直してほしい言動を具体的に示す)
では、どのような注意指導をすればよいのでしょうか。ずばり、具体的に直してもらいたい言動を指摘し、どう直せばよいのかを伝えることです。今回のケースでは「大声を出して圧力をかける」というパワハラがありますので、注意すべきことがあったときに大声が出ているようだから、もっと声を抑えてください、としっかり伝えることが大事になります。
5. 無意識の言動には、事実ベースの指導が効く
そのように注意して、うまくいくかというと、なぜそんな注意をされているのだろう、と言われた側は思うものです。納得感を得るためには、もう少し裏付けが必要になります。被害者の側からすると、大声で圧をかけられて辛いと訴えていても、案外ご本人にはそんなに大声を出しているつもりがないことも多いのです。計画的に圧力をかけようとして大声を出す方はごく一部で、どちらかというと自然と大声になってしまっているケースが多いといえます。つまり、無意識なのです。無意識でやっていることは、本人が気づいていないことも多く、指摘されても案外治りにくいものです。ひどい場合は、「言いがかりをつけられている」と思う人もいます。
いつ・どこで・誰に・何をしたのか、事実ベースで議論する
本人が実感を持てるような注意指導のやり方が必要です。最も有効な方法は、何月何日の何時ごろ、あなたは誰に対してどのように言ったのか、どこでそう言ったのかという事実をベースに議論することです。リアリティがあるからこそ、「あのとき、自分は大声を出したつもりはなかったけれど、大声を出しているように聞こえるのか」と思ってもらえます。しかも、それが2人、3人、4人と大勢いれば、なおさら説得力が増します。別の方についても、何月何日の何時ごろ、どこで、こういうふうに言われて怖かった、という人がこちらにもあちらにもいる、という話になれば、本人も「自分は納得していないけれど、しょうがないか」と思ってもらいやすくなります。こうした事実をベースに話していくと、言いがかりではない、勘違いや意地悪で言っているわけではないことが伝わり、説得力が出てきます。
6. 被害者が「名前を出さないで」と言う場合
ここでよくあるのが、被害を訴えてくるけれども、「自分の名前は出さないでください」と言われるケースです。名前を出すと気まずくて居心地が悪くなる、名前を出さなければならないなら、この話をなかったことにしてください、と言われることもよくあります。
本人の意向は、できる限り尊重する
名前を出せないとなると、何月何日の何時ごろ、どこで、どのように何をやったのか、という具体的な話もできなくなります。そこまで具体的な話をしてしまうと、被害を訴えた人物が特定されてしまうからです。もちろん、被害者の救済のほかに企業秩序の維持という目的もありますから、本人の意向にかかわらず踏み込むという考え方もありえます。ただ、もしそれを強行したら、「秘密にしてと言ったのに社長はひどい」と思われてしまい、二度と名前を出す覚悟のある人以外から情報が入ってこなくなるかもしれません。ですから、やったことの程度がある水準までであれば、被害を訴える方の意向を尊重し、「名前を出さないでください」と言われたら出さない、というのが基本的な対応になります。例外があるとすれば、あまりにもひどいことを言ったりやったりしていて、会社として放置できないと判断される場合です。その場合でも、被害を訴えている方をしっかり説得し、同意を得たうえで対応することが必要になります。
7. 早期介入が、結局モチベーションを守る
すごくひどいパワハラは、たいてい最初からそうだったわけではありません。最初のころはほどほどのひどさだったのが、どんどんエスカレートしていくケースが多いのです。しかも、ほどほどの段階のものについては、周りの管理職や他の人たちの耳に入ってくることも多いものです。社長のところまで情報が入っているかは分かりませんが、そんなに大きくない会社であれば、「あの人は声が大きい」といった情報が、ある程度入ってくることは多いといえます。
早い段階なら、軽い注意で直せる。ためらうほど深刻化する
「パワハラを注意するとモチベーションが下がるのではないか」「そもそもパワハラと言えるほどひどいものではないのではないか」と思っているうちに、どんどんひどくなるケースもあります。パワハラかどうかというレベルで考えるだけでは足りません。快適に働いてもらい、才能を発揮して会社の業績を上げていく。そういった目的のために、少しでも不都合な情報が入った場合は、すぐに聞いてみてください。そんなに大きな問題でないことをやったときに注意されて直す場合、モチベーション低下にはそれほどつながりません。モチベーション低下につながりやすいのは、その段階でしっかり注意しなかった結果、めちゃくちゃひどいパワハラ行為に至ってしまい、そこで強く注意されたり懲戒処分になったりして、ガクンとモチベーションが下がる事態です。とにかく早く動くことが大事です。
8. まとめ
- 本当にパワハラと評価される言動があるなら、注意から逃げてはいけない。配置転換だけでは異動先で問題が繰り返されうる
- 配慮すべきモチベーションは、その管理職一人のものではない。社員全員のモチベーションを守るのが経営者の役目
- 直してほしい言動を具体的に指摘し、どう直せばよいかを伝える
- 無意識の言動には、いつ・どこで・誰に・何をしたのかという事実ベースの指導が効く
- 被害者の匿名の希望は、原則として尊重する。例外は極めて限定的で、本人の同意が前提
- 早期介入が、結局モチベーションを守る。ためらうほど問題は深刻化する
パワハラが疑われる管理職への注意指導は、モチベーション低下への懸念から、つい先送りにしたくなるものです。しかし、配慮すべきは加害者本人だけでなく、部下や周囲で働くすべての社員です。事実に基づいた具体的な指導と、被害者の意向への配慮を両立させながら、早い段階で介入することが、結果として全体のモチベーションを守ることにつながります。パワハラが疑われる管理職への対応にお悩みの経営者の皆様は、ぜひ会社側専門の弁護士にご相談ください。
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. パワハラを注意すると、その管理職のモチベーションが下がりそうで心配です。
A. 本当にパワハラと評価される言動があるなら、その懸念があっても注意から逃げるべきではありません。配慮すべきモチベーションは、その管理職一人のものではなく、部下や周囲で働くすべての社員のものだからです。放置すれば、部下たちが「社長に見放された」と感じ、離職につながることもあります。むしろ、問題が小さいうちに早く介入するほうが、軽い注意で済み、結果として全体のモチベーションを守ることになります。
Q2. 注意しても、本人が納得せず直りません。どうすればよいですか。
A. 「大声を出すな」といった抽象的な注意だけでは、本人が無意識にやっていることが多く、なかなか実感が伴いません。何月何日の何時ごろ、誰に対して、どのように言ったのか、という具体的な事実をベースに指摘すると、本人にもリアリティが伝わりやすくなります。複数の被害者から同様の事実が出てくれば、さらに説得力が増します。事実に基づいた指導を、粘り強く続けることが大切です。
Q3. 被害者が「名前を出さないでほしい」と言います。それでも調査できますか。
A. 基本的には、被害者の意向を尊重し、名前を出さない形で対応するのが原則です。具体的な事実に踏み込みすぎると、被害者が特定されてしまうおそれがあるためです。名前を出さずに強行すると、以後、被害を訴える社員が減ってしまうリスクもあります。例外的に、あまりにひどく会社として放置できないと判断される場合には、本人を丁寧に説得し、同意を得たうえで踏み込んだ調査を検討することになります。
最終更新日:2026年7月19日