動画解説

この記事の要点

「パワハラを認めさせる」発想から「具体的な言動を認めさせる」発想へ転換する

「パワハラをやりました」と認めさせても、実際の言動が証明できなければ裁判でひっくり返される。いつ・どこで・誰が誰に・どのように・何をしたか、という事実を認めさせることが本質的な目標

被害者からの具体的な聞き取りが出発点。5W1Hで事実を特定する

「パワハラされました」では中身のない聞き取りになる。何月何日の何時頃・どこで・どんな風に何をされたかを丁寧に聞き、中身のある事実を確定してから加害者と面談する

被害者の名前を出せるかが実務上の大きな分岐点——出せない場合は踏み込んだ対応が困難

客観証拠や目撃者が乏しい事案では、加害者に事実確認する際に被害者の名前を出す必要がある。被害者が名前を出したくないという場合、懲戒処分等の踏み込んだ対応は難しくなることを被害者にも説明する

会議室での面談が中心になる——面と向かって平気で嘘をつくのは心理的抵抗が大きい

多くの人にとって、社長を相手に会議室で面と向かって嘘を通し続けるのはプレッシャーが大きい。事実ベースの面談を行えば、ある程度本当のことが出てくるのが通常

1. 「パワハラを認めさせる」発想から「具体的な言動を認めさせる」発想へ

会社経営者の皆様、こんにちは。弁護士法人四谷麹町法律事務所の代表弁護士、藤田進太郎です。

本日は、「パワハラをしている社員にパワハラを認めさせる方法はありますか」という、実務でよくいただく質問にお答えします。

パワハラ問題が起きた際に、加害者とされる社員を聴取しても「パワハラなんてしていません」と否認されることはよくあります。本人が誰も見ていないところで何かをやったと思われる、周囲が嫌な思いをしているらしい——そこまで分かっていても、「パワハラをやりましたか」と聞いて「やっていません」と答えられたとき、どうするか。会社経営者にとっては大事な課題です。

発想の転換——「パワハラ」は評価、「言動」は事実

この質問に対して私が最初に申し上げるのは、発想を転換してくださいということです。

大事なのは「パワハラをやったかどうか」ではなく、「パワハラと評価するに値する言動があったかどうか」です。実際に言ったこと・やったことが確定してしまえば、それがパワハラなのか不法行為の違法行為に当たるのか、懲戒事由に該当するのか——そうした評価は後から付けられます。

逆に、「パワハラしました」と本人が言ったところで、後で全部ひっくり返されるかもしれません。「パワハラをしました」と認めただけで、何をやったのかがわからない。大したことでもないことをパワハラと呼んで認めただけなのではないか——そう主張されて、実際の言動を証明できなければ、その認定を根拠にした解雇や処分は裁判でひっくり返る可能性が非常に高いのです。

事実が確定すれば、評価・処分・訴訟対応が可能になる

いつ・どこで・その人がどんな風に・何をやったのか——これをはっきりさせてしまえば、

  • それがパワハラだったのかどうかを判断できる
  • 懲戒事由に該当して処分していいものかを判断できる
  • 解雇に値するものかどうかを判断できる
  • 証拠として確保できれば裁判でも勝てる

ですから、弁護士に相談する際も「具体的な事実を本人に認めさせる方法はありますか」という質問に変換してください。「パワハラをやったかどうかを認めさせる方法」は空中戦になりがちですが、「具体的な事実を認めさせる方法」はしっかり議論できます。

2. 被害者からの聞き取りが出発点——5W1Hで事実を特定する

加害者が白を切っている場合、どうやって事実を確定するか。基本的には被害者とされる人物からの聞き取りが出発点になります。

目撃者がいれば、あるいは客観的な資料が残っていれば、そういったものを組み合わせて事実を確定させます。しかし、客観的な資料や目撃者が乏しい事案では、被害者ご本人から「どんなことがあったのか」を聞き取っていく必要があります。

