私生活上の刑事事件と懲戒処分

 
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私生活上の刑事事件と
懲戒処分──
職種・地位別の相当性を解説します。

社員がプライベートな時間に飲酒運転、痴漢、暴行等の刑事事件を起こしたとき、会社として懲戒処分を行うことができるのか──これは経営者から頻繁にご相談をいただくテーマです。プライベート時間は基本的に行動の自由が尊重されるため、仕事時間中の非行と比較して懲戒処分は抑制的に行う必要があります。しかし、社員の私生活上の非行によって会社の名誉・信用が毀損される場合は、一定の懲戒処分が認められます。判断の核心は、日本鋼管事件最高裁判決(昭和49年)が示した複数の考慮要素と、職種・地位・前科前歴といった具体的事情の総合評価にあります。本ページでは、私生活非行への懲戒処分の基本枠組みと実務上の留意点を、会社側専門の弁護士が会社経営者向けに解説いたします。

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本ページの基となる解説動画

 

本ページの解説内容は、以下の藤田進太郎弁護士による解説動画を素材として、当事務所が文章化しているものです。本ページの記載と動画の内容に齟齬がある場合や、より詳しい解説をご覧になりたい場合は、動画を直接ご視聴ください。

本記事の要点

社員がプライベートな時間に起こした刑事事件に対する懲戒処分は、仕事時間中の非行に対する処分と比較して、抑制的・限定的に行う必要があります。処分が認められるかどうかは、当該行為によって会社の名誉・信用が毀損されるか、という観点から判断され、日本鋼管事件最高裁判決(昭和49年)が示した考慮要素──行為の性質・情状、会社の事業の種類・態様・規模、経済界における地位、経営方針、従業員の地位・職種──を総合評価する枠組みが用いられます。運送会社のドライバーによる飲酒運転、電鉄会社社員による痴漢、管理職による犯罪など、職種・地位との関連性が強い事案では重い処分が認められやすい一方、職務との関連が薄い事案では抑制的な処分となります。何もしないことは、まじめに働く他の社員に対する不公平として社内秩序を乱すため、事案の性質に応じた適正な処分を行うことが経営者の責務となります。

CHAPTER 01

プライベート時間の刑事事件は懲戒処分できるのか

 

 ある一定規模以上の社員を雇用されている会社では、社員がプライベートな時間に刑事事件を起こし、警察の取調べを受け、場合により起訴・有罪判決に至るという事態に、いつかは直面されることがあります。飲酒運転、痴漢、暴行、器物損壊、窃盗、覚醒剤等の薬物犯罪など、類型はさまざまですが、経営者の側からは概ね共通の質問が寄せられます──「この社員を懲戒処分できるのか」「どの程度の処分が相当なのか」という質問です。

 結論から申し上げると、懲戒処分ができる場合もあれば、できない場合もあります。できる場合であっても、その重さは事案によって大きく異なります。重要なのは、仕事時間中の非行に対する懲戒処分と、プライベート時間の非行に対する懲戒処分とでは、判断の枠組みそのものが違うということを理解することです。本ページでは、その枠組みの基本と、実務的な勘所を順を追って解説いたします。

CHAPTER 02

基本原則──プライベート時間は自由、懲戒は抑制的に

 

仕事時間とプライベート時間の性質の違い

 仕事時間中は、社員は会社の指揮命令下に置かれ、業務に集中する義務を負います。したがって、仕事時間中に起こされた非行については、業務遂行義務違反・規律違反として会社の懲戒処分が比較的広範に認められます。「なぜ業務時間中に業務と無関係な非行を起こしたのか」という規律違反の観点から、処分の根拠を明確に組み立てることができます。

 これに対して、プライベートな時間は、本来、社員の行動の自由が尊重されるべき時間です。会社は社員の私生活を包括的に規律する権限を有しているわけではありません。したがって、プライベートな時間に起こされた非行については、仕事時間中の非行と比較して、懲戒処分が認められる範囲が抑制的・限定的となります。同じ内容の非行であっても、仕事時間中のほうが重い処分を課しやすく、プライベート時間のほうが慎重な判断が求められる、という実務上の傾向があります。

