この記事の結論
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退職後には原則として競業避止義務を負わない

退職後の社員には職業選択の自由があり、原則として競業避止義務を負いません。

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競業避止義務を課すには就業規則の規定+退職時の個別合意が必要

例外的に競業避止義務を課すためには、就業規則に競業避止義務に関する定めを置いたうえで、退職時に社員から個別合意(誓約書)を取ることが必要です。

01競業避止義務の原則

 退職後の社員には、職業選択の自由がありますから、原則として競業避止義務を負いません。すなわち、何もしなければ、退職した社員が競業他社に転職したり、競合する事業を自ら立ち上げたりしても、法律上、これを制限することはできません。

 これは、在職中の社員が使用者に対して誠実義務・競業避止義務を負うのとは、法的に全く異なります。退職後の競業避止義務は、会社が積極的に設計し、合意を取得して初めて成立するものです。競業避止義務の有効性の判断要素については575番を参照してください。

02競業避止義務を課すための条件

 例外的に競業避止義務を課すためには、就業規則に競業避止義務に関する定めを置いたうえで、退職時に社員から個別の合意(誓約書)を取ることが必要です。

 就業規則への記載だけでは、退職後の競業避止義務を確実に有効なものとするためには不十分な場合があります。退職時に個別合意を取ることで、その社員の退職後の義務の範囲・期間・代償措置等を具体的に確定させることができます。また、誓約書を取得することによって、後日「そのような義務があったとは知らなかった」という主張を封じることにもなります。

退職時に強制的に署名させることは避ける

誓約書を取得する際は、退職を盾に強制的に署名させることは避けてください。強迫や心理的圧力のもとで取得した合意は、後に無効と争われる可能性があります。内容を十分に説明したうえで、自由意思に基づいて署名してもらうことが重要です。

03就業規則例・個別合意(誓約書)例

 経済産業省の「営業秘密管理指針」参考資料6では、就業規則と個別合意(誓約書)の例が紹介されています。参考として以下にご紹介します(あくまで例であり、そのまま使用できるものではなく、自社の実態・保護すべき利益に合わせた設計が必要です)。

就業規則例(経済産業省「営業秘密管理指針」参考資料6より)

第○条(競業避止義務)
従業員は在職中及び退職後6か月間、会社と競合する他社に就職及び競合する事業を営むことを禁止する。ただし、会社が従業員と個別に競業避止義務について契約を締結した場合には、当該契約によるものとする。

個別合意(誓約書)例(経済産業省「営業秘密管理指針」参考資料6より)

貴社を退職するに当たり、退職後1年間、貴社からの許諾がない限り、次の行為をしないことを誓約します。

1 貴社で従事した○○の開発に係る職務を通じて得た経験や知見が貴社にとって重要な企業秘密ないしノウハウであることに鑑み、当該開発及びこれに類する開発に係る職務を、貴社の競合他社(競業する新会社を設立した場合にはこれを含む。以下同じ。)において行いません。

2 貴社で従事した○○に係る開発及びこれに類する開発に係る職務を、貴社の競合他社から契約の形態を問わず、受注ないし請け負うことはいたしません。

 就業規則例では「退職後6か月間」と期間が明示されており、「会社と個別に契約を締結した場合にはその契約による」という設計になっています。誓約書例では「退職後1年間」と期間を特定し、禁止される業務も「○○の開発及びこれに類する開発に係る職務」と在職中の業務と関連付けて限定されています。また、「貴社の競合他社」のみを対象とし、新会社設立の場合もカバーする設計になっています。

04実務上の注意点

 上記の例はあくまで参考例であり、そのまま使用すれば安全というものではありません。自社の実態・業種・保護すべき利益に合わせて設計することが重要です。

 特に重要なのは、禁止される業務の範囲・期間・地域・対象者・代償措置の設計です(575番参照)。これらが過度に広い場合、義務が無効とされるリスクがあります。また、対象者も、役職・業務内容・企業秘密へのアクセスの程度を踏まえて絞ることが、有効性を高めるうえで重要です。全社員に一律に同じ誓約書を取るのではなく、役職や担当業務の実態に応じた内容を設計することをお勧めします。

 就業規則への規定・誓約書の設計については、使用者側弁護士に相談しながら進めることをお勧めします。特に、退職時の個別合意の取得は、退職手続の流れの中で行われるため、誓約書の署名を拒否された場合の対応方針も事前に検討しておくことが重要です。

経営上のポイント 退職後の社員には原則として競業避止義務はなく、課すためには就業規則の規定+退職時の個別合意(誓約書)が必要です。経済産業省「営業秘密管理指針」参考資料6の例では、就業規則で「退職後6か月間の競業禁止」を定め、誓約書で「退職後1年間・特定業務・競合他社」に限定する形が示されています。ただし、自社の実態に合わせた設計が必要であり、設計段階から弁護士に相談することをお勧めします。アドバイスします。
SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 就業規則に規定があれば、退職時に誓約書を取らなくてもよいですか。

A. 就業規則への記載は重要な基礎となりますが、退職後の義務を確実に有効なものとするためには、退職時の個別合意(誓約書)を取ることが望ましいといえます。就業規則例の文言にもあるとおり「会社が個別に契約を締結した場合にはその契約による」という設計になっていることが多く、就業規則は包括的な根拠を示し、誓約書で個別の義務内容を具体的に確定させるという二段階の設計が一般的です。

Q2. 退職時に誓約書への署名を拒否された場合、どうすればよいですか。

A. 誓約書への署名を強制することはできませんし、署名拒否を理由に退職手続を拒否することも問題となります。ただし、就業規則に競業避止義務に関する規定がある場合には、誓約書がなくても一定の競業禁止の根拠になり得ます。その場合でも、義務の範囲・期間・代償措置の明確性が問われますので、就業規則の規定内容が重要です。署名拒否の場合の対応については、事前に弁護士に相談しておくことをお勧めします。

Q3. 採用時に誓約書を取ることはできますか。

A. 採用時に誓約書を取ることは可能であり、実務上も行われています。ただし、採用時の誓約書の場合、内容が抽象的になりがちで、具体的な業務との関連性が薄くなるため、有効性の観点からは退職時の誓約書ほど確実ではないことがあります。特に重要な役職・業務の場合には、退職時に改めて具体的な誓約書を取得することが望ましいといえます。

最終更新日:2026年2月25日


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