この記事の結論
1

功労報償的性格から減額規定には合理性がある

退職金には賃金後払いの側面だけでなく功労報償的な側面があり、競業行為は使用者を情報流出等のリスクにさらす信頼関係破壊行為といえるため、退職金を一部減額する規定には合理性があり有効と考えます。

2

同業他社への就職を理由とする半額規定を有効とした判例がある

判例は、退職金の功労報償的性格に着目して、同業他社に就職した労働者の退職金を半額とする就業規則の規定を有効としています(三晃社事件、最高裁昭和52年8月9日判決)。

 881の記事で解説した懲戒解雇時の退職金不支給とは別の論点として、退職後に競業避止義務違反があった場合、退職金を減額できるかという問題があります。863の記事で解説した退職後の競業避止義務の議論とも密接に関連します。

 会社側専門の弁護士の立場から、競業避止義務違反者の退職金減額規定の有効性を解説します。

01退職金の2つの性格

 退職金には、在職期間中の労務提供の対価(賃金)を後払いする側面だけでなく、退職まで勤続した労働者の功績に報いる側面があります。881の記事で解説した懲戒解雇時の退職金不支給の議論は、主に前者(賃金後払い性)に着目したものでしたが、本稿で扱う競業避止義務違反の場合は、後者(功労報償性)の観点がより重要になります。

02競業避止義務違反による減額の合理性

 労働者の競業行為は、使用者を企業秘密漏洩や顧客情報流出等のリスクにさらすものですから、退職時までの労働者の功績を減殺する信頼関係破壊行為といえます。したがって、競業避止義務に反した労働者の退職金を一部減額する規定には合理性があり、有効と考えます。

03三晃社事件が示す判断

 裁判例も、退職金の功労報償的性格に着目して、同業他社に就職した労働者の退職金を半額とする就業規則の規定を有効としています(三晃社事件、最高裁昭和52年8月9日判決)。この判例は、退職金の一定割合の減額という比較的穏当な内容の規定について、その有効性を認めたものです。881の記事で解説した「全額不支給」のハードルの高さと比較すると、「一部減額」の規定については、より認められやすい傾向にあるといえます。

04会社側が押さえておくべき視点

 会社側としては、退職金規程に、退職後の競業避止義務違反を理由とする退職金の減額規定を設けておくことをお勧めします。863の記事で解説した退職後の競業避止義務の有効性判断と同様、減額規定についても、減額の割合や対象範囲が、過度に広範・苛烈なものにならないよう配慮することが望ましいといえます。

 三晃社事件のように「半額」といった一定割合の減額であれば有効性が認められやすい一方、881の記事で解説した「全額不支給」に近い減額規定は、より慎重な検討が必要になります。就業規則・退職金規程の設計にあたっては、この2つの判例が示す考え方の違いを踏まえた規定の作り込みが重要です。

05よくある質問(FAQ)

Q. 退職後に同業他社に就職した労働者の退職金を半額にする規定は有効ですか。

有効と考えられます。退職金の功労報償的性格に着目し、同種の規定を有効とした最高裁判例があります(三晃社事件)。

Q. 競業避止義務違反を理由に退職金を全額不支給にできますか。

全額不支給は、一部減額に比べてハードルが高くなります。881の記事で解説した懲戒解雇時の全額不支給と同様、より慎重な検討が必要です。

Q. なぜ競業避止義務違反による退職金減額が合理的とされるのですか。

競業行為は企業秘密漏洩等のリスクを生じさせ、退職時までの功績を減殺する信頼関係破壊行為といえるため、退職金の功労報償的性格に照らして合理性が認められます。

経営上のポイント 退職金には賃金後払いの側面だけでなく、功労報償的な側面があります。労働者の競業行為は、使用者を企業秘密漏洩等のリスクにさらす信頼関係破壊行為といえるため、競業避止義務違反者の退職金を一部減額する規定には合理性があり有効と考えられます。判例も、同業他社に就職した労働者の退職金を半額とする規定を有効としています(三晃社事件、最高裁昭和52年8月9日)。会社側としては、退職金規程に競業避止義務違反を理由とする減額規定を設けておくことをお勧めします。ただし、881の記事で解説した全額不支給の場合と比べ、一定割合の減額規定の方が有効性が認められやすい傾向にあるため、減額の割合・範囲を過度に苛烈なものにしないよう配慮することが重要です。退職金規程の設計は、会社側・使用者側専門の弁護士にご相談ください。具体的な事情に応じて、実務で使える方針をアドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。退職金規程の設計でお困りでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年7月13日


Return to Top ▲Return to Top ▲