「抑制的」は「処分しない」と同義ではない

 ここで注意すべきは、「抑制的」という言葉を「処分しない」と誤解しないことです。プライベート時間の非行であっても、事案によっては懲戒処分が認められ、場合により懲戒解雇が有効と判断される事例も存在します。重要なのは、処分を行うことの可否・重さを、次章以降で説明する判断枠組みに従って、事案ごとに具体的・個別的に検討することです。

CHAPTER 03

懲戒処分が認められる根拠──会社の名誉・信用毀損

 

 プライベート時間の非行が懲戒処分の対象となり得る根拠は、当該社員の行為によって、会社の名誉・信用・社会的評価が毀損され、会社の社内秩序が現実に乱されるという点にあります。社員は、雇用関係の存続中、会社の名誉・信用を不当に毀損しないという付随的義務を負っていると解されています。私生活上の犯罪行為によって会社の対外的な信用が損なわれた場合、あるいは社内に動揺が生じて業務遂行に支障が生じた場合には、この付随的義務違反として、懲戒処分の対象となり得ます。

 逆に言えば、プライベート時間の非行が会社の名誉・信用・秩序にまったく影響を与えない事案では、懲戒処分の根拠を見出しにくくなります。社会的に許容されない行為であっても、それが会社との関係性を持たない純粋な個人的事象にとどまる限り、会社がこれを理由に懲戒処分を行うことは、本人の私生活の自由を過度に制約するものとして、権利濫用と評価される可能性があります。

CHAPTER 04

就業規則上の根拠──私生活非行条項の確認

 

 懲戒処分の有効性の前提として、就業規則における懲戒事由に該当する必要があることは、通常の懲戒処分の場合と同じです。プライベート時間の非行について懲戒処分を検討する場合、就業規則に、私生活上の非行をもカバーする条項が存在するかを、まず確認してください。

典型的な私生活非行条項

 多くの会社の就業規則には、「社外における非行により会社の名誉・信用を傷つけたとき」「会社の体面を著しく汚したとき」「刑事事件で起訴されたとき、または有罪判決を受けたとき」といった類型の条項が定められています。これらの条項は、プライベート時間の非行についても懲戒処分の根拠として機能します。該当条項の文言を具体的に確認し、事案がその文言にどのように該当するかを整理することが、処分の有効性を支える基礎作業となります。

 仕事時間中の規律違反を前提とした条項(業務命令違反、職務怠慢など)は、プライベート時間の非行には直接適用できません。該当条項の選定を誤ると、事後の訴訟で「本件事案に該当する懲戒事由は就業規則上存在しない」として処分が無効と判断される可能性があるため、該当条項の確認は慎重に行ってください。就業規則の整備と周知の重要性については、問題社員の懲戒処分の柱ページもあわせてご参照ください。

CHAPTER 05

日本鋼管事件最判の考慮要素──判断の枠組み

 

 プライベート時間の刑事事件に対する懲戒処分の相当性を判断する枠組みとして、裁判実務で広く参照されているのが、日本鋼管事件最高裁判決(昭和49年3月15日)です。同判決は、私生活上の非行に対する懲戒解雇の有効性について、次のような考慮要素を総合的に検討すべきと判示しています。

日本鋼管事件最判(昭和49年)が示した考慮要素

① 当該行為の性質・情状
② 会社の事業の種類・態様・規模
③ 会社の経済界に占める地位
④ 会社の経営方針
⑤ 当該従業員の会社における地位・職種
⑥ 前科・前歴等の事情
 (判例を要約したもので、判示の原文ではありません。詳細は判例原典をご参照ください。)

 この枠組みの実務的意義は、「プライベート時間の非行に対する懲戒処分は、抽象的な行為の種類だけで判断されるのではなく、会社・社員・行為の具体的事情を総合的に評価する」という発想を提供している点にあります。同じ飲酒運転でも、運送会社のドライバーと事務系社員では処分相当性が大きく異なり得る、という直観的な違いを、この枠組みが理論的に裏付けています。

 経営者として押さえるべきは、この判断が「事情の総合評価」であるという点です。チェックリスト式に要素の有無を機械的に当てはめて判断するのではなく、具体的な事案における各要素の重みを丁寧に評価する必要があります。この総合評価には一定の法的素養が要求されるため、重い処分を検討する事案では、会社側を専門に扱う弁護士の関与を得て判断することをお勧めします。

CHAPTER 06

類型別の処分相当性──職種・地位による違い

 