「パワハラされました」では聞き取りにならない

ここでも大事なのは、「パワハラされました」という評価的な言葉で終わらせないことです。「パワハラされた」という表現では、具体的に何があったのかがわかりません。

被害者への質問の仕方

「何月何日の何時頃、どこで、その方からどのように何をされたのか」を、一つひとつ具体的に聞いていきます。例えば「その時どのような場面だったか」「誰が同席していたか」「発言内容は具体的にどのようなものだったか」といった質問で、記憶を呼び戻しながら事実を特定していきます。

こうした聞き取りを丁寧に行うと、中身のある情報が得られます。この情報をベースに加害者と話し合うことで、中身のある面談が可能になります。

3. 被害者の名前を出せるかが実務上の大きな分岐点

被害者から具体的な事実を聞き取った後、次に重要になるのが「被害者の名前を加害者に対して出してよいか」という問題です。

「何月何日・どこで・こういうことをやったと、〇〇さんが話している」と加害者に伝えるには、被害者の名前を出さざるを得なくなります。しかし、被害者とされる方から「今後もこの職場でこの方と付き合っていかなければならないので、表に立ちたくない」「名前を出さないでほしい」と言われるケースが実際に多くあります。

被害者の特定なしに処分するのは困難

本人の名前・被害者とされる人物の特定もせずに懲戒処分を行うのは、現実には非常に困難です。客観的な証拠があり、なおかつ目撃者もいるという場面なら、本人の意向に関わらず処分を行える可能性もありますが、客観情報が少なく目撃者もいない中で被害者の名前を出せないとなると、踏み込んだ対応は困難になります。

被害者への説明と選択の機会

したがって、被害者の方には次のような説明をする必要があります。

「あなたの名前を出さずに本件で懲戒処分を進めるのは難しい状況です。もし名前を出してよければ具体的な事実を加害者に問いただせますが、名前を出したくない場合、本件で踏み込んだ対応はできない可能性があります。どちらにしますか」

この選択肢を提示した上で、被害者の意向を踏まえて次の対応を考えていきます。名前を出していいという判断であれば、具体的な事実を特定した面談に進めます。

4. 客観証拠・目撃者が乏しい場合の対応

被害者が名前を出したくない、客観証拠もない、目撃者もいない——こうした状況では、残念ながら踏み込んだ対応は難しくなります。

具体的な事実を本人に示して問いただすことができないと、事情聴取自体が中身のないものになります。「パワハラをされたと言っている人がいるが、どう思うか」としか聞けず、加害者は否認で終わるのが通常です。これでは注意指導も進められません。

「今後しっかり見ていく」という対応

そのような場合、「この方に今後パワハラ的な言動がないかしっかり見ていく」という対応しか取れないこともあります。

現時点での具体的な処分はできなくても、今後の言動に注意を払い、問題がある言動があれば即座に事実を記録していく——この観察の蓄積によって、次回以降の処分に備える対応です。残念な対応に見えるかもしれませんが、証拠の揃わない段階で無理に処分を進めれば、会社側が逆に不当処分として訴えられるリスクがあるためです。

客観証拠の確保(録音・メール記録・目撃者の確保など)、被害者からの記録の蓄積、第三者への情報提供依頼など、次回までの準備を着実に行ってください。

5. 加害者との面談——会議室での事実ベースの対話

被害者の協力が得られ、具体的な事実が特定できた場合は、加害者との面談に進みます。面談の基本は会議室での面と向かった対話です。

面と向かって嘘をつき通すのは心理的に難しい

多くの人にとって、社長を相手に会議室で面と向かって嘘をつき通すのは、相当なプレッシャーと心理的抵抗を伴います。もちろん例外的に平気で嘘をつける人もいますが、多くのケースでは、嘘をつくにも限度があるのが通常です。

面談で事実をベースにして「これこれこういうことを言ったと聞いているのだが、どうなのか」と問いただしていくと、ある程度本人は事実に近い内容を認めることが多いです。多少自分に有利な方向にアレンジしたり、ちょっと不利な部分は「忘れました」と回答したりすることはありますが、ベースとなる出来事自体は認めるケースが多く見られます。

メールや文字情報だけで済ませないこと

逆に言えば、面と向かった対話の場を持たないと、加害者は楽に逃げられます。メールやチャットだけで事情聴取しようとしても、都合のよい言い逃れで終わってしまうことが多く、事実確定に至りません。

