本記事の結論

● 定年規定がない場合、年齢到達を理由とする退職処理は「無効な解雇」と判断されるリスクが極めて高いです。

● 適法な導入には、①個別合意、②同意による規則変更、③合理性に基づく規則変更のいずれかの手続が必要です。

● 定年制の導入は労働者にとって不利益変更となるため、再雇用制度(継続雇用措置)の整備がセットで求められます。

● 慣行による処理は通用しません。高年齢者雇用安定法を遵守した戦略的な制度設計が企業防衛の鍵となります。

1. 定年規定がない場合の基本原則

 就業規則に定年の定めがない場合、会社が一方的に「60歳で退職」とすることは原則としてできません。

 期間の定めのない労働契約は、年齢に達したことだけを理由として当然に終了するものではありません。そのため、定年規定が存在しない状態で60歳到達を理由に退職を求めた場合、実質的には解雇と同様の扱いと評価される可能性があります。

 解雇として扱われる場合には、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要になります。しかし、単に年齢が60歳に達したという理由だけでは、そのような解雇の有効性が認められる可能性は極めて低いといえます。

 したがって、就業規則に定年規定がない場合には、適切な法的手続を踏んだうえで定年制度を導入する必要があります。会社経営者としては、まず現行の就業規則や労働契約の内容を確認し、定年に関する規定の有無を正確に把握することが出発点となります。

2. 個別合意による定年設定(労働契約法8条)

 第一の方法は、労働者と個別に定年を定める合意をすることです。

 労働契約法8条は、労働契約の内容は労使の合意によって変更できると定めています。そのため、労働者との間で「定年は60歳とする」などの合意を明確に成立させることができれば、法的には有効と評価され得ます。

 もっとも、ここでいう合意は形式的な書面だけでは足りず、労働者の自由な意思に基づくものである必要があります。会社側からの強い圧力や退職の示唆などがあった場合には、後に合意の有効性が争われる可能性があります。

 また、特定の労働者だけを対象として定年を設定する場合には、合理的理由がなければ不合理な差別的取扱いと評価される可能性もあります。

 会社経営者としては、個別合意による方法は理論上は明確ですが、実務上は説明や記録の整備を慎重に行うことが重要です。

3. 労働者の同意を得て就業規則を変更する方法(労働契約法9条)

 第二の方法は、労働者の同意を得たうえで就業規則に定年制を新設する方法です。

 定年制の導入は、それまで存在しなかった労働契約の終了事由を設けるものであり、労働者にとっては不利益変更に当たります。そのため、労働契約法9条に基づき、労働者の同意を得ることで労働条件変更を行う方法が考えられます。

 この場合には、会社が定年制度を導入する理由、制度内容、再雇用制度の有無などについて丁寧に説明し、労働者の理解を得ることが重要です。

 形式的に同意書を回収するだけではなく、説明の経過や労働者の理解状況を記録しておくことが、後日の紛争予防の観点から重要になります。

 会社経営者としては、労働者の理解と納得を得ながら制度を導入することが、最も安定的な方法の一つといえます。

4. 同意なく就業規則に定年制を導入する方法(労働契約法10条)

 第三の方法は、労働者の同意がなくても就業規則を変更して定年制を導入する方法です。

 労働契約法10条は、合理的な就業規則の変更であり、その内容が労働者に周知されている場合には、個別の同意がなくても労働条件変更が有効となる場合があることを認めています。

 もっとも、この方法が有効と認められるためには、次の2つの要件を満たす必要があります。

  1. 変更後の就業規則が労働者に周知されていること
  2. 就業規則の変更が合理的であること

 定年制の導入は、労働契約の終了時期に関わる重要な変更であるため、合理性の判断は慎重に行われます。

5. 就業規則変更の合理性判断

 就業規則変更の合理性は、次のような事情を総合的に考慮して判断されます。

  • 労働者の受ける不利益の程度
  • 変更後の就業規則の内容の相当性
  • 労働条件変更の必要性
  • 労働組合や労働者代表との交渉状況
  • その他就業規則変更に関する事情

 例えば、定年制度を導入する一方で再雇用制度を整備している場合には、合理性が認められやすくなる可能性があります。

 逆に、労働者に大きな不利益を与える制度でありながら、説明や協議が十分に行われていない場合には、合理性が否定される可能性があります。

 会社経営者としては、制度導入の必要性や制度内容の相当性を客観的に説明できる状態を整えることが重要です。

6. 高年齢者雇用安定法との関係

 定年制度を導入する場合には、高年齢者雇用安定法との関係にも注意が必要です。

 同法では、定年を設ける場合には原則として60歳以上とすることが求められています。また、定年を60歳とする場合には、原則として65歳までの雇用確保措置を講じなければなりません。

 雇用確保措置としては、次のいずれかの制度を導入する必要があります。

  1. 定年の引上げ
  2. 継続雇用制度(再雇用制度など)の導入
  3. 定年の廃止

 したがって、単に60歳定年を定めるだけでは足りず、65歳までの雇用確保措置とセットで制度設計を行う必要があります。

7. 安易な対応が招く法的リスク

 就業規則に定年規定がないにもかかわらず、60歳到達を理由として退職扱いにした場合、当該退職処理が解雇無効と判断される可能性があります。

 その場合、労働契約が継続していると扱われ、会社は賃金の支払義務を負う可能性があります。紛争が長期化した場合には、未払賃金の額も大きくなるおそれがあります。

 また、高年齢者雇用安定法に違反する制度運用を行った場合には、行政指導の対象となる可能性もあります。

 会社経営者としては、定年制度を「慣行」で処理するのではなく、法的根拠を明確にした制度設計を行うことが不可欠です。

8. まとめ:定年導入は戦略的に設計すべき経営課題

 就業規則に定年の定めがない場合、60歳で退職してもらうためには、主に次の3つの方法があります。

  • 労働者との個別合意による定年設定
  • 労働者の同意を得た就業規則変更
  • 合理性を備えた就業規則変更(同意なし)

 もっとも、定年制の導入は労働契約の終了事由を新設する重大な制度変更であり、慎重な検討が必要です。

 また、高年齢者雇用安定法との関係も踏まえ、再雇用制度などを含めた総合的な制度設計を行うことが求められます。

 会社経営者としては、制度導入の段階で労働問題に精通した専門家へ相談し、法的リスクを整理したうえで進めることが、将来的な紛争を防止するうえで重要となります。

弁護士 藤田 進太郎
監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 /  「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

 

定年制導入に関するよくある質問

Q1. 就業規則に定年の記載がなくても、世間一般の「60歳」で辞めてもらうことはできますか?

A. 原則としてできません。定年制は労働契約を終了させる重要な根拠であり、明文規定がない場合は「定年なし」の契約とみなされます。一方的に辞めさせることは「解雇」に該当し、無効とされる可能性が極めて高いです。

Q2. 今から就業規則を変更して「60歳定年」を新設する場合、社員全員の同意が必要ですか?

A. 全員の同意を得るのが最も安全ですが、変更に「合理性」があれば、個別の同意がなくても有効となる場合があります(労働契約法10条)。ただし、再雇用制度の整備や経過措置など、労働者の不利益を緩和する仕組みが不可欠です。

Q3. 定年を定めた場合、必ず65歳まで雇わなければならないのでしょうか?

A. はい。高年齢者雇用安定法に基づき、65歳までの「雇用確保措置(再雇用制度など)」を講じる義務があります。定年を60歳と定めるだけでは不十分で、希望者全員を継続雇用する制度設計がセットで必要となります。

 

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最終更新日:2026/3/9


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