類型①──運送会社のドライバーによる飲酒運転

 運送会社のドライバーが、プライベートな時間に飲酒運転をして人身事故を起こした場合、同じ会社の事務系社員が同じ行為を行った場合と比較して、会社の事業・信用に与える悪影響が極めて大きくなります。運送業務の遂行には車両運転の適性が不可欠であり、ドライバーの交通違反は業務遂行能力そのものへの疑念を生じさせます。また、取引先・一般社会からの会社の信用にも直接的な打撃を与えます。このため、ドライバーの飲酒運転・重大交通違反については、プライベート時間の事案であっても、重い懲戒処分(懲戒解雇を含む)が認められやすい傾向があります。

類型②──電鉄会社社員による痴漢

 電鉄会社の社員が、プライベートな時間に電車内で痴漢を行った場合も、類型①と同様の構造が生じます。電鉄会社は、自社の電車内における痴漢防止を社会的使命の一環として担っており、その社員自身が痴漢を行うことは、会社の社会的信用を根底から毀損します。他業種の会社の社員による痴漢よりも、電鉄会社社員による痴漢のほうが、処分相当性が重くなりやすいのが実務上の傾向です。

類型③──管理職による犯罪行為

 同じ内容の非行であっても、部長・課長・支店長といった管理職が行った場合は、一般社員・パート・アルバイトが行った場合と比較して、会社の名誉・信用に与える影響が相対的に大きくなります。管理職は会社経営の中心に近い立場にあり、社内外からの注目度も高く、その非行が組織全体の規律・評判に及ぼす影響は無視できません。このため、管理職の私生活非行については、一般社員の同種事案と比較して、重い処分が認められやすい傾向があります。

類型④──職務との関連が薄い事案

 他方、職務との関連性が希薄な事案、たとえば一般事務職の社員がプライベートな時間にごく軽微な交通違反(軽度の速度超過等)にとどまる行為を行った場合などは、会社の名誉・信用への影響が限定的であり、重い処分は認められにくくなります。事案によっては、厳重注意や譴責程度にとどめるのが相当という判断になることもあります。

CHAPTER 07

前科・前歴がある場合の加重

 

 本人に同種・類似の前科・前歴、あるいは過去の懲戒処分歴がある場合、今回の処分相当性の判断は相対的に重くなります。たとえば、過去に飲酒運転で譴責処分を受けたうえで「次はやらない」と確約していた社員が、再び飲酒運転を行い刑事事件に至った場合、初犯の事案と比較して、重い処分(出勤停止、降格、懲戒解雇等)の相当性が認められやすくなります。

 この考え方は、刑事裁判において初犯と累犯で量刑が異なることと共通の発想です。反省の機会が与えられたにもかかわらず同種行為を繰り返したという事実は、本人の改善可能性の低さ、再発防止の必要性の高さを示す事情として、処分相当性の判断において重視されます。懲戒処分通知書においても、前歴と今回の事案との関係を具体的に記述することが、処分の相当性を支える重要な要素となります。

CHAPTER 08

「優しさ」と「けじめ」のバランス

 

 経営者のなかには、刑事事件を起こした社員に対して、「本人は既に刑事処罰を受けている、これ以上厳しくしても酷だ」という心情から、社内での懲戒処分を見送られる方もいらっしゃいます。心情としては理解できるお気持ちですが、会社経営の観点からは、「問題を起こした一人に優しくすること」と「まじめに働く他の社員を守ること」を比較衡量する発想が必要となります。

 刑事事件を起こした社員に対して会社が何の対応もしないと、社内に「会社はこの種の非行を許容している」という認識が広まります。これは、会社秩序に対する信頼を根底から揺るがすメッセージとなり、まじめに働く他の社員の不安とモチベーション低下を招きます。さらに、同種事案が再発した際に「前回は処分しなかったのに、今回だけ処分するのは不公平だ」という対応の一貫性を問われる問題も生じます。

 事案の性質に応じて、厳重注意、譴責、減給、出勤停止、降格、懲戒解雇といった処分のなかから、相当な重さの処分を選択し、適正に実施することが、経営者の責務となります。重い処分を検討する事案では、会社側を専門に扱う弁護士の関与のもとで判断することで、処分の有効性を確保しつつ、会社秩序の維持と他社員の安心を両立させることができます。当事務所では、こうした事案について、オンライン打合せを活用した継続的支援の体制を整えております。