「証拠として文字に残したい」という発想から文面のやり取りだけで済ませようとする会社もありますが、これは失敗しやすいパターンです。面談と文字記録を組み合わせてください——面談で事実を認めさせ、その結論を書面化するという順序であれば、記録としても強いものになります。

面談での日本語の使い方は弁護士に相談しながら

面談での事実確認は、慣れていないと難しいものです。どのような順序で質問するか、相手の言い訳にどう応じるか、どのタイミングで書面に落とすか——こうした実務的な技術は、書籍だけでは身につきません。

問題社員対応を専門とする弁護士に、面談の進め方について事前に相談してから本番に臨むことをお勧めします。面談の録音を後で聞いてもらい、次回に向けた改善点を整理することも有効です。

6. まとめ

「パワハラをしている社員にパワハラを認めさせる方法はありますか」という質問への回答を整理します。

  1. 「パワハラを認めさせる」発想から「具体的な言動を認めさせる」発想へ転換する。パワハラは評価、言動は事実
  2. 被害者からの聞き取りが出発点。「パワハラされた」ではなく、5W1Hで事実を特定する
  3. 被害者の名前を加害者に出せるかどうかが実務上の大きな分岐点。名前を出せない場合は踏み込んだ対応が困難になることを被害者にも説明する
  4. 客観証拠・目撃者が乏しい場合は、「今後しっかり見ていく」という対応も選択肢。次回に向けた証拠収集を進める
  5. 加害者との面談は会議室での面と向かった対話が中心。面と向かって嘘をつき通すのは心理的に難しく、事実が引き出しやすい

パワハラ問題は、社長の大事な社員たちを守るために避けては通れない課題です。しっかりパワハラ的な言動をする社員から従業員たちを守り、良い会社にしていきましょう。判断に迷う場面では、ぜひ弁護士にご相談ください。

弁護士 藤田 進太郎

監修者 弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 加害者がパワハラを否認しています。どのように対応すればよいですか。

A. 「パワハラを認めさせる」ではなく、「具体的な言動を認めさせる」発想に切り替えてください。被害者からの聞き取りで「何月何日の何時頃・どこで・どのように・何をされたか」を特定し、その具体的な事実を加害者に示して問いただします。事実が確定すれば、それがパワハラかどうかの評価は後から付けられます。

Q2. 被害者が「名前を出したくない」と言っています。どうすればよいですか。

A. 客観証拠や目撃者が乏しい場合、被害者の名前を出さずに加害者に事実を問いただすのは現実的に困難です。被害者に対して、「名前を出せなければ本件で踏み込んだ対応は難しい」という状況を丁寧に説明し、どうするかを選択してもらってください。被害者が名前を出したくないままであれば、処分は見送り、今後の言動を注視する対応に切り替えることもあります。

Q3. 「パワハラしました」と加害者に認めさせれば、それだけで解雇・懲戒処分ができますか。

A. できません。「パワハラしました」という抽象的な認定では、後に本人が「大したことでもないのにパワハラと呼んだだけだった」と争えば、処分の前提が崩れます。具体的な言動——いつ・どこで・どのようなことをしたか——を事実として認定できて初めて、その事実に対する評価としてパワハラ該当性を論じ、処分の相当性を判断することができます。

Q4. 加害者との面談はなぜ会議室で行う必要があるのですか。

A. 多くの人にとって、社長を相手に面と向かって平気で嘘をつき続けるのは心理的抵抗が大きく、事実に近い内容を認めやすくなるためです。メールやチャットだけで事情聴取すると、都合のよい言い逃れで終わってしまうことが多く、事実確定に至りません。面談と文字記録の組み合わせが最も効果的です。

Q5. 客観証拠も目撃者もない場合、会社としてできることはありますか。

A. その段階では踏み込んだ処分は困難ですが、「今後しっかり言動を観察する」という対応は可能です。本人には注意喚起を行い、被害者には今後の記録の取り方をアドバイスし、周囲の社員からの目撃情報を集めやすい体制を整えてください。証拠が揃い次第、改めて対応を検討します。無理に処分を進めると、会社が不当処分で訴えられるリスクがあります。

最終更新日:2026年4月17日


Return to Top ▲Return to Top ▲