Q & A

よくあるご質問

 

Q.社員が逮捕されましたが、まだ裁判で有罪判決は確定していません。この段階で懲戒処分はできますか。

A.有罪判決の確定を待たずに懲戒処分を行うことは可能ですが、事実関係の認定が不十分な段階で重い処分を行うと、後日刑事手続で無罪や不起訴となった場合に処分の有効性が争われるリスクがあります。多くの事案では、有罪判決の確定または起訴の内容を踏まえたうえで処分を決定するか、先行して休職等の軽い措置にとどめ、刑事手続の進展を見ながら最終的な処分を決定する方法が取られます。事案ごとの判断が必要ですので、会社側を専門に扱う弁護士に相談されることを強くお勧めします。

Q.プライベートな時間の刑事事件を理由に、懲戒解雇することはできますか。

A.事案によって可能ですが、抑制的・慎重な判断が必要です。行為の性質・情状、会社の事業・地位、社員の地位・職種、前科・前歴を総合的に評価し、懲戒解雇の相当性が認められる事案であるかを個別に検討する必要があります。職務との関連性が強い事案(運送ドライバーの飲酒運転、電鉄社員の痴漢、管理職による重大犯罪等)では懲戒解雇が有効と判断されやすい一方、職務関連性が薄い事案では懲戒解雇が無効と判断される可能性もあります。重い処分の検討は弁護士の関与を得て行うことが必須です。

Q.報道されていないプライベート事件でも、懲戒処分の対象となりますか。

A.報道の有無は、会社の名誉・信用毀損の程度を示す重要な要素ですが、報道されていなくても処分できないわけではありません。社内で噂が広まった、取引先に事実が知られた、業務遂行に支障が生じた等、会社秩序への実質的な影響が生じている場合には、報道の有無にかかわらず処分の対象となり得ます。処分の重さの判断において、影響の広がりの程度を適切に位置付けることが重要です。

Q.本人が不起訴となった場合、懲戒処分はできませんか。

A.不起訴処分の理由にもよります。嫌疑なし・嫌疑不十分で不起訴となった場合は、非行の事実自体が認定できず、懲戒処分の根拠を欠く可能性が高くなります。他方、起訴猶予(事実は認められるが諸事情を考慮して起訴を見送る処分)の場合は、非行の事実自体は認められるため、懲戒処分の対象となり得ます。不起訴処分の種別と内容を確認したうえで、処分の可否を慎重に判断する必要があります。

Q.就業規則に私生活非行を処分する条項が明示されていません。それでも懲戒処分はできますか。

A.懲戒処分は、就業規則上の懲戒事由への該当性が前提となります。私生活非行を包摂する条項(例:「会社の名誉または信用を毀損したとき」「その他前各号に準ずる行為があったとき」など)が存在すれば、これを根拠に処分を検討できますが、該当条項が存在しない場合は処分が困難となります。就業規則の整備を進めることを強くお勧めします。当事務所では就業規則の整備・見直しもサポートしておりますので、ご相談ください。

Q.社員が本人から自発的に退職を申し出てきた場合、懲戒処分は不要ですか。

A.事案によって異なります。本人からの自主退職の申し出があり、それで会社秩序の回復が図れるのであれば、懲戒処分を見送って合意退職で処理することも選択肢です。他方、事案の重大性や対社内・対外的なけじめの必要性によっては、自主退職の申し出があっても懲戒処分を先行させる判断が合理的な場合もあります。退職金の取扱いや解雇予告手当の問題も含めて、総合的な対応設計が必要ですので、弁護士の助言を仰いでください。

Q.私生活非行への懲戒処分について、継続的に弁護士と相談できる体制はありますか。

A.当事務所では、オンライン打合せを活用した継続的支援を多く採用しております。事実認定の整理、就業規則該当性の検討、考慮要素の総合評価、懲戒処分通知書の文案作成・レビュー、本人面談の設計、刑事手続の進捗に応じた判断修正を、案件の進行状況に応じて30分単位の打合せで継続的に行います。経営者が孤立せず、慎重かつ適正な処分判断を行える体制を整えております。

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SUPERVISOR
弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

 
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最終更新日 2026/04/19